蓮ノ空スクールアイドル録   作:松兄

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第五章 顔を上げて
第20話:無自覚のリミッター


綴理とさやかちゃんの関係が一歩進んだ翌日の部室、綴理はどんぐりを大量に部室に持ってきていた。

 

梢「……なに?コレは……」

 

綴理「どんぐり。この前のお礼」

 

淳平「ええっと……」

 

花帆「わ、ちゃんと帽子被ってるやつですねっ。かわいい」

 

綴理「そう。以外になくて大変だった。かほにもあげる」

 

淳平「それで?なんのお礼なんだ?」

 

綴理「あ。うん、ごめん。待ってね。えっと……ボクは、こずとかほとジュンに、すっごく助けられたから。助けられたのは、ボクがさやの手に気付かなかったことで。だから、ありがとう」

 

淳平「綴理……おう!どういたしまして!」

 

花帆「よく、分かりませんけど。でも、さやかちゃんが笑ってたし、綴理センパイとのライブもすっごく素敵だったと思います!だから、良かった!」

 

綴理「かほ。……うん、かほのおかげ。ありがとう」

 

花帆「何かできたか、分かりませんけど。えへへ」

 

綴理「こずも、ありがとう」

 

梢「変わるものね。あの子がお礼を言うなんて」

 

淳平「だなあ……」

 

俺たちが少し物思いにふけっていると、

 

花帆「梢センパイ?淳兄ぃ?」

 

梢「ふふっ。さて……、私たちも練習を始めましょう!あちらも、大丈夫そうなことだしね」

 

花帆「はいっ!」

 

場所は変わり中庭。ここでは綴理とさやかちゃんが練習していた。

 

綴理「っと。こんな感じ……さや?」

 

綴はダンスの振りの見本をさやかちゃんに見せる。すると、

 

さやか「ぁ……いえ。夕霧先輩が、本調子に戻られたようで良かったです。本当に、素敵だと思います」

 

綴理「なら良かった。それで、やり方分かった?」

 

さやか「……やってみます」

 

そしてさやかちゃんは見本のとおりに踊る。傍からみたらできているのだが、綴理の目には同じではないらしい。

 

綴理「……。んー」

 

さやか「あの、やっぱりダメでしょうか?」

 

綴理「ダメじゃないよ?ボクは好き」

 

さやか「……ありがとう、ございます。でもそれは……」

 

綴理「さやが頑張ってると、とても魅力的に見える。それはほんとのこと。でしょ?ジュン」

 

さやか「えっ?」

 

綴理が視線を向ける木の陰から、ドリンクの入ったバックを持った俺が出てくる。

 

淳平「バレてたか……」

 

綴理「ジュンのことはすぐ分かる……」

 

淳平「なんだよそれ……?ww」

 

そして俺はバックからドリンクを渡す。

 

さやか「ありがとうございます」

 

綴理「ありがとう。それでさやかのダンスなんだけど、なんかほっぺにご飯粒ついてる感じなんだよね……」

 

淳平「具体的に何かはわからないけど、何か気になる部分があるのか?」

 

綴理「そう……。取ってあげたいなあ……」

 

さやか「えっ、本当に付いてるんですか!?」

 

淳平「比喩表現。付いてないよ」

 

さやか「で。ですよね……良かった」

 

綴理「でもなんか、気になる。たぶんそれは、さやも思ってるんだろうけど」

 

さやか「はい……。それがどうしてなのか、ずっと分からないままで……。夕霧先輩と振りは同じはずなのに、どうしてこうも違うのか……」

 

淳平「説明しろって言っても、難しいよな……」

 

綴理「うん。よし!分かるまで、ボクが踊ろう!」

 

さやか「分かるまで!?」

 

綴理「じゃあ、はい」

 

そして綴理は同じ振り付けを踊りまくる。

 

さやか「ちょ、ちょっと先輩!」

 

そしてしばらく経った後、

 

綴理「どう?何か分かった?」

 

さやかちゃんは首を横に振る。

 

綴理「そっか……」

 

さやか「本当に、すみません。ご迷惑ばかりおかけして――」

 

綴理「じゃあ、分かるまでやろう!」

 

さやか「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

綴理「なぜとめる」

 

さやか「止めますよ!毎日やって掴めてないものが、今日夕霧先輩にめちゃくちゃがんばらせたからって変わるとも――」

 

淳平「確かにな……。でも、こういうのは続けたから分かるってものじゃないんじゃないか?」

 

さやか「え?」

 

淳平「見ててふと何かに気付いて、それが正解だったりすることもあるだろ?そういうのって、本当にいきなり来ることもあるしな」

 

さやか「それは…そうですけど」

 

綴理「うん。もしかしたら、今日わかるかもしれないし」

 

さやか「夕霧先輩……」

 

綴理「ボクも、分かったことがあるんだ。さやと一緒に、スクールアイドルになりたいって。だから、さやにできることは、なんでもしてあげたいんだ」

 

さやか「っ………。最初から、私の目的は夕霧先輩の凄いところを学ぶことでした。」

 

綴理「さや……?」

 

さやか「なのに、何の成果も得られないまま、挙句夕霧先輩にここまで言わせてしまっている自分が凄く腹立たしいです」

 

綴理「ねえ、さや?」

 

綴理は、さやかちゃんの両頬を両手で挟み、さやかちゃんの顔をのぞき込む。

 

さやか「むぎゅ」

 

綴理「さやには、全力を出して欲しい」

 

さやか「ぜん、りょく?」

 

綴理「ボク、いつも思ってるよ?さやが全力を出せば、凄いことになるって。そんなさやと一緒ならきっとボクも、もっともっとすごいことができると思う」

 

さやか「待って、ください。ちょっと、ちょっと待ってください。そんなこと言われても。だって……。全力、なんです。これが。夕霧先輩にとってそうは見えない程度の、これが」

 

綴理「? 全力じゃないよ?」

 

……?綴理には、さやかちゃんの中に何か別のものが見えてるのか?

 

さやか「全力ですよ!でなければただ、夕霧先輩がわたしを過大評価しているだけです……」

 

綴理「さや。違う。さやは全力じゃない。さやが分かってないだけ。だから、さや。どうしたらさやが全力出せるか、一緒に考えるよ。」

 

さやか「……え」

 

綴理「そして、さやが全力を出せたら、もっとすごいライブをしよう。ボクにできることをしたい。だからそのために、さやのことを、もっと知りたい」

 

さやか「…………」

 

綴理「なんでも良いんだ。さやが、ほんの小さな砂粒程度にでも引っかかっている何かがあれば。話して、ほしい」

 

そしてさやかちゃんは、蓮ノ空に来る前の、今よりもずっと小さな頃の、フィギュアスケートの選手だった頃のことを話し始めた。

 

 

ー つづく ー




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