第140話:最後の思い出(序章)
季節は3月に入った。あと15日経てば、俺たちは蓮ノ空から去る事になる。
今は3年生で残される花帆たちに曲のプレゼントを作るために4人で話していた。
そして、今は蓮ノ空の校門前にいた。
淳平「そこはもうちょっと歌詞をこだわりたい気がするな」
梢「…………現状、確かに繋ぎにしかなっていないわね。蓮華祭までに……胸を張れる曲にしないと」
俺と梢が話しながら歩き、めぐがその後ろから付いてくる。
慈「綴理?」
見ると、綴理が足を止めて桜の木を見ていた。
淳平「桜だ」
綴理「四度目の……………桜」
慈「そうだね。去年は沙知先輩が見た桜」
梢「……………どう?さんにんとも」
梢が俺たちに聞いてくる。
梢「あの人は、自分がこの3年間で何ができたのか………そんなことを疑問に思っていたようだけれど。同じ四度目の桜を見て、あなたたちはどう思ったかしら」
慈「そりゃ、後悔しようと思えばいくらでもできるけどね。でも――何ができたかって考えたら、いくらでも出てくるよ」
綴理「うん。だから、最後までできることをしよう。みんなのために……スクールアイドルクラブのために」
淳平「でも、沙知先輩もあんなこと言って、八重咲ステージプレゼント!とかやっちゃう人だしな〜……俺たちも負けてられないな」
梢「そうね。ええ、本当にその通りだわ。あの子たちが、憂いなくこの先に進めるように、私たちの精一杯を」
俺たち4人がコクリと頷き合う。
綴理「憂い………といえば、こず」
梢「な、なに。憂いと言えば、で連想されると凄く怖いのだけれど」
綴理「さやに、部長やってもらうんだって?」
梢「そうね。淳と相談しててね。私もそれがいいと思ったのだけれど。さやかさんには『少し考えさせてください』と言われたわ」
慈「めっちゃプレッシャー感じちゃってるとかじゃないの?」
梢「大丈夫。目算があるように見えたわ」
綴理「今のこずの大丈夫は信じられる」
慈「そ。ならいいか。は一、部長ひとつとっても、来年のスクールアイドルクラブはどうなるんだろうねー」
淳平「そうだな。おれたち自身も憂いなく、それを楽しみにするためにも。梢、綴理、めぐ。みんなに最後の贈り物。頑張ろう!」
慈「よし、綴理。まだまだ相談するよ。さっきの続きなんだけど―――」
綴理「うん。あそこはフレーズにも余裕があるから、別の気持ちを探して―――」
淳平(この景色も、あと少しで見れなくなるのか………)
― 部室 ―
さやか「瑠璃乃さん、そちらのページはどうですか?」
瑠璃乃「うん、良い感じ!あはは、このめぐちゃんとかめっちゃばたばたしてる。誰が撮ったのこんなの!」
花帆「あ、それあたし!ゆのくに天祥さんで撮った写真だね。あの時みんなで食べた国産牛、おいしかったなぁ〜」
さやか「ふふ。先輩方のためのアルバムのはずなのに……こうしていると、わたしたちまで楽しいですね」
花帆「そりゃあ、あたしたちのセンパイがたくさん映った記録なんだから!もちろん、楽しむだけじゃなくて、センパイたちが喜んでくれるアルバムにするけどね!」
瑠璃乃「じゃあ……めぐちゃんの写真は、もっと可愛く写ってるやつにしてあげたいな……。ジュン兄ぃのもカッコいいやつ無い?」
花帆「えー!……これはこれで、慈センパイ可愛いと思うんだけど。淳兄ぃはこれなんかどう?」
さやか「入れる写真を選ばないと、この分厚いアルバムも一瞬で埋まってしまいますから」
花帆「どうしようさやかちゃん!梢センパイの写真、全部素敵だよ!このへん全部入れられないかな!」
さやか「同じ月のFes×LIVEの写真だけで、アルバムが埋まっても構わないなら……………」
花帆「それは確かにまずいよ!吟子ちゃんに鼻で笑われちゃうよ!」
瑠璃乃「吟子ちゃんそういうことしないんじゃない!?」
花帆と瑠璃乃がコントを繰り広げているお、
瑠璃乃「えーと?一年生も、三年生のために何か作ってるんだっけ?」
さやか「はい。これまでの三年生の先輩方の軌跡を、ひとつの映像作品にするみたいですよ。小鈴さん、自分の経験を活かす出し物を思いつくことができて、大変立派です」
