梢が部室へと向かっている頃、その部室では花帆と吟子ちゃんが2人で曲を作っていた。
花帆「だから、もうちょっとハッピーな感じに………!」
吟子「具体的に言ってくれないと、わかんないよ!」
花帆「梢センパイなら、これで伝わるのに〜!」
吟子「その梢先輩に戻ってきてもらうために、私たちでたたき台を作ろうとしてるんでしょー!」
それぞれ感覚派寄りの花帆と理論派寄りの吟子なので、言ってることが理解できなかったり合わなかったりと難航していた。
―――そこへ、
梢「ふたりとも」
梢が戻ってきた。
吟子「あっ」
花帆「こ、梢センパイ!」
2人が梢に駆け寄る。と、
梢「ごめんなさい!」
梢は2人に頭を下げた。
花帆&吟子「「えっ……」」
梢「さっきは、情けないことを言ってしまって………、先輩として、あまりにも無責任だったわね……………」
梢は2人に謝罪すると、自分の中にあり、さっき自分も気づいた本心を話す。
梢「……私ね、ラブライブ!を優勝した先のことを、なにも考えていなかったの。おかしいでしょう?まだ高校三年生なのに、もうなにもかも終わってしまったような気でいたなんて」
吟子・花帆「「…………」」
2人は黙って梢の言葉に耳を傾ける。
梢「でも、本当に……他にやりたいことが、思いつかなくて。そのためだけに、生きてきたから………。だから、曲が作れなくなった。そうじゃないかって…………」
吟子「梢先輩……」
梢「―――でもね」
『でもね』。この台詞に2人梢の顔を見る。
梢「私自身、忘れていたの。花帆に言った言葉」
花帆「あたしに………?」
梢「ええ。花帆がスクールアイドルクラブに新一年生として入ってきて、初めて私たちがスリーズブーケになれたあの時、『最高のライブができたのなら、次はそれを上回るライブをしなければならない』そう、言ったわね」
梢「だから、ラブライブ!を超えるステージを、これから何度でも築いてゆく。それが私の、新しい夢」
花帆「梢センパイ………。そんなの……大変じゃないですか!?」
梢「そうね、きっとすごく大変だわ。今度は何年かかるか、わからない。また何度も、くじけるかもしれない。それでも……やってみたいの」
梢「私は、自分のことがあまり好きではなかったわ。人と自分を比べて、劣っている部分ばかりを見てしまっていた。できないのは自分の努力が足りないからだと、そう自分を叱ってばかりいた」
梢「これから先も、きっと、変われない。この気質は、性分だから」
梢「―――だけどね。ラブライブ!を優勝して、立ち止まって、振り返ったその道は…………よくこんなに長い道のりを歩いてきたものだと、自分を、褒めてあげてもいいかなって、思えたの」
梢「そこで、ようやくわかったわ。私は夢を叶えるために努力した自分のことを、好きになれたんだ、って。だからきっと、これからも夢を追いかけてゆくわ。私に胸を張れるような私で――いたいから」
梢「あなたたちの、おかげだわ」
梢のその言葉に2人は嬉し涙を流す。
花帆「よかったですね、梢センパイ。本当に………」
吟子「花帆先輩…………?」
花帆「あ、ううん。なんでもないよ!大丈夫!」
花帆「必ず、いい曲を作りましょうね!」
梢「ええ、104期スリーズブーケ、最後の曲を」
吟子「――そして、きっと。梢先輩の新しい夢へと続く、最初の曲………ですね」
花帆「また梢センパイがスランプになったら、いつでもあたしが手を取って、駆け落ちしちゃいますからね!」
梢「もう、大丈夫よ花帆。だから、ありがとう」
2人に改めてお礼を言うと、梢は『目指せラブライブ!優勝!』と書かれた部室に飾ってある横断幕を指差し、
梢「ねえ、ふたりとも、外すのを手伝ってくれる?みんなで、向かいましょう。次の、夢へ―――!」
― 翌日 ―
梢「そう言ったばかりなのに………今度は私が体調を崩すなんて………。くしゅん……………っ」
花帆「わわわわわ、梢センパイ〜…………」
吟子「二月の卯辰山で夜を明かしたら、そりゃ風邪引きますって………」
そう。梢はあの夜の駆け落ちが祟ったのか、風邪を引いてしまった。
花帆「あたしの風邪がうつったんじゃ………!梢センパイ、あたしにまたうつしたら治りますか!?」
吟子「そんなの迷信だから!」
梢「うう、ごめんなさいね……。またあなたたちに心配をかけて…………。だんだん、自分が許せなくなってきたわ………」
花帆「ああっ、梢センパイがまた!」
吟子「また!?風邪ぐらい誰でも引きますよ!」
吟子「ていうか、おふたりが夜中に出かけてたのをごまかしたの、私なんですからね………」
梢「うう、それもごめんなさい………」
吟子「もう卒業間近なのに………ようやくわかってきました、梢先輩のこと」
花帆「どういうところ?」
吟子「なんか……けっこう、めんどくさいところあるんだな、って」
梢「う」
梢センパイの心に
花帆「それ吟子ちゃんが言う!?」
吟子「私は自覚してますけど!花帆先輩だってそういうとこありますからね!?」
梢「……大丈夫よ、少し休んだら、すぐにまた作業に戻るから………」
吟子「だめですよ。休むときはちゃんと休まなくっちゃ。ただの風邪もお年寄りには万病の始まりなんですから」
梢「お年寄り…………」
梢センパイが微妙な顔をする。
花帆「あはは。それじゃあさ、吟子ちゃん。ここで曲作りしない?」
吟子「そうですね。見張りながら作業しましょう」
花帆「梢センパイ、おなかすいたら、いつでも言ってくださいね〜?花帆がりんご剥きますから、りんご」
吟子「え?花帆先輩できるの?」
花帆「ウサギの形に剥けるよ!それだけはいっぱい練習したから!」
吟子「ふ〜ん」
花帆「あ、信じてない!今から購買部でりんご買ってくるからね!」
吟子「もう開いてないし、いくらなんでもリンゴなんか売ってないでしょ…………」
―――すると、
慈「梢〜、風邪引いたんだって〜?」
淳平「お見舞いに来たぞ〜」
瑠璃乃「二人とも〜、病人がいるのに騒がしい気が……」
花帆「わ、慈センパイ、瑠璃乃ちゃん、淳兄ぃ」
吟子「他にも、まだ誰か…………」
綴理「こず、さや連れてきたよ。食べたいものがあったら、言ってね」
さやか「お応えできないリクエストもあるとは思いますが…………。なるべく、がんばります!」
姫芽「めぐちゃんせんぱい、るりちゃんせんぱい〜。頼まれたお見舞いの品、買ってきましたよ〜」
小鈴「たまたま街にいたので、よかったです!って、わぁ、人いっぱい!?」
吟子「あ、りんご」
花帆「姫芽ちゃんナイスだよ!」
姫芽「えへへ〜!アタシやりましたぁ〜?」
慈「いや頼んだの私だけど!」
小鈴「徒町からは、特上のラムネを差し上げます!」
瑠璃乃「ラムネに上物とかあるんだ……」
なんだか騒がしくなってくる室内。
花帆「さやかちゃん、ナイフ貸して!」
さやか「え、ええ?あの………わたしが、剥きますよ…………?」
花帆「できるってば〜!」
そんな様子を、梢は優しい顔で見ていた。
綴理「こず?」
淳平「梢?」
梢「まったくもう………。騒がしい道のりだったわね」
梢「―――本当に」
― つづく ―
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