第74話:Brightness
2年前、まだ梢、綴理、慈、淳平が1年生で、沙知先輩が2年生だった頃……
綴理「こず、こず」
梢「あ、ゆうぎ……………つ、づり」
この頃の梢は、まだメンバーを名前で呼ぶことに慣れていなくて、言葉がたどたどしかった。
綴理「『つ、づり』じゃないよ?」
梢「…………わかっているわ、綴理。その、まだ、ちょっと言い慣れてないだけ」
綴理「ふぅん? えと……ボクの話をしても、いい?」
梢「? 良いわよ。なにかあって話しかけてきたんでしょう」
綴理「うん。……DTMって、すごいんだね」
梢「ああ…………今、慈とひのし……淳と、3人で勉強しているのよね」
梢はDTMは使わないが、というより、使えないのだが……。どういうものかは知っていた。
綴理「音と音の手を繋げるだけで、あの子が曲にしてくれる。すごく、がんばりやさん」
梢「それは……すごいわね。普通は、もっと時間がかかるものだけれど」
綴理「こずとかめぐみたいに、ギターが弾けないと作曲ってできないのかと思ってた」
綴理の言葉梢は笑うが、楽器で作る人が少なくなってきている事も知ってはいた。
梢「今は、楽器で作る人の方が珍しいかしらね」
綴理「自分の曲を形にできるのって、楽しいね」
梢「それは、よかったわね。ふふ、お気に入りの曲ができたら、私にも聞かせてくれる?」
綴理「いいの?」
梢「ええ、聞いてみたいわ。DOLLCHESTRAの……あなたと、沙知先輩の曲」
綴理「ん。ボク、いっぱい作るね」
そして梢と綴理は2人で部室に向かった。
ガチャ!
梢「誰か来てるかしら?」
慈「お、来た来た」
淳平「沙知先輩は少し遅れるってさ?」
部屋には、慈と淳平の幼馴染コンビ2人がいた。
梢「早いわね。め、めぐみ……と、じゅ、じゅん」
慈「いちいちつっかえるの、やめてくれない?なんか、こっちがハズいんだけど」
淳平「頑張ってるんだから言ってやるなって……」
淳平はフォローしてるつもりだが、背中から蹴りを入れられてる気分の梢。
慈「まぁいいや。沙知先輩が、これ書いといて、って」
綴理「うわ、“しょるい”だ………」
慈「そう。だから梢が来たらでいいかなって思ってた」
梢「あなたたち……。DTMを扱うほうがよっぽど難しいでしょう……………」
梢は呆れる。
淳平「書き方教えるって言ったんだけどさ? 3人一緒に書きたいって、めぐが……」
梢「へー?」ニコッ
梢がいいネタを見つけたと言わんばかりににこりと笑う。
慈「ジュン、余計なことを言わないでよ!?」
綴理「めぐ、かわいい」
慈「うるさいよ?!」
3人のコントが始まるが、梢はコホンと咳払いして流れを切る。
梢「まったく……、これ……。ラブライブ!のエントリーシート!」
綴理「こずの、夢だ」
梢「ええ。そう、ようやく始まるのね……………。スクールアイドルの憧れの大会が………!」
慈「よっしゃ!それじゃあ、ちゃちゃっと優勝しますか」
梢「ちょっと、慈!ラブライブ!はそんなに、簡単なものじゃ」
慈の言葉に、梢は少しイラッとくる。
慈「いけるいける。梢だって焼きついてるでしょ?私たち3人プラス沙知先輩で立った、撫子祭ステージの熱狂。そして、大成功。はっきり言って、敵ナシだから。私たち『蓮ノ大三角と太陽』は!!」
淳平「まあ、甘くはないってのはそのとおりだけど、そのくらいの気持ちでいたほうが力を発揮できるかもしれないしな。硬くなりすぎるとかえって悪い影響が出たり……」
梢「まあ、緊張でガチガチよりは適度にリラックスしてたほうがいいパフォーマンスはできるかもしれないわね。……………それとその名前、沙知先輩がつけたって噂を聞いたのだけれど」
慈「まあなんでもいいじゃん!強そうだし!ねー」
淳平「俺太陽なの?なんか優遇されてる気が……日野下の"日"からか?」
それを聞いた3人は、
慈・梢・綴理(((ジュン(淳)はこの部にとってみんなを照らしてくれる太陽みたいな人だから。誇張じゃない気が………)))
既にハートを撃ち抜かれていた3人は同じことを思っていた。
綴理「………………」
慈「ん? つづりー?またお口が「いー」ってなってるよー。どしたー?ラブライブ!やだー?」
綴理「スクールアイドルの大会にボクが出るのは、まだ怖いけど。こずと、めぐ、さちが一緒にステージに立ってくれるなら。それに、ジュンも支えてくれる。それなら、ボクもスクールアイドル見習いとして、がんばれる気がするんだ」
梢「綴理……」
綴理「いつか……ボクが初めて見たスクールアイドルみたいに。誰かの心に届く舞台を作れるように。やりたい。みんなで」
淳平「ああ。そうだな!」
