再臨詔、THE ORIGINは含まれておりません。
宇治 平等院(鳳凰堂にて)
「……皆様がお座りの床板、そして柱、板壁、扉等は、平安期に建築されたそのままのものでございます」
…その言葉に、俺はビクリと思わず正座した姿勢で居住まいを正し、きょろきょろと御座をひかれた床板や目に映った壁板、果ては高い天井を見回していた。千年も昔の過去、鷹久であった頃に存在したであろう建物に今の自分が触れているという事実が、俺に奇妙な落ち着かなさを感じさせていた。ふと横を見れば、俺の隣に座った万葉も戸惑うように、堂内に視線を巡らせている。
およそ千年前に造られた建物の中に…当時、鷹久だった俺と、螢だった万葉は…今、共に居る。
「…この平等院の阿弥陀堂が『鳳凰堂』と呼ばれるようになったのは江戸時代初期の頃で、建物全体の様子が、鳥が羽を広げて休んでいる姿に似ていることや、中堂の屋根に一対の鳳凰が棟飾りとしてとりつけられていることから、俗に鳳凰堂と呼ばれるようになりました。時の関白藤原頼道公が、父である道長公の別荘を寺院に改め建築する際に建てられたものでございます。建設当時は建物全体に艶やかな朱色が塗られ、天井や壁には螺鈿細工や極彩色の模様や絵を施し、極楽もかくやと思われるほどの優美な内装を誇っており…」
当時の面影は見る影もない茶色い木肌を現したお堂の中に、ガイドの女性の柔らかな居心地の良い声が響き渡る。
「皆様の前に座しておられる本尊阿弥陀如来像は、藤原時代を代表する仏師定朝晩年の傑作で、定朝の亡くなる四年前に完成したものであります。寄木漆箔造りの木製でございまして、体各部位を別々に作り、繋ぎ合わせた後に上から金箔を何重にも貼り合わせたもので…」
俺はそっと手を伸ばし、どこか不安気な万葉の手を柔らかに握った。
ピクリ…と、万葉の小さな肩が僅かに震える。
「…武?」
振り向いた万葉に、俺は小さく微笑んだ。
「…俺たち今、昔の俺たちが生きていた時代のものを目にし、そして触れているんだな」
「…ええ。千年の時を経ても、その姿が時代と共に色あせていっても、…こうして今も残っているものがあるなんて、なんだか不思議で…とても素敵ね」
「…ああ、後世に残そうとする人の心がなければ、今も目にすることなく風化して消え去っていたものだと思うと、奇跡のような気さえするよ」
「気の遠くなるような長い時の間、変わることなく受け継がれてきた人の心…それこそがきっと、この場所を風化させることなく守ってきたのね」
(…そして人の想いもまた、風化することなく千年の時を経ても色あせることはない…)
俺は返事の変わりに、強く万葉の手を握り締めていた。
『…私を探して、鷹久。なんども…なんども…繰り返し、罪の許されるその日まで…貴方を愛して死んでいく私に…逢いに…来て…』
『…行くよ、必ず行く。君を必ず探し出してみせる』
遥かな昔。
燃え盛る炎の中で、二人が交わした誓いの言葉が、深く胸の奥に木霊した。
〈終〉
昔書いた二次創作の序文に作ったものですが、堅苦しくなるとカットし、そのまま未発表だったものを再リメイクしたものです。
宇治へ旅行した時に、平等院の『鳳凰堂』見学時に思いついたネタでした。