蓮ノ空スクールアイドル録   作:松兄

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第84話:共有していなかったもの

あのあと、1年生は淳平と自分たちで話していた。

 

吟子「どうしてこうなったんだろ…………。あんなにいっぱい、練習したのに…………」

 

小鈴「そ、それじゃあ、もっともっと練習すれば!」

 

吟子「……………でも、ずっとやってたのに、ぜんぜん成果が出なかったんだよ。だったら、努力の方向が間違ってたってことに……」

 

小鈴「うっ……それは、そうかも……。適当なこと言って、ごめん…………」

 

吟子「あ。いや。小鈴を責めたかったわけじゃ……ごめん」

 

空気が悪くなる3人。すると、

 

姫芽「ごめん…………これ、アタシが悪いや」

 

小鈴「え?」

 

吟子「姫芽………?」

 

淳平「姫芽ちゃん……?」

 

姫芽「ごめん、ほんとに。先輩も……」

 

淳平「……どういうことだ?」

 

小鈴「ひ、姫芽ちゃんに悪いとこはないよ!だって、歌もダンスも上手だし、その上、徒町のサポートまでしてくれて…やっぱり、徒町の力不足が………」

 

姫芽「…………そうじゃなくて」

 

煮えきらない様子の姫芽ちゃんに吟子ちゃんが詰め寄る。

 

吟子「なんなの?姫芽。……そういえば、竜胆祭のステージの時から、様子がおかしかったよね。なにかわかるんだったら……………」

 

姫芽「…………」

 

吟子「…………姫芽」

 

吟子「姫芽!」

 

それでも黙っている姫芽ちゃんに、吟子ちゃんが怒鳴る。

 

吟子「私は、チームプレイとかよくわかんないから!ずっとやってきた姫芽がなにに悩んでるのか、なんでごめんなのか、わかんないよ!」

 

吟子「足引っ張ってるんだったら、ちゃんと言って!足引っ張ってるって!」

 

姫芽「そんなことない!」

 

泣きそうな顔で怒鳴り返す姫芽ちゃん。

 

姫芽「そんなこと……ない」

 

そして、姫芽ちゃんは走ってどこかへ行ってしまった。

 

小鈴「あっ、姫芽ちゃん!ま、待って!」

 

小鈴ちゃんは慌てて、姫芽ちゃんの後を追っていく。

 

淳平「小鈴ちゃん!姫芽ちゃんを頼む!」

 

小鈴「はい!先輩は吟子ちゃんをお願いします……!」

 

そして、行ってしまったふたりを見送り、ふたりだけになる俺たち。

 

吟子「なんなん………………」

 

 

――すると、

 

泉「おや、吟子さん?」

 

知らない女の子が声をかけてきた。

 

淳平「誰?」

 

吟子「え?あ…………桂城さん。来てたんだ。竜胆祭」

 

泉「うん。あなたたちのステージを見てから、帰ろうと思ってね」

 

淳平「吟子ちゃんの知り合い?」

 

吟子「はい………」

 

落ち込んだ様子の吟子ちゃんに、桂城さんと呼ばれた子は……

 

泉「その様子だと、あまり手ごたえを感じられなかったのかな?」

 

吟子「……ごめんなさい。桂城さんに、いろいろとアドバイスをもらったのに」

 

泉「ふむ………ふう。仕方ないよ。あなたはうまくやった」

 

 

そう言うと、

 

泉「"他のふたりが足を引っ張った"んだ」

 

吟子「…………え?」

 

淳平「……は?」

 

桂城さんの言葉に信じられないというような顔をする吟子ちゃん。一瞬で頭に血が登りかけた淳平。

 

泉「チームの難しいところだね。足手まといがいると、どうしても総合的な完成度が下がってしまう」

 

淳平「お前!!」

 

淳平が怒ると、桂城と呼ばれた女の子は俺に向けてこっそりと口に指を立てる。

 

淳平(? 口を出すな……?何か考えがあって言ってるのか……?)

