綴理主催のビッグボイス選手権の後、綴理は1人黄昏れていた。
綴理「旅の終わりだ。お片付け……いや、違うな。ボクの旅は、これから始まるのか………」
綴理「ん?」
綴理が周りを見ると、
小鈴「さあ、すっきりした気持ちでお片付けです!今日中に終わらせましょー!」
瑠璃乃「大変だとは思うけど、頑張ろうねー。今日のことは今日、区切りをつけておこうじゃん」
花帆「そうじゃなくても、年末はこれから大忙しだからね!」
3人が使った音楽堂のお片付けをしていた。
小鈴「おーらい、おーらい……あ、綴理先輩!」
花帆「おつかれさまでーす!」
瑠璃乃「どーもです!」
挨拶してくる3人。綴理も挨拶を返し、
綴理「3人とも、みんなとお片付けの途中?」
小鈴「はいです!みんなも、徒町も、とってもすっきりしたので……明日からは、またいつもの学校生活に戻れるように、今日中に全部お片付けをと!」
花帆「おかげさまで、ありがとうございました」
綴理「そっか………。かほも、言いたいことは言えた?」
花帆「はい。終わってみると、ちょっと……いや、かなり、恥ずかしかったですけど………」
瑠璃乃「いやー、照れちゃいますなあ」
花帆「えー!?瑠璃乃ちゃんはちゃんとしてたじゃんー!あたしたちのほうが、子どものワガママみたいなー!」
小鈴「そうですそうです!や、徒町と花帆先輩を一緒にするのはよくないですけど!」
花帆「そんなことないよ、一緒に瑠璃乃ちゃんと戦おう!」
花帆が小鈴ちゃんに共闘を提案。ルリちゃんは微妙な顔。
瑠璃乃「た、戦う……?でも、綴理先輩にはまた、俯いている誰かの気持ちの底を、救い上げてもらいましたね」
綴理「また?」
瑠璃乃「ありゃ、忘れちったんですか?ルリは、2月のあの日……、スクールアイドルとして大切なことを、教えて貰えたと思ってますよ」
綴理「あ」
綴理は、この2年間で後輩たちに良い影響をたくさん与えていた。
小鈴「徒町も、みんなで頑張ることの楽しさは、綴理先輩から教えてもらいましたよ!」
花帆「あたしもあたしも。梢センパイのトレーニングにへこたれそうになってたとき、内緒でお菓子くれたりして………。センパイってみんな、こんなに優しいんだ!って、感動しちゃいました」
綴理「そっか。そっか」
小鈴「……………」
シュンとする小鈴ちゃん。すると――、
瑠璃乃「あ、ね、花帆ちゃん。あとはお掃除、ルリたちでやっておこーか」
花帆「んー?…………あ!うん!今すっごくお掃除したい気分かも!」
瑠璃乃「ちゅーわけで、小鈴ちゃん。あとは大丈夫だから。ね?」
小鈴「えっ?」
花帆「それじゃあ、また明日ね!」
小鈴「えっ。えっ?」
瑠璃乃「さあ、気張っていこうねー!」
花帆「ふーらわー!」
ルリちゃんと花帆はふたりを残して行ってしまった。話せるようにと気を使ったのだろう。
綴理「……さっきも、思ったけど。ふっ、なんかいいね、みんなが頑張ってるの」
小鈴「あ、はい!そうですね!」
綴理「みんなが、気持ちをひとつにして、頑張ってる。スクールアイドルじゃない子たちも、スクールアイドルみたいだ……………まぶしい」
小鈴「……綴理先輩は、これで前に進めそうですか?」
綴理「……………心配してくれてる?」
小鈴「してます!」
綴理「そっか。ありがと。正直に言うとね、不安はあるよ。怖くもある。卒業どころじゃなく、明日どうなってるかも分からない……それに、気づかされたから」
綴理「でも……すずのおかげで、ボクはもう一つのことにも気づけたよ」
小鈴「え、なんだろ。徒町が、何を」
綴理「ボクも、すずみたいに……目の前のことに、全力になろうって。自分で、自分のために、頑張ってみようって」
綴理の言葉に、小鈴ちゃんは笑顔になり……、
小鈴「そうですかっ。それなら徒町、何でもチャレンジしてきた甲斐がありました!」
綴理「ん」
そこへ――、
さやか「ここに、居たんですね」
