ルビコン惑星開拓日誌 博士が愛したコーラル   作:六六

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 徐々にコーラルの実態が解明されています。
 あと原作に名前だけ出た方が軽く登場します。


洋上都市完成にあたっての贈り物と新たな所長

 ルビコンには人類の故郷である地球に類似した点も少なからず存在する。それが海だ。無論地球の海とは成分的に似ても似つかはないが、塩分濃度の少なさの代わりにコーラルが入り混じっている。

 

 

 これを海と定義するには少々スパイスが効きすぎているが、惑星ルビコンに青々と広がるその雄大な水源は海と表現する他ないだろう。

 

 

 さて、地球では母なる海と称されたように、海は生命誕生の舞台だ。人類の酌量を超えた途方も無い時間の末に生命の祖は海中で産声を上げたが、このルビコンにも似たような現象が過去に発生したデータが見つかっている。無論地球と辺境惑星たるルビコンの環境は全く別物のため、ルビコンの生命は独特な進化形態を選んだ。

 

 

 代表であげるならば、やはりミールワームだろう。今では食用に養殖もされている彼らだが、この星が生むコーラルを主要な餌に吸収し繁殖を行うのだから、いかにルビコンが生命単位でぶっ飛んでいるのかが察し余る。

 

 

 確か過去の地球では極一部で棲息していたコアラという有袋類は、毒性を含んだユーカリを食べることで生存戦略を生き抜いた事例もある。しかし栄養素が殆ど無い植物ではマトモに行動することが出来ず、コアラは1日の殆どを睡眠に充てがいエネルギーの消費を抑え、またユーカリの毒性を腸内で分解しなければならない珍しい進化()を遂げたのであるが、それと比較してミールワームはどうだろう。態々コーラルを食料にする理由があったのか。

 

 

 それが近年の調査で明らかになったのだ。この調査は新しく技研に着任した所長が集めたチームによって解明した話だが、コーラルはただの物質ではなく生体物質だったのである。正確には群知能にも似た習性を持ち、群れとして集合的振る舞いを見せ液体の流動性を利用しながら、他のコーラル群に集う働きを開始するのだ。

 

 

 まさしく青天の霹靂。

 雲間から光が姿を現したかのような、知見の閃きだ。

 思わずコーラルをジョッキグラスでイッキした。

 

 

 つまりミールワームはただの液体としてコーラルを啜ってるのではなく、コーラルに含まれた生体物質を栄養源とする進化経路を取捨選択していったのだ。なるほど、それならばミールワームの成体が何故あれ程の巨体となるのかが納得がいく。人の身を凌駕するまで大きくなるのは、つまりは莫大なコーラルエネルギーを余すこと無く栄養に出来る強力な消化器官が備わるからこそ出来る芸当なのだ。

 

 

 故にルビコニアンはミールワームを安全に食べられると判断し、態々ワーム専用の養育ポット運用にこぎ着けたのである。何とも血の滲む執念だ。生への執着は飛躍した探究に足を踏み出す。それが険しい道であっても思索の歩みを止めなかった先人には畏敬の念を抱かずにはいられない。

 

 

 この人類が生存するには過酷な辺境惑星でしか生まれぬ知恵である。生物は多種多様な進化を選び、人類はその限られた環境下で最適化を行える良いデータサンプルになるだろう。

 

 

 そしてコーラルのさらなる理解へ深度を高めた新たな所長はどうやら優秀な人材であるらしい。確か、ナガイ教授、だったか。これからも是非その叡智を技研で磨いて欲しいものだ。

 

 

 と、話しが逸れたが何故わたしが海洋について言及していたのか、それは現在わたしが海上にいるからだ。

 

 

 アーレア海で着工された洋上都市ザイレムがとうとう完成したのである。一応名義貸ししかしていなかったわたしも完成記念に招待され、久しぶりに技研都市から外出したが、ヘリから上空で眺めたザイレムは全体的に良いフォルムをしていた。

