梢と吟子がお風呂から上がったあと、2人はロビーで話していた。
吟子「進捗……よろしくないんですか?」
梢「………ごめんなさい」
責任感の強さから、謝罪する梢。
吟子「いや、謝られるようなことでは!」
梢「………本当は、もっと早くに相談するべきだったの。それなのに、蓮華祭までの貴重な時間を浪費してしまって………」
吟子「な、なかなか難しいですよね!1年間の集大成となると!それに梢先輩はきっと、ラブライブ!が終わったばかりで、疲れてるんですよ!」
吟子ちゃんが梢を励ます。――だが、
梢「もう、ラブライブ!が終わってしばらく経っているのよ……?」
吟子「じゃ、じゃあ!なんというか、こう、気が抜けちゃったんですよ!肩の荷が下りた、みたいな!」
梢「そうね……私のスリーズブーケにかける想いは、その程度だった、ということなのね………」
吟子「いえ、そうではなく!ううう………すみません、なにを言っても余計なことばっかり言いそうで」
何を言っても逆効果になりそうで、吟子は言葉に詰まる。
吟子「でも、どうしてこんなことに……」
梢「………わからないわ。私も、3年間で初めてのことなの…………」
吟子「梢先輩……」
梢「……………もしも、ずっとこのままだったら………」
吟子「そんな」
梢「蓮華祭で、スリーズブーケだけ新曲を披露できない……なんてことになったら、あなたたちに申し訳がないわ」
梢「それなら…………。私があなたたちのサポートに回って、ふたりに曲を作ってもらった方が、確実かもしれないわね………」
梢は後ろ向きな考え方に陥ってしまい、もしもの場合を想定する。
――だが、
吟子「………でも、あの。これも余計なことかもしれませんが…………」
吟子「あくまでも今回の曲は、私、梢先輩に作ってほしいです」
吟子は、あくまでも梢に作って欲しいと気持ちを伝える。
梢「………それは、もうすぐ私が卒業してしまうから?」
吟子「それも、ありますけど………。なにより私、梢先輩の作った曲が、好きなんです。繊細で、どこか儚く、だけど雅やかで……」
吟子「蓮ノ空の伝統となり、100年後も残り続けるのでしたら……梢先輩の曲がいいなって、そう思ったんです」
吟子「ですから……………」
吟子「もちろん!任せっきりというわけではなく、私も、できる限りはなんでもお手伝いします!まだ蓮華祭までは時間があります!最終的に曲ができていれば、いいんですよ!練習時間なんて、どうにかしますから!」
吟子の頼もしい言葉に、梢は胸の奥が温かくなる。
梢「…………そう、そうなのね。ありがとうね、吟子さん。あなたの気持ちは、受け取ったわ」
梢「………………本当は私も、自分の手で作りたいの。スリーズブーケの最後を飾り、私のスクールアイドルとしての幕引きとなる曲だもの。やっぱり……悔いは残したくないから」
梢「吟子さんと、花帆と、3人で歩んできた道のりが、私にとって、どんなに大切な花道だったのかを、ちゃんと伝えたい。言葉も想いも、いつかは忘れてしまうかもしれない。でも、歌は遺り続ける。たとえ50年だって……。そして歌が遺る限り、きっといつまでも、思い出は蘇り続ける。そんな歌を作りたいの。―――あなたたちのために。応援してくれる人のために」
梢「―――そしてなにより………これから蓮ノ空を好きになってくれる人たちのために」
梢「だから、吟子さん」
梢「お願い。もう少しだけ、一緒にもがいてくれる?」
吟子「はい!私でよければ!あ、でも、梢先輩……淳平先輩には相談しましたか?」
梢「いえ、してないわ。最近色々と忙しそうだから……」
吟子「でも、淳平先輩にだけは相談したほうが良いと思います。きっと、力になってくれますよ!1年間見てきましたけど、それだけは確信してますから。淳平先輩は、誰のピンチであろうとも絶対に力になってくれます!」
梢「………そうね。じゃあ、淳にも相談してみるわ。………吟子さんも、ちょっと、無茶に付き合ってくれるかしら?」
吟子「お………お供いたします…………!」
そして、梢は淳平に電話した。
プルルルル! ピッ!
淳平『梢?どうした?』
梢「あっ、淳。実は少し相談に乗って欲しい事があって………」
淳平『相談?』
梢は淳平に相談すると、吟子は隣で聞いて成り行きを見守る。
梢「と、言うわけなの」
淳平『お前なぁ……、なんで早く言わないんだよ。そんなもん協力するに決まってんだろ……』
梢「……ありがとう。淳。それで、ちょっと吟子さんに代わっていいかしら?」
淳平『良いけど。一緒にいるのか?』
梢「ええ」
そして、吟子に代わる梢。
吟子「もしもし。こんばんわ。淳平先輩」
淳平『吟子ちゃん、どうした?』
吟子「梢先輩の事なんですが………」
吟子ちゃんは梢のスランプを脱するために、3人で出かけて気分転換を提案する。俺に声をかけたのは、梢が1番気兼ね無く話せるかららしい。
淳平『まぁ、綴理やめぐはからかいそうだしなぁ……』
吟子「はい」
淳平『分かった。日時は明日で良いのか?』
吟子「お願いします」
淳平『了解。お休み〜』
ピッ!
