翌日、俺は金沢駅鼓門前で梢と吟子ちゃんを待っていた。
しばらく待っていると、2人がやって来た。
梢「ごめんなさい、待ったかしら?」
淳平「いや、今来たとこ」
吟子「お待たせしてすみません……」
2人が待たせたことを謝ってくる。って、言っても時間ピッタリだしな。
淳平「時間ピッタリだから気にすんなよ。俺が早く来ただけだから」
俺が気にしないように二人に言う。
―――さてと、
梢「きょうは、私に1日付き合ってくれる?」
吟子「は、はい!」
淳平「ちゃんとめぐにも許可もらったから大丈夫だ」
梢「………ホントのところは?」
淳平「めちゃくちゃ文句言われた。でも卒業したら2人きりで旅行行くってことで手を打ってくれた」
吟子「慈先輩………」
吟子ちゃんが苦笑する。
吟子「ええと、コンサートと、ライブと、オペラでしたよね?」
気を取り直して、今日行くところを確認する。
梢「ええ。とにかく、外からいろんな刺激をもらおうと思って。ハードなスケジュールだけれど、よろしくね」
淳平「りょ〜かい」
吟子「はい、大丈夫です。それで、あの………えっと…………」
おずおずと声を上げる吟子ちゃん。どうした?
吟子「実は、きょうは、お弁当を作ってきたんです」
梢「あら……吟子さんが?」
吟子「はい。どうにか梢先輩に元気を出してほしいと思い、部のみんなに相談して」
梢「小鈴さんや、姫芽さんかしら」
吟子「あの子たちに言うと、面白がって3回に1回はからかわれてしまうので………………」
淳平「まぁ、さやかちゃんとルリちゃんだろうな」
吟子「そのとおりです……」
梢「仲がいいのね。さすが、蓮ノ小三角」
吟子「そ、そういうんじゃないです。だから、先輩方に聞いてきたんです。そうしたら……………」
さやか『それなら、おいしいごはんを食べるのがいちばんですよ』
瑠璃乃『うんうん!もしあれだったら、お弁当手作りとかしちゃう?』
さやか『素敵ですね。それなら、わたしもお手伝いします』
吟子「って………」
さすがあの2人だな。
吟子「なので、もしご迷惑でなければ」
梢「…………嬉しいわ、吟子さん。あなたのそういう、しっかりと事前に準備をしたり、いろいろと用意をしてくれるところは、本当に頼りになるわね」
吟子「あっ……ありがとうございます。それじゃあ、その………………」
すると―――、
吟子「きょうは吟子お姉ちゃんと一緒に、がんばろうね、梢ちゃん」
淳平(!?)
ブフォッ!
驚いて咳き込んでしまう俺。
吟子「だ、大丈夫ですか?淳平先輩………!」
淳平「だ、大丈夫………」
梢「待って。今のは………」
吟子「ど、どうかしたの?梢ちゃん」
淳平「プッ、クククッ」
梢「そういえばさっき、『先輩方』にアドバイスをもらった、って言ってたかしら」
淳平「あっ、もしかして………」
アイツら…………。
吟子「はい。綴理先輩と慈先輩にも聞いてきました!」
慈『梢を元気づけたい、ねえ〜』
綴理『そういえばこず、前にお姉さんがほしいって言って、るりのこと『瑠璃乃お姉ちゃん』って呼んでた』
慈『いいじゃんそれ☆吟子ちゃんも1日お姉ちゃんになってあげなよ☆』
吟子「って」
本人は真剣に悩んでるのに……うん。帰ったら説教しとこう………。
梢「吟子さん、あなたの好意は嬉しいわ。でも私は大丈夫だから」
吟子「あっ…………慈先輩が、『梢が“大丈夫”って言ったら、それは照れてるだけだから〜☆』って…………」
淳平「はぁ………もっと早くに注意するべきだったかな。吟子ちゃんは、ろくでもない上級生ふたりに、からかわれたんだよ」
吟子「そんな…………。あのおふたりが、そんなことを……?」
梢「するのよ。私相手には」
淳平「するなぁ……」
吟子「ああ……仲いいですもんね。さすが、蓮ノ大三角と太陽」
梢「さてと、この話はここまでにしましょう。コンサートに行く前に、疲弊してしまいそうだわ」
吟子「では、1日お姉ちゃんは?」
梢「しなくていいから!」
そして、まず俺たちはオーケストラのコンサートを聴きに行き、その後近くの公園で、
吟子「すごくきれいな演奏でしたね」
梢「ええ、特にフルートとオーボエの掛け合いが絶妙だったわ。バイオリンのソロも、まるで歌っているみたいで。作曲にも、活かせる部分がありそうね……。ごめんなさい、少しメモを取っていてもいいかしら」
吟子「はい、もちろん」
メモを取る梢。
梢「ふぅ……お待たせしたわね」
吟子「いえ、こちらも準備ができたところです」
梢「まあ………素敵なお弁当だわ」
淳平「ホントだ」
おにぎり、肉じゃが、きんぴらごぼう。
梢「卵焼きに、これは揚げ出し豆腐かしら?」
吟子「はい。梢先輩が、お豆腐が好きだと聞いたので」
梢「これだけ作るのは、大変だったでしょう」
吟子「さやか先輩と瑠璃乃先輩も、手伝ってくれましたから」
吟子「蓮ノ空に来てからは、久しぶりに腕を振るいました。あ、でも昨年末は、おばあちゃんと一緒におせちを作ったんですよ」
吟子ちゃんの作ったお弁当を食べ始め、食べながら3人で話す。
梢「そう……。先生は、お元気?」
吟子「はい!口ではあんまり素直じゃないですけど、7月以来、すっかりスクールアイドルクラブに夢中ですよ」
淳平「嬉しいな」
梢「ええ……………誇らしいわね。……ラブライブ!優勝で、少しは先生に恩返しができたかしら」
吟子「蓮ノ空の名前を、たくさんの人に知ってもらえたと思います!」
そっか。―――そうだな。
淳平「だとしたら蓮華祭はなおさら、みっともないところは見せられないな」
梢「ええ。ちゃんとスランプを乗り越えて、曲を完成させなきゃ…………」
吟子「あっ……………、次はロックバンドのライブでしたね。私も普段、触れることのない文化なので、楽しみです!」
梢「……………そうね。お弁当を味わったら、次へ向かいましょうか」
吟子「はい。物販列に並んで、Tシャツやタオルを買わなきゃですもんね」
ん?
