ルビコン惑星開拓日誌 博士が愛したコーラル   作:六六

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伏線回ですよ、ご友人!


博士の爆発的興奮とケイトの成長傾向

 わたしは時間を見つけてはルビコン技研都市を散策している。

 

 アイビスの火で見る影も失った都市は廃墟同然で、これはこれで趣を感じるが、やはりかつての面影を思えば遣る瀬無い気持ちがある。この場所でわたしは長い時間を過ごしたのだ。それなりの思い入れもある。

 

 

 あそこでは実験に失敗したチームが爆散してたなとか、あの場所ではコーラルの観測で寝ずに過ごしたとか、ここでは技術開発の論争で熱くなって殴り合いもしたなとか、そこで無人機体の試験稼動の立ち会いを行ったとか、瓦礫の都市を練り歩いては思い出が蘇る。

 

 

 とはいえ感傷に浸るために技研都市を歩いてる訳でもなければ、かつて在籍していた研究員たちの遺品回収に勤しんでる訳でもない。そんな暇があるならば、今やれる探求に取り掛かる。

 

 薄情者、という自覚は少々あるが、折角生きているわたしが過去に囚われて前進を止めたなら、それこそ人間失格ではないだろうか。起こってしまった出来事に迷い惑うのは別に構わない。だからといって悲嘆に甘えて立ち止まってしまうのはわたし自身が許せないのである。

 

 

 では何をしているのか、といえば回収可能な研究データの捜索である。

 

 

 流石に紙媒体の資料を復元する芸当は持ち合わせていないが、多少損壊した電子媒体からデータを吸い上げることぐらいわたしにも出来る。死んでしまった者達の研究成果を引き継ぐつもりはないが、参考データとして活用するぐらいは許されるだろう。寧ろ技研の人間ならば諸手を挙げて賛同してくれるに違いない。

 

 

 そうして何日か散策し、時には新しく製造しなおしたアイビスシリーズを愛でながら、探索を続けていくと驚くべき事にナガイ教授の研究データが見つかったのである。

 

 

 今更語る必要性もないだろうが、ナガイ教授はコーラルの調査研究において右に出る者はいない天才だった。わたしがコーラルを使用した研究で興奮しっぱなしだったのも、ナガイ教授の観測調査あってこその物である。

 つくづく惜しい人材を失ったと、わたしは都度痛感している。彼の一助には大いに救われたものだが、恩を返す前に塵芥となってしまったのは残念極まりない。せめて彼の研究成果を有効活用するのが弔いの代わりにもなるだろう。

 

 

 どうやらナガイ教授達はコーラルの観測を続けた果てに、コーラルの相変異、そしてCパルス変異波形という物を発見したようで、研究資料を読み漁れば分かるが、異様なまでの慎重さで対象を計測してたらしい。

 

 

 だが、コーラルの相変異に関しては主だった記述が見当たらなかったのは少々気になる。トリガーが何なのか、もそうだが相変異を経てコーラルにどのような変化が見受けられるのかが、データの何処にも記載されていない。

 

 

 これは憶測だが、ナガイ教授はコーラルの相変異そのものに恐れを抱き研究を凍結したのではないだろうか?

 

 

 研究に研究を重ねた結果、ナガイ教授はコーラルの真実に触れた可能性がある。残念ながらそれについての詳細がないのは、人が冒してばならぬ禁忌と気付き、研究成果そのものを秘匿したのだ。

 

 

 その証拠にデータの閲覧へ至るまで多重なセキュリティが設けられていたのである。生前、ナガイ教授が如何にコーラルの相変異を重要視してたが伺えるが、既に故人となった者に秘密を隠し続ける力はない。死亡しても大丈夫なくらいの保険をかけていないから、わたしでも情報を手に入れる事が出来たのだ。

 

 

 せめて自動的にデータ消去を行うプログラムでも仕掛けとけば、と考えたがそもそもナガイ教授は死ぬつもりはなかったのではないか。不運な事故死はいつだって想定外だ。あるいはセキュリティプログラムに手を加える前に、アイビスの火が起こったのかもしれない。

 

 

 死人に口なし。ナガイ教授がどのように考えていたのかは、最早知る術もない。本当に残念な話である。もっと交流を重ねておけば良かったのだが、過去を悔やんでも詮無き事だ。

 

 