綴理「さや」
さやか「まずはお礼を。わたしも……必要な機会をいただけました」
綴理「…………聞いても、いいかな?」
さやか「はい。綴理先輩の思う通りに」
綴理「うん。さっきのさやの気持ちは……本当なんだよね」
さやか「はい。先輩に幸せになってほしい気持ちも、離れたくないわたしの気持ちも、本音です」
綴理の問いに、偽りのない本音だと答えるさやかちゃん。
綴理「…………んありがと」
小鈴「うぅ〜……さやか先輩、だったら…………」
さやか「小鈴さん、ごめんなさい。ご迷惑をおかけしましたね」
小鈴「迷惑ってわけじゃないですけど!でも――」
綴理「ん、大丈夫だよ、すず。ふたりに教えてもらえたことは、ボクにとって必要なことだったんだ。だから、そう。――スクールアイドルでなくなっても、ボクは、ボクだ」
小鈴「はい!」
さやか「たとえ蓮ノ空を卒業したとしても、スクールアイドルでなくなっても」
小鈴「はい!徒町にとって綴理先輩は、スクールアイドルとか関係なく、大好きな先輩です!」
さやか「わたしの好きな、夕霧綴理です!」
そして綴理の心に、一つの区切りがちゃんとついた――。
その夜、寮の前の噴水広場――
慈「……………眠れぬ子羊ちゃんがいるかな?」
淳平「よっ」
綴理「めぐ。と、ジュン。 あのあと……るりとひめは、どうだった?」
慈「あの場所で起きたことは言いっこなしだよ。話自体はするつもりだけどね。綴理が創った場所は、そういうところでしょ」
綴理「そっか……じゃあ、2人は?」
慈・淳平「んー(ん)?」
綴理「ふたりは、るりとひめの気持ちに、どう思った?」
慈「最近の綴理は聞きたがりだねー」
めぐはいたずらっぽく笑い少し意地悪する。
綴理「あ、ごめん」
淳平「めぐのいつものだよ」
慈「ジュン〜?もう。……私は綴理のこともかわいがってるからね。――私は、みんなと一緒にいるのも、悪くないとは思ってるけど。でも、ずっとどこかに縛られてるのは嫌かな」
慈「変わっていく風景を見るのも、変わっていくみんなの姿を見るのも、けっこう好きなんだよね。未来は明るいって、信じてるからさ」
綴理「…………そっか」
慈「ん、そう。……………で、手に持ってるそれは?」
綴理「進路調査票。書いたんだ」
淳平「ついにか」
――綴理、ちゃんと書けたのか。
綴理「…………ねえ、めぐ、ジュン。ボクも、ちゃんと卒業するよ」
淳平「前向きになったか?」
綴理「なった」
淳平「だったら、それがいちばんだ」
慈「しょうがないから卒業しなきゃ、なんて答えは、私も好きじゃないからね。未来は勝ち取るものだよ☆」
めぐはウインクして言う。「未来は勝ち取るもの」そのとおりだ。
――すると、
慈「…………綴理は、振り回されっぱなしだったもんね」
綴理「え?」
慈「この3年間。綴理は言わないけどさ、大変だったでしょ」
慈「スクールアイドルがやりたくて入ってきたのに、梢にラブライブ!だーって引っ張りまわされたり、沙知先輩にDOLLCHESTRAに誘われたり」
綴理「それは、楽しかったよ?」
慈「私が怪我して、沙知先輩に置いてかれて、梢にも気持ちを裏切られて」
綴理「っ……」
2年前の事。綴理には1番辛い時期だったと思う。1年経って、入ってきたのがさやかちゃんであったことが本当に良かった。
慈「ごめんごめん。そんな顔しないでよ。ほら、きょうのビッグポイス選手権、その延長ってことでひとつ。あのときは……手を離しちゃって、ごめんね」
淳平「でも、それでも綴理はくじけず……少しずつ変わっていった。前に向かって、少しずつ。……綴理?」
綴理「卒業したあと、ボクは何をするんだろうって。スクールアイドルだった夕霧綴理に……ただひとりの夕霧綴理にできることは、なんだろうって。…………場所を作るっていうのは、ちょっと思ったけど……さちみたいにできるとは、思えない」
