赦してくれぇ……赦してくれぇ……
当然ながら、惑星封鎖機構の動きは迅速である。
緊急事態に即応し危険性の高い惑星を閉じ込めなければならないのだから、遅行は許されない。自分たちが遅れてしまえば、その分だけ人類に害を及ぼす可能性が増すのだから、考えるまでもない話だろう。恐らくは複数のパターンを段階化し、システムがマニュアルを作っているのだろうが、実に有能な人工知能であるとわたしでさえ舌を巻かざるをえない。そも目的が揺るがないのだから、大体において判断を間違わない。ブレインとしての優秀さは、何故惑星封鎖機構が現在も活動できているのかが証左の故だ。
基本的な話であるが、企業にとって封鎖機構は邪魔でしかない。行動原理で例えるならば企業は欲望であり、封鎖機構は理性である。両者は相反する組織なので、時には敵対する事もある。人間と同じで利に走るか、愚を守るかは遭遇した場面の判断になるが、企業が利潤にひた走る際、惑星封鎖機構も同じく動き出す。過去には企業同士が争いあい、惑星の総人口を大きく減少させた例もあるのだから、人類種の存続を大願とする封鎖機構が動かぬ道理もない。
しかし、繁栄を望む企業が道行きを阻む封鎖機構を好むはずがなく、ある時は企業同士が手を組み封鎖機構と対峙した過去もある。それでも封鎖機構が今日まで組織として成立している要因としては、先程述べたようにシステムの優秀さがあるが、保持している軍事力と連携性。特に軍事力に至っては目を見張るものがある。
例を上げるならば、やはり衛星砲だろうか。惑星軌道上を常時監視し、怪しげな存在が近づけば問答無用で撃ち込まれるそれは神の杖と評しても良い破壊力を秘めている。艦隊規模の行軍ならばいともたやすく一掃可能な射程距離と熱量はまさに脅威だ。更にそれを行使するのはシステムである。いっそ無慈悲な鉄槌と表現しても良いだろう。
鋼の意志を持って有無を言わさず行動出来る強靭な意志。職務に支障をきたす事象と遭遇したならば、果断に排除する容赦の無さ。更に独自開発した戦闘機体で怯まず行動できる勇士たち。まさに機械的な組織だ。
このように動ける封鎖機構相手に企業が戦闘を仕掛けたとしよう。おおよそにおいて手痛い目にあう。良くて痛み分けまで持っていけたなら御の字か。少なくとも一方的な勝利は訪れぬだろう。それ程までに惑星封鎖機構は苛烈さで名を馳せているのだ。下手に手を出せば躍進する企業とはいえ、無視できない損失が待っているのだから、互いに睨み合う状況が今日まで続いているのである。
勘違いしてはならないが、企業側の戦争理念は利益の確保だ。思想的闘争は彼等の望むものではなく、これは断言するが無意味と扱き下ろすだろう。もっと単純に言えば、リターンのない争いは企業にとってリスクでしかないのだ。故に惑星封鎖機構と全面戦争するなんてハイリスクを選択するとしたら、余程のハイリターンがある場合だろう。
とはいえ、何も全ての企業が封鎖機構といがみ合っている訳ではない。野心燃える企業と比べ、保守的な企業が存在するのもまた事実だ。そして元々ルビコンにて活動していた企業もそれにあたるのだ。
――上空を輸送ヘリが忙しなく移動している。
恐らくは復興に必要な物資をありったけ積み込んでいるのだろう、BAWSと刻印されたヘリたちは陽の光を浴びながら、あちらこちらに向かっている。
ケイトから聞いた話だと、BAWSはルビコンで発足された企業であり、ルビコニアンの生活基盤を日夜支える、まさに縁の下の力持ちだ。無論アイビスの火により軽んずる事の出来ないダメージを追ったらしいが、惑星封鎖機構の支援によってある程度回復し、今ではルビコン惑星の復興に奔走している。
