蓮ノ空スクールアイドル録   作:松兄

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第92話:卒業したくない

綴理が【茜や】での染物体験のスタッフと、近江町市場での従業員を職業体験して後日――。

 

梢「そう………しっかり、やれたのね」

 

瑠璃乃「おおー!つづパイセン、凄かったんだねー!」

 

吟子「【茜や】さんの方からも、こないだ、お礼を言っていただけました。私からも。改めて、ありがとうございました」

 

綴理「ううん……楽しかった」

 

姫芽「いや〜、ゲームの大会さえなければ、アタシも行きたかったな〜」

 

淳平「でも、大人数でお邪魔すると、逆に迷惑になっちゃうことあるからね。姫芽ちゃん」

 

姫芽「それもそうですね〜」

 

花帆「また今度、吟子ちゃんと3人で遊びにいこ!ふふっ、あたしが案内してあげるね!」

 

姫芽「わ〜、いきましょいきましょ〜!かほせんぱい〜!」

 

吟子「えっ…………人数に入れられてる……」

 

花帆はすっかり慕われる先輩だな。

 

小鈴「綴理先輩、凄かったんですよ!綴理先輩に見てもらってた人たち、本当に体験コーナー楽しそうで……出来上がったデザインも、どれもめっちゃ綺麗でした!」

 

梢「卒業したくない………、その気持ちは分かるけれど、綴理も心持ちひとつでまっすぐ進めるはずなのよね」

 

慈「市役所の方でも、頑張ってたらしいじゃん。綴理は心配いらないよ。ちょっと思い詰めちゃうところがあるだけでさ」

 

淳平「綴理は人の心に寄り添う(・・・・・・)のが凄く上手いからな!」

 

綴理「そうかな?」

 

俺たち3人の褒め言葉に、綴理は少し照れてる模様。

 

小鈴「綴理先輩!綴理先輩のオープンキャンパスは……成功しましたか!?」

 

綴理「うん。やりたいことがこれ、っていうのをはっきり分かったわけじゃないけど………。でも、みんなに認めてもらえて、嬉しかったんだ。この嬉しい気持ちは、嘘じゃない」

 

淳平「…………進路調査票、ちゃんと出せそうか?」

 

綴理「うん?……うん?」

 

綴理「進路調査票どこいったっけ。さや、持ってる?」

 

さやか「持ってませんね!ええと……綴理先輩の部屋にありましたっけ……?」

 

淳平「失くしたんなら、もう一度貰ってこい」

 

梢「そうね。余りが1枚もない……なんてこともないでしょう。ただ、最後の進路調査票だから、保護者の印が必要なのよね」

 

慈「あー………。そっか。親のハンコが必要なんだっけ」

 

姫芽「お姉ちゃんでもセーフですよ〜」

 

綴理「しまった、ボク、お姉ちゃんがいない。さや」

 

さやか「わたしじゃ通りませんよ!」

 

ルリちゃんが「ちらっ」と梢を見る。

 

梢「はぁ……成人している保護者に限るのよ」

 

綴理「そっか。じゃあ今日、一度帰るよ」

 

小鈴「え、今日!?」

 

綴理「早い方がいいと思うんだ。みんなから貰った気持ちが、冷めないうちに」

 

そして綴理は、寮母さんに帰る旨を伝え、一時帰宅していった。

 

 

 

 

 

――夕霧宅

 

綴理は自宅のソファに寝っ転がりながら親から届いたメッセージを見ていた。

 

綴理「『明日の朝帰るので、その時に』………そっか。………朝まで、独りか」

 

綴理「もう、こずの匂いも、めぐの匂いも、ジュンの匂いも、残ってない。ついこないだのことなのに……」

 

綴理「なんだか、寒いや」

 

ピロン!

 

綴理「?」

 

綴理がスマホを見ると、小鈴からのメッセージが。

 

小鈴『家族の人とは会えましたかー?』

 

綴理「あ、すず…………『まだだけど、朝には間に合うよ』……と」

 

すると、

 

ピロン!ピロン!