 

 これが都市の機能を保持しながら、いざとなれば浮上する事が可能なのだから実に面白い。しかし、そのような緊急事態とは一体何なのだろうか。可能性としてあるのはコーラルが臨界点を超えルビコン惑星の許容量用も超過して、惑星諸共吹き飛ばされる。これが今ある判断材料では非常に現実味がある可能性だが、そうなった時点で詰みなのでは?わたしは訝しんだ。

 

 

 まあそこら辺はわたしの仕事ではないし、ナガイ教授あたりが何とかするだろう。何ともならなければコーラルの異常活性に巻き込まれるだけだ。それで済むなら別にわたしが気にするような話でもない。寧ろコーラルに融解した自我がどうなるかが気になる所だ。

 

 一応コーラルの最低致死量はデータ情報で確認されているが、それは肉体が耐え切れなかった際の話だ。例えばコーラルに耐性をつけた被検体に再度コーラルをぶち込んだ場合、どのような反応が発生するのか。つまりコーラルの二度漬けである。わたしの管轄外だから、これは強化手術研究部門から報告待ちだろう。

 

 

 そう言えば、強化手術の安定化が見込めるらしい。コーラルを利用するアプローチは変わりないが、脳部に直接投与するのではなく開頭手術で以前わたしが作成したコーラル管理デバイスを埋め込む方法だ。これならば脳内でコーラルが吸収されず、失敗した際に無為にコーラルが損なわれない。わたしとしても嬉しい話だ。

 

 

 しかしなあ、あのコーラル管理デバイスは生体用に合わせて作ってないんだよなあ。

 

 

 そもそも無人機体用に開発したものだから、根本的な情報処理能力が人体に則していない。乱暴な言い方になるかもしれないがコーラル管理デバイスの演算能力に脳がついて行けず、言葉通り脳部がショートするだろう。それでも脳の移植手術と比べれば拒絶反応は抑えられる見込みがあるらしいので、やってみる価値はあるかも知れない。計算上手術の成功率は二割に増えるとか。もしそれが本当ならば強化手術は次のフェーズに移行するだろう。コーラルを無駄に消費しない程度には頑張ってほしい。

 

 

 ……話しがまた逸脱してしまった。

 

 最近は思考の散逸率が以前と比較すると増えている傾向にある。

 

 

 これもわたしが毎日のようにコーラルしてるからかもしれない。

 

 

 まあコーラル美味いからね、しょうがないね。

 今もスキットルに入れたコーラルを楽しんでいる最中だ。

 普段とは違う景色を眺めながら堪能するコーラルも、また味わい深い。

 

 

 今回ザイレムに招待されたのは、名義貸しした由縁のみではない。折角なので昨日完成したアイビスシリーズの最終後継機『IB−03C:HAL826』の納品に来たのだ。流石に招待された身なのに手ぶらで来るほど、わたしは恥知らずではないつもりだ。言わば完成記念のプレゼントである。そしてプレゼントとは相手が喜ぶ物を渡すもので、自分の趣味を押し付けるようなものでもない。

 

 

 なので今回設計したアイビスシリーズはわたしとしては珍しい有人機だ。普段無人機体を中心に開発生産している身だが、今回の有人機開発は幾分か新鮮な気持ちだった。

 

 

 パイロットの負担を考慮しながらの設計は中々に骨が折れる作業だったが、作った感想としては悪くない、だ。今までのノウハウを応用し各部調整を進めていったが、都度無人機体との差異に躓き頭を抱えるなんて、一体いつぶりのことか。探求者として未だ駆け出しだった初心の頃を思い出す良い機会だったと思う。

 

 

 とはいえそれだけでは満足出来なかった事実もある。やり切った感じがあまり無かったのだ。達成感、という言葉が一番しっくりくる。

 

 

 なので、むしゃくしゃしてアイビスシリーズ『IB−07:SOL644』も作った。

 

 

 やっちゃったぜ、はは

 

 