先程分類化したが、BAWSは保守派代表のような組織だ。一応軍事生産も手掛けているが、星外企業と比較したら微々たるもので、封鎖機構の監査も問題ないと判断した企業である。無論組織とは多少なりとも不純物が混ざるものであるが、今のBAWSは全力でルビコン復興支援に稼働している。彼らの働きぶりには、何処か使命感めいたものを感じるのはわたしだけではないはずだ。
アイビスの火は大地を焦土に変え、多大な人命を灼き払った。ルビコニアンが築き上げた文明社会を一時崩壊一歩手前まで追い込んだのだから、あの災禍がどれ程の傷痕を残したかが伺える。最早ルビコニアンだけでは立ち上がる事が出来ない程の災害だったそれに救いの手を伸ばしたのが惑星封鎖機構だったのだ。
何度も言うが封鎖機構は強硬派ではあるが、基本的に理性的で善性の塊みたいな存在だ。明日も見えぬ衰弱した人々を蔑ろにするような、腐った人間性を持ち合わせていない。高潔な、あるいは高貴な精神性は例えブレインが人工知能であろうとも、人が作り上げたAIは貧する人を見捨てたりはしないものだ。必要があれば他星系から物資を取り寄せ、ルビコニアンを助ける事もする。全く持って素晴らしい精神性だ、とケイトにもこの感動を語り掛けたが「そのように働きかけていますから。そしてドクター、惑星封鎖機構との調整は煩雑です。ドクターも体験してはいかがでしょうか」と言われたのでやんわりと断った。何故かAIのケイトの音声に疲労感を覚えたが、成長している証だ。
なお、対談を断ったのはわたしが交渉を苦手としているからだ。わたしの得意分野は機体開発や改造であって、会話のやりとりは専門としていない。人には向き不向きがあるものだ。今後もケイトはオールマインドとして頑張って貰いたい。頑張れば成長の鍵はひょんなところから見つかるものだ。
話を戻すが、ルビコンの支援に封鎖機構が関わってくる理由として、ルビコンの封鎖をよりスムーズに行える利点があるからだ。今も復興支援を行いながら技研都市の徹底隔離に着手している。アイビスの火の爆心地でありながら、現在もコーラル集積地として動いているあの場所を封鎖しない訳がないのだ。
そう、驚くべき事にあの共振作用によって急激な暴走エネルギーと化した事故を経ても、コーラルは枯渇しなかった。流石に大量消費してしまったコーラルは上空に霧散し気化したが、今もなお僅かながら技研都市の底で増幅している。以前と比較すれば増殖速度は明らかに緩やかな反応ではあるが、枯れてなければアイビスシリーズがエネルギー不足になる心配はない。そこは非常に重要事項なので、一安心したものだ。
だが、あそこ以外の場所ではコーラルが湧いて出てた場所がアイビスの火によって不活性化し、僅かにしか取れなくなってしまっている。これは由々しき事態である。富の独占はわたしの望みではないが、コーラル湖からの持ち出しは流石に封鎖機構が許さなかった。まあ、低確率でも可能性があるならば災禍の再現があるものを惑星封鎖機構も黙認するはずもない。幸福の共有が出来ないのは本当に残念な事だ。
お陰でルビコンではすっかりコーラルが希少なものと化してしまった。ルビコンの象徴とも言える資源の激減は直ぐ様社会問題となり、その恨みは技研に向けられた。組織としては壊滅したが、図らずとも技研の生き残りになってしまったわたしにも申し訳ない気持ちはある。とはいえ、気持ちだけでは何も変わらない。
どうにかして不活性化してしまったコーラルを再度蘇生出来ないか。それが技研で唯一生き残ったわたしの課題なのかもしれない。
取り敢えず刺激を与えれば何らかの反応があるのではないか、と地中深くで眠らせていたアイスワームを起動させ、以前はコーラルが良く取れた地面箇所を掘り起こしてみたが計測機器でも反応は見受けられなかった。寧ろ後日、封鎖機構からオールマインド宛に苦情が届いた。曰く「以前の遭遇戦でPTSDを発症した隊員が数十人単位で発作を起こしているから、直ちに機体の停止を望む」だそうだ。
本当に八つ当たりしてごめんね?
