蓮ノ空スクールアイドル録   作:松兄

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第145話:離れたくない

あのあと、生徒たちもほとんどが寮へと帰り、完全下校時刻が近づく中、さやかは部室の鍵を閉めに来ていた。

 

――だが、

 

さやか「あれ?まだ、誰か居る………?」

 

部室から明かりが漏れ、中に人影があった。

 

そこへ―――。

 

瑠璃乃「さやかちゃーん。花帆ちゃん知らない?」

 

瑠璃乃がやってきた。

 

さやか「花帆さんですか?いえ……どうしました?」

 

瑠璃乃「いや〜、アルバムを少し編集し直してたんだけどさ?追加で欲しいな。ってやつがなくて、花帆ちゃんのとこ混じってるかなーって。ほら、花帆ちゃん確かまだアルバム作ってたでしょ?」

 

さやか「そうでしたね。というか、ふたりともなんでまだ終わってないんですか!蓮華祭ぎりぎりになっちゃいますよ!」

 

瑠璃乃「あはは………」

 

苦笑いする瑠璃乃だが、部室の明かりと人影に気付いた。

 

瑠璃乃「あぁ、あれ花帆ちゃんじゃない!?」

 

さやか「瑠璃乃さん!」

 

瑠璃乃は逃げるように部室に突入し、さやかもそれを追いかけた。

 

 

― 部室 ―

 

ガチャ!

 

瑠璃乃「花帆ちゃーん。ルリの撮った写真、そっちに混じってない?」

 

さやか「あと、もう部室は締める時間ですよー」

 

花帆「…………………」

 

部室にいたのは花帆だった。だが、返事がない。

 

瑠璃乃「あり、花帆ちゃん?」

 

花帆「………………あ、瑠璃乃ちゃん。さやかちゃんも」

 

花帆が二人に気づいて振り向く。だが、花帆の顔をみた2人はびっくりして大慌て。――なぜなら、

 

さやか「ど、どうしたんですか!?」

 

花帆「ご、ごめん。なんでもない!」

 

瑠璃乃「その顔で何もないってことはないでしょ、大丈夫?」

 

花帆の顔からは、滝のようにボロボロと涙が零れ落ちていた。その涙は止まる様子もなくボロボロと零れ落ちる。

 

花帆「うん、ほんとに、ほんとにだいじょぶ」

 

ここで花帆は目を拭って涙を拭く。

 

花帆「あ、でも……ちょっとふたりに、聞いてもいいかな。えっと………あのね。アルバム、編集してたんだけどさ。凄く……良いものになってきたとも、思うんだけどさ」

 

さやか「そうですね。バランスも良く、この3年間を辿って………、昨日までの楽しい思い出も、最後に詰め込んだ、宝物のようにきらきらしていると思います」

 

瑠璃乃「うん。すごいよ花帆ちゃん。ルリ、もっと構成考え直そうかなー。って、思ってきたんだし」

 

花帆「でもさ……ふたりは思わない?こう……やっぱり全然足りないなー、なんて……」

 

さやか「足りない、ですか……………」

 

花帆の言葉に、困った顔を浮かべる2人。花帆が今何を考えているのか、何となく分かったからだ。

 

花帆「うん。ふたりもそう思うなら、蓮華祭のぎりぎりまでまだまだ遊んで、さ?」

 

さやか「それは……確かに、遊びたいは遊びたいですが」

 

花帆「じゃ、じゃあ、明日からもセンパイたちに頼んで、もっとみんなで遊ぶ時間を増やしたり―――」

 

瑠璃乃「で、でも花帆ちゃん。アルバム、あと1ページしか……ないよ?」

 

花帆「それはっ……その………もう1冊、とか……さ」

 

さやか「……………花帆さん」

 

花帆「……………うん、分かってる。分かってるよ、無茶だって。もうどうしたって、時間はないんだって」

 

瑠璃乃「………………花帆ちゃん、それで……泣いてたの?」

 

花帆は嗚咽を漏らしながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

花帆「いちページいちページ……大事に作ってたんだ。楽しかったこと、大変だったこと、もうダメかもって思ったことも……みんなの力で乗り越えられたこと。たくさん、思い出あったよ」

 

花帆は、「でもね――、」と言葉を繋げ、

 

花帆「そうやって、アルバムが完成に近づくんだ。本の終わりと、同じ。読んでないページがどんどん減って、終わりに近づく」

 

瑠璃乃「……………花帆ちゃん」

 

花帆「あと1ページになって………胸がきゅっと締め付けられた。どうにか隙間を埋めて、空白のページを増やせないかって、頭から読み返していったら……余計に心が痛くなっちゃってさ」

 