 しかし言い訳もさせてほしい。

 

 

 わたしは機構工学をメインにする探求者だ。そして無人機の開発設計を得意とする自負もある。故に有人機の設計は本当に久しぶりだったのだ。少なくとも、ルビコン調査技研に所属してからは始めてだと断言できる。

 

 

 普段とは異なる壁にぶつかる作業工程。今まで養ってきた技術を転用しながら不得意分野の機体を作り上げる時間は、わたしが想像していたよりも鬱憤が溜まるようで、気晴らしのコーラルも目に見えて増えていた。

 

 

 なので『IB−07:SOL644』は負担や費用を完全度外視した設計で、所謂趣味機体というやつだ。超高高度を超えて宇宙空間でも稼働し、コーラルエネルギーを爆発的に使用した瞬間加速度は目を見張るものがある。テスト運用した際には技研都市の一区画が吹っ飛んでしまったのは傑作だ。思わず腹を抱えて笑ってしまった。

 

 

 とはいえ、機動するにも運用しようにも大量のコーラルを一気に燃焼してしまうので、恐らくは動かす機会もないだろう。あれはわたしの工房に鎮座させておく。廃棄するにはあまりに費用がかかり過ぎだし何より勿体ない。

 

 

 あと見た目カッコいいしな。ここ重要ですよ。

 

 

 ただひとつ気になる事もあった。

 

 

 『IB−03C:HAL826』はカテゴライズ的にはACなのだが、有人ACが今もなお廃れない点にはその汎用性が関わってくる。状況に合わせてパーツを組み換えれる有用性はわたしも認めるが、戦況によっては機体にダメージを負うのは致し方ないとして、パイロットの安全性がお座なりな気がするのだ。

 

 

 無人機体ならば考慮しない部分だが、ACは基本的にパイロットが操縦する。無人ACも確かに存在するが、基本的には人が乗る。人体の神経伝達作用を前提に機動するためパイロットの存在が不可欠であるが、時として熟達のパイロットでもその命を落とすのが戦場だ。過酷な戦闘で生き残るため、あるいは有効な戦果を満たすために日々ACを駆る彼らが何故場合によっては命を散らすのか。

 

 

 それは、無論機体がダメージを蓄積させ本来のポテンシャルを発揮出来なくなる瞬間。つまりパーツ故障が要因だとわたしは思う。

 

 

 ダメージが大きくなれば、手っ取り早く破損箇所を取っ換えてしまえばいいのだが刻一刻と変化していく戦場ではそんな時間もない。引き返す暇なんてありはしないだろう。

 

 

 何が言いたいのか。

 

 

 現行のACには継戦能力が足りない。

 

 

 今回『IB−03C:HAL826』を手掛けたわたしの率直な感想だ。

 

 

 アセンブルによって驚異的な戦闘能力を発揮し、場合によっては瞬間的判断を求められ柔軟な対応力も行えるメリットは確かに無人機にはないものだ。定められたプロンプトで行動する無人機は、言ってしまえばそれ以外の事は無論実行できない。自らの役割にのみ没頭するよう予め設定してあるのだから、それ以上を求める方がお門違いである。

 

 

 しかし、先程挙げた有人機体のメリット性それらは全て搭乗者に依存するのもまた事実なのだ。

 

 

 パイロットが行動不能となれば無論ACは操縦不可に陥り、あっさりと死に至る。高性能な機体に乗ってたとしても其処だけは普遍だ。無論そうならないよう幾つもの試行錯誤は試されていて、強化人間外科手術が良い実例だろう。

 

 

 腕利きのAC乗りは代え難い人材でいつでも求められてきた。故に軍事産業の一環として強化人間の手術はパトロンである企業が求めるそれであり、上手く研究が進めば熟練のパイロットが量産できる点で特に注目されている。

 

 

 例え、多くの出血を強いてもだ。

 

 

 まあ、技研の人間はそこら辺あまり気にしてないが。彼等は研究の輩で、可能性の探索に夢中なのだ。わたしも含めて、だが。

 