ただ、同様の事態に陥ったら、今度は巻き込まれないように気をつけるんだぞ?
まあ今の惑星封鎖機構に逆らってもしょうが無いし、大した成果も見受けられなかったので、アイスワームを用いた試みは直ぐ様放棄した。いつか違う形でアイスワームの出番は作って挙げなければならない。使えないから放置するなんて、わたしにはない発想だ。
しかし、その代わりなのかもしれないが今度は封鎖機構側から依頼が来たのが面白い。
オールマインドに機体開発の心得がある者がいると認識されたのだろう、向こう側の機体改修要請があったのだ。しかもわたしが得意とする無人機である。断る道理がどこにあるだろう。
そんな訳で今後わたしなオールマインドから派遣された研究員として、あちらの機体設計に関わる運びとなったのである。
ケイトからは「無理に受け入れる必要のない案件ですが」と心配もされたが、無理なんてとんでもない。寧ろ喜びでいっぱいだ。通常、他組織の機体に触れる機会は滅多にない。鹵獲した機体や運用不可となったパーツを拝むこともあるが、殆どの場合それらは損壊している。無事な箇所を見つけるほうが珍しい。故にデータベースに登録された資料は貴重なものであるが、その開発に携われる機会を逃すなんてあり得ないのだ。
そして手始めに今回わたしが触れたのは封鎖機構の試作無人機。
型番は正直どうでもいいがAAP03。
名をエンフォーサー、である。
封鎖予定の場所に用心棒の名が付けられた無人機を配備するとは、あちらのシステムもなかなか分かっている。門番を担当する機体がどのような設計思想のもと開発されたのかが知れる良い機会だった。無人機は設計者の思想も体現する。どんな形状で運用する予定なのか、運動能力はどれ程のものか。望まれるパフォーマンスはどれぐらいなのか。他人が作り上げた機体から意味合いを読み解くのは、1から開発する作業と比べてもまた違った楽しみがある。謂わば味変みたいなものだ。
そのような経緯でエンフォーサーの機体データが送られてきた訳であるが、なるほど確かに守護者と形容して良いスペックを保持している。まず見た目が評価出来る。秘密を守るものは強大でなければならないが、大きさは凡そ現存するACの約2倍程度。装甲は分厚く鉄塊のようで、武装もなんとエネルギー複合兵器である。右腕のレーザーキャノンは時にはレーザーブレードとなって相手を切り裂き、左腕に誂えたパルスガンは状況によってはパルスシールドへ変形するのだ。
この力の入れ具合から察するに、最終防衛ラインにでも配備する機体なのだろう。
外観は意外と重要だ。この質実剛健な機体は対峙するだけで威圧感を放つ素晴らしい見た目をしている。役割をそのまま顕現化させたような重厚さは、きっと戦闘に入れば途轍もないプレッシャーを与えるに違いない。
データだけでもこれ程の味わい深さがあるのは、惑星封鎖機構の信念を体現しているからだろう。あまりの素晴らしさに3日ほど機体データを脳裏に焼き付けるため舐め回したものだ。
わたしにはない発想、着想はそれだけで価値がある。別視点からの考え、立場が違うから故の着眼点は思索の閃きを輝かせる。このデータを殆ど見返り無く閲覧出来るのだから、これだけでケイトにオールマインドを任せた意味がある。実に良い仕事をする。
しかし、此の度わたしに求められているのは開発者としての意見だ。同じく無人機に情熱を注ぐ者に私見を聞かれているのである。感嘆させてくれた恩返しに、気になった点を幾つかピックアップさせてもらった。
まず、エンフォーサーは求められている役割上非常に堅牢な作りをしている。だが、逆説的に言えばそれは鈍重である証明だ。仁王立ちしながら時間稼ぎをするならば、別にそれでも問題ないかもしれないが、戦いはそんな都合好く展開しない。瞬間瞬間に戦況は変わるものであって、常に不条理が隣り合わせの世界であるとわたしは認識している。