夏に、小鈴の友達の雪花ちゃんに向けてのスクールアイドルの映画を撮った事を思い起こして得意げな顔になるさやか。
瑠璃乃「さやかちゃんの顔が保護者のそれに……」
花帆「映像作品……………!映画みたいで、Fes×REC:LIVEみたいなってこと!?うわー、アルバムは写真だよー!動かないよー!負けちゃうよー!」
瑠璃乃「喜んでもらうためのプレゼントに、負けるとか勝つとかなくない………!?」
さやか「まあまあ。写真には写真の良いところがありますから。ライブの写真、日常の写真、練習風景。そうした写真は、映像よりも鮮明にその時のその人だけの記憶を引き出してくれるものだと、わたしは思います」
さやか「わたしも、フィギュアの試合など、よくビデオに撮ってもらっていたんですが、なぜだか、写真を見たときの方が、思い出せるんですよね。悔しかったことも、楽しかったことも」
さやか「ですから、写真にしか残っていないもの、その写真から思い出を振り返ることができるものを、きちんと選んでいきまし ょう」
花帆「写真から、あんなことがあったねって笑えるような……思い出が浮かぶような………。難しいなあ…………!」
瑠璃乃「やー、写真選びにも気合が入りますなー。これだけの中から、厳選しなきゃいけないんだもんねー」
さやか「ふふ、そうですね。改めて、一枚一枚検討していきましょう。先輩方が、卒業後も蓮ノ空を振り返って、笑ってくれるような写真を」
花帆は頭を抱えて唸る。するとハッと思いついたように顔を上げ、
花帆「あたしは誰も笑顔にできない」
瑠璃乃「なんでそこまで行っちゃったの!?」
花帆「選ぼうとすればするほど、これは本当に大事な思い出なんですか、笑ってくれる想い出なんですか、そもそも思い出ってなんですか………って頭の中で暗いさやかちゃんがささやくの……」
さやか「しっかりしてください!わたしそんなこと言いませんよ!」
花帆「だって!これもこれもこれも本当に梢先輩は本当に嬉しいんですか!?」
さやか「わたしの台詞みたいに言わないでくれませんか!?」
ヒートアップするさやかのツッコミ。
瑠璃乃「優勝旗掲げてそんな子供みたいな笑顔の梢先輩が嬉しくないはずないでしょ!?」
花帆「そ、そうかな、ほんとにそうかな!?」
さやか「子供の頃からの夢が叶った瞬間ですよ!?他全部無くてもそれだけは入るでしょう!!」
バタバタする2年生。するとそこへ―――、
ガチャ!
吟子「お疲れ様です………なんかばたばたしてる!?」
1年生が入って来た。
姫芽「わあ、楽しそうですね〜」
瑠璃乃「楽しいかな!?いや、むしろ楽しくなくてどうしようって話なんだけど!」
さやか「…………こほん、失礼しました。小鈴さんたちは、調子はどうですか?」
小鈴「はい!吟子ちゃん、姫芽ちゃんのおかげで、すっごく良い感じです!きっと、先輩たちをべしょべしょに泣かせることができるって姫芽ちゃんが!」
姫芽「はい〜。べしょべしょにさせてやりますよ〜」
瑠璃乃「すげー自信……………」
花帆「わーん、やっぱり一年生に負けるー!」
姫芽「え?いや、二年生の先輩方をべしょべしょにするつもりはないんですけど〜」
吟子「花帆先輩は何があったんですか?」
さやか「一年生や三年生が色々準備をしているように、わたしたちも卒業アルバムを作ろうとしていたのですが………」
花帆「全然足りないんだよ!!」
吟子「なるほど………行き詰まってるってことね」
察した吟子。
小鈴「だ、大丈夫ですよ花帆先輩!徒町だって今日、たっくさん失敗しましたから!」
花帆「小鈴ちゃん………うう、ありがとね………」
さやか「確かに。今日だけで全部やる必要はありません。一度持ち帰って、明日からまた頑張りましょうか」
姫芽「一度寝るとすっきりして、気づかなかったことに気づけたりしますしね〜」
小鈴「そう!まだ全然時間あります!諦めずに最後までチャレンジです!」
花帆「そうだね……明日出さなきゃいけないわけじゃ……ん?」
吟子「花帆先輩?」
