蓮ノ空スクールアイドル録   作:松兄

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第90:綴理の職業体験(市役所)

後日、綴理、淳平、さやかちゃんの3人は金沢市役所に来ていた。

淳平がいるのは、梢がとても不安そうにして心配していたからである。

 

淳平(さやかちゃんだけで手に負えるかも分からないって言ってたしな……)

 

さて、今俺たちはこの職業体験をツテで紹介してくれた寮母さんから説明を聞いている。

 

寮母「さて、夕霧さん、日野下くん、村野さん。市役所の方々は、快く職場体験を受け入れてくださいました」

 

綴理「ありがと、寮母さん」

 

淳平・さやか「「ありがとうございます」」

 

寮母「いえいえ、珍しい頼み事でしたし……生徒が未来のために何かがしたいということですから。学校にもきちんと許可はもらえました」

 

さやか「お気遣いいただき、ありがとうございます。本日はよろしくお願いします」

 

寮母「いえ。もちろん友人のツテがあったというのはありますが……許可をもらえたのは、これまで金沢での、あなたたちスクールアイドルクラブの活躍があったからです。積み重ねた信頼を、ふいにしないよう気を引き締めてくださいね」

 

綴理「これまでの、スクールアイドルクラブの……」

 

淳平「気を引き締めないとな。綴理」

 

綴理「うん。分かった」

 

寮母「今日やるのは、シンプルなデータ入力の仕事です。といっても、市民の皆さんのために必要な仕事には変わりありませんから、精一杯やるように」

 

さやか「はい。一緒に頑張りましょうね、綴理先輩」

 

淳平「分からないところは聞いてくれれば一緒に考えるよ」」

 

綴理「ん、ありがと。データ入力なら、ボク、できるかも」

 

そして、データ入力の仕事を始めて1時間ほどが経過。途中、綴理の仕事の進捗を見たが、ちゃんと入力できていた。

 

そして今、綴理はデータ入力の報告書を書くようにと言われていた………。

 

さやか「綴理先輩、調子はどうですか?」

 

綴理「さや……」

 

さやか「あれ、どうしました?迷子になってましたか?」

 

綴理「いやちが、ボクなんなの。そうじゃなくてその。……ボクなんなんだろう」

 

さやか「ええ!?えっと、入力はちゃんと出来たんですよね?」

 

淳平(ん?)

 

さやかちゃんと綴理の声が聞こえて俺はそちらに視線を向ける。

 

淳平(なんだ……?)

 

俺は2人のところに行く。

 

淳平「どうした?」

 

綴理「あっ、ジュン……。やったことを書く報告書?が全然うまくいかなくて」

 

さやか「ちょっと見せてもらっても……ああ、『データ入力を頑張りました。そんなに難しくなかったです』だと……仕事の報告ではないですね………」

 

淳平「ああ〜……。なるほど……」

 

綴理「…………」

 

さやか「わたしの方もすぐに片づけますから、ちょっと休んでてください。あとで一緒に見ますよ」

 

淳平「俺の方もあと少しで終わるから待ってろ」

 

綴理「うん………」

 

浮かない顔だなぁ……

 

淳平「せっかくだから、ほかの皆さんの仕事を見て回ると気分転換になるかもしれないぞ?色んな仕事あるから」

 

綴理「そっか、分かった。……………じゃあ、そうするね」

 

さやか「……………早く終わらせて、綴理先輩のお手伝いをしないと……ほんとはそれじゃ、ダメなんですけどね」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

綴理「……………やっぱり、ボクはできないことは全然まったくできないんだね」

 

落ちこむ綴理。

 

綴理「すず、きみが眩しいよ。どんなに難しくても、まっすぐ進んでいくきみが………。ボクは、できなそうだって分かると……みんなに申し訳なくなって、指先まで凍るんだ……………」

 

しばらく市役所内を歩いていた綴理が辺りを見渡す。

 

綴理「この辺は受付、かな。みんな、色んな話をしてる。難しい……………」

 

綴理「社会科見学……と言っても、話しかけていいのかな」

 

――すると、1人女性が綴理に話しかけてきた。

 

金沢市民「すみません……………少し良いですか?」

 

綴理「えっ、ボク?」

 

金沢市民「あ、はい。子育て支援課ってどこだろうと思いまして……………」

 

綴理「えっと……ん、任せて、こっちだよ」

 

綴理が記憶を頼りに助成を案内する。到着した場所には『子育て支援課』と書かれていた。

 

綴理「ここが、子育て支援課?のはず」

 

金沢市民「すみません、助かりました。ふう」

 

女性が疲れたような顔をしているのを、綴理は見逃さなかった。

 

綴理(………?大丈夫かな)

 

 

そして、先ほどの女性が順番待ちをしていると――、

 

綴理「やほ」

 

金沢市民「…………あれ、あなたはさっきの」

 

綴理「なんだか疲れてるみたいだから、気になったんだ」

 

金沢市民「疲れてる……すみません、お恥ずかしい限りで。いえ、みんな頑張ってるんだから、弱音なんか吐いてちゃダメなんですけど」

 

そう言う女性。だが、綴理は少し違う視点を持っていた。

 

綴理「そう?大変なのは、恥ずかしいことなんかじゃないよ」

 