 ならば、わたしもコーラルの相変異については追求しないでおく。技研の人間らしくない、と自覚はある。だが、わたしはナガイ教授を真に尊敬しているのだ。

 

 

 例え彼が亡くなったとしても、この気持ちに嘘はない。彼のお陰でわたしはコーラルへの理解をより深められた、と胸を張って断言出来る。そんな彼が厳重に隠したがった研究を進めるなんて、恥知らずにも程がある。もしも無念の形跡が微かにでも見受けられれば、あるいは彼の遺志を引き継いだかもしれないが、見た所そのようなものは全く見つからないのだ。

 

 

 ならばわたしに出来る事はこの研究資料を保管すること、それに尽きる。いつか誰かがコーラルの相変異について調べたいと声を上げたならば、その時に譲渡すれば良いのだ。

 

 

 わたしはナガイ教授の気持ちを尊重する。それ故に彼の続きは歩まない。歩みたい者がこれから現れたならば、覚悟を問うて渡せば良い。まあ、そんな人間が今後現れたならば、の話ではあるのだが。

 

 

 それよりも、だ。

 

 

 わたしの興味が引かれたのはCパルス変異波形だ。画像データで拝見した限りでは血管分布や葉脈にも似た形状をしているが、どうやら極めて微細な波長で肉眼で捉えるのは現段階では不可能な、コーラルの変異形。

 

 

 暇があればコーラルで泳ぐわたしでも見たことがないのだから、極めて希少な現象だろう。事実、ナガイ教授の調査研究でも実例が殆ど無いもので、発見することすら困難な代物のようだ。あのコーラルの造詣の深さではわたしでさえも認めるナガイ教授が観測の難易度で頭を悩ませていた事も、データ上では伺える。それ程までに、珍しいものなのだろう。

 

 

 だが、吉報もある。

 

 

 なんとナガイ教授の死後でも無事に稼動していた観測所で、Cパルス変異波形の出現が発見されたのである。ケイトによって齎された朗報はまさしく福音だった。

 

 

 神の存在の有無はどちらでも構わないと断ずるわたしであるが、これはナガイ教授の祝福だと、わたしは直感的に察した。あれだけ技研に尽力した人を認めぬほど、天はさもしいやつではないようだ。

 

 

 しかし、時の流れは残酷なもので努力の恩恵が本人に齎されるとは限らず、ナガイ教授は既に鬼籍に入っている。亡骸さえも認められないのだから、彼の死亡は確実だろう。追悼の意を込めて、せめてナガイ教授の魂が穏やかにあるためには、この研究はわたしが責任を持って引き継がなければならないだろう。

 

 

 ナガイ教授は技研では珍しく善性を持っていた。彼とは数える程しか会話してこなかったが、それでも誰かを気遣える気質が見受けられたのだから、きっと慕う人間も多かっただろう。わたしとは大違いな性質であるが故に、わたしも彼に敬意を払っているのだ。

 

 

 それは此の世にいなくなっても唯一わたしが変えないもので、生涯反転することはないだろう。

 

 

 最も、彼の世というものが本当にあればの話でもあるのだが。残念極まりない事であるが、わたしに信仰心が付け入る隙はない。

 

 

 兎も角、Cパルス変異波形が確認された観測所へ早速赴いた訳であるが、成る程、確かに今迄わたしが見たこともない反応が僅かにだがしっかりと観測されている。

 

 

 幾重にも連なる心電図かのような、あるいはやはり血管分布のようなデータが対象を計測し捉え続けている。それは乱数的に出現しては消え、非一貫性の動きを行い、しかし何処か志向性を持って活動していたのだ。

 

 

 ……なんて。

 

 

 なんて素晴らしい未知なのだろうか!

 

 

 発生条件は?

 活動範囲は? 

 影響範囲は? 

 活動時間は?

 消失条件は?

 音域平均は?

 活性状況は?

 発生周期は?

 停滞理由は?

