『Water the flowers』①
今は3月の中旬。月末の"Bloom Garden Party"に備えた、蓮ノ空全体の準備期間。
帰ってきた淳平たち卒業生や、学校の在校生たちが準備を手伝ってくれていた。
―――そんな日の夜。
瑠璃乃「うにゃ〜〜〜……!!」
瑠璃乃が両腕を伸ばし、『今日もやりきった〜』と、伸びをする。
さやか「今日も頑張りましたね」
それを見て、隣で慈愛に満ちた顔で微笑むさやか。
花帆「だねぇ。ねえ! "Bloom Garden Party"ももう間近……。センパイたちも帰ってきてくれて……毎日が充実してる気がするよ!」
その2人に、花帆が太陽のような笑顔で応える。
瑠璃乃「その分、めっちゃくちゃ忙しいけどね……!」
さやか「それは否めませんが……」
瑠璃乃「あはは、うそうそ。この忙しさだって、やりたいことのために必要なことだもん。むしろ大変なほど、大きなことをやろうとしてるんだなって思えるし」
さやか「そ、そうですよね。よかった、また充電切れの瑠璃乃さんを無理やり動かさないとならないのかと。遠慮はしないと決めたものの、やりたいわけではないですからね……」
瑠璃乃「そ、そうだね。ルリもやりたいわけではないしね……」
お互いに苦笑し、気まずくなるさやかと瑠璃乃。――すると、
花帆「ねえ、さやかちゃん、瑠璃乃ちゃん」
花帆の方を見るさやかと瑠璃乃。花帆は、ある提案をしてきた。
花帆「最後にさ、三連華の曲作ろうよ!!」
さやか&瑠璃乃「「!!」」
さやか「わたしたちの、曲……ですか」
『ふむ…』と、考えるさやか。
瑠璃乃「うおー! また面白いことを!」
テンションが上がる瑠璃乃。
瑠璃乃「ルリたち3人の曲かー、どんなのになるだろなー、やりたいやりたい!」
花帆「でしょでしょ!なんかこうやって3人でがんばったねって話をしてたらさ?それって、この3年間ずっとそうだったなー、なんて思って」
さやか「……なるほど。わたしたちの3年間を歌う曲を作りたい、と」
瑠璃乃「めぐちゃんたちのアステリズムみたいに!!」
花帆「そう!! せっかくだから、今までに出会ったみんなに。――ううん、まだ出会ってないみんなにも向けてさ、あたしたちのこと、曲と一緒に覚えてもらえたら、すっごく嬉しいな、って!」
瑠璃乃「だね!」
乗り気な2人。だが、
さやか「うーん……………」
花帆「あれ、さやかちゃんは反対?」
不安になる花帆。さやかは、"現実的"な観点から話す。
さやか「このタイミングで自分たちの作曲までというのは……本当に大変ですよ? 絶賛、今こうしてあまりに忙しいという話で盛り上がっているわけですし」
客観的な視点からの、的を得た回答。
花帆「ぐっ、それは……!」
瑠璃乃「……で、さやかちゃんは反対?」
花帆「へ? あれ今………」
さやか「そうですね。反対とは言っていません。やりたいかどうかで言えば、やりたいです。 わたしたち3人の、これまでを歌う曲………ふふ。はい、そうですね」
さやかは2人に微笑む。
さやか「わたしがやりたいと思ったんだから、やるべきです」
瑠璃乃「あはは、さすがさやかちゃん!」
さやか「一番大変そうにしていた瑠璃乃さんが乗り気なんですから。わたしだって負けていられませんよ」
花帆「えへへ。よかった、ふたりとも賛成してくれて……! きっと、すごいものができるよ!」
『三連華の曲を作る』その方向で意見は纏まる。
瑠璃乃「よーっし!そうと決まったら!!」
さやか「どうやって作りますか?」
花帆「もういっそ、それぞれ全部作ってこよう!!」
瑠璃乃「全部!?」
花帆「そしていいとこ取りをしよう!! きっとそれが最強だ!!」
さやか「よ、余計に大変になりましたね……!」
花帆「でもやりたいから〜〜〜?」
さやか「やりますよ!! なんですかその煽りは!!」
瑠璃乃「あはは。じゃあ……やるかあ……!」
花帆「三連華の、最高の曲を作るぞー!!」
さやか&瑠璃乃「「おー!!」」
そしてその日の夜、3人は作曲を始めるのだった。
―――翌日朝、部室。
