あのあと、生徒たちもほとんどが寮へと帰り、完全下校時刻が近づく中、さやかは部室の鍵を閉めに来ていた。
――だが、
さやか「あれ?まだ、誰か居る………?」
部室から明かりが漏れ、中に人影があった。
そこへ―――。
瑠璃乃「さやかちゃーん。花帆ちゃん知らない?」
瑠璃乃がやってきた。
さやか「花帆さんですか?いえ……どうしました?」
瑠璃乃「いや〜、アルバムを少し編集し直してたんだけどさ?追加で欲しいな。ってやつがなくて、花帆ちゃんのとこ混じってるかなーって。ほら、花帆ちゃん確かまだアルバム作ってたでしょ?」
さやか「そうでしたね。というか、ふたりともなんでまだ終わってないんですか!蓮華祭ぎりぎりになっちゃいますよ!」
瑠璃乃「あはは………」
苦笑いする瑠璃乃だが、部室の明かりと人影に気付いた。
瑠璃乃「あぁ、あれ花帆ちゃんじゃない!?」
さやか「瑠璃乃さん!」
瑠璃乃は逃げるように部室に突入し、さやかもそれを追いかけた。
― 部室 ―
ガチャ!
瑠璃乃「花帆ちゃーん。ルリの撮った写真、そっちに混じってない?」
さやか「あと、もう部室は締める時間ですよー」
花帆「…………………」
部室にいたのは花帆だった。だが、返事がない。
瑠璃乃「あり、花帆ちゃん?」
花帆「………………あ、瑠璃乃ちゃん。さやかちゃんも」
花帆が二人に気づいて振り向く。だが、花帆の顔をみた2人はびっくりして大慌て。――なぜなら、
さやか「ど、どうしたんですか!?」
花帆「ご、ごめん。なんでもない!」
瑠璃乃「その顔で何もないってことはないでしょ、大丈夫?」
花帆の顔からは、滝のようにボロボロと涙が零れ落ちていた。その涙は止まる様子もなくボロボロと零れ落ちる。
花帆「うん、ほんとに、ほんとにだいじょぶ」
ここで花帆は目を拭って涙を拭く。
花帆「あ、でも……ちょっとふたりに、聞いてもいいかな。えっと………あのね。アルバム、編集してたんだけどさ。凄く……良いものになってきたとも、思うんだけどさ」
さやか「そうですね。バランスも良く、この3年間を辿って………、昨日までの楽しい思い出も、最後に詰め込んだ、宝物のようにきらきらしていると思います」
瑠璃乃「うん。すごいよ花帆ちゃん。ルリ、もっと構成考え直そうかなー。って、思ってきたんだし」
花帆「でもさ……ふたりは思わない?こう……やっぱり全然足りないなー、なんて……」
さやか「足りない、ですか……………」
花帆の言葉に、困った顔を浮かべる2人。花帆が今何を考えているのか、何となく分かったからだ。
花帆「うん。ふたりもそう思うなら、蓮華祭のぎりぎりまでまだまだ遊んで、さ?」
さやか「それは……確かに、遊びたいは遊びたいですが」
花帆「じゃ、じゃあ、明日からもセンパイたちに頼んで、もっとみんなで遊ぶ時間を増やしたり―――」
瑠璃乃「で、でも花帆ちゃん。アルバム、あと1ページしか……ないよ?」
花帆「それはっ……その………もう1冊、とか……さ」
さやか「……………花帆さん」
花帆「……………うん、分かってる。分かってるよ、無茶だって。もうどうしたって、時間はないんだって」
瑠璃乃「………………花帆ちゃん、それで……泣いてたの?」
花帆は嗚咽を漏らしながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
花帆「いちページいちページ……大事に作ってたんだ。楽しかったこと、大変だったこと、もうダメかもって思ったことも……みんなの力で乗り越えられたこと。たくさん、思い出あったよ」
花帆は、「でもね――、」と言葉を繋げ、
花帆「そうやって、アルバムが完成に近づくんだ。本の終わりと、同じ。読んでないページがどんどん減って、終わりに近づく」
瑠璃乃「……………花帆ちゃん」
花帆「あと1ページになって………胸がきゅっと締め付けられた。どうにか隙間を埋めて、空白のページを増やせないかって、頭から読み返していったら……余計に心が痛くなっちゃってさ」
