今は3月中旬。来たる蓮華祭と、"Bloom Garden Party"に向けて蓮ノ空中が準備していたある日……。
― 蓮ノ空・スクールアイドルクラブ部室 ―
部室では、吟子、小鈴、姫芽、泉、セラスの5人が話していた。
吟子「これだけ"Bloom Garden Party"の準備が大詰めになってくると、本当に年度末が近づいてきたって感じがするね」
小鈴「来月にはもう先輩たちも居ないんだし、立派にならないと……!」
小鈴の言葉に、意気込む吟子、姫芽含めた小三角。すると、
泉「ふむ。来月、来年を迎えるにあたって、今のうちに話しておかなければいけないことが実はもうひとつあるんだが、いいかな?」
吟子「泉、ひょっとしてセラスのこと?」
泉「ああ。セラス、あなたの所属ユニットは、そろそろ決まったのかな?」
それは、セラスの来年の所属ユニットの話だった。
セラス「所属……ユニット……!?」
そう。Edel_Noteは今年一年限りという、4月に4番目のユニットとして活動する際の2人の約束があったのだ。
セラスが泉をスクールアイドルを大好きにし、生きる目的を思い出させ、泉が再び心に火を灯せるようになった記憶は新しい。
だが、泉は来年はソロとして活動する事を決めており、セラスが取り残される事になる。
セラスは約束通り、スリーズブーケ、DOLLCHESTRA、みらくらぱーく!のどれかのユニットにはいる時期が迫っていたのだ。
セラス「いや、まだ、だけど………。ていうかほら! 入っていいかどうかもお茶菓子持ってお伺い立てに行ってないし!」
小鈴「あ、こっち待ちだった!? 大歓迎だよ!!」
小鈴の元気のよい返事。断る理由などどこにもない。
姫芽「うちもうちも!」
当然みらくらぱーく!も。大歓迎の構え。
吟子「まあ、当たり前だけど、拒む理由はないっていうか」
そしてスリーズブーケもどの先輩も歓迎の意を示していた。
泉「だそうだ。良かったね。じゃあ決めたらいい」
セラス「そんな球技大会のチーム分けみたいなノリで言う!?」
声を荒げるセラス。
泉「なに、ユニットのパートナーとして、最後のお節介がしたくてね」
セラス「しおらしいこと言って、わたしの逃げ道を塞ぎに来てる………!」
泉「というか本音を言うと、まだ決めていないことがむしろ意外だったんだ。ここまで引っ張っているのは、なにか特別な理由があるのかな?」
セラス「そういうわけじゃ、ないけど……」
皆の注目がセラスに集まる。
姫芽「せらりん?」
セラス「いやその……。どのユニットも魅力的で……ですから、あの、その」
口籠るセラス。すると、一度俯くと、少し考え、顔を上げると、
セラス「……いえ、わかりました。スリーズブーケ……DOLLCHESTRA……みらくらぱーく!………」
セラスは、あのテストの時の運頼みの様に鉛筆を転がして運任せにしようとし始めた。
小鈴「鉛筆転がしてユニット決めようとしてる!?」
泉「それがあなたの本当にやりたいことなのか」
泉は、「やれやれ…」といったように肩をすくめるが、セラスの本心でないことは全員が見抜いていた。
セラス「本当にやりたいこと。…………はっ、そうだ!」
セラスは何かを思いついたのか、
セラス「わかりました、みなさん! わたしも……ソロをやります!」
小鈴&姫芽「「えー!?」」
吟子「なんでそうなるの!」
3人の声が、部室に木霊する。
セラス「これが本当にわたしのやりたいことだったんです! 今までのことぜんぶウソでした!」
吟子「信じるわけないでしょそんなん!」
さすがに苦しい言い訳。そんな物に騙されるほど、もうみんなとセラスの関わりは浅くなどない。
泉「ユニット体験が楽しかったことも、どのユニットも大好きだって言ってたことも、かな?」
セラス「え? そ、それは…。ど、どのユニットのことも好き、だけど………」
泉に核心を突かれ、しどろもどろになるセラス。だが、
セラス「そ、そう! わたしはわたしの力を試したいんです! ひとりでどこまで行けるかを! それがみんなの光になるんだよ!」
セラス「わたしは来年はソロユニット、輝かしきリリエンフェルトになります! それでは失礼して……ぐぐぐ、失礼、失礼します!」
そして、セラスは走って部室から出ていってしまった。
小鈴「行っちゃった……。え、セラスちゃんの進路これで決まり!?」
吟子「あんなのが本心なわけないでしょ!」
姫芽「まあ、本心だったら逃げる必要ないからねぇ〜」
泉「………予想ではあるけれど」
3人が泉を見る。
泉「セラスは私がソロを志した決意を理解してくれている。だとすれば本心ではないどころか、今頃はごまかすためにソロと宣言したことすらも、私の覚悟に水を差したのではないかと、後悔しているだろうね」
吟子「ありそう……。なんてめんどくさい……」
小鈴「……だ、だったら! どうにかして説得したいよ!」
姫芽「確かに、あのままにしてても良い方向には転がらなそうだよね〜」
吟子「まあ、いいんじゃない? 多少は強引に勧誘しても。それで見えてくるものも、あったりするんじゃないかな」
姫芽「お、実体験かにゃ〜?」
吟子「安養寺さん。今はセラスさんのお話ですよ」
姫芽が吟子をからかうが、すぐにたしなめられる。
姫芽「は〜い。だったら、早速探ってみよ。そんで、せらりんの心を溶かした人が、ユニットの相手にふさわしいってことで!」
吟子「またそうやって勝負みたいに………」
小鈴「徒町、全力でぶつかってくる! 徒町は本気で、セラスちゃんが来年、DOLLCHESTRAを選んでくれたらって思ってたから………!」
吟子「しょうがないなあ、ほんとに! 世話が焼ける後輩!」
泉「ありがとう……ふふ。まったく……こんなにいい先輩が揃っているというのに。セラスはなにを、意地張っているんだか………」
すると、
ガチャ!
