シー・ラヴズ・ユー   作:ずゆ

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第四章

 次の水曜日にユウカから連絡を貰って、日曜日に私達は一緒に夕食をとった。彼女は洒落たイタリアンのレストランを予約していて、私がそこに呼び出された形だ。

 もうすぐ十一月になろうとする夜は随分と冷え込んでいて、晩秋というよりも初冬といった方が適切な気がした。私は厚手のコートを羽織って、手袋もして待ち合わせの駅に向かった。

 

 私が駅に着くと、彼女の方が先に着いて待っていた。まだ待ち合わせの時間までは十五分くらいあったから少し驚いた。

「お待たせ、ユウカ」

 そう声を掛けると、彼女は私の方を見て微笑んだ。

「こんばんは。またお呼びたてしてすみません」

「私もユウカと話したかったよ」

 その言葉に嘘も偽りもなかった。私の方は何も進展はないが、それでも私は彼女と話していたかった。でも一体何を話せばいいのだろう? この二週間の間に私は一歩も前に進んでいないというのに。

 

 彼女が予約していたレストランは、駅前のビルの七階に位置していた。窓からはD.U.広域鉄道の駅が見下ろせて、店内には丁度いい温度で暖房がかかっていた。

 夕食中に話したことによると、彼女は本格的に教職課程に進もうと考えている、ということだった。彼女は自分が教師になろうと思ったきっかけに私がある、と言っていて、それはとても嬉しいことだった。人生の中でもこれだけ嬉しいことは中々ないし、そして大概の嬉しさと違って、何かで代用の出来ない類の嬉しさだった。

 対して私が出来る話は特になかった。二週間くらいでノアの詩集を二冊読んで、その間彼女からの連絡の返事はなかったことくらいだ。そしてそれを話した所で、何かが進展するという訳でもなかった。

 ユウカは私の話を聞くと、遠い目をして窓の外を眺めた。まるでその先のどこかにいるノアを探すような感じだった。

「シャーレの権限を使えば、ノアを見つけられますか?」

「物理的には出来るけど、職権乱用は出来ない」と私は答えた。

「それは……分かってます。それに、ノアとしてもそんな大袈裟に探して欲しくはないでしょうし」

 

 そうするのが正しかったのかは分からないけれど、私は惑いながらも彼女の手を握った。不安そうな目をした彼女に何か出来ることを探した結果に出てきたものがそれだったのだが、手を握った後で私はどう説明すればいいのか分からなくなってしまって、とりあえず頭の中にあったことをそのまま言葉にした。

「ノアのことは私が何とかするよ。どうすればいいのかは分からないけど、でもそんなに深刻に考え過ぎないで欲しい。ノアもユウカに心配掛けたいとは思ってないだろうからね」

 彼女は少し驚いたような顔をして、握られた手から私の顔に目線を移していった。

「……ありがとうございます」と言って彼女は少し笑った。

 それからゆっくりと私は彼女の手を解いた。彼女は外にいたときも手袋をしていなかったから、その手は私よりも少しだけ体温が低く、大きさも一回り小さかった。

 

「来年の三月で二十歳になるんだよね?」

「はい。そういえば、お酒は飲まないんですか?」

 彼女はメニュー表のアルコールのページを捲って言った。色々な種類のお酒が並べられていて、私としても飲みたい気持ちはあったけれど、彼女がいる手前我慢することにした。

「気分じゃないかな」

「ふうん」と彼女は言った。

 

 店を出た後は、ほとんど一直線に彼女を駅の改札口まで見送った。そのまま帰るのもなんだか煮え切らない気がしたけど、もう夜の遅い時間になっていたし、明日は月曜日だったから引き留めてお茶に誘う訳にもいかなかった。

「では、また」

「うん」

 何かを言うべきなのかもしれない、と私は思った。多少無理矢理でもお茶に誘ったりすべきだったのかもしれない。あるいは彼女に好意を伝えてみるべきだったのかもしれない。でも私は何一つ言うべきことを見つけられなかった。そうしている内に彼女は改札へ向かい、私を振り返って軽く手を振った。私もほとんど無意識で振り返した。

 

 ダンボールが片付いてしまうと、部屋はミニマリストのそれらしい様相なってしまった。一人暮らしには十分過ぎるくらいの広さに対して、私は家具の類をそれほど持ち合わせていないのが主な原因だと思う。すっきりとしていて人間味に欠けていて、ヘッドフォンを外してただじっとしていると、部屋の中は恐ろしい程静かで、まるで死体安置所にいるような気分にさせられた。

 

 ノアから手紙が届いたのは、そんな十一月の始まりのことだった。外は冷え切っていて、気を付けないと紙で手を切ってしまいそうなくらい乾燥した風の吹く日だった。

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