あのあと、1年生は淳平と自分たちで話していた。
吟子「どうしてこうなったんだろ…………。あんなにいっぱい、練習したのに…………」
小鈴「そ、それじゃあ、もっともっと練習すれば!」
吟子「……………でも、ずっとやってたのに、ぜんぜん成果が出なかったんだよ。だったら、努力の方向が間違ってたってことに……」
小鈴「うっ……それは、そうかも……。適当なこと言って、ごめん…………」
吟子「あ。いや。小鈴を責めたかったわけじゃ……ごめん」
空気が悪くなる3人。すると、
姫芽「ごめん…………これ、アタシが悪いや」
小鈴「え?」
吟子「姫芽………?」
淳平「姫芽ちゃん……?」
姫芽「ごめん、ほんとに。先輩も……」
淳平「……どういうことだ?」
小鈴「ひ、姫芽ちゃんに悪いとこはないよ!だって、歌もダンスも上手だし、その上、徒町のサポートまでしてくれて…やっぱり、徒町の力不足が………」
姫芽「…………そうじゃなくて」
煮えきらない様子の姫芽ちゃんに吟子ちゃんが詰め寄る。
吟子「なんなの?姫芽。……そういえば、竜胆祭のステージの時から、様子がおかしかったよね。なにかわかるんだったら……………」
姫芽「…………」
吟子「…………姫芽」
吟子「姫芽!」
それでも黙っている姫芽ちゃんに、吟子ちゃんが怒鳴る。
吟子「私は、チームプレイとかよくわかんないから!ずっとやってきた姫芽がなにに悩んでるのか、なんでごめんなのか、わかんないよ!」
吟子「足引っ張ってるんだったら、ちゃんと言って!足引っ張ってるって!」
姫芽「そんなことない!」
泣きそうな顔で怒鳴り返す姫芽ちゃん。
姫芽「そんなこと……ない」
そして、姫芽ちゃんは走ってどこかへ行ってしまった。
小鈴「あっ、姫芽ちゃん!ま、待って!」
小鈴ちゃんは慌てて、姫芽ちゃんの後を追っていく。
淳平「小鈴ちゃん!姫芽ちゃんを頼む!」
小鈴「はい!先輩は吟子ちゃんをお願いします……!」
そして、行ってしまったふたりを見送り、ふたりだけになる俺たち。
吟子「なんなん………………」
――すると、
泉「おや、吟子さん?」
知らない女の子が声をかけてきた。
淳平「誰?」
吟子「え?あ…………桂城さん。来てたんだ。竜胆祭」
泉「うん。あなたたちのステージを見てから、帰ろうと思ってね」
淳平「吟子ちゃんの知り合い?」
吟子「はい………」
落ち込んだ様子の吟子ちゃんに、桂城さんと呼ばれた子は……
泉「その様子だと、あまり手ごたえを感じられなかったのかな?」
吟子「……ごめんなさい。桂城さんに、いろいろとアドバイスをもらったのに」
泉「ふむ………ふう。仕方ないよ。あなたはうまくやった」
そう言うと、
泉「"他のふたりが足を引っ張った"んだ」
吟子「…………え?」
淳平「……は?」
桂城さんの言葉に信じられないというような顔をする吟子ちゃん。一瞬で頭に血が登りかけた淳平。
泉「チームの難しいところだね。足手まといがいると、どうしても総合的な完成度が下がってしまう」
淳平「お前!!」
淳平が怒ると、桂城と呼ばれた女の子は俺に向けてこっそりと口に指を立てる。
淳平(? 口を出すな……?何か考えがあって言ってるのか……?)