淳平「お? みんな揃ってどうした?」
部屋に、淳平が顔を出した。
吟子「淳平先輩!? どうしました?」
淳平「ああ、ステージ設営の詳しい予定書。どこにあるかなと探しててさ……」
小鈴「あ、それなら……!」
小鈴が戸棚を開けて中を探る。すると1枚の書類の束が出てきた。
淳平「あ、ありがとう」
そして、淳平が部屋を出ていこうとすると、
泉「先輩」
淳平「ん? どうした?」
泉「いや、何かセラスから来年の所属ユニットについて聞いてないかなと思ってさ」
淳平「ん、あ〜……」
淳平は考え込むように言うと、
淳平「相談は受けたけど、本人の許可なしに言うのはな……。本人から許可もらえば教えるけど」
泉「ふむ。何か言うとセラスが嫌な思いをする可能性があるのかな?」
淳平「と言うより、あの子が自分で言うのが一番丸い感じ。まあ、頑張れ」
そう言って、淳平は書類の束を持ってステージの設営予定値に戻っていった。
吟子「アタシたちで聞き出すしかないね」
姫芽「だね〜……」
――翌日の朝。
セラスが寮から学校までの道を歩いていると、
姫芽「おっはよ〜せらり〜ん」
セラス「うぇっ…………。お、おはようゴザイマス……」
姫芽「う〜ん? だいじょぶだよ〜。無理に勧誘したりはしないからね〜。それより荷物持とうか?」
セラス「なんでですか!? 言ったことありませんよね!?」
姫芽「いやいやそんなことは、あ、歩道側をどうぞ」
セラス「デートみたいなエスコート!?」
姫芽「困ったことがあったらいつでも言ってね〜?」
セラス「強いていうなら今なんですが!」
姫芽「ええ!? ユニット選びに悩んでいる〜? それはせんぱいとしてアタシがサポートしてあげなきゃ〜!」
セラス「やっぱりそういうやつじゃないですかぁ! 決めたんです! わたしはソロで行くって! なぜならわたしはぜんぶ自分の思い通りにしたいワガママ娘だから! ソロしか生きる道がないんですー!」
そう言い、セラスは走っていってしまった。
姫芽「あら〜、失敗失敗」
そして、セラスが逃げ込んだのは部室。
セラス「はぁ………」
セラスの大きいため息。すると、
吟子「はい、コーヒー」
セラス「げ、吟子先輩」
吟子「そんな声出すことはないんじゃない? せっかくアンニュイな雰囲気な後輩に、なにかしてあげようと思ったのに」
セラス「それはありがたいんですけど………。朝、姫芽先輩にも会いまして………。吟子先輩がわたしのためだけにコーヒー入れてくれてるのが、もう怪しいと思っちゃうのは自意識過剰ですかね………?」
吟子「そ、そんなことはないよ? いつも通り。たったひとりの後輩は労ってあげないとね。うん」
セラス「………なるほど」
セラスは少し考え込むと、
セラス「あー、肩凝っちゃったなー、首が重いなー。おやおや? そこに居るのは後輩を労ることに定評のある吟子先輩じゃないですか!」
吟子「こ、こいつ…………! …………わかった」
セラス「え、ほんとにですか?」
そして、吟子はセラスのマッサージを始めた。
セラス「お、おお……? 吟子先輩、なかなかやるじゃないですか。来年の文化祭はマッサージ屋いけますね! あ、もうちょっと強くてもいいですよ」
吟子「いきなり調子に乗って………」
セラス「ふっふっふ。魂胆は見え透いているんですよ。わたしの入るユニットをみんなで探ろうっていうんでしょう。存外、黙っていればこうしてみんながセラスちゃんをかわいがってくれるというのなら、このままというのも悪くな―――」
吟子「村野式マッサージ・爆裂肩」
次の瞬間、吟子によるセラスへの怒りの鉄槌が下った。
セラス「なんですかその技名いいい痛い痛い痛い!!!」
吟子「花帆先輩が疲れを痛みで誤魔化すために使ったと言われる伝家の宝刀。重い肩ごと爆破する勢いで肘を肩に突き刺す最凶のマッサージ、だよ」
セラス「さやか先輩泣きますよそんな名付けされたら!」
吟子「大丈夫。健康にはいい」
セラス「なにも大丈夫じゃない! やめて痛い痛い痛いですってば! ほんとに爆裂します!」
あまりの激痛に悶えるセラス。
吟子「そうだよね。ご機嫌取りなんかより、私はこっちの方がやりやすかったよ。このまま聞かせてもらうから。本当はどこのユニットに入りたいのか」
