蓮ノ空スクールアイドル録   作:松兄

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第136話:花帆・梢・淳平 夜の逃避行

花帆が梢の部屋を訪れ、謎の駆け落ち宣言をした数十分後………。

 

花帆「〜〜♪」

 

鼻歌を歌う花帆。現在、もう寮の消灯時間も過ぎているにもかかわらず、外に出ていた。

 

梢「ねえ、花帆…………………本当に?ここはもう、蓮ノ空の敷地外よ。外出届だって、出していないのに……………」

 

花帆と梢は、夜の町に繰り出していた。のだが―――

 

梢「淳まで………」

 

淳平「花帆から連絡もらってな。無茶するなよとは思ったけど、まあボディーガード役だ」

 

夜の街は危険があるかもだからな。

 

花帆「もしバレたら、怒られちゃいますね」

 

梢「私、こんなことをしている場合じゃ…………。ごめんなさい、花帆。帰って、曲を作らなくっちゃいけないの」

 

梢は花帆を引き留めて帰ろうとする。

 

梢「作らなきゃ、間に合わないのよ。ぜったいにいいものを作るって、決めたんだから…………」

 

花帆「……センパイ。今夜だけ、今夜だけでいいんです」

 

花帆「ラブライブ!の決勝大会前。あたしは梢センパイのことを信じて、みんなの練習に参加してきました。だから……今度は梢センパイも、花帆のこと、信じてくれませんか?」

 

梢「……………」

 

何も言えなくなる梢。

 

花帆「お願いします。今夜だけ」

 

梢「………わかったわ、花帆」

 

最終的に、折れた梢。

 

花帆「えへへ、やったぁ!実はあたし、1度やってみたかったんです。大好きなセンパイたちと、夜の逃避行……………!」

 

花帆「脱走ですよ!夢の脱走!」

 

淳平「なんだか花帆の願いを叶えるイベントになってないか……?」

 

花帆「ち、違うよぉ!あたしはあくまでも、梢センパイのことをしっかりと考えて!根詰めるだけじゃ、いいものはできないってぇ!」

 

梢「その言葉自体は、一理あると思うけれど」

 

花帆「でもでもあたしもお、ラブライブ!優勝のためにぃ、いっぱいがんばりましたしい〜」

 

梢「まったくもう………」

 

淳平「ったく………」

 

 

俺と梢が二人して苦笑する。

 

梢「………………ふふっ、それじゃあ、104期スリーズブーケ最後の曲を作るために、3人で、少しだけ悪いことをしましょうか」

 

花帆「……はいっ!」

 

淳平「仰せのままに。お嬢様方……」

 

 

 

そしてやってきたのは、金沢駅前。

 

梢「………こういうゆったりとした時間は、なんだか久しぶりだわ。ここ最近、ずっと、もがいてばっかりだったから」

 

花帆「それはよかったです。駆け落ちって、いいものですね!」

 

淳平「それはちょっと違うと思うけど………」

 

梢「そういえば、あなたに初めて会ったときも、驚かされたわね。髪や制服に葉っぱをつけた一年生が、森の中から転がり出てきたんだから」

 

花帆「しかもそのあと、カワウソちゃんを見て、足に力が入らなくなって…………」

 

梢「そこに追いかけてきた淳が合流して、少し話してから一緒に私と綴理の勧誘のライブを見に来てくれたのよね」

 

花帆「あたしもびっくりしました。上級生ってこんなにオトナなんだー!って」

 

梢「今のあなたは、あの頃の私より、もう1才近く年上なのよ」

 

花帆「ええ〜………?ますますびっくりですね………!」

 

淳平「そうだな………」

 

 

俺達が出会いを思い出して懐かしむ。

 

梢「ふふっ………いろんなことがあったわね」

 

花帆「…………ですねえ」

 

―――すると、

 

花帆「この際だから聞いちゃうんですけど。梢センパイは、最初あたしをマネージャーに誘ってくれましたけど、どうして『スクールアイドル一緒にやろう』って、言ってくれなかったんですか?」

 

梢「それはきっと、あなた自身に選んでほしかったから、かしらね。初めて見たとき、あなたは眩しくて………。今思えば、私が憧れたスクールアイドルに、どこか似た雰囲気を感じたの」

 

梢「だから、あなたとユニットを組めれば、ラブライブ!優勝を目指せるような気がした。けれど、そのためだけに新入生を勧誘するのは、あまり気が進まなくて………。中途半端だったのよ。ぜったいに優勝してみせるって、決意していたはずだったのに」

 

梢の自虐じみた発言。――だが、

 

花帆「―――違いますよ。梢センパイのそれは、優しさっていうんですよ」

 

花帆の考えは違った。

 

花帆「スクールアイドルが大好きだから、その人にもめいっぱい楽しんでほしい、っていう」

 

梢「………花帆に言われると、なんだか本当にそうだったような気がしてくるわね」

 

花帆「へへへっ」

 

ほんと、あの頃と比べると大人になったな……

 

そして、しばらく花帆の案内で歩いていると、

 

花帆「どうですか、梢センパイ。ドキドキしてきました?」

 

梢「学校から、ずいぶん離れてしまったものね」

 

花帆「ふふふ。あたしもドキドキしてます」

 

淳平「どこか目的地に向かってるみたいだけど」

 

梢「いったい、どこに向かっているのかしら」

 

花帆「まだナイショです」

 

花帆「この脱走は、あたしと梢センパイの2年間を振り返る旅でもあるんですよ。ほら、見てください、あの公園」

 

その道すがら、俺達がやってきたのは、

 

花帆「ステージから落ちそうになったあたしを、梢センパイがかばってくれたときの公園です」

 