 

イライラするが、取り敢えず黙ることにする。

 

吟子「待って」

 

泉「うん?」

 

吟子「桂城さん、今の、なに?」

 

泉「なにって?」

 

吟子「足を引っ張ったとか、足手まとい、とか。…………それ、小鈴と姫芽のこと言ってるの?」

 

泉「そう言ったつもりだけれど?」

 

吟子「っ!……………どんなつもりなんか知らんけど……」

 

吟子は怒りの表情を浮かべて拳を握りしめる。

 

吟子「……そんなんじゃ、ないよ……っ。うまくいかなかったのは、ぜんぶ私のせい……」

 

吟子「小鈴は、たしかに普段は頼りないところだってあるけど……、でも…誰より練習がんばってて……。ステージの上では、DOLLCHESTRAのひとりとしてすごくかっこいい……!」

 

吟子「姫芽は憧れの人の隣でも胸を張ってて……。ダンスだって本当に上手で!見習わなきゃいけない部分は、いっぱい、いっぱいあって!」

 

吟子「あのふたりは、私なんかよりずっとすごくて……………。ふたりのこと何も知らないのに、勝手なこと言わないでよ!!」

 

吟子ちゃんが怒鳴る。涙を流しながら顔を真っ赤にして、感情をむき出しにする。

 

だが――、

 

泉「でもあなたは、ふたりを信じ切れなかったんだろう?」

 

吟子「……え?」

 

言われた意味がわからず、吟子ちゃんは一瞬冷静になる。

 

吟子「え?」

 

泉「例えば小鈴さんの大きな欠点は、失敗を前提に行動していることだ」

 

淳平(!!)

 

泉「不屈の意思の裏表だろうね。もしだめでも次がある。だから何度でもチャレンジする。それって、失敗しても構わないと思っているってことだろう?」

 

吟子「っ!」

 

吟子「一度きり。もう後がないという状況を、ほとんど経験してこなかったんだ。だから彼女はどんなに成功率が低い賭けにだって、ベットしてしまう。勇気と蛮勇の違いを、わかっていない」

 

吟子「それが、小鈴の欠点………?」

 

吟子は顔を真っ青にしてうつむく。淳平も黙りながらも驚いた顔をする。思い当たる節があったのだ。

 

泉「まあ。もしかしたら、本人も自覚はできていないのかもしれないけどね」

 

泉「そして、姫芽さんだ。ある意味では、彼女がもっともたちが悪い」

 

吟子「姫芽に弱点なんて…………」

 

泉「彼女は、あなたたちの弱点に気づいている。なのに、それを言い出すことができなかった」

 

吟子「っ!」

 

泉「どうしてあえて黙っていたのか、理由は私にもわからないけどね。そうだな。言っても無駄だと最初から諦めていたのかもしれない」

 

吟子「…………なに、それ。そんな話、一度も………」

 

泉「だろうね」

 

泉「あなたたちは、自分たちの強みに関しては、確かに共有していたのかもしれない。でも、「なにができないのか」「どんなことが苦手なのか」って、 一度でも話し合ったかな?」

 

吟子「っ!……………それは」

 

吟子ちゃんは言い返せなかった。図星だったから……。

 

吟子「なんで……………。なんで、あなたにそんなことがわかるの!?」

 

泉「見ていればわかるさ。あなたが、自分の弱点をふたりに隠して、黙っていることもね」

 

吟子「――!」

 

吟子「私の、隠してること…………」

 

吟子「だから、私たちはうまくいかなかった…………?」

 

淳平「吟子ちゃん………?」

 

吟子「ああ、そうか…………そうだったんだ…………」

 

泉「うん?」

 

吟子「当たり前だ……………そんなんで、先輩たちみたいにできるはずがなかったんだ…………」

 

吟子「…………好き放題言ってくれて、ありがとう。ライブも見に来てくれて、ありがとう。けど、だけど!」

 

吟子「私たち、まだまだこんなもんじゃないから!次は、なんにも言わせなくしてやるから!じゃあね!」

 

そして、吟子はふたりを追いかけていった。

 

泉「…………やれやれ」

 

………ふ〜〜ん。

 

淳平「………やり方は気に入らないけど、一応礼を言っておく」

 

ったく………。わざと煽って気づかせるなんて……。

 

わざわざ悪役を買って出たのか。

 

泉「お礼はいいよ。………さて、あとのふたりはどこにいるかな」

 

 

― つづく ―




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