淳平「えっと……吟子ちゃんは、ライブはよく行くのか?」
吟子「いえ、今まで一度も。この日のために、しっかり調べてきました」
梢「そう……………。あなたは本当に真面目で、いい子ね……………」
そして、弁当を食べると、ロックバンドの会場に向かいライブを聴き、その後はオペラを鑑賞。
そして、蓮ノ空への帰りのバス内で、
吟子「きょうは……なんだか、とても素敵な1日でした………」
梢「ライブ、オペラと続けて参加して、疲れたでしょう?」
吟子「いえ……これも、蓮ノ空で梢先輩と出会っていなければ、できなかった経験だと思いますので。帰ったら、花帆先輩に自慢してやりたいぐらいです」
淳平「すごく騒がしくなりそうだな」
吟子「ですよね。花帆先輩、梢先輩のこと大好きだから。ふふっ」
淳平「梢は今日どうだった?」
梢「ええ。私も、きょうはたくさんの刺激がもらえたわ。音楽は様々で、表現も様々……………。そんな当たり前のことを、忘れていたみたい」
吟子「メモもたくさん取ってましたもんね。これだけがんばったんですから、きっと、大丈夫ですよ!」
梢「ええ、そう思うわ。行き詰まっていた迷路に、ようやく光明が見えた気分。あなたたちと一緒に感想を話し合えたことも、大きかったわね。ひとりじゃ気づけないことも、たくさんあったもの。付き合ってくれて、ありがとう」
淳平「ならよかった」
吟子「お役に立てたなら、なによりです!」
梢「そういえば、改めて聞いたことはなかったわね。吟子さんは、これからどうするの?」
あ〜そういえば。
淳平「たしかに。吟子ちゃんはラブライブ! を優勝することが夢だ!って言って、 部に入ってきたしな」
俺と梢が吟子ちゃんを見る。
吟子「あ、そうですね。私は、んー………。先輩とは違って、蓮ノ空と、金沢の伝統文化を世間に知らしめるために、ラブライブ!を目指していたので。活動内容としては、これから先も変わらないかなと、思います」
吟子「むしろ、蓮ノ空に注目してもらっている今が、がんばり時かな、って」
梢「そう」
吟子「梢先輩は、どうですか?ラブライブ!に優勝して、夢を叶えたお気持ちは」
梢「…………もちろん、最高の気分よ。みんなの力でつかみ取った夢だもの」
淳平「ああ………」
吟子「すごいですよね、3年間も挑戦し続けて、そして最後の年に優勝を果たすなんて。本当に、全世界のスクールアイドルの、憧れですよ」
梢「……………そうね。でも、本当に………そうなのかもしれないわね」
淳平(?)
梢の様子が気になったが、その日はもう蓮ノ空の寮の自室に戻る3人だった。
― 梢の部屋 ―
梢「やっぱり、書けない……………」
梢「あんなに素晴らしい音楽をたくさん味わってきて、吟子さんにもあれだけ付き合ってもらったのに…………」
――何日経っても………………。
梢「嫌になるわね………。もう少しで、卒業なのに……。私を救ってくれたあの子たちに、せめて曲を遺したいのに………」
コンコン
梢「?」
梢部屋の扉がノックされた。
梢「……………どうぞ」
花帆「梢センパイ!」
入って来たのは花帆だった。
梢「どうしたの?もう、消灯よ。……吟子さんから話を聞いて、ヤキモチを焼いてきた?」
花帆「じゃないですー!あたしもマジメに考えてきたんです!梢センパイのスランプをどうにかする秘策を!」
花帆「梢センパイ、これからあたしに付き合ってください!」
梢「これから…………って。あなた、体調は?」
花帆「もうばっちりです!梢センパイは作曲で部屋にこもってるから知らないかもですけど、練習だって復帰してますから!」
梢「だったら、いいけれど………。でも、なにをするの?」
花帆「ここ最近はずーっと忙しかったですよね。竜胆祭とラブライブ!予選から始まって、ビッグボイス選手権、慈センパイの激闘、北陸大会に、ラブライブ!決勝大会………………」
梢「え、ええ、そうね」
花帆「そして来月には、蓮華祭!104期スリーズブーケ集大成の曲も作らなくっちゃいけないですし、ずーーっと気を抜けない日々です」
花帆「こんなの、いくら梢センパイでも、疲れちゃうに決まってます!」
梢「そ、そうかしら………?」
花帆「はい。あたしは知ってますから。梢センパイは人より少しがんばり屋さんなだけで、スーパーマンでもなんでもなくて。あたしたちと変わらないんだって。――なので、行きましょう!」
梢「行くって、どこに?」
花帆「今夜は、センパイの背負ってる荷物、ぜーんぶ置き去りにしちゃって。あたしと、駆け落ちしましょう!」
梢「か、駆け落ち………?」
― つづく ―
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