ルビコン惑星開拓日誌 博士が愛したコーラル   作:六六

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 時系列は想像にお任せします


活性コーラルの収集及び土壌汚染対策

 今更ながら、ルビコンはコーラルを生む揺り籠である。至る所から湧き出るこのエネルギーは地表からまるで恵みのように湧き立つが、当然その影響は惑星そのものにも問題を与えている。

 

 それは言うまでもないがコーラルによる深刻な汚染問題だ。

 

 調査によるとルビコンで成長した樹木の成分には、ほん僅かではあるがコーラルの反応が確認されている。ルビコンの大地を養分として成育したのだから当たり前の話なのだが、これをこの惑星特有種の虫が食べて、彼等を鳥類が啄む。典型的な食物連鎖が出来上がっているのだが、ルビコンで独自に進化した生物たちは当然コーラルを体内に蓄積している。

 

 以前、コーラルを人間が接種した際に向精神薬の作用が見受けられると言ったが、あれは部分的なものに過ぎない。この星で元来暮らしているルビコニアンは日常的にコーラルを過剰接種している人間をドーザーと呼ぶ傾向にあるが、それにも理由がある。実験動物での観察で徐々に明らかになった話ではあるが、コーラルを恒常的に投与すると脳内の神経伝達物質が異常活性を起こし、初期状態では多幸感を齎すが聴覚異常及び視覚異常が発生し、所謂幻覚や幻聴症状が頻発するようになる。この段階を過ぎると極度の緊張状態や酩酊感に襲われ、苦しみから逃れようと初期段階の多幸感を求めるため再びコーラルを接種する。

 

 ぶっちゃけて言おう。個体差はあれど実験の大部分において示す反応、現地住人の聞き込み調査でも判明しているがコーラルは新エネルギーとしての側面を持つ反面、麻薬としての効能が確認されている。

 

 

 ヤバいなコーラル、キマってんやコーラル。

 

 

 そりゃ何故強化人間外科手術が第一世代であれほど低い成功率だったのか納得出来る。人類は他の生物たちと比較し知能の発達に優れた進化を辿ってきたが、その大元にある脳に直接麻薬成分をぶち込むんだから拒否反応待ったなしも宜なるかな。

 

 だが、その犠牲(コーラル)も無駄ではない。直接投与を施された脳が機能不全に陥るならば、健康体の被験者に予め強化手術を行った脳部を開頭手術によって再利用する方法が今現在技研のホットな研究だ。脳と肉体を分離し他者に移植するアプローチは地球時代の人類も試みていたし、何より成功例がいくつもある。ならば、と過去の技法も利用するのは自然な話で不思議な事でもない。探求者は常に柔軟な思考が求められるものだ。

 

 つい最近耳にしたところ、このアプローチは第一世代よりも成功例が2%上がっているとかで、さらなる研究次第によってはこの強化人間外科手術は第二世代の足掛かりになるかもしれないとのこと。

 

 確かに体は使えても脳が使えないなら移植すれば良い、というゆう着想はいかにも技研らしい考えではあるが、これも未だ発展途上の医療技術。問題の消化には少々足りない。例え手術が成功したとしても被験者には重度の人格障害や拒絶反応乃至知覚障害が度々見受けられるようで、安定性の欠損はやはり重々しい課程だ。

 

 生憎と畑違いなわたしの所感にはなるが、そもそも強化手術に拘りすぎな気もする。機体制御の安定化を模索するなら有人機ではなく無人機の方が良いと思っている。具体的に言うなればAIによる機体操作だ。

 

 以前私が完成させたアイビスシリーズ『IB−01:CEL240』はコーラル集中管理デバイス型AIでありコーラル潮位を計測しながら不埒な輩を排除するために可動している。

 

 今も窓辺でシガレットを蒸しているわたしの視線の先で、湖のように広がるコーラル上空をふよふよと漂っている。地下深くに建設されたルビコン技研都市は大量のコーラル(これをわたしは勝手にコーラル湖と呼称している)を中心としており、その頭上を時折旋回していてるアイビスシリーズのツルリとした曲線を描くボディは機能美にも優れており、作っておいてなんだが癒しを感じる。これが父性……?