さやか「昨日の今日で、もうできたんですか……!?」
花帆「ふっふっふ…………もう、熱意がね。すごいことになってしまってね。2人のができてからお披露目っていうのも、考えないことはなかったよ!」
瑠璃乃「その考えは、ずいぶん脆かったんだなあ」
さやか「まあ参考にもなりますし、ブラッシュアップもできるかもしれませんし、せっかくできたというのであればさっそく聞かせてもらいましょうか」
花帆「その言葉を待ってたよ!! さあ、ごはいちょ〜〜!!」
そして花帆は、書いた歌詞を見せた。
…………………。
花帆「どうかな、どうかな!」
さやか&瑠璃乃「「……………」」
2人は、あまりの歌詞に何も言えなかった。
瑠璃乃「『瑠璃乃が生まれて、皆を愛した。スクールアイドルはみな瑠璃乃の子』……事実に反してるが!?」
花帆「えー!? でもだいたいそうだよね!?」
瑠璃乃「だいたいそう!?」
『花帆ちゃんのなかでルリのイメージはどうなってんだ!?』と、頭を抱える瑠璃乃。
花帆「だって、現代に降臨せし聖母の中の聖母、聖母神でしょ?」
瑠璃乃「姫芽だってもうちょっと自重してたよ!! 聖女どころか聖母、さらに通り越して神になっちゃってるじゃん!!」
瑠璃乃「さ、さやかちゃあん!」
さやかに助けを求める瑠璃乃。
さやか「わたし、氷の大地を割ったことになってるんですが、いつ?」
花帆「そりゃ、フィギュアスケート場で、綴理センパイと一緒にユニットやりましょうって時に」
さやか「花帆さん、記憶を司るところどっか失くしました!?」
柄にもなく大声を上げるさやか。
花帆「そのくらい壮大だったってことだよ!! あの時、あたし震えちゃったからね!! あ、そっか!!」
花帆は、何かに気づいた。
花帆「割ったんじゃなくて、創生したんだね!!」
瑠璃乃「この子止めてさやかちゃん!!」
どうしょうもない子になってしまった花帆に匙を投げる瑠璃乃。
さやか「なにが『そっか』ですか! なにをミスしてなにを正解だと思ったんですか!」
瑠璃乃「ルリたちこんな壮大じゃないよ!! 花帆ちゃんのファンタジー好き極まっちゃってるよ!!」
さやか「そうですよ!大三角だってびっくりですよこんなの!」
花帆「インパクト強い方が、聴いた人にも感動してもらえると思ったんだけど……!」
瑠璃乃「感動してもらうために作ったんだとしても、ぜったいこの方向じゃないよ……」
さやか「こ、今度はわたしが作ったの持ってきます! こうはならないように、慎ましく、わたしたちがどの程度のものなのか、身の程を知ったうえで!」
そして、次の日――、
さやか「できました!!」
瑠璃乃「はやい!!」
さやか「昨日はこれのことしか考えていませんでしたので!」
瑠璃乃「それはそれでどうなんだ!?」
花帆「ま、まあそれくらい気合い入れてくれたってことだよね! 聴いてみよう!!」
そして、さやかの書いた歌詞を見る花帆と瑠璃乃。
………………………。
花帆「ごめんなさい……ごめんなさい…………」
瑠璃乃「ルリたちはしょせんミジンコだったね……」
物凄く落ち込む2人。
花帆「うん、しょせんは水をあげなきゃしおれる花……だから三連華…………」
さやか「あれ!? そこまで厳しくなりました!?」
瑠璃乃「厳しいよ! これがルリたちの3年間の曲!? わたしたちはひとりじゃなにもできない子たちです、みたいな感じになってるよ!! ここまでだったかなあ!?」
さやか「その、わたしたちの今はみなさんの支えあってのことと、そういう気持ちを込めて」
瑠璃乃「これじゃもはや懺悔だよ!! なに、わたしがわたしらしくあることをお許しください、虫もひとつの命なのですって!!」
花帆「あたし……お花じゃなくて、お花が好きでくっついてるだけの虫だったのかな……。そうなのかも………。葉っぱ食べよ………」
いよいよ本気で落ち込みだした花帆。
瑠璃乃「ほらあ! 花帆ちゃんががっつり萎れてるって!!」
さやか「すみませんすみません、虫はわたしひとりですから!!」
瑠璃乃「そゆことでもねーよ!!」
『お前もか!』と言わんばかりに突っ込む瑠璃乃!