つまり現状のエンフォーサーの移動速度では高速戦に不利な可能性がある。事実、高スペックなブースターを搭載しても理論上高速軌道を展開する機体には追いつかないだろう。それではいけない。見た所エンフォーサーが得意とする距離はショートレンジからミドルレンジだ。ロングレンジで本領発揮する相手には少々分が悪い、とも言える。
用心棒の名を与えられた機体がロングレンジから一方的にヤラれてしまうだなんて、あまりにも憐れだ。
だからこそ、どのような場面に置いても活躍出来るような多彩性を持ち合わせなければならない。
簡単な解決方法としては、やはりミサイルだろう。
今更ながらの話ではあるが、わたしはミサイルが好きだ。
通常兵器で最も信頼できる、と胸を張って言える。
何故ならばロックオンさえ済ませてしまえば、自動的に対象物を追尾するのである。直線的にしか進まぬ銃器との違いは語るまでもないが、準備が完了すれば幼子がボタンを押しても発射し的中するのだから、どのような機体であっても搭載して損はない武装である。
その証拠に、今までわたしがルビコンで設計開発した無人機には全てミサイルを装備させてある。元々戦闘用に調整してないヘリアンサス型を初め、シースパイダーだろがアイスワームだろうが無理矢理ミサイル兵装を標準装備に落とし込んだ。何かあったようにとか、取り敢えず、といった感覚で搭載させてるのだから、わたしがどれだけミサイルを好いているかが分かって貰えたら嬉しい。
因みにケイトにも力説したが、残念ながらケイトには未だ早かった世界だったようで、「ドクターがミサイルを好んでいるのは理解しましたが、惑星封鎖機構との交渉が行き詰まっています。どうかドクターも調整に参加して下さい」と流されてしまった。勿論、交渉に参加はしない。それではわたしの探求の時間が削られてしまう。いかにケイトからの要請であってもそこは譲れないな。
引き続きオールマインドの役割はケイトに一任しておくとして、エンフォーサーにも護身用として実弾ミサイルの実装を推奨すると、わりかし良い感触だった。長期戦に持ち込まれると補給の問題も出てくるが、参考意見として議題に受け入れてくれたのは幸いである。
ただ、これだけでは本来の問題が解決していない。
エンフォーサーの機動力をどうするか、ではあるがわたしは機体の質量と運動エネルギーに着目した。巨大ということは重たい、という訳だ。ならばその頑丈さを活かした突進力があれば、質量で対象を押し潰す事が可能なはずである。しかし、推進力を追求してブースター出力を上げたとしても、機体重量に見合った速度は発揮されないだろう。だからと言ってエンフォーサーのスリム化を求めるのは御門違いも甚だしい。エンフォーサーの開発設計に携わった全ての人間を否定する行為をわたしは良しとしない。
それは最早侮辱ではなく冒涜だ。彼らの努力と閃きに唾を吐く好意に等しく、まさに唾棄すべき行いである。立場は違えど同じ開発者として、オリジナルへの尊厳は守らなければならない。
ならばどうするのか、とわたしも考えたが、ふと思ったのである。
ブースター頼みの考え方は答えがないのではないのか、と。
勿論これからさらに技術が進歩すれば、エンフォーサーの重量を凌駕するほどの出力を持ったブースターは開発されるかもしれない。だが、果たしてそれはどれぐらい未来の話になるのか。一体いつ頃の話になるのか。
彼らは現状の機体から改良点を求めているのだ。
今ある開発技術で何とかしなければならない。
正確に予測出来ない未来に託す真似なんて、わたしは出来ない。惑星封鎖機構が対処するかもしれないが、明日人類が絶滅する可能性だってゼロではないのだ。そんな不確定な未来に責任を放り投げるのは、探求者として失格だ。
故にわたしは具申したのだ。エンフォーサーを人型で収めるのではなく、変形機構も搭載してみてはどうだろうと。
