綴理が【茜や】での染物体験のスタッフと、近江町市場での従業員を職業体験して後日――。
梢「そう………しっかり、やれたのね」
瑠璃乃「おおー!つづパイセン、凄かったんだねー!」
吟子「【茜や】さんの方からも、こないだ、お礼を言っていただけました。私からも。改めて、ありがとうございました」
綴理「ううん……楽しかった」
姫芽「いや〜、ゲームの大会さえなければ、アタシも行きたかったな〜」
淳平「でも、大人数でお邪魔すると、逆に迷惑になっちゃうことあるからね。姫芽ちゃん」
姫芽「それもそうですね〜」
花帆「また今度、吟子ちゃんと3人で遊びにいこ!ふふっ、あたしが案内してあげるね!」
姫芽「わ〜、いきましょいきましょ〜!かほせんぱい〜!」
吟子「えっ…………人数に入れられてる……」
花帆はすっかり慕われる先輩だな。
小鈴「綴理先輩、凄かったんですよ!綴理先輩に見てもらってた人たち、本当に体験コーナー楽しそうで……出来上がったデザインも、どれもめっちゃ綺麗でした!」
梢「卒業したくない………、その気持ちは分かるけれど、綴理も心持ちひとつでまっすぐ進めるはずなのよね」
慈「市役所の方でも、頑張ってたらしいじゃん。綴理は心配いらないよ。ちょっと思い詰めちゃうところがあるだけでさ」
淳平「綴理は人の
綴理「そうかな?」
俺たち3人の褒め言葉に、綴理は少し照れてる模様。
小鈴「綴理先輩!綴理先輩のオープンキャンパスは……成功しましたか!?」
綴理「うん。やりたいことがこれ、っていうのをはっきり分かったわけじゃないけど………。でも、みんなに認めてもらえて、嬉しかったんだ。この嬉しい気持ちは、嘘じゃない」
淳平「…………進路調査票、ちゃんと出せそうか?」
綴理「うん?……うん?」
綴理「進路調査票どこいったっけ。さや、持ってる?」
さやか「持ってませんね!ええと……綴理先輩の部屋にありましたっけ……?」
淳平「失くしたんなら、もう一度貰ってこい」
梢「そうね。余りが1枚もない……なんてこともないでしょう。ただ、最後の進路調査票だから、保護者の印が必要なのよね」
慈「あー………。そっか。親のハンコが必要なんだっけ」
姫芽「お姉ちゃんでもセーフですよ〜」
綴理「しまった、ボク、お姉ちゃんがいない。さや」
さやか「わたしじゃ通りませんよ!」
ルリちゃんが「ちらっ」と梢を見る。
梢「はぁ……成人している保護者に限るのよ」
綴理「そっか。じゃあ今日、一度帰るよ」
小鈴「え、今日!?」
綴理「早い方がいいと思うんだ。みんなから貰った気持ちが、冷めないうちに」
そして綴理は、寮母さんに帰る旨を伝え、一時帰宅していった。
――夕霧宅
綴理は自宅のソファに寝っ転がりながら親から届いたメッセージを見ていた。
綴理「『明日の朝帰るので、その時に』………そっか。………朝まで、独りか」
綴理「もう、こずの匂いも、めぐの匂いも、ジュンの匂いも、残ってない。ついこないだのことなのに……」
綴理「なんだか、寒いや」
ピロン!
綴理「?」
綴理がスマホを見ると、小鈴からのメッセージが。
小鈴『家族の人とは会えましたかー?』
綴理「あ、すず…………『まだだけど、朝には間に合うよ』……と」
すると、
ピロン!ピロン!