 

梢『きちんと印鑑買ってくるのよ。忘れずに』

 

慈『ハンコだけ先にもらっちゃえば、中身は好きに書けるからね!』

 

淳平『めぐの言ったことは気にすんな。無事に帰ってこいよ〜』

 

瑠璃乃『めぐちゃん別に抜け道探す必要なくない!?帰りを待っております。つづパイセン』

 

さやか『ちゃんとお弁当用意して、お帰りをお待ちしてますからね』

 

次々と送られてくるメッセージ。だが、綴理メッセージを見ながら笑顔になる。

 

綴理「あったかい」

 

綴理「『ありがと、みんな。みんなのおかげで、夜を越えられそうです』と」

 

綴理「そっか、みんなのおかげ。――入学から、いっぱい写真も撮ったんだ……見返していよう。眠くなるまで」

 

綴理はスマホの【フォト】を開いて高校で撮った写真を見返す。

 

綴理「こず、めぐ、ジュン、さち。ふふ、この時のさち、大変そうな顔してる。ボクはぼーっとしてる。何も考えてないな、きっと」

 

写真をスクロールする。

 

綴理「この辺りから、さやが居る。ということは、かほも居る。…ほら居た。こずとジュンが笑ってる。ボクも、笑ってる……のかなぁ」

 

綴理「ふふ、めぐが張り切ってる。るりが居るからだね。みんなで買い物に行ったりもしたなあ」

 

 

もう少しスクロールすると、1年生が画像に写っていた。

 

綴理「すずだ。さやが去年より、もっと楽しそう。ぎんと、ひめも来た。9人……なんだか部室が狭いな。去年のうちに片づけるべきだった。ねえさや、部室の片づけって――」

 

部屋に、綴理の言葉だけが響く。

 

綴理「――そっか、ボク、今はひとりだった」

 

綴理「静かだ……空っぽの部屋みたいに……」

 

 

 

 

 

―― ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ――

 

梢「まさか、綴理の言葉で思い出すとはね」

 

俺たちは部室の大掃除を行っていた。なんやかんやで去年も一昨年まともにできなかったし、今年も全国まで進んだら忙してく忘れそうだしな。

 

綴理「お片付け?」

 

梢「そう、部室の大掃除。去年はできなかったもの」

 

花帆「淳兄ぃ、これどこに持って行けばいいー?」

 

淳平「いったん隅にまとめておいてくれ。持って帰るもの、捨てるもの、残すもの、あとで仕分けないとだから」

 

姫芽「なんでこの時期に大掃除なんですか〜?」

 

慈「ラブライブ!もあるし。全国大会に行くのなら、こういう雑務をやる暇はなくなるじゃん。去年もそうだったから、11月のうちにやっとこうと思って」

 

梢「なんだかんだ、去年も一昨年も、しっかり掃除をする機会もなかったわね。私たちが一年生の時も、この時期は色々あったから」

 

慈「あれからもう2年!はやいもんだ!」

 

梢「そうね。もう三年生。気付けば卒業間近。綴理も進路調査票を持ってきたことだし、4人揃って卒業することができそうで良かったわ」

 

花帆「むー」

 

吟子「どういう感情」

 

花帆「や、なんだか『卒業』って言葉を聞くたびに、あたしの心のウサギさんがなにか言いたげな目を………!」

 

吟子「なんなんそれ」

 

花帆「うーん……わかんない!」

 

梢「別に、今すぐいなくなるというわけじゃないんだから」

 

吟子「………先輩は、卒業後どうするかは決まってるんですか?」

 

梢「そうね。もちろん、目の前の目標を越えてからの話にはなるけれど、私は進学予定よ。乙宗家の娘として、これからも音楽に携わっていくつもり。現状はそのくらいかしらね」

 

花帆「淳兄ぃは?」

 

淳平「俺も進学。学校の先生になろうかと思って」

 

瑠璃乃「絶対に向いてるよ!!」

 

姫芽「ですね〜。めぐちゃんせんぱいは〜?」

 

慈「そりゃ一私は、決まってるでしょ!世界中を夢中にするよ!それと並行して、ジュンのお嫁さんになるための花嫁修業!」

 

花帆「む〜……」

 

めぐの言葉に2、3年生が「チッ!」と隠そうともしない舌打ち。

 

慈「ちょっと!?」

 

姫芽「でもさすがめぐちゃんせんぱい!とびきりキュートなミラクルスマイル!一生ついていきます!」

 

瑠璃乃「…………………」

 

姫芽「あれ、るりちゃんせんぱい?」

 