イライラするが、取り敢えず黙ることにする。
吟子「待って」
泉「うん?」
吟子「桂城さん、今の、なに?」
泉「なにって?」
吟子「足を引っ張ったとか、足手まとい、とか。…………それ、小鈴と姫芽のこと言ってるの?」
泉「そう言ったつもりだけれど?」
吟子「っ!……………どんなつもりなんか知らんけど……」
吟子は怒りの表情を浮かべて拳を握りしめる。
吟子「……そんなんじゃ、ないよ……っ。うまくいかなかったのは、ぜんぶ私のせい……」
吟子「小鈴は、たしかに普段は頼りないところだってあるけど……、でも…誰より練習がんばってて……。ステージの上では、DOLLCHESTRAのひとりとしてすごくかっこいい……!」
吟子「姫芽は憧れの人の隣でも胸を張ってて……。ダンスだって本当に上手で!見習わなきゃいけない部分は、いっぱい、いっぱいあって!」
吟子「あのふたりは、私なんかよりずっとすごくて……………。ふたりのこと何も知らないのに、勝手なこと言わないでよ!!」
吟子ちゃんが怒鳴る。涙を流しながら顔を真っ赤にして、感情をむき出しにする。
だが――、
泉「でもあなたは、ふたりを信じ切れなかったんだろう?」
吟子「……え?」
言われた意味がわからず、吟子ちゃんは一瞬冷静になる。
吟子「え?」
泉「例えば小鈴さんの大きな欠点は、失敗を前提に行動していることだ」
淳平(!!)
泉「不屈の意思の裏表だろうね。もしだめでも次がある。だから何度でもチャレンジする。それって、失敗しても構わないと思っているってことだろう?」
吟子「っ!」
吟子「一度きり。もう後がないという状況を、ほとんど経験してこなかったんだ。だから彼女はどんなに成功率が低い賭けにだって、ベットしてしまう。勇気と蛮勇の違いを、わかっていない」
吟子「それが、小鈴の欠点………?」
吟子は顔を真っ青にしてうつむく。淳平も黙りながらも驚いた顔をする。思い当たる節があったのだ。
泉「まあ。もしかしたら、本人も自覚はできていないのかもしれないけどね」
泉「そして、姫芽さんだ。ある意味では、彼女がもっともたちが悪い」
吟子「姫芽に弱点なんて…………」
泉「彼女は、あなたたちの弱点に気づいている。なのに、それを言い出すことができなかった」
吟子「っ!」
泉「どうしてあえて黙っていたのか、理由は私にもわからないけどね。そうだな。言っても無駄だと最初から諦めていたのかもしれない」
吟子「…………なに、それ。そんな話、一度も………」
泉「だろうね」
泉「あなたたちは、自分たちの強みに関しては、確かに共有していたのかもしれない。でも、「なにができないのか」「どんなことが苦手なのか」って、 一度でも話し合ったかな?」
吟子「っ!……………それは」
吟子ちゃんは言い返せなかった。図星だったから……。
吟子「なんで……………。なんで、あなたにそんなことがわかるの!?」
泉「見ていればわかるさ。あなたが、自分の弱点をふたりに隠して、黙っていることもね」
吟子「――!」
吟子「私の、隠してること…………」
吟子「だから、私たちはうまくいかなかった…………?」
淳平「吟子ちゃん………?」
吟子「ああ、そうか…………そうだったんだ…………」
泉「うん?」
吟子「当たり前だ……………そんなんで、先輩たちみたいにできるはずがなかったんだ…………」
吟子「…………好き放題言ってくれて、ありがとう。ライブも見に来てくれて、ありがとう。けど、だけど!」
吟子「私たち、まだまだこんなもんじゃないから!次は、なんにも言わせなくしてやるから!じゃあね!」
そして、吟子はふたりを追いかけていった。
泉「…………やれやれ」
………ふ〜〜ん。
淳平「………やり方は気に入らないけど、一応礼を言っておく」
ったく………。わざと煽って気づかせるなんて……。
わざわざ悪役を買って出たのか。
泉「お礼はいいよ。………さて、あとのふたりはどこにいるかな」
― つづく ―
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