ルビコン惑星開拓日誌 博士が愛したコーラル   作:六六

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 ジャブ程度の黒幕登場。


技研都市再拡張と博士のやらかし

 ナガイ教授はどうやら他の研究者たちと同じように、所謂天才らしい。

 

 

 彼の調査によりコーラルへの知見は新たなステージに向かっているのをわたしは肌身で感じている。新しい風は淀んだ空気を浄化させ、偏屈に固まってしまった考えを吹き飛ばすものだ。

 

 

 わたしは変化を愛している。世界には変わるもの変わらないものも存在するが、わたしのカオスではそのようなものは通用しない。存在は存在するだけで変わっていくものだ。幾ら誤魔化そうと試みたとしても、幾ら上辺を固定化しても表面上乃至内面上不変なものはない。

 

 

 永遠に愛しあう誓いを願った夫妻の中が時間と共に情熱を無くすように。あるいは神の園に暮らす人間が好奇心と誘惑に溺れて林檎の果実を毟り取るように。

 

 

 人類を含めた変化の可能性は予測は出来ても計算できない。数値化し分解された神秘の輝かしさは、回避不可能な未来を創造するかもしれないが、それこそ楽しみにしなければならない。因むとわたしはデザートを最初に食べるタイプなので、堪え性はどうやら胎盤の中に置いてきてしまったらしい。

 

 

 それはさておき、ナガイ教授のチームはコーラルの新たな可能性を見出したのだ。元々コーラルは人類の新たなエネルギーとして注目されていたが、調べれば調べる程に面白い実態を晒してくれる。全く持ってワクワクさせるじゃない。

 

 

 過去の調査実験でも判明した話ではあるが、コーラルは謂わば目で捉える事が出来ぬほど微弱な微生物でミールワームは彼らを栄養源としていたが、どうやら最新の研究では情報導体としてもコーラルは極めて優秀らしく、特に鮮度の高いコーラル群は往来の導体を超えた働きを見せるらしい。

 

 

 つまりコーラルは非常に燃費の良いエネルギーでありながら栄養素を含み、コーラルそのものが現在主流の導体の上位互換に値するのである。

 

 

 凄すぎてもう無理、コーラルしよ……。

 

 

 道理でコーラルを主要動力にした無人機体が想定以上のパフォーマンスを発揮している訳である。

 

 

 以前開発したアイスワーム(本当はラヴズワームだったのだけれど)はとんでもないパワフルさで地中奥深くを爆進してるので、やり過ぎちゃったかなあ、と思ってもいたのだがコーラルが原因にあったならば得心がいく。

 

 

 お陰でルビコン全土の汚染地帯の浄化作戦は予想を超えた結果をもたらしてくれている。このまま運用していけば、ルビコニアンの生活範囲も拡大する可能性が非常に高くなる。現にアイスワームが通過した地帯ではコーラル反応が以前よりも希薄化しており、実験で植えた食用の草本植物が人体に影響を及ぼさない程度にまで抑えられているので、地質改革も夢ではない。ルビコンの自給自足が現実味を帯び始めたのだ。

 

 

 とはいえ、良いことばかりでもない。

 

 

 アイスワームのパワーは作っておいてなんだが、純粋な運動能力は今まで開発してきた機体とは別格であり、更にそこへ顔部から回収したコーラルエネルギーも加わるのでとんでも無い事になっている。無闇矢鱈と動かしてしまうと地殻変動を起こす可能性も否定できない。故にアイスワームのAIは適宜アップデートし、危険性を及ぼしそうなら緊急停止するようにしてある。わたしは地中内のコーラルを積極的に収集し、ルビコニアンの食糧事情を改善したいだけであって、彼らの生活を脅かしたい訳ではないのだ。

 

 

 あと、これはそりゃそうだ、という問題点もあった。

 

 

 目茶苦茶五月蝿いのだ。

 

 

 もうちょっと考えれば思いつきそうなものだったのだが、あれ程のサイズを搭載した機体が全速力で地中を掘り続けているのだ。地鳴りの如し騒音問題はルビコニアンの多くに不安をもたらしてしまった。そりゃ連続して地響きが起こり、地面を揺らすのだから、現地住人からすればたまったものじゃないだろう。

 

 

 まことに、スマソである。

 

 

 とはいえ解決策は未だ見つかっていない。わたしに出来る事は起動のON-OFFくらいなものだ。しかしそれも抜本的改善点には至らない。

 

 

 次作るのは静音設計も念頭に置くので、もうちょっと年単位で待ってて欲しい。

 