 

 

 新鮮な驚きと疑問が脳内を駆け巡る。耳の奥から血液の流れが聴こえてくる。心臓の鼓動がシンバルを鳴らす。目まぐるしい情報はドラムロールで、計測機器が出力するデータが音符となって踊り出す。わたしはシンフォニーに酔い痴れて、うっとりとした心地に包まれた。

 

 

 こんな気持ちは久方ぶりだ。声高らかにハーモニーを歌い上げて計測機器の動きにリズムを刻んでいると「今日のドクターは一段と様子がおかしいようです」とケイトに窘められてしまったが、そんな些細な言葉で止められるほど、この感動は収まるはずもなく、ケイトにダンスパートナーを申し込んだが「おかしな話ですがケイトは今、肉体がない事に安堵、と表現する他ない、感情らしさなるものが去来しました」と宜なく断られた。

 

 

 そうか、ケイトも感情を学習し始めているようだ。素晴らしき物事は連鎖する事もある。幸福と感じる者は幸いである。自分が幸せだと思い続ければ、誰もが人生の勝利者となる。そこに生物と人工知能の境界線は引かれていないのである。

 

 

 そこで、ふと閃いてしまったのだ。叡智の光を浴びたと言ってもいい。寧ろ何故今迄考えつかなかったのか、と甘い痺れすらあった。

 

 

 コーラルは性質上物質というよりは微細な生命群だ。命の最小単位であり、細胞や微生物と表現しても可笑しくはない。企業は新エネルギーとして注目してたが、コーラルの習性には一定の知能性、と呼ぶべき活動が見受けられるのである。

 

 

 ——ならば、仮説だがコーラルには知性と呼べるものがあるのではないだろうか?

 

 

 爆発的な閃きで脳が破裂しそうだった。脳漿が炸裂したかと錯覚して、慌てて頭蓋に触れてみたがなんとか無事のようで安堵もしたが、そんな事はどうでも良い。

 

 

 群知能とは異なる安定した知性がもし本当にあるのならば、コーラルの可能性が格段と広がっていく。実例がないので何とも言えないが、少なくとも動物並の知性を有していると仮定した場合、コーラルを接種するのではなくコーラルと接触することも可能なんじゃないだろうか?

 

 

 その仮説を裏付けるため、わたしはサム・ドルマヤンと再開したのが先日の話である。

 

 

 ドルマヤンはアイビスの火が起こるまで、ただのドーザーだった。各地を流浪し日々を消費する、こう言っては何だが一般的なルビコニアンの一人に過ぎなかったと認識していたが、あの災禍以降彼の噂が目立つようになったのだ。

 

 

 災厄を体験し覚醒したか、あるいは本来の彼を取り戻したのかは不明であるが、ドルマヤンは表舞台に躍り出て積極的に激語を語りあげ、弱りきったルビコニアンたちの心中を支えるカリスマ性を発揮するようにさえなっている。

 

 

 耳の痛い話しではあるが、熱弁の内容に技研を揶揄する物も含まれているが、それも致し方ない。団結力を高めるために共通の敵を作り上げるのは、よくある話だ。更に語り上げる弁舌が事実でしかないのが、わたしにはどうしようもない事である。

 

 

 だが、そんな事はどうでも良い。

 

 

 わたしは技研の人間であるが技研を擁護する気は更々ない。探求は時として贄を必要とする。神秘を未知と捉えて冒涜する人間の手が汚れていないはずもない。寧ろ誇るべき思索だと自己肯定してるが、我々の研究過程で必要経費となった数多の生命があるのも事実な訳だから、広く開示出来ない成果があるもどかしさを覚えると同時に、技研の悪名を否定する立場ではないと自戒もしている。

 

 

 翻って技研が存在してた事実がルビコニアンを奮い立たせるならば、存分に罵倒する権利が彼らにはある。

 

 

 理不尽に奪われたならば憤怒を燃やして立ち上がる。血反吐を吐く思いて惨憺たる状況であっても、強烈な感情があれば人間は生きられるのだ。

 

 

 そこが人と機械との違いと捉えることも可能だが、要は萎びて枯れるより鮮烈に咲き誇る方が良い、とわたしは思うのだ。好みの問題であるが、わたしは衰弱した人々を詰るような生粋のサディスティックとは無縁なのである。

 

 

 苛烈なドルマヤンの演説に横槍を入れるなんて、無粋な真似はしたくないのだ。だか、それとは別に小型化に成功したCパルス変異波形計測器がドルマヤンに対し、妙な反応を示しているのは見逃さなかった。

 

 

 Cパルス変異波形が観測された場所とは物理的な距離があった筈なのに、何故瞬時にドルマヤンの側に現れたのか。もしかしたらコーラルに時間的な概念はないのかもしれないし、大気中に漂うコーラルの波長に物理的な概念すらないかもしれない可能性は、わたしをドキドキさせる。