梢『きちんと印鑑買ってくるのよ。忘れずに』
慈『ハンコだけ先にもらっちゃえば、中身は好きに書けるからね!』
淳平『めぐの言ったことは気にすんな。無事に帰ってこいよ〜』
瑠璃乃『めぐちゃん別に抜け道探す必要なくない!?帰りを待っております。つづパイセン』
さやか『ちゃんとお弁当用意して、お帰りをお待ちしてますからね』
次々と送られてくるメッセージ。だが、綴理メッセージを見ながら笑顔になる。
綴理「あったかい」
綴理「『ありがと、みんな。みんなのおかげで、夜を越えられそうです』と」
綴理「そっか、みんなのおかげ。――入学から、いっぱい写真も撮ったんだ……見返していよう。眠くなるまで」
綴理はスマホの【フォト】を開いて高校で撮った写真を見返す。
綴理「こず、めぐ、ジュン、さち。ふふ、この時のさち、大変そうな顔してる。ボクはぼーっとしてる。何も考えてないな、きっと」
写真をスクロールする。
綴理「この辺りから、さやが居る。ということは、かほも居る。…ほら居た。こずとジュンが笑ってる。ボクも、笑ってる……のかなぁ」
綴理「ふふ、めぐが張り切ってる。るりが居るからだね。みんなで買い物に行ったりもしたなあ」
もう少しスクロールすると、1年生が画像に写っていた。
綴理「すずだ。さやが去年より、もっと楽しそう。ぎんと、ひめも来た。9人……なんだか部室が狭いな。去年のうちに片づけるべきだった。ねえさや、部室の片づけって――」
部屋に、綴理の言葉だけが響く。
綴理「――そっか、ボク、今はひとりだった」
綴理「静かだ……空っぽの部屋みたいに……」
―― ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ――
梢「まさか、綴理の言葉で思い出すとはね」
俺たちは部室の大掃除を行っていた。なんやかんやで去年も一昨年まともにできなかったし、今年も全国まで進んだら忙してく忘れそうだしな。
綴理「お片付け?」
梢「そう、部室の大掃除。去年はできなかったもの」
花帆「淳兄ぃ、これどこに持って行けばいいー?」
淳平「いったん隅にまとめておいてくれ。持って帰るもの、捨てるもの、残すもの、あとで仕分けないとだから」
姫芽「なんでこの時期に大掃除なんですか〜?」
慈「ラブライブ!もあるし。全国大会に行くのなら、こういう雑務をやる暇はなくなるじゃん。去年もそうだったから、11月のうちにやっとこうと思って」
梢「なんだかんだ、去年も一昨年も、しっかり掃除をする機会もなかったわね。私たちが一年生の時も、この時期は色々あったから」
慈「あれからもう2年!はやいもんだ!」
梢「そうね。もう三年生。気付けば卒業間近。綴理も進路調査票を持ってきたことだし、4人揃って卒業することができそうで良かったわ」
花帆「むー」
吟子「どういう感情」
花帆「や、なんだか『卒業』って言葉を聞くたびに、あたしの心のウサギさんがなにか言いたげな目を………!」
吟子「なんなんそれ」
花帆「うーん……わかんない!」
梢「別に、今すぐいなくなるというわけじゃないんだから」
吟子「………先輩は、卒業後どうするかは決まってるんですか?」
梢「そうね。もちろん、目の前の目標を越えてからの話にはなるけれど、私は進学予定よ。乙宗家の娘として、これからも音楽に携わっていくつもり。現状はそのくらいかしらね」
花帆「淳兄ぃは?」
淳平「俺も進学。学校の先生になろうかと思って」
瑠璃乃「絶対に向いてるよ!!」
姫芽「ですね〜。めぐちゃんせんぱいは〜?」
慈「そりゃ一私は、決まってるでしょ!世界中を夢中にするよ!それと並行して、ジュンのお嫁さんになるための花嫁修業!」
花帆「む〜……」
めぐの言葉に2、3年生が「チッ!」と隠そうともしない舌打ち。
慈「ちょっと!?」
姫芽「でもさすがめぐちゃんせんぱい!とびきりキュートなミラクルスマイル!一生ついていきます!」