 

 まあ、それは一旦おいとくとして、現行稼働しているアイスワームがあれ程のポテンシャルを発揮するのだ。わたしの自信作であるアイビスシリーズはもっと凄いことになるのではないだろうか。初期機体『IB−01:CEL240』はコーラル湖を守るため別に問題ではないとして(昨日コーラルをくすねようとした企業のスパイは機体ごと粉微塵になったが)、工房でコレクションと化している『IB−07:SOL644』そして洋上都市ザイレムに寄贈した『IB−03C:HAL826』の戦闘力は大丈夫だろうか。宇宙空間でも問題なく稼働できるように耐久性を高めているが、全力で稼働した際に自壊しないだろうか。

 

 

 今はそれが少々不安である。

 

 

 しかしながら、2機共に今の所目立った改良点はないし、そもそも『IB−07:SOL644』は起動する予定もない。寧ろわたしが思うべきなのは、開発者としてあの2機が起動した際、どれ程のパフォーマンスを魅せてくれるのかという期待だろう。そこは反省しなければならない。反省は人間の特権である。

 

 

 さて、そろそろ現実を直視しなければならない。

 

 

 以前わたしは『IB−07:SOL644』のテスト起動をした際、ルビコン技研都市の一区画を全損させた前科がある。当時は大爆笑したが、思いもよらない破壊騒動を起こしたのは事実である。倒壊した設備費も馬鹿にはならないし、研究資材の損失は探求者としての汚点だろう。

 

 

 そんな訳でナガイ教授に釘をさされてしまったのだが、罰として区画再整備を命じられたのである。全くもってひどく当たり前の話だ。

 

 

 しかしながら、改めて事故現場を現地視察しているのだが酷いものだ。建設した研究棟はボロボロで居住区域にも余波が及んでいる。これは改築するよりも先に一度更地にしてしまったほうが良いだろう。部分的修繕はどうしても見た目的にアンバランスで如何せんわたしの美的感覚にそぐわない。更に建設当時の建材を準備するほうが明らかに面倒だ。

 

 

 けれども勿論わたし一人、人力でどうにか出来る規模の話でもないので、更地にするため専用の機体を作ることにした。

 

 

 当初はミサイルでも使って区画ごと改めてふっ飛ばそうと準備していたのだが、思わぬ小遣いがわたしにもたらされたのである。

 

 

 なんでも昨日企業達に技術提供したACのリペアキットツールが面白いように金が生まれているのだとか。わたしは金のために研究開発を行う人種ではないが、どうやらパイロットの安全性はどこの企業でも課題であって、彼らの生存率を高める技術は革命にも等しかったらしい。

 

 

 故に企業は大金を払ってでもリペアキット技術を欲したようなのだが、わたしから言わせて貰えば他の専門家どしたー? である。

 

 

 わたしは機構工学の、もっと言えば無人機開発設計の専門家だ。兵器開発や軍事産業は畑違いも甚だしい所ではあるのだが、あんな簡易的な技術に群がるのは首を傾げざるをえない。確かに新たな技術は、場合によっては金になる。だがあれは使いきりのナノマシン技術を多少改良したぐらいのもので、珍しくとも何ともない、こう言ってはなんだが誰でも考えつきそうな案ではないか。もっとACを専門とした者なら更に素晴らしい技術をとうに開発してても可笑しくない話だと思うのだが。

 

 

 その点をケイトに問うてみたが「ドクターの頭脳が企業を凌駕しただけの話しでしょう」とのことだ。

 

 

 ケイトはわたしの話し相手に作った提案型AIだ。技研に在籍してもう何十年も経つが、流石に見知った顔の初期メンバーはもう殆どいない。純粋に寿命だったりとか、実験での事故死とか、あるいは技研から離脱してしまったからとか様々な理由によってわたしの前からいなくなっていく。自然の摂理は仕方ない事だし、都合や信義が合わなくて辞めるのも致し方ない事だろう。

 

 

 それでも技研に所属する人数の総体数は大きく変動はしないのだから、研究者とは業が深い物なのだが、ここ数年でわたしはすっかり重鎮扱いされてしまい、些か寂しさを覚えてしまったのだ。

 

 

 別に人間強度が低下したとか、そんな思考回路は端から持ち合わせていないが、どうにも昔日と比較しがちな老いに似た悲嘆が生まれてしまい、ついコーラルする頻度も増えた気がする。

 

 

 コーラルするとはなにか? 