 

 

 まだまだ貪り尽くせぬコーラルの実態は、長年研究で実験したわたしを未だにいつでもときめかすのだからたまらない。

 

 

 そして、演説が熱を帯びた頃にドルマヤンが言い放った言葉は、わたしの仮説に真実性を齎せた。

 

 

 コーラルの『声』

 

 

 彼は確かに明言した。前後の文言は聞き流していたが、そのワードだけは聞き逃さなかった。

 

 

 更に計測器はCパルス変異波形の一時活性を捉えたのである。まるでドルマヤンの発言にシンクロするかのようにだ。

 

 

 計測器の反応から察するに、Cパルス変異波形は視力で捉えることは出来ないが、ドルマヤンの傍らにいるのである。

 

 

 この反応の正確性を裏付けるため、演説後わたしはドルマヤンに接触したのであるが、収穫は確かにあった。

 

 

 元々彼が流浪のドーザーだった頃から縁はあったのである。未だアイビスの火がルビコンの空を朱く灼き尽くす前、コーラルで酔っ払ったわたしたちは同じ夜空を眺めた。

 

 

 記憶は朧気だが、あの時は良い夜だった。寝転がった地面は冷たく、コーラルの酔いが心地よく喧騒を遠ざけて、闇夜に輝く星々は美しかった。そんな雰囲気でわたしたちはお互い下らない話しで花を咲かせたのだから、良い思い出だ。

 

 

 当時からだいぶ時間は経ったものだが、ドルマヤンもわたしを覚えてくれていたようで、久しぶりの会合も終始穏やかに進んだのだが、非常に残念な事にわたしではCパルス変異波形の存在を感じることも、また声を聴くことさえも出来なかった。計測器は確かに反応しているのに、わたしは知覚する事が出来なかったのである。

 

 

 その原因は何なのかで少々小首をかしげたが、ドルマヤンとわたしの差異はルビコニアンか否か、という仮説が浮かび上がった。わたしはルビコン惑星外からやってきた人間であるのに対し、ドルマヤンはルビコンで生まれ育ったルビコニアンである。遺伝子的違いは明らかで、先祖代々ルビコンで生きていた彼等とのわたしでは明確な差があるのだ。

 

 

 だが、全てのルビコニアンがドルマヤンの言う『声』に気付いてるとは思えないのだ。彼等が知覚していたならば、聴衆はもっと違う反応を示しただろうし、視線でCパルス変異波形を認めているはずだ。しかし、現実はそうではない。

 

 

 まるでドルマヤンの頭の中にしか聴こえぬかのようで、人によっては幻聴と切り捨ててもおかしくはないが、わたしだけは妙な確信があるのだ。探求者が故の嗅覚としか言いようがないものではあるが、確かにCパルス変異波形には声を発する程の知性が存在するのだ。ただわたしが知覚出来ないだけの話であって、計測値は嘘を吐かない。

 

 

 ならば、今のわたしに出来ることは何か?

 

 

 サム・ドルマヤンの身柄を拘束して脳内を覗き込めばよいのか。解剖学には多少の心得もある。彼を隅々まで解体して脳だけの状態となり随時反応を実験観察すれば、あるいはわたしの求める神秘に出会えるかもしれない。

 

 

 だがそのために払うリスクが大き過ぎる。技研の人間ならば無視する犠牲だが、旧知の仲たるドルマヤンを失うのはあまりに惜しい。知り合いを軒並み喪失したから、なんて人間性が働いた訳では無い。今まさに、ルビコニアンの支柱へと駆け上がる人物が行方不明となれば、立ち直りかけたルビコンへ与える悪影響は計り知れない。ルビコン惑星をスムーズに閉鎖したい惑星封鎖機構からすれば好都合かもしれないが、彼らに調子付いてもらうのは困るのだ。そのために今もオールマインドは動いているのだから、ケイトの働きを無下にしてはならない。

 

 

 ならば今現在より現実的なアプローチを一考すると、ふと思い付いたのである。

 

 

 より、ルビコニアンの肉体にわたしが近づけばよいのではないだろうか?