瑠璃乃「いや………来年はルリも、ジュン兄ぃや、めぐちゃんみたいにパシっと言える目標にしないとなーって」

 

姫芽「え!?るりめぐは不減なのでは!?」

 

瑠璃乃「気持ちは、同じ。でも、ルリはどう表現しようかなって。まだまだ考えることは多いけど、こずこずパイセンが言ったことを思うとね。時間は止まっちゃくれないんだなーって」

 

慈「なあに、るりちゃんならすぐ分かるよ」

 

淳平「ああ。俺も心配はしてないよ。ルリちゃんなら大丈夫だって」

 

小鈴「さやか先輩は、将来どうしようみたいなのはあるんですか?」

 

さやか「わたしはどちらかというと、目の前のことに精一杯ですからね。でも、わたしたち二年生も何度か進路相談はあったので。それなりに考えてはいるつもりです」

 

さやかちゃんはやっぱりしっかりしてるなぁ……。

 

すると――

 

花帆「『わたしたち二年生も』って言われた!大丈夫だよ。小鈴ちゃん!あたしはまだなんにも考えてないから!」

 

花帆、お前……。

 

さやか「それは大丈夫では、ありませんね……!」

 

小鈴「さやか先輩の目指す先、知りたいです!」

 

さやか「そうですね……でもやっぱり、これまで培った経験を活かせることがしたいですね。大学に進学するかどうかも含めて、しっかり吟味していきたいと思います」

 

小鈴「………………」

 

さやか「小鈴さん?」

 

小鈴「やっぱり………聞かなきゃよかったです!」

 

さやか「ええ!?」

 

吟子「どんな梯子の外し方してるの」

 

小鈴「だって、さやか先輩もどのみち卒業しちゃうんだ  な、って、なんか、変に意識しちゃって。チャレンジ失敗です!」

 

姫芽「うぅ……なんか、なんかすごい、寂しくなってきちゃったんですけど〜!」

 

梢「ふふ。でも、仕方ないわ。スクールアイドルクラブのメンバーは、毎年自分たちにできることを積み上げて……そうして次代に繋いできたから今があるのよ。ね、吟子さん」

 

吟子「そうですね」

 

梢「さ、お話もいいけれど、てきぱきやりましょう。掃除に時間を取られるのも、もったいないことだわ」

 

 

そして掃除を再開するみんな。めぐがあるものに目を留める。

 

慈「つーづりーん」

 

綴理「………………」

 

慈「綴理?」

 

綴理「え、あ、うん、なにかな」

 

慈「こいつどうする?」

 

綴理「こいつ?……………あ、ぺきんだっく。え、どうするって?」

 

慈「綴理が一番可愛がってたじゃん?持って帰るかなって」

 

綴理「持って、帰る………?」

 

さやか「ああ、それはいいかもしれませんね。この子も綴理先輩と一緒なら、嬉しいと思いますよ」

 

綴理「ごめん、待って。待ってほしい」

 

さやか・慈「「?」」

 

綴理「ボクが持って帰るってことは、ここにはもう置かないってこと?」

 

慈「べつに置いといてもいいんだけど。綴理が凄い気に入ってたし、だったら綴理が持って帰った方がいいかなってさ」

 

綴理「どうして………」

 

慈「え、どうして?」

 

綴理「この子もボクもここにいたいのに」

 

綴理が顔を暗くして俯く。

 

綴理「そっか……そういう、ことなんだね。…………ごめん、みんな。――ボク、やっぱり……卒業、したくないっ……………!」

 

綴理「っ…………ごめんっ」

 

――綴理は部室を飛び出して出ていってしまった。

 

小鈴「つ、綴理先輩!」

 

さやか「……………すみません、皆さん」

 

小鈴ちゃんとさやかちゃんは、急いで綴理を追いかける。

 

姫芽「み、みんなで行きますか!?」

 

慈「ここは、さやかちゃんたちに任せよっか」

 

淳平「そうだな。ここは、同じユニットで話させた方が良いかもな」

 

瑠璃乃「めぐちゃん?ジュン兄ぃ?」

 

慈「こういうのは感情だからね、時間が止まってくれるわけじゃない。今は……ジュンの言う通り、あのふたりがいいと思うよ」

 

慈・淳平((綴理…………))

 

 

― つづく ―




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