さやかちゃんは、れいかさんに去年の、綴理たちが初めてここに来た時の事を聞く。
れいか「綴理ちゃんも淳平くんもさやかちゃんと同じで、先輩に連れてきて貰ってたわ。それで綴理ちゃんはさやかちゃんと同じように、きょろきょろと街を見てたの。でも、そうねえ。ふふっ。さやかちゃんと違って、色々大変だったわぁ。どう大変だったのかは、さやかちゃんに話した通りね」
れいかさんは、思い出すように懐かしさを感じさせる話し方をする。目は遠い目をしていたが、
さやか「あー、あはは……。……でも、夕霧先輩たちも、その上の先輩に連れてきて貰っていたんですね」
れいか「私には、綴理ちゃんと淳平くんがさやかちゃんをここに連れてきた理由は分からないわ。だけど、さやかちゃんがここに来る意味があるんだって、強く言ってたから」
さやか「先輩たちがそんなことを……」
そしてさやかちゃんは綴理の方を見る。
綴理「やあみんな。うん、そう。今日も来てる。さやはおでん作ってるよ。さやのおでんも美味しいよ。ボク?ボクは立ってるよ。ふふっ。ああ、立ってることはできるんだ」
れいか「そうは見えないかしら?」
さやか「いえ、夕霧先輩は言ってくれたんです。わたしのために出来ることを、なんでもしてくれると……。淳平先輩だって、梢先輩達の方もあるのに、毎日わたしの方に来てサポートしてくれて……。そんな、もったいないことを。だからこそ、本当は今すぐにでも応えたい」
れいか「私に言えるのは、このくらいかしらね」
さやか「いえ……ありがとうございました!」
淳平「さやかちゃん」
綴理「さや」
さやか「あっ、淳平先輩、夕霧先輩……」
綴理「そろそろ休憩。さやもどうかな?」
淳平「おでん食わしてくれるってさ?」
そして休憩時間に入り、おでん屋でおでんをごちそうになっている俺たち。
淳平「ここのおでん好きなんだよな……」
綴理「ボクも……」
さやか「はい。とっても美味しいですね。あんまり外でご飯を食べることもありませんから、なんだか新鮮てす」
淳平「なら良かった……熱っ! …前はよく来てたんだけどな……」
綴理「そうだね……」
さやか「ああ、はい。れいかさんから聞きました。夕霧先輩も最初はきょろきょろしてたって」
綴理「そっか。……そうだったかな?」
淳平「目茶苦茶きょろきょろしてたぞ?」
綴理「むう……。でもボクは……居るだけで良いって言われたんだ」
さやか「居るだけで、良い……ですか?」
綴理「そう。最初はスクールアイドルクラブみんなで来た。こずは色んな人とすぐ仲良くなってたし、みんな全然違うことやってて。……それでボクは、居るだけで良いって言われた」
さやか「それは……えっと。褒められているんでしょうか」
綴理「どうだろう。たぶん、褒められてはいない」
さやか「ですよね……」
綴理「でもね…?言われたその時は、そのまま言われた通りにしただけだったけど……今は違うんだ。その意味が分かったから」
さやか「意味……ですか?」
綴理「そう。さやのおかげ」
さやか「え?」
綴理「さやはいつも、ボクにできないことをしてくれてた。でもなんにもできないボクを、さやはいつも必要としてくれたよね。だから、ボクはボクでいて良いんだって思えたんだ」
さやか「それは、えっと」
綴理「ボクはボクでいい。ジュンもジュンでいい。さやも、さやでいい。この4日間、さやは他の誰かだったかな?れいかさんの代わりでも、お店の人の代わりでも、ジュンの代わりでも、立ってるだけのボクの代わりでもなかったと、思うんだ」
さやか「ぁ……」
淳平「きっとみんな、さやかちゃんに会いに来てたんじゃないかな?誰でもない、さやかちゃんに」
さやか「それ、は……」
綴理「どうだろうか、さや。ボクが踊る時に、もし"きらめき"があるのなら。それはきっと、ボクがボクで居ることを許されているからだ。だったらさやはもう少し、さやがさやで居ることを許してあげたら良いと思うんだ。お姉ちゃんのように、でもなくて。ボクのように、でもなくて。それで良いんだと、思う」
さやか「…………」
綴理「あれ、ごめん。大丈夫?」
さやか「はい、大丈夫です。わたしは、大丈夫です」
さやかちゃんは大きく頷いて答える。
さやか「ここで出会った色んな人は、確かにわたしのことを見てくれていました。お姉ちゃんでも、夕霧先輩でもなくて。わたしを応援していると、そう言ってくれて」
綴理「ん」
淳平「分かったみたいで良かった」
さやか「お二人は、それを教えてくれようと」
淳平「伝わったのなら良かったよ」
綴理「うん。伝わって、良かった」
さやか「……あの!ありがとうございます、夕霧先輩、淳平先輩!わたし……頑張ってみます!」
淳平・綴理「「おう(うん)、頑張って!!」」
さやか「はい!!」
さやかちゃんはとても晴れやかな笑顔で笑っていた。
蓮ノ空への帰り道、さやかちゃんは今まで想っていたことを話してくれた。
さやか「ずっと、1人で頑張ってると思ってたんです。リンクの上には1人で、点数が出て、ダメで……それで終わりだって。踊っている時はずっと、もっと上手にならなきゃって、それだけで。夕霧先輩を目指すことが、一番の近道だとばかり思ってました。でも……そうじゃないんですね」
綴理「うん。……うん。たぶんそう」
さやか「自信が無いんですか!?」
綴理「どれが正解か分かってたら、ボクも悩まない。だからホッとしてるよ。さやに伝わって……それが、さやが欲しいと思ってたもので、本当に良かったって。……あー。」
さやか「……先輩?」
綴理「去年、いろんなことを教えてもらったんだ。先輩とか、市場の人たちとか。ボクは、それこそなにも返せなかったけど」
さやか「……………」
綴理「ボクに後輩が出来た時に頑張れば良いって……言われてたんだった。……できてた?」
淳平「綴理、さやかちゃんの顔を見れば、答えなんか分かると思うぞ?」
綴理「?」
さやか「ふふっ、はい。こんなに清々しい気持ちになれたのは本当に久しぶりです。きっと、わたしの欲しかったものでした。先輩のおかげですよ」
綴理「ん。よかった。ボクも、今日のさやを見てたら分かったからさ。これが"きらめき"なんだなーって」
さやか「……本当に……本当に、そう見えましたか?」
綴理「うん。ジュンは?」
淳平「俺も見えたよ。さやかちゃんの中に眠ってた"きらめき"が」
綴理「うん。だから、今日ので良い。今日のさやが良い。すっごく、きらめいてた」
さやか「っ……あ。ごめんなさい。嬉しいです。本当に」
綴理「でも、そうだなあ」
さやか「?」
綴理「今のさやと、早くライブがしたい。今の……全力のさやと」
さやか「!……はい!あの、夕霧先輩!わたし、今なら凄いことができそうです!」
その日の夜―――
さやか「明日のお弁当は……ふふっ、夕霧先輩喜びそう。練習、もっと頑張りたいな……ん?はい、頑張ります……と。」
すると、さやかちゃんはスマホを机の上に置き、
さやか「あっ、そっか……。そうだよね。いい加減……決めなきゃ」
ー つづく ー
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