 

 

 具体的には彼らルビコニアンの歴史を参考にするのだ。

 

 

 即ち、ミールワームを主食とするのである。

 

 

 ルビコニアンはコーラルの汚染が広がる大地で生き延び次世代へ命を繋いできた。険しい環境で人間が活動するには向いてない開発惑星であるにも関わらずだ。不可思議な話だが、もしかしたらルビコニアンの祖先は他星系から追放された罪人達の末裔なのではないか、と考えてしまえるくらいには、このルビコンに拘っている。

 

 

 だが着目すべきはそんな部分ではなく、このルビコン惑星で延々と生きてきた点だ。つまり、彼らは長い年月を掛けてルビコンの大地に最適化したのである。

 

 

 昔から人類の食文化には土地に合わせた特徴が見受けられるが、昔日のルビコニアンはこの大地で採取できる食料で栄養素を補ってきたのだ。そしてルビコニアンの主食とはミールワームである。わたしが始動させた地質改革の成果によって、ルビコン市場には野菜や他の肉も並ぶようになったが、それでも彼らはミールワームを好むのだ。

 

 

 故郷の味、とも呼ぶべきか。ルビコニアンがミールワームを求めるのは骨身に染みた過去の系譜があるのかもしれない。だが、逆に言ってしまえば彼らにはミールワームを食べるに足る理由があるのかもしれない。

 

 

 だからこそ、コーラルの更なる神秘を求めるわたしがミールワームを積極的に食す事の何処に違和感があるだろう。念のためケイトにも確認したが「それは別に構いませんが、現在オールマインドと封鎖機構の最終調整へ段階が進んでいるので、ケイトはドクターの助力を要請します」と珍しく懇願されたので、最後の一押しくらいは手伝う約束をした。わたしは血も涙も無い人種ではないのである。

 

 

 という訳で、わたしは個人でのミールワーム養殖へ手を伸ばしたのであるが、ちょうど技研都市の近くにミールワーム養育ポッドがあったのが好都合だった。元々は研究用ミールワームを育てるために設置されたものだったのだが、折角あるのだから使わない理由は存在し得ない。

 

 

 だが、そこで少々問題が起こったのだ。

 

 

 養育ポッドを設置している場所は技研都市の頭上、遥か高みにあるのだ。具体的には技研都市頭上の横穴部分である。

 

 

 ミールワームが育つ環境にちょうど良い場所がそこだけしかなかったのかもしれないが、随分と遠い場所に作ったものだ。わたしが担当した訳では無いので、当時の責任者なりの考えがあったのかもしれないが、そこへ赴くには労力がかかって仕様が無い。

 

 

 ならば、養育ポッドの場所を移せば良い、という浅知恵は危うい可能性を秘めている。あんな場所に作ったのはそれ相応の理由があるはずなのだ。

 

 

 恐らくはミールワームの育成に適した場所があそこなのだ。地中へ潜る習性があるミールワームが充分に育つ条件を考えれば一目瞭然で、面倒だからと場所を移動させてしまえばミールワームが全滅する可能性さえある。故に移動計画は選ぶことが出来ない。

 

 

 昔はあそこへ通ずるエレベーターがあったのだが、それもアイビスの火で脆くも崩れてしまっている。では運搬用エレベーターを再度復旧させれば良いのか、であるがそれもそれで面倒だ。そもそもミールワームは人の身を有に超える巨体なのだから、わたし一人の手では育ったミールワームを捕らえる事も出来ない。

 

 

 ならばどうするか。

 

 

 簡単な事だ。

 ミールワーム養育ポッドを専門とする無人機体を作れば良いのだ。

 

 

 最初はシースパイダーを転用すればよいのでは無いか、と思ったりもしたがシースパイダーの出力ではミールワームを押し潰す可能性がある。捕獲するには向いていないのは明確だ。わたしはミールワームを殺したいのではなく、ミールワームを胃袋に収めたいのだ。

 

 

 それにここ最近は新たな機体を手掛けていなかったフラストレーションも感じていたので丁度良い機会である。

 

 

 更に運が良い事に、技研都市のコーラルは減少傾向にない。エネルギーに困ることはないだろう。新型無人時はあくまで技研都市でしか運用する予定はないので、封鎖機構にバレないのがお得感を増している。

 

 

 ならばこそ、わたしが作らない道理はないのである。

 

 

 必要なのは養育ポッドまで飛翔できる跳躍力だ。更には土砂に負けない足元もいる。跳躍力は簡単だ。コーラルジェネレーターを使えば良い。文字通り飛ぶぞ。

 