吟子「ほら、言ったとおりだったでしょ?」
梢「本当に……淳には感謝しか無いわね。―――この3年間を振り返っても……」
そして、2人は別れると梢は花帆の部屋へ。
コンコン。
梢「花帆、入るわね」
花帆「梢センパイ!」
梢「調子はどう?」
花帆「もうすっかりよくなりました!明日からは、練習もできますよ!」
梢「確かに、顔色はいいみたいね。熱も、下がっている」
花帆「はい、おりこうさんにしてましたから!」
梢「そう、偉いわね」
花帆「えへへ。でもこれで、せっちゃんのためにがんばってくれた人たちにも、お礼を伝えることができました。あたしのラブライブ!は今度こそ、めでたしめでたし、です!」
エヘン!と胸を張る花帆。
梢「………1月の花帆は、すごかったものね」
花帆「そうでした?」
梢「ええ。ラブライブ!に優勝できたのも、悔いなくプレーオフを果たすことができたのも、間違いなくあなたの活躍が大きかったわ」
梢「――まるで花帆が、スクールアイドルの神様になってしまうのかと思ったぐらい」
花帆「あたしが神様になったら、とりあえず蓮ノ空の周りにショッピングモールと、デパートと、遊園地と、中華街と、あとおいしいご飯のお店も、いっぱい作りたいですねえ…………」
梢「増えているわね、欲が………。ラブライブ!の後もあんなにがんばっていたんだから、もう少し休んでいてもいいのよ?」
花帆「そういうわけにはいきません!聞きましたよ。104期スリーズブーケの最後の曲を作ろうとしてる、って!」
梢「あら、花帆に言ったら無理をするかもしれないから、って、具合が良くなるまで内緒にしようと思っていたのに」
花帆「もう大丈夫です!なので、いつまでも寝てるわけにはいきません!」
花帆「この2年間、梢センパイとともに過ごした思い出をぜんぶ乗せて、できることなら4時間ぐらいの曲を作りたいんですけど………さすがにそれじゃあ、ライブが1曲で終わっちゃうので………!」
梢「曲は曲でも、戯曲になっちゃうわね………」
花帆「なので、最高のユニット曲を作るために、あたしもできる限りのことがしたいです!」
花帆「かつてこの蓮ノ空学院にいた、乙宗梢という麗しき美女…………その伝説を、いつまでも語り継いでほしいんです、あたしは………」
梢「待って」
梢は花帆を制止する。うっすら冷や汗が流れている。
花帆「彼女の微笑みに生徒たちは心奪われ、歩けば足跡には花が咲き誇り、歌声には世界中の小鳥が集まってきたという………」
梢「やっぱりもう少し休んでいたほうがよさそうね…………」
花帆「こじゅえせんぱぁ〜い」
梢「別に、あなたを仲間外れにしようとしているわけじゃないのよ。ただ、まだ病み上がりでしょう。今は大人しくしていなさい、ね?」
花帆「わかりましたあ」
花帆は少しいじけてしまう。梢苦笑し、
梢「それにね…………。今はちょっと私も調子を崩してて……」
花帆「えっ、そうなんですか?一緒に寝ます!?」
梢「体調ではなくてね。どうも、その……スランプになってしまって。曲作りが、ぜんぜん進まなくて………。ついさっきも、吟子さんに話を聞いてもらったばかりなの。――上級生なのに、情けないわ」
花帆「あたしも、あたしもいつでも話を聞きますよ!」
梢「………そうね。優しい後輩がいて、恵まれているわね、私は」
花帆「スランプって、あの、すごい人がなるやつですよね。梢センパイでもそうなっちゃうこと、あるんですね」
梢「……そうみたいね。私も、ずっと他人事だと思っていたわ」
花帆「でも大変ですね、伝説の曲を作ろうってしてる時期に…………」
花帆「うーん……スランプ……スランプの解消法…………」
花帆「じゃあじゃあ、そっちのほうでもなにかお手伝いできるよう、いろいろと考えてみますね!」
梢「ええ、ありがとう。とりあえずは、ジタバタもがいてみるつもり」
花帆「ってことは、なにか名案が…………!?」
梢「そういうわけではないのだけれど…………明日、私ね。吟子さんと淳とデートしてくることにしたの」
梢の言葉に………、
花帆「えっ………………えええええええ!?」
驚愕と共に、ショックを受ける花帆だった。
― つづく ―
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