 

 

 それはコーラルしてから考えろ。

 

 

 兎も角、これではいかんと思いつきで作成したのがケイトだ。

 

 

 なにぶん無人機に搭載するようなAIではないため、成長を促すプログラムも適宜行ってきたが、話し相手ぐらいにはちょうどいい。更に管理プロンプトも入れているので、小金の知らせをくれたのもケイトだ。暫くは話し相手の退屈はしないだろう。

 

 

 話を戻すとしよう。

 

 

 そんな訳でそこそこの金を偶発的に手に入れたわたしは思ったのだ。

 

 

 これを今回作成する機体の開発費にあてよう、と。

 

 

 これがわたしなりの反省だ。

 懐にしまい込むなんて無粋な真似はしない。

 

 

 とはいえ、機体に求めるものはそう多くない。作りは非常にシンプルだ。

 

 

 アイスワームのように多角的な目的がある訳でもなく、言ってしまえば建築物を破砕するだけの機能があれば良い。ついでに耐ショック性に優れれば良いので、そこまで分厚い装甲も必要ない。必要なのは硬いものを継続的に削れて、建材を砕ける動力だけで良い。

 

 

 ちょうどいいエネルギー源もあるしね(コーラル)。

 

 

 工事道具を参考にした場合、やはりローラー回転は欲しい。圧搾機ではなく、回転機構の掘削機ならばそこまで複雑な作りにならない。自立性も考えればタイヤ型がイメージとしてはちょうどいいだろう。ざっくりとした形は自走する丸いノコギリがいい塩梅だ。

 

 

 けれど折角自走するのだから余計な動きは加えたくない。外部にカバーはいらないだろう。縦移動を主軸にするなら、高速回転で根詰まりを起こさないよう出力を上げて、大きさは建築物を目的とするなら10メートルから20メートルは欲しい。

 

 

 あとは、一枚刃では更地にするのが難しいので回転する刃部分は5、6枚か。そこは実際にバランスが取れて自立出来るよう適宜確認が必要だ。それと倒れた際の復帰力がなければならない。そもそも倒れないように設計するのはナンセンスだ。もしもの事を想定しない専門家がいるだろうか。いるはずがない。そこは少々拘っても問題ないはずだ。だがどのようにして復帰するかは課題にしておこう。

 

 

 大体の構想は出来上がった。作りは簡易的に出来そうだから量産の見込みがある。

 

 

 一列に並んだ回転式採掘機が一斉に走り出す様を思うと次第にドキドキしてきた。それらが高速回転しながら建物を薙ぎ倒していく光景はきっと楽しいに違いない。それなら大量生産を目的に多少耐久力を下げるか? いや、剛性を落とすと摩耗が速くなり結局効率が悪くなる。そうだ、当初使用するはずだったミサイルが使えるのではないか? そうすればより効率性が増すだろう。

 

 

 よし、取り敢えず作ってみるか。

 

 

 「承諾しました。9番工房を開放しておきます。そしてドクター、開発名はいかがいたしますか?」

 

 

 んー、今回はそこまで拘りないし簡単なものでいいだろう。

 

 

 ……ヘリアンサス型破砕機、とか?

 

 

 「検索……ヘリアンサスは向日葵の仲間、花言葉は憧れ、光輝、そしてあなたを見つめる、という意味を持ちます。良い名前だと思います」

 

 

 ありがとさん、さて仕事を始めるとしようか。

 

 

 「かしこまりました。サポートはケイトにおまかせ下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナガイ教授の私的随想録

 

 殘骸から抜き取った文書データ

 

 ルビコン調査技研所長ナガイ教授の日誌

 

 これはその一部であるようだ

 

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 またドクターが何かを開発しているらしい

 

 彼はコーラルの危険性を理解しながら

 

 まるで楽しんでいるかのようにコーラルを利用している

 

 あれから調査を進めてわかったのは

 

 ドクターは技術開発局の顧問だということ

 

 そしてアイビスシリーズを手掛けながら

 

 今まで技研で生み出されたC兵器を全てひとりで開発した

 

 それぐらいだろうか

 

 彼の頭脳はあまりに異質すぎる

 

 私の懸念でよければ良いのだが

 

 ドクターが技術開発局の顧問ならば

 

 現在第四世代まで進んだ強化人間外科手術

 

 惨憺な実験の数々を、彼は黙認していたのだろうか?

 

 もし、本当にそうであったならば、彼は怪物だ

 

 ……最近第一助手の精神状態が不安定な傾向に見える

 

 悪影響を受けなければよいのだが

 

 




筆者は戦闘ログの回収と、三週目のミッションでだいぶ苦戦しました。
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