慈「なるほど、なるほどねい。私はちょっと違うと思うよ。綴理の考えてること」
淳平「ん?」
綴理「え?」
慈「沙知先輩が作る場所と、綴理が作る場所はそもそも違う。修学旅行のときにちょろっと話したけどさ。綴理は、沙知先輩にはなれないからね。わかるよ。ずっと見てたから。綴理を大好きなのが、後輩だけだと思うなよー?」
慈「――だから私が言いたいのは、自分でやりたいことができた綴理に。おめでとうってことの方」
綴理「ありがと」
慈「今回のイベント、良かったと思うよ。ほんとにね。綴理、こういうの向いてるんじゃない?オープンキャンパスの時も思ったけど……誰かのための場所を作ってあげる、みたいな」
綴理「ボク、迷ってるんだ。うん。今は、なんとなくわかる」
慈「お、成長したじゃん。私もね、別にならなくてもいいと思うよ。なんていうかな。綴理は、みんなの気持ちを導くのが上手いんだよ」
綴理「そうなのかな。それは、まだなんとなくわからない」
慈「ま、べつにわからなくてもいいんだよ。やりたいことならやればいい、でしょ?それを今日できたばっかりなんだからさ」
綴理「……ボクの、やりたいこと。そっか。どうなるとか、どうするとかじゃないんだね。ボクの未来は、ボクがやりたいことで、決めるのか」
慈「そういうこと」
淳平「綴理や俺たちがあの日、スクールアイドルクラブのドアを叩いたときのように、か?」
俺たち3人の脳裏に、俺たちが沙知先輩1人しかいなかったスクールアイドルクラブに入部を希望し部の門を叩いた時のことが蘇る。
慈「そういう事!」
綴理「だったら――あるよ。やりたいこと。場所を作るとかを考えたのも、そうだけど……ボクは、誰かのきらめきを見るのが、好きなんだ。頑張ろうとしている誰かの、きらめく瞬間を見ること。それが……ボクのやりたいことだ」
慈「……………あはは。あははは!」
綴理「なぜ笑う……」
慈「ごめんごめん、すっごく良いなと思ってさ。あれだけダンスを評価されてきた綴理がやりたいことが、綴理のパフォーマンスを活かすことじゃないんだもん。
綴理「えっと?」
慈「だから。頑張れ」
慈・淳平「「私(俺)たちの親友。夕霧綴理」」
綴理「ん」
俺達3人は、そう言って、これからのお互いに健闘を願う意味を込めて拳を合わせた。
慈「で、実際、調査票にはなんて書いたの?」
綴理「…………秘密」
――数日後、蓮ノ空学院スクールアイドルクラブのライブの会場。
さやか「以上、DOLLCHESTRAでした!」
小鈴「ラブライブ!北陸大会も。蓮ノ空学院スクールアイドルクラブを、宜しくお願いします!」
綴理「みんなありがとねー。楽しかったよー」
DOLLCHESTRAが出番を終えて舞台袖に戻ってくる。
綴理「ふぅ」
淳平「綴理」
綴理「ん?」
淳平「この子が、綴理に言いたいことがあるんだってさ?」
綴理「?」
綴理は、来ていた小学生の女の子に目をやる。
小学生「あ、あの!!」
綴理「ん?」
小学生「あ、い、いまのすっごくかっこよかったです!」
綴理「ん、それは良かった。
小学生「そ、それで!あなたみたいなスクールアイドルには、どうやったらなれますか!?」
綴理「……そうだなあ」
綴理「ボクはね、いつかスクールアイドルの大会で、言われたことがあるんだ。ボクはただの夕霧綴理であって、スクールアイドルじゃないって。今思うと……あれは半分合ってて、半分間違ってたと思うんだ」
綴理は昔の事を話そうとするが……事情を知らないこの子には分からないと思うんだが。
小学生「えっと……………」
綴理「大丈夫、きっとキミはなれるよ、スクールアイドルに」
綴理「なろうと思ったらいつでもなれる。スクールアイドルは、特別なものじゃない。必要なのは、キミのきらめきたい気持ちだけ」
綴理「それさえあれば、この先の未来は、ずっと明るいはずだから――」
― つづく ―