 

 更にアイビスシリーズの良い所はそのエネルギー源を全てコーラルで完結させている点にある。極めて純度の高いコーラルで機動するアイビスシリーズは、例えエネルギーが損なわれても眼下にあるコーラルを絶えず供給するため、理論上コーラルが全滅しなければ数百年は稼働する。

 

 

 ふ、勝ったわコーラル浴びてくる。

 

 

 この安全性の確保と敵性反応に対する機能性は無人機だから出来ることで、大規模なコーラルを用いた兵装は残念ながら人間では操作できないし、そもそもそのように設計していない。仮に搭乗出来たとしても機乗者は瞬間的に発生する重力加速度についていけず、肉体が砕けて汚いスープと化す寸法だ。

 

 これが有人機では再現出来ない。どれ程機体の性能が高くともパイロットがいなくてはガラクタと化し、またパイロットの腕がなければ機体の性能を引き出せない。そんな中身に配慮しなければ最大パフォーマンスを発揮出来ない機械に果たして意義はあるのか?

 

 機械工学を専門とするわたしの見解では、考慮には値するがあくまで判断材料のひとつに過ぎない。けれどもネガティブな印象は否めない、である。

 

 わたしが持つ機械の理想形は自立稼働型だ。高速演算AIを搭載した無人機は確かに人間の反射能力には劣るかもしれないが、己に打ち込まれたプログラムに従い行動を開始する自立型は、極端に言えば限定的なプロフェッショナルで自分にあるキャパシティの中で最高率な役割を果たす。更にACや一定多数のMTのような汎用性は少く即応性にも劣るが、AIが人間の代わりとなるので、所謂不幸な人的被害も抑えられる点も魅力的だ。

 

 コーラルは貴重な資源であるが、人間もまた立派な資源だ。現に彼等がいなければ強化人間外科手術のテスト材料は今よりぐっと減るだろうし、無事な箇所があれば再利用可能なのもお得で良い。

 

 という建前が、わたしが無人機に拘るひとつだ。

 

 いやいや、他人の命の責任なんてわたしは御免被る。正直被害がわたし個人で留まるならばそれに越したことはないのだ。

 

 だって他人の被害は怖い。

 

 責任取れないし。

 

 そういう意味では、わたしは強化手術研究に携わる全ての人間に敬意を抱いている。人類未踏の領域に踏み込むためならば如何なる犠牲も厭わぬ彼等の勇気。例え非人道的と揶揄されても躊躇わぬ大胆さこそ、人を人たらしめる由縁だ。研究における滅私奉公は人類の進歩に繋がる眩い輝きだろう。

 

 ……話を大きく戻すが、人体にとって麻薬でもあるコーラルが前提に生命サイクルとして成り立つこのルビコンでは食糧事情に乏しい。そりゃそうだろう、こんな辺境惑星は元々人類が定着するのに向いてないのはデータ上明らかである。

 

 ではこの地で生まれ育つルビコニアンが主に何を食しているのか。

 

 答えは簡単だ。

 

 自分たちで育てたミールワーム。

 

 つまるところ虫だ。

 

 虫なのだ。

 

 

 ……虫なんだよなあ。

 

 

 いや、食物として運用されているミールワームを否定はしない。

 

 彼等はミールワームを貴重なタンパク源として消費している。実際わたしも食べたことはあるが味は兎も角、意外にも食感が柔らかく腹持ちも良かった。更にこのミールワーム、驚くべき特徴を持っておりなんとコーラルを体内で分解し濾過する逞しい進化を遂げている。人が食べる頃にはコーラルが残っておらず、安全に接種することが出来るのだから、生命とは実に神秘的だ。

 

 しかしだ、栄養素があまりに偏り過ぎていませんか?

 

 人はタンパク質のみで生きるに非ず。

 

 確かに満腹感はあったが、他の栄養素がまるで足りない。三大栄養素が尖り過ぎている。きちょタンが貴重ではない。

 

 一応ルビコニアンの経済区画では他に食べるものも並べているが、この惑星に住む人口比率ではとても賄いきれない。今現在コーラルが各企業に注目されているので、他の惑星との交易もある程度行われているが、過去のルビコニアンは殆どミールワームのみで育った形跡がある。

 

 必須栄養素が損なわれた状態で生きていけた彼らが特殊なのか実に興味深いが、それはこの際置いておくとして栄養不足が常に隣り合わせなのは実にいただけない深刻な問題だ。もし仮にミールワームが絶滅寸前に追い込まれてしまえばルビコニアンの存続が危うい。

 

 そして現地住人を見捨てるほどわたしは冷酷にはなれない。

 

 よし。

 やるか、地質改革。

 

 要はルビコンを覆うコーラルが混じった土壌が問題なのだろう?