 

 そんな訳で、ACにおいてパイロットは心臓なのだ。

 

 

 心臓が止まれば無論機体は動かなくなる。そしてそのまま死亡するのは目に見えている現実だ。

 

 

 久しぶりに有人機を手掛けながら、わたしは思ったのだ。

 

 

 開発設計に携わった機体の中で、パイロットが死ぬのは御免被ると。

 

 

 わたしとは関係のない場所で亡くなるのは構わない。生憎わたしは聖人ではないのだ。救済の真似事をする必要性を一欠片も感じない。いつか人は死ぬべくして死ぬのだから、個々個人でそこは受け入れてほしいが、わたしの責任下で誰かが死亡するケースは遠慮願いたい。人命の責任なんてわたしは負える人間ではない。余分と言い換えても良い。

 

 

 なので、今回片手間にリペアキットツールなるものを作ってみた。

 

 

 仕組みは簡単だ。極最小のナノマシンを各所ハードウェアに搭載し、パイロットの任意のタイミングで損傷箇所を修繕するようにしている。しかしながら搭載する量も使用回数も無限ではない。何度も使用できるようにナノマシンを弄った場合、修繕速度と精度が格段に落ちるのだ。

 

 

 故に再利用ではなく使いきり。限られた使用回数で安定性のあるパフォーマンスが可能な状態にする。

 

 

 そうすれば、大体不可能な人材を損失するリスクがグッと減るだろう。構造も簡単だし安価な案ではあるが、むしろ何故今までこのようなメソッドがなかったのか若干不思議でもあるが、そこはまあ良いだろう。

 

 

 この技術はプロモーターの企業たちにでも適当にばら撒いておこう。ある程度支援金のかさ増しが見込めるかもしれない。

 

 

 なにぶん研究調査や技術開発は金食い虫なのだ。アイビスシリーズなんて特にそうだ。恐らく予算の都合上、今回手がけたIB−03C:HAL826がアイビスシリーズの最終後継機になる。趣味にしては少々高値だし。

 

 

 故に、数分で思いついたリペアキットも金にしとくに越したことはないが、こんなものでも資金を寄越してくれるのだから、企業たちは実にちょろいものだ。

 

 

 

 さて、そろそろパーティ会場に向かうとしよう。

 

 

 わたしのサプライズプレゼントに皆が度肝を抜かれると、とても嬉しいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 なお、リペアキットツール技術はこれ以降ACに深く浸透し一般的化するまで、そう時間がかからなかった事実をドクターは知らずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナガイ教授の私的随想録

 

 殘骸から抜き取った文書データ

 

 ルビコン調査技研所長ナガイ教授の日誌

 

 これはその一部であるようだ

 

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 私がルビコン調査技研に着任した際

 

 技研は恐ろしい魔窟となっていた 

 

 人が越えてはいけないラインを踏み潰す数々の研究

 

 非人道的、の言葉では足りない。冒涜的な研究データ

 

 夥しい血と死の気配が

 

 狂乱とも呼べる探求の熱意で常に漂っていた

 

 その根源には常にドクターの存在がいた

 

 技研創立時の初期メンバーらしいが

 

 彼は見た目と年齢が全くそぐわない

 

 一度会話を交わしたが

 

 紳士的な態度とは裏腹にその瞳は大凡人のものではない

 

 ドクターは一体何者なのか

 

 私は彼が怖くてたまらない




 個人的に一番謎に感じているのがリペアキットです。
 今までのシリーズになかった要素だったので、最初にプレイしたとき
 「フロムさんがそんな優しいはずがない、絶対何かあるやつや!」
 と、警戒したのですが特になにもなく余計に「??」となりました。
 しかし戦闘中にリペアするとして、具体的にどのような方法で瞬間的に行うのかが思いつかなかったので、私はナノマシン使用説が有力かなあ、と思っています。
 皆さん、どう思います?
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