先程も述べたがエンフォーサーは重い。だが、見方を変えれば重さもまた長所である。重たいものをより重く、重量を更に増して良いのだ、という考えだ。
即ち、移動時と戦闘時で性能を変えてしまえば良い。戦闘時は武装を展開するため人型となり、移動時にはブースターを補助として使用し自らの運動能力で距離を詰めるのだ。
古来の動物を参考にすれば明らかであるが、二足歩行と4足歩行では加速度において俄然後者が上だった。そのように進化していった、と一言で済ますにはあまりに大きな違いである。四足動物の最高速度は地球時代で時速110キロメートルに対し、二足歩行の生物で記録されている最高速度は時速70キロメートルと、約40キロも速度に差が開いていた事実があるのである。種類の違う動物を比較対象にあげるのは烏滸がましい事かもしれないが、生物を参考にするのはこの界隈ではよくある話だ。
なのでわたしはブースターの改良ではなく、四足状態への変形機構を提案してみた。これならば現在の技術でも移動速度の上昇へ繋がる可能性が見込める、果たしてどうなるか。
異なる組織に所属している者達同士の意見交換は思索に良き刺激を与える。今回の件はわたしが手動するものではないから、出来上がった機体にわたしの意見が全て反映されるとは思わないが、彼らの一助になれば幸いである。
――と、意図せず封鎖機構の手伝いをしていた数週間を思い出している間に、どうやら目的地に辿り着いたらしい。
多くの人が行き交い、簡易テントには何処から手に入れたのかも怪しい商品が展示されている。未だ真っ昼間だというのに、脇道を覗けばコーラル酔いで蹲っているドーザーがちらほらといる。店先で売られている物も物騒な事に銃火器や、なんとMTのパーツまで置いてあるのだ。
ここは、所謂闇市、と呼ばれる場所だ。
ルビコンの復興には長い時間がかかるだろうが、この混乱期でも人は逞しく生きている。統制が乱れ非合法な売買が罷り通る闇市なんて良い例だ。溺れる者は藁をも掴む、というがルビコニアンは溺れるならば泳ぐべし、なんて豪語するような力強さが備わなっている。
悲観が転じて憤怒となり、生きる活力へ変換して意地でも生き抜いてやる、との決意が形となっているのがここだ。
実はアイビスの火以前、わたしもちょくちょくここへお忍びで通っていたのである。
経済社会システムにおいて爪弾きされた者達の最終地点、と表現しても問題ないくらい終わっている場所であるが、存外に人の活気があるのだ。希望はなくとも生への渇望は熱量を持つ。退廃と隠しきれぬ熱望が坩堝に変じる混沌はわたしの好むところである。
であるが故に、ゴタゴタに一区切りついたわたしも久方ぶりにここへ足を運んだのであるが、以前と比べるとドーザーの比率が高い。道中で倒れている老婆からも、ほんのりとコーラル特有の匂いがしている。
ルビコニアンは強い、と先述しておいてなんだが、全員が全員そうではないのは致し方無いことだろう。相対的に芯が強い人間が多く見受けられるだけであって、精神的に参ってしまうルビコニアンもいる現実は忘れてはならない。それを弱者と罵るのは簡単ではあるが、辛い現実から逃れたくなるのもまた人なのだ。そんな彼らが手を伸ばしてしまうのが、麻薬効果のあるコーラルである。
以前と比べコーラルの採取量が激減したのは事実だが、決して無くなった訳でもない。技研のコーラル集積地は明らかにそうだが、コーラルは自己増殖する。ならば絶滅でもしない限り、コーラルは不滅に近しい物質なのだ。ただその生成速度が以前よりも格段に落ちてしまっただけの話だ。
現にドーザーが増えてるのが良い証拠だ。わたしは酩酊しているのか昏睡しているのか定かではない老婆を横目に、闇市の更に奥まで進んでいく。