慈「おーし!盛り上がってきたんだよ!」
梢「そうね。このメンバーで、優勝……」
淳平「お、その気になった?」
梢「……………い、いえ。そのためには、決して慢心せず、一歩一歩歩んでいくことが大事だと、己を戒めただけよ」
慈「わー、ユートーセー的発言一」
淳平「でも、その通りだぞ?いくら本番でいいパフォーマンスができたとしても、練習が足りなければ自分たちで"その気になってるだけ"になるからな。ちゃんと実力を伴わせないと!」
梢「さすが淳ね!」
綴理「………最高を、迎えに……………」
梢「綴理?」
淳平「どうした?」
綴理「………うん」
綴理は、何かを決意したように、
綴理「楽しみになってきた。曲作るよ。ボクも。みんなの曲を、作りたいんだ」
そして、時は現在に。
梢、綴理、慈、淳平の4人は、街に次のライブで使うアクセサリーの材料を買いに来ていた。
すると、
綴理「……………」
梢「あら……雨だわ」
慈「うわ、しかも強くなりそう。こりゃ、るりちゃんと姫芽ちゃんに、迎えにきてもらうわけにもいかないかな
淳平「お前、よく2人に迎えに来させてるのか?」
慈「私、愛されてるからね☆」
ったく………。
めぐがスマホで天気図を確認すると、
慈「うーん、今夜いっぱい続くみたい。しょうがない。ここはずぶ濡れ覚悟で、バス停まで走るかなあ」
梢「そうね。きょうの買い出しは、アクセサリー用の小物ばかりだから、幸い濡れても平気……あ」
慈「ん?」
淳平「どうした?」
梢「…………………ねえ、綴理」
綴理「うん?」
梢「ここから、近かったわよね。…………今夜は、あなたの家にお邪魔しても、いいかしら?」
へ?
慈「ん??」
綴理「嬉しいけど………なんで?」
そして、4人で近くの綴理の実家に向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
梢「タオル、ありがとうね」
淳平「サンキュ綴理」
綴理「ううん」
淳平「明日学校休みでよかった。あとで学校に連絡いれとかないとだな」
慈「ていうか、なんで綴理の家に?」
梢「……………濡らしたら、まずいと思って」
梢は、鞄から紙を1枚取り出す。
綴理「ラブライブ!の、エントリーシートだ」
梢「みんなのを回収してきたばかりだったの。だから……」
慈「濡れてガビガビになったら、また書いてもらえばいいだけじゃん!これだから、『でも、みんなの想いが……』とか言いそうなやつは……」
梢「勝手に人の気持ちを想像しないで頂戴」
慈「でも、綴理の家は、久々だなー」
梢「あなた、来たことあるの?」
慈「そりゃあるでしょ。友達だし」
淳平「俺もある」
慈・梢「「は?」」
2人がすごい怖い笑顔を向けてくる。恐いよ?!
淳平「いや、前に2人で出かけたことあるんだけど、その時に綴理が、お腹すいた〜って言うから、近くに飲食店ないし俺が作ってやっただけだよ」
梢「そんなことが…………」
慈「綴理〜?」
綴理「言ってなかったっけ?」
梢・慈「「聞いてないよ(わよ)!!」」
綴理「そっか」
梢「はぁ………」
綴理「きょうは、賑やかだ」
淳平「綴理が「うるさい」って言ってるぞ」
梢・慈「「言うわけないでしょ綴理が!」」
慈「綴理は私のこと大好きだもんね〜〜」
綴理「うん。ずっとこれがいい。愛してるよ、めぐ」
慈「私も愛してるぞ、夕霧綴理☆」
梢「なん、なの…?」
あまりの距離感の近さに梢の思考回路がフリーズする。
綴理「こないだ、めぐから教えてもらった。最上級の感謝の言葉は『愛してる』だって」
梢「それは間違いだからもう二度と言わないように。さやかさんや小鈴さんには言ってないわよね?綴理」
綴理「うん、まだ」
梢「やめておきなさい。すごくびっくりするから」
綴理「? わかった」
慈「梢は、恥ずかしがり屋さんでちゅねえ」
梢「あなたたちは、どうして恥ずかしくないのよ……」
慈「愛してるからかな。梢と違って〜」
綴理「ジュン、愛してる」
淳平「っ!? お、おう。これ、俺も言ったほうが良いのか?」
めぐにそっと耳打ちして聞く。
慈「今私が目の前にいるし、どういう状況で言った言葉かも分かってるから良いよ?」
淳平「そ、そうか……」
綴理「……」ワクワク
淳平「綴理、愛してるぞ」
綴理「わーい!」
慈「おっとぉ?浮気宣言かぁ?」ニヤニヤ
淳平「お前が言っても良いって言ったんだろ?!」
慈「知らな〜い☆」
コイツ………。
綴「こずは、ボクのこと愛してない……?」
梢「煽られても言いませんからね」
淳平「綴理、少し首を傾けて」
慈「そうそう、かわいらしい感じを盛って。よし、いけるよ!」
綴理「こず、ボクのこと……」