花帆「たくさん、思い出あったよ。あの時は、全然足りないなんて言ったけど………ほんとはそんなことなかったんだ。やっぱり、みんなでもっと思い出作ろうっていうのも、わがままだったんだ。あたしがただ、寂しかっただけ。………離れたくなかった、だけなんだって。離れるしかないのに、あたしは………」
花帆の思っていた事を聞いたさやかは、花帆は間違ってなかったと話す。
さやか「……………ね、花帆さん。そんなに自分を責めないでください。たとえあなたのわがままであったとしても…………。そのおかげで、わたしは本当に大切な思い出を増やすことができましたよ」
瑠璃乃「うん。それに、さ。絶対悪いことじゃないよ!離れたくない、寂しいってことは……それだけ、先輩のことが好きだってことだもん。今は、凄くつらいかもしれないけど……」
花帆「ありがとう……ごめんね、そんな顔させて。寂しいのは、あたしだけじゃないのに…………」
さやか「わたしは……いえ、わたしも、寂しい気持ちがないと言えば、ウソになりますか……そうですね」
瑠璃乃「きょうはさ、ゆっくり休も?今完成させる必要はないんだし!」
花帆「そう、だね。うん。ありがと」
瑠璃乃「それこそさ!行っておいでよ!」
花帆「え、どこに?」
瑠璃乃「めぐちゃんたち、ジュン兄ぃも一緒に女子寮のラウンジで楽しそうに話してっから!混ざっておいで!」
花帆「あ」
さやか「はい。いってらっしゃい。鍵はこちらでやっておきますから。少しでも、寂しさを埋めちゃいましょう」
花帆「……………うん、そうする」
そして、花帆は寮へと帰っていった。
― 女子寮・ラウンジ ―
花帆「…………センパイ」
梢「花帆?どうしたの、そんな顔して」
淳平「泣いてたのか?涙の跡があるぞ?」
花帆「あの……寂しくなっちゃって!」
慈「あはは、すーなおー。まあでも、それだけ思われてるみたいだぞ?羨ましいことで」
梢「ええ、そうね。ほら、花帆にもお茶を出してあげましょう」
慈「こいつ、さらっと…………」
カチャカチャとティーセットをいじり、お茶を淹れる梢。
綴理「るりも呼んでこようか?」
慈「私が寂しいみたいじゃん!」
綴理「それで、かほはどうしたら寂しくない?」
花帆「ちょっと………言い出しにくいというか……その。えっと!センパイがたは、なんの話をしてたんですか?」
淳平「そっか」
梢「ちょうど、沙知先輩から卒業おめでとうってメッセージが届いてね」
花帆「わ、沙知センパイ!1月にプレーオフの時にお会いしましたけど、あれから元気してました!?」
淳平「うん。来年から教育現場に実習行く機会があるらしくて、いろいろ勉強して、いくつか実践して、なんて話を聞いたから」
梢「………なんだか、相変わらずみたいよ」
花帆「ヘー…………卒業後も、頑張ってるんですね。ていうか、そっか。センパイたちは、ちゃんと連絡取ってるんですね!」
梢「そこまで頻繁じゃないけれどね」
慈「あの人も夢に向かって頑張ってる最中だからねー」
淳平「な」
花帆「そ、っか。……………えっと、そうだ!沙知センパイ、蓮華祭に来られたりはしないんですか!?」
淳平「来るのは無理だけど、ちゃんとスクコネで見るってさ」
綴理「かほたちにもよろしくって、言ってた」
花帆「そ、っかあ。……………ちょっと残念だけど、見ててくれるなら、嬉しいです!」
慈「よっぽど忙しいんだろうね。ま、私は安心したけど。今度は好きなことやれてるみたいで」
綴理「そうだね。やりたくてもできないことが多かった分…………今はその翼をめいっぱい広げていてほしい」
慈「私たちは今もやりたいことやって、そのうえで天使の翼をはためかせて飛び立つけどねー。世界へ!」
梢「……あなたが本当に外国で生活を送れるかどうか、蓮ノ空学院一同、不安しかないけれど。淳には感謝しなさいよ?」
慈「主語大きいな!できるしするに決まってるじゃん。ジョーシキありまくりだよ?私」
梢「英語の勉強、進んでいる?」
淳平「まだ拙いけど、喋るのは割とできるようになってきたほうだよ」
慈「えっへん♡」
めぐが胸を張るとたわわな果実が揺れる。
花帆「おお〜」
梢「……やるときはやるものね、あなたは。ホントに……」
慈「でしょ?梢ってば、私のことわかってるじゃん!それに、心配するなら、綴理の方じゃない?先生は大変だぞ〜」