瑠璃乃「…………………」
姫芽「あれ、るりちゃんせんぱい?」
瑠璃乃「いや………来年はルリも、ジュン兄ぃや、めぐちゃんみたいにパシっと言える目標にしないとなーって」
姫芽「え!?るりめぐは不減なのでは!?」
瑠璃乃「気持ちは、同じ。でも、ルリはどう表現しようかなって。まだまだ考えることは多いけど、こずこずパイセンが言ったことを思うとね。時間は止まっちゃくれないんだなーって」
慈「なあに、るりちゃんならすぐ分かるよ」
淳平「ああ。俺も心配はしてないよ。ルリちゃんなら大丈夫だって」
小鈴「さやか先輩は、将来どうしようみたいなのはあるんですか?」
さやか「わたしはどちらかというと、目の前のことに精一杯ですからね。でも、わたしたち二年生も何度か進路相談はあったので。それなりに考えてはいるつもりです」
さやかちゃんはやっぱりしっかりしてるなぁ……。
すると――
花帆「『わたしたち二年生も』って言われた!大丈夫だよ。小鈴ちゃん!あたしはまだなんにも考えてないから!」
花帆、お前……。
さやか「それは大丈夫では、ありませんね……!」
小鈴「さやか先輩の目指す先、知りたいです!」
さやか「そうですね……でもやっぱり、これまで培った経験を活かせることがしたいですね。大学に進学するかどうかも含めて、しっかり吟味していきたいと思います」
小鈴「………………」
さやか「小鈴さん?」
小鈴「やっぱり………聞かなきゃよかったです!」
さやか「ええ!?」
吟子「どんな梯子の外し方してるの」
小鈴「だって、さやか先輩もどのみち卒業しちゃうんだ な、って、なんか、変に意識しちゃって。チャレンジ失敗です!」
姫芽「うぅ……なんか、なんかすごい、寂しくなってきちゃったんですけど〜!」
梢「ふふ。でも、仕方ないわ。スクールアイドルクラブのメンバーは、毎年自分たちにできることを積み上げて……そうして次代に繋いできたから今があるのよ。ね、吟子さん」
吟子「そうですね」
梢「さ、お話もいいけれど、てきぱきやりましょう。掃除に時間を取られるのも、もったいないことだわ」
そして掃除を再開するみんな。めぐがあるものに目を留める。
慈「つーづりーん」
綴理「………………」
慈「綴理?」
綴理「え、あ、うん、なにかな」
慈「こいつどうする?」
綴理「こいつ?……………あ、ぺきんだっく。え、どうするって?」
慈「綴理が一番可愛がってたじゃん?持って帰るかなって」
綴理「持って、帰る………?」
さやか「ああ、それはいいかもしれませんね。この子も綴理先輩と一緒なら、嬉しいと思いますよ」
綴理「ごめん、待って。待ってほしい」
さやか・慈「「?」」
綴理「ボクが持って帰るってことは、ここにはもう置かないってこと?」
慈「べつに置いといてもいいんだけど。綴理が凄い気に入ってたし、だったら綴理が持って帰った方がいいかなってさ」
綴理「どうして………」
慈「え、どうして?」
綴理「この子もボクもここにいたいのに」
綴理が顔を暗くして俯く。
綴理「そっか……そういう、ことなんだね。…………ごめん、みんな。――ボク、やっぱり……卒業、したくないっ……………!」
綴理「っ…………ごめんっ」
――綴理は部室を飛び出して出ていってしまった。
小鈴「つ、綴理先輩!」
さやか「……………すみません、皆さん」
小鈴ちゃんとさやかちゃんは、急いで綴理を追いかける。
姫芽「み、みんなで行きますか!?」
慈「ここは、さやかちゃんたちに任せよっか」
淳平「そうだな。ここは、同じユニットで話させた方が良いかもな」
瑠璃乃「めぐちゃん?ジュン兄ぃ?」
慈「こういうのは感情だからね、時間が止まってくれるわけじゃない。今は……ジュンの言う通り、あのふたりがいいと思うよ」
慈・淳平((綴理…………))
― つづく ―
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