花帆「そうだよ!気づいた!」
姫芽「寝てないのに!?」
花帆「まだ時間はあるんだ!だったら、これからたくさん思い出作ろうよ!」
さやか「今からですか!?」
花帆「うん!よく考えてみたら、センパイたちと一緒にいられる時間も残り少ないんだから、部室にこもってバラバラに作業するなんて、もったいないって思わない!?」
瑠璃乃「それはその………めぐちゃんたちもめぐちゃんたちで、蓮華祭のために色々準備してくれてるからだとルリ思うけど……」
花帆「あっ……そっか。やっぱり邪魔しないほうがいいかな……?」
瑠璃乃の言葉に考え直して引く花帆。以前なら「でもでも!」となっていたはずなので成長である。
――すると、
さやか「いえ、決して悪くない案だとは思いますよ」
吟子「さやか先輩?一応、花帆先輩の懸念は珍しく真っ当ですけど」
花帆「珍しくってなに!?」
ショックを受ける花帆。
さやか「先輩方の邪魔はできない、というのは分かります。でも、せっかくの卒業アルバムなら、素敵な一枚を撮るために今から思い出作りをするというのは、それはそれで先輩方にとっても嬉しいことなのではないでしょうか」
小鈴「う〜。最後の思い出作りって聞くと、ちょっと寂しい気持ちもする徒町です……………」
姫芽「でもでも、そう思っているからこそエモい感じに過ごせる時間になるかもですね〜」
さやか「はい。花帆さん、大事なのは先輩方の気持ちでは?」
花帆「そっか。…………………うん。さやかちゃんが言ってくれたみたいに、あたしも、何度でも振り返って『楽しかったなあ』って思い出せるような写真、もっともっとほしい!」
花帆「卒業するセンパイたちのために、最高のアルバムを作りたいから……センパイたちに聞いてくるよ!!」
さやか「はい、いってらっしゃい」
そして、部室を飛び出していく花帆。
瑠璃乃「……………いや、うん。確かにめぐちゃんたち三年生の気持ち次第」
さやか「いえ……あれも結局、花帆さんのアイディアありきですよ。振り返ってみれば、ああいう花帆さんに、いつも引っ張られてきましたね」
瑠璃乃「あはは。いつも花帆ちゃんはぴかぴかだねえ」
1年生と2年生が笑っている中、花帆は3年生を見つけて部室に連れてきた。
花帆「だから、どうですか!センパイ!あたし……センパイたちと、最後の思い出作りたいんです!」
花帆「センパイたちが……卒業したあとも、学校生活は最後まで楽しかったなって、いつでも思い出せるように!」
梢「そ、そんなに意気込まなくても。十分楽しかったに決まっているでしょう?」
花帆「まだです!ダメ押しです!」
淳平「ええ……」
慈「まあまあ。いいんじゃない?私たちが準備してることにとっても、必要なことかもよ?」
梢「それは……そうかもしれないけれど。じゃあ花帆、なにをするのかしら?」
花帆「えっと…………。うん。それはやっぱり、センパイたちのやりたいことを聞きたいです!」
綴理「やりたいことかあ」
花帆「なんでもいいんです!普段行かないところに行ったり、もともと見たかったものを見に行ったり、むしろいつも通りのことをしたり!そういう思い出を、写真に残しましょう!」
綴理「ん……じゃあ、ボクはあるよ。やりたいこと」
花帆「わぁ!さすが綴理センパイ!」
綴理「ジュンもめぐもこずも、あるでしょ?」
慈「そりゃーねー」
淳平「まあな」
綴理「おー」
慈「作ってる曲のためじゃない……最後にみんなとやりたいこと。え、でもちょっと待って。1個に絞れないかも!」
綴理「ぜんぶやろう」
慈「それ私たちで勝手に決めていいの!?まあ、いいか!ぜんぶやろ!」
花帆「梢センパイと淳兄ぃは……あたしたちと一緒にやりたいこと、ありますか!?」
梢「急にそんなことを言われたら……たくさん思い浮かぶから、困ってしまうわ」
花帆「じゃあ……………!」
淳平「そうだな。撮りに行くか、最後の思い出を――」
梢「あなたたちと、一緒に――!」
― つづく ―
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