淳平「あ〜、覚えてる。その前夜にオーバーワークしてる花帆を止めて言われた言葉が腹立って引っ叩いたんだよな……ごめん」

 

花帆「いや、あれはアタシが悪かったし……そもそも淳兄ぃは慈先輩の事があったから止めてくれてたんだよね。それなのに……」

 

ちゃんと伝わってるようで良かった。

 

梢「………懐かしいわね。でも、私にとっても花帆にとっても、あまり振り返りたい思い出では、ないんじゃないかしら」

 

花帆「それは確かにそうですね…………。チョイスを間違ったかもしれません…………」

 

梢「ま、まあ、広い目で見れば、私と花帆が本当の意味でスリーズブーケになれたきっかけの出来事、かしらね。オーバーワークの危険性もちゃんと理解できた出来事だものね」

 

花帆「あたしがスクールアイドルノートを見て、大倉庫に向かって…………。あのあとすぐに、梢センパイが『日野下さん』から『花帆さん』と呼んでくれるようになったんですよね」

 

梢「そうだったわね、"花帆さん"」

 

花帆「懐かしい感じがします!」

 

梢「日野下さん、なんて、もう遠い昔みたい」

 

花帆「そういえば、梢センパイが卒業した後は、あたしはなんて呼べばいいんでしょう……?もう蓮ノ空のセンパイではなくなるわけですし…………」

 

梢「好きに呼んでくれて構わないのよ?」

 

花帆「梢さん!」

 

梢「ええ」

 

花帆「梢ちゃん!」

 

梢「ちょっと、くすぐったいわね」

 

花帆「梢!」

 

梢「意外なところが来たわね」

 

花帆「こずたん」

 

淳平「プッ……」

 

こずたん……

 

梢「それはやめて」

 

花帆「うーん……やっぱり、梢センパイは梢センパイです!卒業しても、スクールアイドルと人生のセンパイであることは、間違いありませんからね」

 

花帆「梢センパイにも、淳兄ぃにも、本当にたくさんのことを教えてもらいましたから!」

 

花帆「あたし、梢センパイが作る伝説のスリーズブーケの曲も、楽しみです!」

 

梢「……………そうね。がんばらなくちゃ、いけないわね」

 

花帆「そのためにも!あっ、ほら、梢センパイ、バスが出ますよ。乗りましょう、乗りましょう!」

 

梢「はいはい。今夜の私は、花帆のものだものね」

 

花帆「そうですよ!花帆の時間です!」

 

そして、バスに乗って金沢駅まで戻ってきた。

 

花帆「見てください。戻って来ました!」

 

梢「もうこんなところまで来たのね。なんだか、あっという間だった気がするわ」

 

淳平「ずっと喋ってるもんな」

 

梢「いろんなことがあった2年間を、今夜だけで振り返るのは、難しいわね」

 

花帆「だったら毎晩、脱走しますか!?」

 

おいおい……。

 

梢「それは、ちょっと。お話なら、部屋でもできるでしょう。夜の散歩は心地よいけれど、さすがにいつかは見つかっちゃうわ」

 

花帆「そっかぁ、そうですよねえ」

 

花帆「このまま時間が止まればいいのに………なんて言ったら、梢センパイに笑われちゃいますかね。『だめに決まっているでしょう。帰って曲を作らなくっちゃいけないんだから』………って!」

 

梢「……………それも、いいかもしれないわね」

 

そして、俺達3人は駅に止まっていたタクシーに乗って移動する。料金は俺が全額払っておいた。

 

花帆「というわけで―――、タクシーに乗って、到着です!」

 

花帆「そろそろ夜が明けちゃいそうですね、センパイ!」

 

花帆「あたしと梢センパイの思い出の場所と言ったら、やっぱりここですよね!」

 

梢「ここは………」

 

花帆「去年、スクールアイドルクラブのみんなと一緒に、ラブライブ!優勝を誓った、この場所です!」

 

やって来たのは、俺たち蓮ノ空にとって思い出深い場所、卯辰山公園だった。

 

花帆「梢センパイがあたしのことを認めて、花帆って呼んでくれたの……すっごく、嬉しかったんですからね。あたしにとっては、とても大切な、思い出の場所です」

 

花帆「梢センパイにとってもそうだったら、いいな」

 

梢「………もちろん、大切な場所よ。だって、私の夢はラブライブ!優勝で……そのためだけに、ずっと、ずっと、走り続けてきて………そして、私は……その先は………」

 

花帆「ね、梢センパイ。梢センパイが夢を追いかけるまっすぐな気持ちに、あたしはずっと憧れてました。こんな風に花咲きたいって、あたしも思ったんです」

 

花帆「スクールアイドルをする梢センパイの姿はいつでもキラキラしてて…………。すごく、きれいで……」

 

花帆「梢センパイは優しいから、きっといろんなことを考えすぎちゃったんです」

 

花帆「だから――、いったんぜんぶ忘れて、梢センパイが本当に好きな歌を作ってください!」

 

花帆「そうしたら、今回だって、きっと大丈夫ですよ!スクールアイドルに燃える梢センパイは、夢を追いかけるセンパイは、いつだって花帆の憧れですから!」

 

花帆「この、3人だけの夜が明けたら――。――次は、どんな夢を見ましょうか?」

 

花帆の言葉に、梢は優しい顔になり、何かが腑に落ちた様な顔をする。

 

梢「ああ………そうだったのね。だから、私は曲が書けなくなったんだわ………。だって、私の夢は………もう……………」

 

花帆「梢センパイ?」

 

梢「今夜は楽しかったわ、花帆。本当に、素敵な夜だった。だから、そろそろ帰りましょう」

 

梢「――私たちの………蓮ノ空に」

 

 

― つづく ―




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