金沢市民「――ありがとうございます」

 

綴理「どうしてそんなに、疲れてるの?」

 

金沢市民「子どもがふたりいるんです。双子で……頼れる親戚もいないので、ひとりで頑張らなきゃいけなくて」

 

金沢市民「…………で、でも、それだけです。他の人と比べたら、私の大変さなんてよくあることくらいのものですから!」

 

綴理「……べつに、他の人とか関係ないよ?」

 

金沢市民「えっ?」

 

綴理「つらいなら、つらいって言って良いんだ」

 

金沢市民「………………」

 

綴理「ボクにはきょうだいとか居ないから、ほんとのところの大変さは分からないけどさ。でも、支え切れないならそう言っていいんだよ。子どももきっと、自分が負担になってると思うと……つらいはずだ」

 

金沢市民「子どもも、つらい……ですか」

 

綴理「ボクは少なくとも、親に大変そうな顔で『忙しくてごめん』って言われると、ボクのせいかなって思ってたから。あなたには、元気でいてほしい」

 

金沢市民「――そう、ですね。ありがとうございます。私ちゃんと、自分が大変なこと、つらいこと、担当の方に相談しようと思います」

 

綴理「うん、それがいいよ」

 

金沢市民「はい、ありがとうございました。少なくとも今、元気は出ましたから」

 

綴理「ん、良かった。じゃあ、ばいばい」

 

女性は、なにかスッキリした顔をして、番号を呼ばれた受付へと向かった。

 

――すると、

 

綴理「ふう。……ん?キミは……キミも、ボクに話?何か、困ったことあった?」

 

 

 

 

 

 

 

淳平「綴理ーー、どこだー?」

 

さやか「……居た!綴理せんぱーい!……?」

 

綴理「うん。だからキミも大丈夫。今が大変なのは分かるよ。でも、キミが頑張ってることも分かるから。胸を張ってほしい。みんな見てるし、ボクも見てるから。応援してる」

 

さやか「あれ、なんで受付業務を……………?」

 

さやかちゃんが駆け寄ろうとすると、

 

ガシッ!

 

俺は止める。

 

さやか「? 先輩?」

 

淳平「ちょっと見ててみよう」

 

俺とさやかちゃんは、しばらく遠目から見てることにする。

 

綴理「じゃあ次の人どうぞー」

 

さやか「なんか、並んでますよ!?」

 

綴理「そっか、お隣さんとの関係に困ってる……うん、分かった。ボクも話してみるよ。できる限りのこと、してみるね」

 

綴理「キミは……あれ、ここの職員さん?人間関係の悩み………だったらさ、今度一緒にボクたちのライブ見に来て。きっと、一緒にすっきりできるよ」

 

淳平「お悩み相談室になってるな……」クスッ

 

さやか「そうですね。…………得意不得意はあると思ってましたけど。やっぱり綴理先輩は、わたしの助けがなくても、ちゃんとできることはあるんですよ。全然ダメなんてこと、ないじゃないですか」

 

淳平「綴理、もしかしたらカウンセラーとか向いてるかもな……」

 

綴理「はーい、次の人どうぞー♪」

 

 

 

そして数十分後……

 

綴理「ふう。これで終わりかな。みんなの悩みが、解けたらいいな」

 

さやか「綴理先輩!」

 

淳平「お疲れ様……」

 

綴理「さや、ジュン。……………あ、ごめん。仕事忘れてた…………」

 

さやか「いえ、こちらでやれることはやっておきましたから」

 

綴理「そっか……ボク、全然うまくいかなかったね。おしまいには、残ってる仕事のことも忘れちゃってた」

 

また落ち込んでしまう綴理。

 

さやか「そんなことは、ありませんよ。………綴理先輩は、今までどんなことをしていたんですか?」

 

綴理「ボクは、みんなの話を聞いてたんだ。最初は市民の人たちだけだったんだけど、休憩中の職員さんとかもいてね」

 

さやか「話、ですか?」

 

綴理「悩みとか、困ってることがあるからここに来るって人も居たみたいで。ボクが何をできたかは、分からないけど……ボクは、立っていることはできるからね」

 

淳平「だとしたら、その立っているだけの綴理が必要だったんだよ」

 

綴理「え?」

 

淳平「綴理と話してから、俺たちとすれ違った人たち……みんな、どこかすっきりした顔をしてたんだぜ?」

 

綴理「そうなの?それなら………良かった」

 

さやか「そうですね。これも立派な、職業体験だと思います。向き不向きという意味では、受付のお仕事は凄く向いていると思いました。人の悩みに向き合って……支えてあげる。思えば、綴理先輩はいつもそうだなとも、思いまして。ご自身では、どうですか?」

 

綴理「……どうだろう、まだよく分からないや。でも、みんながすっきりしてくれたのなら、ボクにとってはそれが一番嬉しい。これが、やりたいことってことなのかな?」

 

淳平「少なくとも、綴理は楽しそうには見えたぞ?」

 

綴理「そっか。うん…………楽しかったのかも。みんなが笑えて、嬉しかったから」

 

さやか「綴理先輩。続けて、頑張ってみましょうか」

 

綴理「――うん」

 

 

― つづく ―




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