花帆「たくさん、思い出あったよ。あの時は、全然足りないなんて言ったけど………ほんとはそんなことなかったんだ。やっぱり、みんなでもっと思い出作ろうっていうのも、わがままだったんだ。あたしがただ、寂しかっただけ。………離れたくなかった、だけなんだって。離れるしかないのに、あたしは………」

 

花帆の思っていた事を聞いたさやかは、花帆は間違ってなかったと話す。

 

さやか「……………ね、花帆さん。そんなに自分を責めないでください。たとえあなたのわがままであったとしても…………。そのおかげで、わたしは本当に大切な思い出を増やすことができましたよ」

 

瑠璃乃「うん。それに、さ。絶対悪いことじゃないよ!離れたくない、寂しいってことは……それだけ、先輩のことが好きだってことだもん。今は、凄くつらいかもしれないけど……」

 

花帆「ありがとう……ごめんね、そんな顔させて。寂しいのは、あたしだけじゃないのに…………」

 

さやか「わたしは……いえ、わたしも、寂しい気持ちがないと言えば、ウソになりますか……そうですね」

 

瑠璃乃「きょうはさ、ゆっくり休も?今完成させる必要はないんだし!」

 

花帆「そう、だね。うん。ありがと」

 

瑠璃乃「それこそさ!行っておいでよ!」

 

花帆「え、どこに?」

 

瑠璃乃「めぐちゃんたち、ジュン兄ぃも一緒に女子寮のラウンジで楽しそうに話してっから!混ざっておいで!」

 

花帆「あ」

 

さやか「はい。いってらっしゃい。鍵はこちらでやっておきますから。少しでも、寂しさを埋めちゃいましょう」

 

花帆「……………うん、そうする」

 

 

そして、花帆は寮へと帰っていった。

 

 

― 女子寮・ラウンジ ―

 

花帆「…………センパイ」

 

梢「花帆?どうしたの、そんな顔して」

 

淳平「泣いてたのか?涙の跡があるぞ?」

 

花帆「あの……寂しくなっちゃって!」

 

慈「あはは、すーなおー。まあでも、それだけ思われてるみたいだぞ?羨ましいことで」

 

梢「ええ、そうね。ほら、花帆にもお茶を出してあげましょう」

 

慈「こいつ、さらっと…………」

 

カチャカチャとティーセットをいじり、お茶を淹れる梢。

 

綴理「るりも呼んでこようか?」

 

慈「私が寂しいみたいじゃん!」

 

綴理「それで、かほはどうしたら寂しくない?」

 

花帆「ちょっと………言い出しにくいというか……その。えっと!センパイがたは、なんの話をしてたんですか?」

 

淳平「そっか」

 

梢「ちょうど、沙知先輩から卒業おめでとうってメッセージが届いてね」

 

花帆「わ、沙知センパイ!1月にプレーオフの時にお会いしましたけど、あれから元気してました!?」

 

淳平「うん。来年から教育現場に実習行く機会があるらしくて、いろいろ勉強して、いくつか実践して、なんて話を聞いたから」

 

梢「………なんだか、相変わらずみたいよ」

 

花帆「ヘー…………卒業後も、頑張ってるんですね。ていうか、そっか。センパイたちは、ちゃんと連絡取ってるんですね!」

 

梢「そこまで頻繁じゃないけれどね」

 

慈「あの人も夢に向かって頑張ってる最中だからねー」

 

淳平「な」

 

花帆「そ、っか。……………えっと、そうだ!沙知センパイ、蓮華祭に来られたりはしないんですか!?」

 

淳平「来るのは無理だけど、ちゃんとスクコネで見るってさ」

 

綴理「かほたちにもよろしくって、言ってた」

 

花帆「そ、っかあ。……………ちょっと残念だけど、見ててくれるなら、嬉しいです!」

 

慈「よっぽど忙しいんだろうね。ま、私は安心したけど。今度は好きなことやれてるみたいで」

 

綴理「そうだね。やりたくてもできないことが多かった分…………今はその翼をめいっぱい広げていてほしい」

 

慈「私たちは今もやりたいことやって、そのうえで天使の翼をはためかせて飛び立つけどねー。世界へ!」

 

梢「……あなたが本当に外国で生活を送れるかどうか、蓮ノ空学院一同、不安しかないけれど。淳には感謝しなさいよ?」

 

慈「主語大きいな!できるしするに決まってるじゃん。ジョーシキありまくりだよ?私」

 

梢「英語の勉強、進んでいる?」

 

淳平「まだ拙いけど、喋るのは割とできるようになってきたほうだよ」

 

慈「えっへん♡」

 

めぐが胸を張るとたわわな果実が揺れる。

 

花帆「おお〜」

 

梢「……やるときはやるものね、あなたは。ホントに……」

 

慈「でしょ?梢ってば、私のことわかってるじゃん!それに、心配するなら、綴理の方じゃない?先生は大変だぞ〜」

 

