蓮ノ空スクールアイドル録   作:松兄

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第84話:それぞれの思い

梢やめぐたちがそれぞれ実行委員の子たちや臨時の会場を探しに分かれて行き、綴理も動こうとしていた。

 

綴理「ボクたちも行こう、さや」

 

さやか「……綴理先輩。さっき、沙知先輩が探してましたよ。綴理先輩のこと」

 

綴理「つ……それは、雨のあと?」

 

さやか「はい。降り始めてからのことです。具体的に、綴理先輩を探している理由までは聞きませんでしたけど……」

 

綴理「……きっと、ライブ中止にしろって話だ」

 

さやか・淳平「「えっ?」」

 

今綴理聞き捨てならない事を言わなかったか?

 

綴理「気にしなくていい。行かなければ、中止にしろとも言われない」

 

淳平「ちょ、ちょっと待て!じゃあライブ決行の判断は、生徒会の許可が下りたわけじゃなくて、沙知先輩にはそもそも相談すらしていないのか!?」

 

綴理「……なにか、ダメ?」

 

っ! そんなの……!

 

淳平「せめて相談くらいしろよ!! それに、もしも本当に沙知先輩がライブを中止にするつもりなら、絶対に何か理由があるんじゃないか?」

 

綴理「雨は、いつ止むか分からないから。だったら雨が止むまで待つより、みんなが帰ってくれた方が、良い一日で終われるとか。たぶん、そういう……でも、ボクは雨の中だって踊れる! 野外ステージだって、雨で溶けたりしない!」

 

さやか「見に来てくれる皆さんもずぶ濡れですよ、先輩……」

 

綴理「だから、それをどうにかしたいんだ。さやも……ボクがおかしいと思う?」

 

さやか「わたしも、というのは……誰とわたしなんですか?」

 

綴理「つ……。さや。ボクはただ、今回のイベントを最高のものにしたいだけなんだ。雨で中途半端とか、そんなの嫌だってだけなんだ。だから――」

 

綴理が言いかけた時、校内放送が鳴った。

 

沙知『オープンキャンパス実行委員、夕霧綴理。オープンキャンパス実行委員、夕霧綴理。至急、生徒会室まで――』

 

綴理「……ボクは、行かない」

 

淳平「綴理……、ライブをしたい気持ちは分かるけど、 俺だって、今日の1日を最高のものにして終えたかったさ。でもこの状況で、何も手立てが無いまま、中学生の子たちを待たせるわけにもいかないだろ?」

 

綴理「だからその手立てを探す、じゃあダメなのジュン?生徒会長のところに行く時間がもったいないよ。探しに行こう?」

 

さやか「綴理先輩! どうして、どうしてそこまで沙知先輩とは壁を作るんですか? 中止の話だったとしたら……生徒会や学校の許可なしに準備をしても、結局ライブは出来ないかもしれません。せめて話し合いくらい……わたしも一緒に行きますから!」

 

綴理「………分かってるんだ」

 

さやか「え?……綴理先輩?」

 

淳平「綴理……?」

 

綴理「ボクはやりたいって気持ちだけ。向こうの方が正しい。分かってる。ボクが、おかしいんだ。ボクも、さやも、ジュンも、そう思ってる」

 

さやか・淳平「「っ!」」

 

綴理「生徒会長が正しい。去年、スクールアイドルクラブを辞めた時も。あの人が生徒会長にならなきゃ、今頃ボクたちは放課後に市場に行くことも出来なかったし、スクコネも使えなかった。他の部活だって、合宿も試合もできなくなってた。……みんな、生徒会長に感謝してる」

 

淳平「…………………」

 

さやか「経緯は、詳しくは知りませんでしたけど……」

 

綴理「生徒会長は、いつも正しい。だから行ったら、ボクは何も言えないんだ。中止、って、たった一言言われたら、ボクはおしまい。分かったって、言うしかない。――いつか、辞める、って言われた時みたいに」

 

綴理……そんなふうに思ってたのか……。

 