セラス「それは拷問って言うんですよ!」
セラスの絶叫。しかし、一瞬の隙を突き、
セラス「未来への逃亡!」
セラスは吟子の拘束を脱出した。
吟子「しまった!」
セラス「わたしは屈しません! わたしはわたしの声が好きすぎるので、ソロ活動しかしたくないんです! そういうことに、今決めてましたからー!」
そして、部室から逃亡したセラスだった。
それから数時間後、蓮ノ空・屋上庭園―――。
セラス「うう………」
小鈴「あ、セラスちゃーん!」
セラスの下に、小鈴がやって来た。
セラス「ひっ」
小鈴「ひっ!? なんでそんな怯えられてるの!?」
セラス「小鈴先輩もあのふたりみたいに、わたしに尋問する気でしょう!そんなあどけない顔をして! その手には乗りませんよ!」
小鈴「なにをしたんだあのふたりは……かわいそうに、こんなにふるえて」
セラス「ぷるぷる」
小鈴「でも……セラスちゃんは、どこのユニットにも入りたくないっていうのは、やっぱり本当?」
セラス「は、入りたくないってわけじゃ……。ただわたしはその……いえ。そ……そうです!」
小鈴「そっかあ。でもさ、セラスちゃんが心から絶対にソロがやりたいって。実はあんまりみんな信じてなくて……、徒町もね、なにか隠してるんじゃないのかなあって思ってるんだ」
セラス「うっ」
小鈴「セラスちゃんはきっと言いたくないことだってのも、なんとなく、徒町はわかってる」
セラス「……それは」
小鈴「なので! 心理テストを用意してきました!」
ドドーン!と、擬音が鳴りそうな勢いで胸を張る小鈴。セラスはポカンと小鈴を見つめる。
セラス「…………へ? え、心理テスト?」
小鈴「そう! 言いたくないなら、なんとなく感じ取ればいい!」
セラス「感じ取られたら、だめじゃないですか!?」
小鈴「大丈夫大丈夫、どのユニットに入りたいですか、みたいなことは聞かないから! ちゃんと作ってきたんだ!」
セラス「今度はこういう手なんですね………! 小鈴先輩がせっかく作ってきたものをむげにはできないという後輩心理を突く完璧な作戦……!」
小鈴「じゃあ第一問! 今一番ぱっと出てくる好きな色はなんですか!」
セラス「え、ええと」
小鈴「いち、ピンク」
セラス「あ、選択式なんですね」
小鈴「に、青。さん、オレンジ。はいどーれだ!」
セラス「………どこかの3ユニットの先輩の色です……?」
小鈴「にこにこ」
物凄い笑顔の小鈴。
セラス「わたし的には――、えっと――。ライズスカーレット? とかいいかなと思うんですが――」
小鈴「ライズスカーレット!? ば、ばかな……それではやはりソロになってしまう……!?」
セラス「所属ユニットの話なの隠す気がない……」
小鈴「セラスちゃん、次やろうか次!」
セラス「え? あ、はい……」
小鈴「じゃあ次の心理テスト! カタカナとひらがなと英字だったらどれが好き?」
セラス「……………スリーズブーケ、みらくらぱーく!、DOLLCHESTRAだ……」
小鈴「にこにこ」
セラス「漢字とかですかね」
小鈴「はうぁ………!?」
尽く躱され、膝をつく小鈴。
小鈴「そ、そんな………徒町の完璧なプランが崩壊を始めている………!」
セラス「小鈴先輩、心理テスト得意じゃないんですね……」
すると、セラスの頭にピン!とひらめきが。
セラス「あの、小鈴先輩。逆に、わたしからの心理テストやりませんか?」
小鈴「え!? セラスちゃんも心理テストを!?」
セラス「あなたにとって優しくてお世話をしてくれて憧れの人をひとり思い浮かべてください」
小鈴「ええ!? さ、さやか先輩しか思いつかない!」
セラス「その人が、今あなたにとても会いたがっている人です」
小鈴「そうなんだ!?たいへんだ、じゃあちょっとさやか先輩探してくるね!」
セラス「はい、いってらっしゃい!」
さやかの下へととんでいった小鈴。その背中を見てセラスは、
セラス「ふう。小鈴先輩は素直でまっすぐだなあ………」
― つづく ―
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