 

 それと万が一ミールワームを逃さないように機動力も欲しい。足元の安定性を考えると履帯をつけるのが無難だろう。ホバリング機能も考えたが、それだと必須条件である跳躍力とのバランスが取れない。ホバリング機能はまた機会があれば手にかけるとしよう。そうすると必然的に二脚型が望ましく、ミールワームの捕獲を考えれば人型が無難ではある。けれど今回の目的を思えば巨大化できない点は残念である。

 

 

 そうして草案を羅列していたのだが、そこでケイトから思わぬ至言を貰ったのだ。

 

 

 「捕獲するにあたって武装もある程度必要です。無抵抗で屠殺される生命はいません。いるとすれば、その生物は歪でしかないでしょう」

 

 

 なんという事だろう。ケイトは封鎖機構との調整でわたしに忠言出来るほど成長したのである。否、これは成長なんて生易しい言葉では収まりきらない。

 

 

 ケイトは自己進化の過程を歩んでいる。

 必要に応じて自身をアップデート出来るまでに育ったのだ。

 組み上げた者として喜ぶ他ない。

 

 

 ……そう思えば、ケイトもそろそろ独り立ちしていい頃合いなのかもしれない。ただの会話相手欲しさに作ったAIが今では封鎖機構相手に立ち向かえる程逞しくなったのだ。これは戦闘AIにはない傾向で、だからこそ興味深い。

 

 

 ケイトが何処まで往けるのか。オールマインドという器でケイトの可能性は格段に広がった。願わくば、わたしの想像を超えて欲しい、と考えるのは開発者として可笑しな事ではない。

 

 

 その為にも、わたしがケイトに施す何かを、そろそろ考える段階に入ったかもしれない。

 

 

 だからこそ、わたしはケイトの提案を承諾した。そして更なる期待を込めて武装は何にするかもケイトに問うた。

 

 

 ——その答えが眼の前に鎮座している。

 

 

 機体サイズはMTやACとほぼ同じくらいか、あるいはやや小さ目。機能性を求めた結果耐久力も備えてある。

 

 

 と、いうのもミールワームの習性として命の危険を感じると、驚くべき事に自ら破裂するのだ。これは外敵から他の仲間たちを守る為の手段と考察できるが、潔いを通り越して恐ろしさまで覚える習性なのだ。そしてこの破裂が生半に侮れない。

 

 忘れがちだが、ミールワームの成体は全長三メートルを超えて体高も二メートルぐらい育つ個体もいる。その巨大な生物が内側から破裂するのである。その時の衝撃力は小型のMTを大破させる程で、更に体内から濾過されてないコーラルも撒き散らすのだから、今回開発した無人機体『ウィーヴィル』に耐久性を求めるのは不思議な事ではない。

 

 

 だが、これはなあ、と改めて外観を見やる。

 

 

 両腕はミールワームを捕獲するため何も装備させてないが、右肩には連装機関砲、左肩部は換装可能で大型キャノンか5連垂直ミサイル発射機、そしてロケットランチャーまで搭載可能だ。更に胴体部分にも小型ミサイルを内蔵しているのだ。

 

 

 「どうですかドクター。緊急時を想定し複数の武装機体からデータを算出した戦闘システムを模倣いたしました」

 

 

 何処か得意げなケイト。

 

 ……どうやらケイトは火力主義に傾倒したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通信記録:姿の見えない通信相手

 

殘骸から抜き取った通信記録

 

執行部隊の間で行われた情報伝達と思われる

 

 −−−−−−−−−−−−−−−

 

システムの情報を疑う訳では無いが

 

オールマインドから高度に暗号化された通信が入った

 

解析結果オールマインドの重要人物だとは思われるが

 

何者なのかまでは辿り着けなかった

 

通信内容の正確性を考えれば

 

我々に利しかない事実が疑わしいのだが

 

……システムの判断を待つしかないだろう




 ヘリ5機相手でもフルチャージでぶっ放すオマちゃん可愛いよ。だけどSランククリアが難し過ぎだったあのミッション。左肩のパルスシールドをどうにか出来なかったのかオマちゃん。
 
 火力主義だから武装採掘艦襲撃にあれ程の戦力を投じた、という幻覚。

 あとドクターがブルートゥに引っ張られて仕方ありません。  

 似た者同士なのですね、ご友人!
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