さやか「………どうして、何も言えなかったんですか?」

 

綴理「だって……きっと正しいのは、生徒会長の方だから。怪我したばっかりのめぐを、置いていっても。そのせいでこずまで、おかしくなっても。いきなり、ボクの前からっ……居なくなっても……! それでも、おかしいのはボクの方なんだ……。だってこずも、めぐも、ジュンも、生徒会長と話せてて……」

 

綴理の胸の内から溢れてくる気持ちを、俺とさやかちゃんは黙って聞く。いや、聞くことしかできなかった。

 

綴理「さやもっ……! さやだって……色々されても、感謝してた……」

 

さやか「そう、ですね……」

 

綴理「ボクがおかしいんだ。分かってる。分かってるけど……ボクは、ボクがおかしいんだって、ボク自身に言い聞かせるのが、痛いよっ……!」

 

綴理の瞳から涙が零れ落ちた。

 

すると、

 

さやか「綴理先輩。……沙知先輩って、そんなに冷たい人ですか?」

 

綴理「分からない。ボクはあの人のことが、分からない。あんなに楽しかったスクールアイドルクラブを、あっさり辞められた時から……もう、分かんない」

 

淳平(違う!沙知先輩は"あっさり"辞めてなんかいない!)

 

俺が話そうとした時、

 

さやか「……本当に、あっさりだったんでしょうかね?」

 

綴理「さや?」

 

さやか「わたしは、去年のことを知りません。でも、竜胆祭の時に沙知先輩とお話しをした限りでは、綴理先輩をばっさり切って捨てるような、冷たい人には思えませんでした」

 

さやかちゃんは、綴理の目を見て言葉を続ける。俺も驚いた目でさやかちゃんを見るが、黙って聞くことにする。

 

さやか「ねえ、綴理先輩。……後輩に、そこまで無体(むたい)になれるものですか? わたしは、きっと裏では沙知先輩も、すごく悩んだんだと思います」

 

淳平「っ!!」

 

俺は驚いた。さやかちゃんが言った事は、俺が言おうか悩んだことそのまんまだったから。まるで去年その場で見ていたかのような言葉に、俺は心底さやかちゃんを尊敬する。

 

綴理「……どうして、そう言い切れるの?」

 

さやか「そうですねぇ。わたしがどんなに綴理先輩に突然距離を置かれたって、「きっと何か事情があるんだろうな」って、信じられるからでしょうか」

 

綴理「っ!」

 

すると、また校内放送が鳴り、

 

沙知『夕霧綴理――…………待ってるよ』

 

綴理「………ねえ、さや」

 

さやか「はい」

 

綴理「ボクはやっぱり、ライブを成功させたい」

 

さやか「はい」

 

綴理「それからね? ボクはいつもさやに頼りっぱなしで……隣に立ってくれるどころか、さやに置いていかれそうになって、怖かった」

 

さやか「はい」

 

綴理は吹っ切れたように、自分の思っていたことを嘘偽りなく、正直にさやかちゃんにぶつける。それを、さやかちゃんは黙って正面から受け止める。

 

綴理「今もまた、さやには助けられてばっかりだけど……待ってて。頑張って、追いつくから!」

 

さやか「………はい。いつまでも、一緒に頑張りましょう!」

 

やれやれ……。さやかちゃん、本当に1年生なのかと疑いたくなるな。本当に、俺も自信をなくしてしまうよ……。

 

綴理「必ず、ライブできるようにする。だから……!」

 

さやか「はい、それまでに必ず、どうにかして見つけます。ライブをする方法」

 

綴理「行ってくるね。さや。ジュン」

 

淳平「おう。しっかりやって来いよ?」

 

綴理「うん!」

 

そして、綴理は生徒会室に向かっていった。

 

淳平「……さやかちゃんって、本当に俺より年下?」

 

さやか「なんですかいきなり? 紛れもなく、淳平先輩の後輩ですよわたしは!」

 

淳平「……そっか。綴理のこと、ありがとう」

 

さやか「……はいっ!」

 

ー つづく ー




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