ここまで歩むと闇市は日の当たらぬ箇所まで続いていく。物騒で怪しげな雰囲気が更に増して、流石に白衣を着てるせいか胡乱な視線を多く感じるがわたしは気にしない。いっそ肩で風を切るように、あるいは午後の散歩を楽しむように路地裏を堂々と闊歩する。わたしに後暗い事柄なんてないのだから当然だろう。臆病風に震えるなら、そもそも闇市を訪れる方が間違っているのである。まさに正常な判断だ。
そうやって影に覆われた薄暗い路地を進めば、ようやく辿り着いた。コーラルを違法取引で取り扱う専門店である。訪れたのはかなり久しぶりだが、相変わらず店内に充満しているコーラル製シガレットの煙とコーラルの酒精が肺を満たす感覚がたまらない。脳が甘い香りで研ぎ澄まされていくかのようだ。
一度ドン底に落ちたルビコンの再建に必要な支援物資をちょろまかしてまで、この場所は再開したのだから、人はやはり善悪だけで生きてはいけないのだ。
まさにカオスで、人間のあり方を象徴してるみたいじゃないか。
ねえ? サム・ドルマヤン君。
「な!? ……ドクター、生きていたのか?」
ああ、この通りピンピンしているよ。最近はドタバタしてたんだけど、そろそろここの蒸留酒が恋しくなってきてねえ。
「あれを欲しがる、か。本当にドクターのようだな。相変わらず酷いドーザーだ」
そうかい? 美味いものを美味いと感じれる喜びは万人に共通する小さな幸福だとわたしは思うが、折角だし君も一杯どうかな?
「いや、心遣いは嬉しいが……あれは只人にキツすぎる。よくもまあアレを呑めるものだ。普通ならコーラル濃度でショック死してもおかしくない代物のはずなんだが」
なるほど。しかし普通とは愛すべき言葉だ。探求者は普通を疑い研究の予感を覚える。つまり、普通がなければ思索の道がひとつ途切れてしまうのだ。わたしたちが普通と認識しているものからでも驚くべき発見があるのだから、スタートラインとしてこれ程までに好ましい言葉はないのではないだろうか。
「なるほど、その訳の分からぬ物言いは間違いなくドクターだ。……それで? わざわざ声をかけたんだ、何か用事でもあるんじゃないか」
ふむ、わたしとしては旧交を温めるだけでも構わないのだが、これも縁だ。ものの序でに是非聞きたい事もある。
サム・ドルマヤン君。
――君が聞く、君にしか見えぬ『声』について、わたしにも教えてくれたまえよ。
ドルマヤンの随想録
殘骸から抜き取った文書データ
解放戦線の帥父サム・ドルマヤンの書き残した
随想録の一部であるようだ
−−−−−−−−−−−−−−−
ドクターは彼女の『声』を聴きたがっていた
しかしドクターには彼女の言葉は見えないようだ
酷く残念そうだったが、それも仕方無い事だ
「彼はどこか恐ろしい人ね」
コーラル蒸留酒を呷るドクターに彼女はそう言った
ドーザーが度胸試しで手を出し昏睡状態にもなる
酒を素面で呑むのだから、私も内心頷いた
だが、気掛かりな事がある
ドクターは私が聴く『声』を何処で知った?
彼について考えても時間の無駄でしかないが
ドクターには何かしらの確信があるのかもしれない
現在判明しているドクターのやらかし
・アイビスシリーズの開発
・ルビコニアンデスワームの開発
・ヘリアンサス型の開発
・シースパイダーの開発
・上記のC兵器を随時量産している
・コーラルの積極的回収で相変異の後押し
・アイビスの火を無自覚に援助
・惑星封鎖機構へ八つ当たり
・一時的戦闘に陥った事実に反省し、C兵器の幾つかを惑星封鎖機構に提供
・オールマインドを発足、提案型AIに一任
・強制執行システム、エンフォーサーの改良を提案
・あわあわしているオールマインドを手伝う気0
・提案型AIの自己進化を促しているが、ろくな事しか教えてない(例、ツンデレの講釈)
統括して、プレイヤー視点からすれば「お前さぁ!」となることしかやってない。また開発メインでしか活躍しないため3Dメカシュミレーションの筈なのに、戦闘シーンに関わる事が殆ど無いのが残念ポイント+1点である。根っからの研究員だからね、しょうがないね(言い訳)