花帆「えっ綴理先輩って、先生目指してるんですか!?」

 

驚く花帆。

 

綴理「うん。がんばる。…………大変なの?」

 

梢「そうよ。補習すらも隙あらばサボろうとする生徒とか、そのくせテスト前に配信する生徒とかいるんだから」

 

慈「急に早口になるじゃん………」

 

花帆「あははっ」

 

綴理「それってめぐのことでしょ?めぐだったら大丈夫だよ」

 

綴理「めぐは、いいところがいっぱいある。勉強しなくても、ボクはめぐが大好きだから」

 

慈「コイツ、生徒に好かれそうだな…………」

 

淳平「綴理は人のいいところを探す天才だし、それに――」

 

梢「そうね…………。綴理は、いつだって寄り添ってくれるものね…………」

 

慈「ほんとに。スクールアイドル辞めなくてよかったねえ」

 

梢「つ。ま、まさかあなた、先月のこと、慈に話したの……?」

 

慈「〜♪」

 

綴理「言わない方が、よかったのかな?」

 

慈「いいんだよ。もう卒業するのに、今さら隠し事したって、仕方ないでしょ」

 

花帆「っ………」

 

"卒業"、その言葉に花帆の顔が暗くなる。

 

淳平「梢は、歌の勉強を続けるんだよな?」

 

梢「……そうね、また一から学び直すつもり。本格的な声楽は初めてだから、もちろん不安はあるけれど。でも、どこでだってがんばるって、決めたから。吹っ切れたのかしらね。今はワクワクしているの。まるで、スクールアイドルに憧れていたあの頃、みたいに」

 

綴理「ああ、眩しいね」

 

花帆「……………つ。くすん」

 

俺達が話していると、突然泣き出したかほ。

 

梢「か、花帆!?」

 

慈「……………おっと」

 

綴理「………………」

 

梢「………………もしかして、寂しくなった?」

 

花帆「だいじょうぶ、です。ごめんなさい。あたしは……もっともっと、センパイたちと一緒に居たいんです」

 

梢「そう…………花帆、でも」

 

花帆「分かってます。センパイたちの夢の話を聞いちゃったら、もう、あたしは何も言いたくないです………!」

 

綴理「寂しくて、いいんだよ?」

 

梢「ええ。私だって、もちろん寂しいわ。あなたと離れ離れになるのは」

 

花帆「でもっ……でもあたしは、あたしは本気で離れたくないんです!センパイたちの寂しいとは、違う……!」

 

梢・綴理・慈・淳平「「「「………………」」」」

 

花帆「センパイたちの夢は、素敵なものです………!なのにあたしは……あたしはっ。ずっと一緒にライブがしたい!明日も、明後日も!来年も、再来年も!学校で、ステージで、どこでだって!ずっとスクールアイドルをしていたいんです!」

 

花帆「そのためにやれることがあるなら、なんだってしたいって思っちゃうくらいに!」

 

泣きながら思いを吐き出す花帆を、俺たちは黙って見つめる。そして花帆が全て言い終わるとめぐが、

 

慈「……………ほんと、素直だね。花帆ちゃんは」

 

梢「花帆。その気持ちは、とっても嬉しいわ。それだけ私たちの存在が、あなたの中で大きくなっていたことを……誇りに思う」

 

花帆「センパイ……」

 

梢「でも……それは、できないの」

 

花帆「つ」

 

梢「私たちは、あと少しで卒業。スクールアイドルでは、なくなってしまうから」

 

梢「いつまでもあなたと、ライブをしていたかった。その気持ちは、一緒よ。あなたとの日々があったからこそ、私は新しい夢を見つけられたの」

 

淳平「ごめんな。お前を置いて、卒業してしまって」

 

花帆「でも」

 

花帆を見ていた俺と梢はあることを思いつく。

 

梢「綴理、慈、淳。私、やりたいことがあるのだけれど」

 

綴理「いいよ」

 

淳平「どうせ考えることは同じだろうし」

 

慈「ま、あそこにふたり、心配そうに覗いてるのもいるしね」

 

見ると、さやかちゃんとルリちゃんがコチラを覗いていた。

 

花帆「あっ」

 

さやか「…………花帆さん」

 

花帆「さやかちゃん、瑠璃乃ちゃん…………」

 

瑠璃乃「えっと、これは何がどうなって………?」

 

淳平「うん、2人にも聞いていってほしい。ちょうどできたとこだし」

 

綴理「うん。もともと、蓮華祭できみたちに聞かせたかった曲だから」

 

慈「私たちが遺す最後の曲」

 

梢・綴理・慈・淳平「「「「新しい、"Dream Believers."」」」」

 

 

 

― つづく ―




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