梢「言いませんからね!慈!淳も悪ノリしない!!」
綴理とめぐと3人で笑い合う。梢は疲れたようにヤレヤレと首を振る。
慈「そういえば梢って、綴理とジュンの名前を呼ぶの、相当時間かかってたよね。私のときはすぐだったくせに。やっぱり顔か…?」
梢「あなたたちは、仲良くなるの早かったわね」
綴理「めぐとジュンは、初めてボクの言葉が聞こえる人だったんだ。ジュンは色々とボクを助けてくれたし。めぐもすごい。めぐは言葉。ボクに、『それってこういう意味?』って、ずっと、ずっと聞いてくれた。嬉しかった。ありがとうございます。ふじしまめぐみさん、ひのしたじゅんぺいくん」
慈「え?いやいや。暇だったし。てか綴理って、ふつーにめっちゃかわいくない?顔じゃなくて。いや顔もだけど。私、こういう系に弱いのかも………おっきな犬も飼ってるし…………」
淳平「ああ。玻璃乃ちゃんか」
慈「そうそう」
梢「怒っていいところだと思うわよ、綴理」
綴理「いけませんよ、めぐみせんぱい。じゅんぺいせんぱい。なんなんですかー」
梢・慈・淳平「「「ふふふ(あはは)」」」
淳平「迫力無えなぁ……」
梢「…………もう、2年も経ったのね」
慈「そうだねえ」
梢「一年生の頃、初めてこのエントリーシートに名前を記入したとき。私には自信の欠片もなかったわ。全国どころか、地方大会を突破するビジョンすら、見えなかった。でもね、ここに書かれたあなたたちの名前を見たら……不思議と、勇気がわいてきたの。結果として…………少し、綴理と淳には、寄りかかりすぎてしまったけれど………」
綴理「うれしいよ。今は、ぜんぶが。こずとジュンは、いちばん長い間、ボクの名前を呼んでくれた友達。ボクが、いちばん名前を呼んでる友達だから」
梢「それは……たぶん、私もそうなのだけれど……」
淳平「そうだな……」
慈「……今度はあんたがみんなの勇気になる番だよ。乙宗梢」
梢「そうね。「任せて」って胸を張らなきゃ。そのために、ずっと走ってきたんだもの。エントリーシート出すとき。今の一年は、なにか言ってた?」
綴理「すずは、がんばりますーちぇすと一、って」
梢「吟子さんは、相変わらず緊張していたみたいだったけれど。でもそれも、強い想いを抱いてくれているからだわ。姫芽さんは?」
慈「ん〜………………まあ、ひと悶着あったけど、でも最後にはやる気満々で。もうね、みらくらぱーく!の秘密兵器だよ」
淳平「……いい子たちだな。本当に」
慈「そりゃ、私たちの後輩だもん。ね〜梢?」
梢「ふふっ、よく言うわ」
綴理「かほと、さやと、るりの後輩だからね」
梢「きっと………叶えましょうね。私たちの夢を」
綴理「うん」
梢「目指せ……ラブライブ!優勝」
梢・綴理・慈・淳平「「「「………………」」」」
すると、綴理が……
綴理「あ………このあと、お風呂、入る?入るよね。お風呂は、入らなきゃ……だよね?」
慈「え、なに?」
淳平「まあ、風呂は入らなきゃだな」
梢「あ、そういえばあなた、そんなこと言ってたわね」
綴理「うん。ボクも思い出した。先に言うほうがいいって」
梢「仕方ないわね」
慈「なんのこと?」
綴理「ボク、友だちと一緒に、家のお風呂に入るのが、夢だったんだ」
慈「へ〜?」
淳平「じゃあ入ってこい。待ってるから「ガシッ」へ?」
綴理と慈が、俺の腕を掴んだ。
綴理「ジュンも一緒に入ろう?」
慈「そうそう! こんな機会そうそうないんだし!」
淳平「い、いや!? それは不味い……梢助け…!!」
すると、
梢「じゃあ、淳も一緒に入りましょうか!」
梢・綴理・慈「「「うふふ(ふふ)(へっへっへ)」」」
あっ、詰んだ……。
そして、4人で風呂に入ってしまい、俺たちはお互いの裸をしっかりと見てしまった。
淳平(コイツら羞恥心無いのか!?)
淳平「じゃあ、電気消すぞー?」
慈「はーい。おやすみなさーい」
綴理「おやすみ」
梢「おやすみなさい」
そして、4人が目を閉じると、
綴理「あったかいな………目を閉じてるのに、光が見えるよ。1、2、3、10個」
梢「私も……」
すると、
梢「……愛しているわよ、あなたたちのこと」
……………………
綴理「こず」
梢「〜〜っ///」
慈「え、なんか言いましたぁ?乙宗さん☆」
淳平「ツンデレか……」
梢「あ、あぁああなたたち!そこへ座りなさい!!」
そして、翌日3年生が蓮ノ空に戻り、夕方になると、部室には横断幕がかけられており、
そこには……
『目指せ!ラブライブ!優勝!!』
と、書かれていた。
ー つづく ー
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