 

 その上に違う惑星から運び込んだ土で覆うには根本的な解決策にはならない。何故なら運び込まれた土で暮らす微生物がルビコンの生態系を破壊する可能性もあるし、何より地表から滲み出るコーラルで直ぐ様汚染される。

 

 恒星間交易に依存するのも抜本的解決には至らない。酷な話かもしれないが、極論ルビコンで価値あるものはコーラルしかない。イーブンな条件が望めない以上、行き着く先は企業に搾取され目茶苦茶にされたルビコン経済市場のみである。

 

 だったら土壌を汚染するコーラルを無力化乃至吸収し、なおかつそれらをエネルギーに稼働する何かを開発すれば良いのだ。我々は貴重なデータサンプルとして地中に埋まったコーラルを回収出来るし、ルビコニアンは大地を開拓して第一次産業に着手出来るウィン・ウィンな関係性が出来上がる。自給自足の環境整備が出来上がれば農業生産が生まれ、ルビコニアンの食糧問題が多少なりとも解消する可能性がある。

 

 なかなかに悪くない考えなのでは?

 よし、勝ったわコーラル吸ってくる。

 

 所で諸君はミミズという生物を知っているだろうか。

 

 環形動物門に類する彼等は特に農業で重宝されていたが、土壌の化学的性質の改善及び物質的性質の改善、更には土壌の機能を高める畑のお医者さんなのだ。こと食糧事情に置いてはわたしよりも上で比べのも烏滸がましい、大変ありがたい存在ではあるが、このルビコンには生息していないのは確認済みだ。地球のように肥沃な大地ならまだしも、太陽から遠く離れたこの辺境惑星は生態系にも牙を向ける。コーラルと共にある地面ではミミズに類する生命は誕生しなかったようだ。

 

 だったらよう、作ればいいじゃんミミズ先生をさ。

 全体像は簡単だ。機体設計もミミズを模倣すれば良い。

 

 機体頭部には螺旋型粉砕機を三つ搭載して地面を圧搾し、地中深くでもヌルヌル動けるように多関節機体でいこう。機体の隙間に土が詰まるとメンテナンスが面倒だろうから、各関節部位にも螺旋型粉砕機が必要だ。

 

 体高や全長はデカければデカいほど良い。このルビコンに積載されたコーラルの大地を解すのだから、小さな機体では効果に時間がかかる。ここは効率重視の巨大化を採用。

 

 そして本来の役割、地質改善は機体内部で行う為機体全体の強度も上げておく。頭部からコーラル物質を大量に含んだ地面を吸収し体内で濾過、その後に後部から排出するのだから、途中部分が脆弱では意味がない。外皮装甲は他のチームと相談する事になる。

 

 地面を粉砕する頭部部分は更に頑強性が必須となる。どうせ地中に埋もれた岩盤にもぶつかるだろうからブレードは鋭利さではなく強靭性をメインとした金属が欲しい。そもそも粉砕機部分に動作不具合が出ないのが理想だが。

 

 あ、そうだ。

 顔部にプライマリシールドを搭載したらどうだろう。不安だしセカンダリシールドも採用しよう。そうすれば螺旋型粉砕機部分の破損は防げる。出力も換装が面倒だからコーラルジェネレーターを使用してドリル刃が欠けないようにする。

 

 

 ざっと構想を脳内で作ってみたがなかなかに良いのでは?

 

  エネルギー源は常に顔部から供給されるし、いざとなれば自衛目的でコーラルミサイルでもぶっ放せば良い。管理下権限はわたしが持ってれば良いし、諸々の工程も算段がついた。

 

 ならばこうしてる暇はないぞ。

 シガレットなんぞ作業中にも吸える。今休憩よりも優先すべき事項が生まれてしまったのだ。そうなりゃもう作るしかないよなあ!

 

 

 正式名称は後々決めるとして、もう脳内では通称名も決まった。

 

 

 農業の偉大な先輩ミミズ先生と、ルビコニアンが今まで培ってきたミールワーム育成方法に肖って『ラヴズワーム』と名付けよう!

 

 上手くいけば量産できる可能性もあるな。

 

 よっしゃ、コーラル泳いでくるわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、これは余談だが、通称名ラブズワームはドクターの言葉遊びだと勘違いされ、アイスワームと名称が固定化された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 画像データ:STVの画稿

 覆面戦場画家「STV」の画稿

 STVは人が描くことに拘った最後のひとりとも言われ

 その作品は一部の好事家に高値で取引されている

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 STVメモ

 ・晴天の中、男性が「諸行無常」「一汁一菜」と言いながら

   鍬を振るっている

 

 ・うるさい 

 




アイスワーム「やあ」
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