さやか「まさかわたしの歌がそこまで影響を与えてしまうとは思わず……」
瑠璃乃「ルリたちは三連華!!もうちょっと明るくしよ、ルリたちの軌跡は奇跡! おー!」
そして次の日―――。
瑠璃乃「できました!!」
瑠璃乃「ちゃんと事実に基づきつつ、盛り上がる楽しいものにしてみたよ!」
花帆「信じてるからね、瑠璃乃ちゃん………!」
さやか「瑠璃乃さんは優れたバランス感覚をもっていらっしゃる方ですから……!」
そして、歌詞に目を通す花帆とさやか。
………………。
花帆「あたしとさやかちゃんが入学した瞬間から世界中を盛り上げたことになってる!?」
さやか「知らない記憶すぎる!! 事実に基づくとはいったい」
瑠璃乃「え、だって最初のバスの中で盛り上がってたって言ってたじゃん。ふたりのことだからきっと、すごくブチアゲたのかなと」
さやか「盛り上がってたのは花帆さんだけですよ!!」
花帆「それもひどくない!? あとさあとさ、入部したばかりの瑠璃乃ちゃんが逃げ出した時に、あたしとさやかちゃんが追いかけたところもさ!」
瑠璃乃「あ、気づいてくれた!? そうそう、そこイメージで書いた歌詞があるんだよ!」
花帆「なんかミュージカル仕立てであたしとさやかちゃんが歌いながらスキップして追いかけてるみたいになってんだけど!!」
さやか「知らない記憶すぎるパート2ですか!?」
瑠璃乃「いやその、奇跡の軌跡なんだからそのくらいでも良いかなって。ルリを改心させてくれた名シーンだし」
花帆「改心って瑠璃乃ちゃんべつに悪役だったわけじゃないからね!?」
さやか「あと話盛るのが基本になってるのなんなんですか!?」
結局
瑠璃乃「うぇえ!? 話盛らなかったら何も残らないかもしれないじゃん!!」
花帆「何も残らないは言い過ぎだよ!! どれだけ自分に自信ないの!? 昨日のさやかちゃんの曲に毒されすぎだって!!」
さやか「ええ!? す、すみません……」
花帆「あああ違う違う、さやかちゃんに謝らせたいわけじゃなくて!!」
もう泥沼に陥る3人。
花帆「もう!! あたしもう1回作ってくるから!!」
次の日―――、
花帆「できました!!」
さやか「3年間楽しかったらんらんらーん」
瑠璃乃「ここまでただお気楽だったってことはないよ!?」
花帆「あーんもうどうすればいいのー!?」
次の日―――、
さやか「できました………」
また次の日―――、
瑠璃乃「デキタ……」
結局、いい歌詞を誰も書けなかった。
花帆「だめだー!!」
さやか「当初の予定通り……ここからいいとこ取りして、1曲に、します……?」
瑠璃乃「やりたくないことはやらないって言っていいんだよ」
さやか「すみません。さすがにこれではやりたくないです」
瑠璃乃「素直でよろしい……」
花帆「でもへこたれてる暇はないよ! なぜならそろそろホントにブルパの準備に支障が出ちゃいそうだから! 他の方法を探そう!」
さやか「それはそうですね……ですが、ひとついいですか?」
瑠璃乃「はい、村野さん」
さやか「もう、わたしはわたしたちがなんなのかわかりません!! 三連華三連華三連華、三連華を考えすぎて三連華とはなんですか!? 三連華で合ってました!?」
瑠璃乃「ゲシュタルト崩壊してる!?」
花帆「確かにこの数日ずっと考え続けてた弊害……。じゃあさ、みんなに聞こうよ! 三連華って、なんなのかをさ!」
瑠璃乃「確かに! 今さらなに言ってんだって思われるかもしれにゃーけど、背に腹は変えられねえぜ!!」
さやか「といっても、どうやるんですか?」
瑠璃乃「じゃあ……。みんなにインタビュー動画を撮ってもらう、っていうのはどうかな!」
― つづく ―
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