花帆「えっ綴理先輩って、先生目指してるんですか!?」
驚く花帆。
綴理「うん。がんばる。…………大変なの?」
梢「そうよ。補習すらも隙あらばサボろうとする生徒とか、そのくせテスト前に配信する生徒とかいるんだから」
慈「急に早口になるじゃん………」
花帆「あははっ」
綴理「それってめぐのことでしょ?めぐだったら大丈夫だよ」
綴理「めぐは、いいところがいっぱいある。勉強しなくても、ボクはめぐが大好きだから」
慈「コイツ、生徒に好かれそうだな…………」
淳平「綴理は人のいいところを探す天才だし、それに――」
梢「そうね…………。綴理は、いつだって寄り添ってくれるものね…………」
慈「ほんとに。スクールアイドル辞めなくてよかったねえ」
梢「つ。ま、まさかあなた、先月のこと、慈に話したの……?」
慈「〜♪」
綴理「言わない方が、よかったのかな?」
慈「いいんだよ。もう卒業するのに、今さら隠し事したって、仕方ないでしょ」
花帆「っ………」
"卒業"、その言葉に花帆の顔が暗くなる。
淳平「梢は、歌の勉強を続けるんだよな?」
梢「……そうね、また一から学び直すつもり。本格的な声楽は初めてだから、もちろん不安はあるけれど。でも、どこでだってがんばるって、決めたから。吹っ切れたのかしらね。今はワクワクしているの。まるで、スクールアイドルに憧れていたあの頃、みたいに」
綴理「ああ、眩しいね」
花帆「……………つ。くすん」
俺達が話していると、突然泣き出したかほ。
梢「か、花帆!?」
慈「……………おっと」
綴理「………………」
梢「………………もしかして、寂しくなった?」
花帆「だいじょうぶ、です。ごめんなさい。あたしは……もっともっと、センパイたちと一緒に居たいんです」
梢「そう…………花帆、でも」
花帆「分かってます。センパイたちの夢の話を聞いちゃったら、もう、あたしは何も言いたくないです………!」
綴理「寂しくて、いいんだよ?」
梢「ええ。私だって、もちろん寂しいわ。あなたと離れ離れになるのは」
花帆「でもっ……でもあたしは、あたしは本気で離れたくないんです!センパイたちの寂しいとは、違う……!」
梢・綴理・慈・淳平「「「「………………」」」」
花帆「センパイたちの夢は、素敵なものです………!なのにあたしは……あたしはっ。ずっと一緒にライブがしたい!明日も、明後日も!来年も、再来年も!学校で、ステージで、どこでだって!ずっとスクールアイドルをしていたいんです!」
花帆「そのためにやれることがあるなら、なんだってしたいって思っちゃうくらいに!」
泣きながら思いを吐き出す花帆を、俺たちは黙って見つめる。そして花帆が全て言い終わるとめぐが、
慈「……………ほんと、素直だね。花帆ちゃんは」
梢「花帆。その気持ちは、とっても嬉しいわ。それだけ私たちの存在が、あなたの中で大きくなっていたことを……誇りに思う」
花帆「センパイ……」
梢「でも……それは、できないの」
花帆「つ」
梢「私たちは、あと少しで卒業。スクールアイドルでは、なくなってしまうから」
梢「いつまでもあなたと、ライブをしていたかった。その気持ちは、一緒よ。あなたとの日々があったからこそ、私は新しい夢を見つけられたの」
淳平「ごめんな。お前を置いて、卒業してしまって」
花帆「でも」
花帆を見ていた俺と梢はあることを思いつく。
梢「綴理、慈、淳。私、やりたいことがあるのだけれど」
綴理「いいよ」
淳平「どうせ考えることは同じだろうし」
慈「ま、あそこにふたり、心配そうに覗いてるのもいるしね」
見ると、さやかちゃんとルリちゃんがコチラを覗いていた。
花帆「あっ」
さやか「…………花帆さん」
花帆「さやかちゃん、瑠璃乃ちゃん…………」
瑠璃乃「えっと、これは何がどうなって………?」
淳平「うん、2人にも聞いていってほしい。ちょうどできたとこだし」
綴理「うん。もともと、蓮華祭できみたちに聞かせたかった曲だから」
慈「私たちが遺す最後の曲」
梢・綴理・慈・淳平「「「「新しい、"Dream Believers."」」」」
― つづく ―
感想・評価宜しくお願いします!!