世界を救って日本に帰って来たらお父さんになってました   作:こーーーーーー

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時間軸とか諸々無視してます。
後なんか色々な独自解釈と独自設定もりもりです。
ちょっと長めです。多分。


帰るべき場所

「じゃあな」「さようなら」「達者で」

 

 みんながそう言葉を告げて退去していく。

 2回目だけど、2回目だからこそ涙が溢れてくる。

 光の粒子になっていき、1分もせずにみんな消えていった。

 2年前の事だ。2年も前の出来事なのだ。

 

 

 

 

「ほら、朝だよー。立香」

「ん・・・ああ。おはようアイ」

 

 目を擦り、未だ重い頭を何とか持ち上げる。

 

「おはよー・・・顔色悪いけど大丈夫?」

「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと昔の事思い出しただけだから」

 

 俺の上に座るアイを退かしベッドから立ち上がった。

 

 

 

 

 藤丸立香、父さんが家に帰って来て半年ほどが過ぎた。最初こそ俺もルビーも警戒を露わにしていたが、1ヶ月経つ頃にはいつの間にかそんなものも無くなっていた。

 何故警戒心を解いたのか、ルビーの事はわからないが、俺にとって最も父親らしい父親なのだ。

 俺の前世である、雨宮吾郎の時にも父親はいなかった。母は俺を産む時に亡くなり、父親が誰か分からずに祖父母によって育てられた。

 だから、初めてなのだ。母親という物も父親という物も。

 そんな、見ているだけの、知っていただけの父親像と藤丸立香が完璧マッチしていたのだ。

 ルビーがアイを真似て踊れば喜び、何か悲しい事があったら自分の事ように悲しんでいる。本当に父親像とマッチしている。

 

「お兄ちゃーん、行くってー」

 

 玄関からとてとてとルビーが走って来た。

 

「なあ、ルビーは今世をどう思っている」

 

 俺は近づいて来たルビー問いかける。

 

「私はとても楽しいよー。身体は丈夫だし、アイがママだし、アクアもいるし、お父さんも良い人だから。何でそんな事聞くの?」

「いや、まあ何となくだよ」

「そっ、ほら行こっ!」

 

 俺はルビーに手を引かれ玄関に向かう。そこには、俺たちを待っている二人の姿がある。

 

「ママー!」

「ほらルビー危ないから手を繋ごう」

 

 ルビーはすぐさまアイの手を掴みに行く。

 

「ほら、アクアも行くぞ」

 

 立香、父さんも俺に手を差し伸べて来た。

 

「うん。父さん」

 

 その手は大きくて硬くて傷だらけで暖かかった。

 

 

 

 

 車を運転する事1時間ほどで郊外にあるショッピングモールについた。

 ここのショッピングモールは関東圏の中でも相当広いらしく、駐車場の広さがそれをよく物語っている。

 

「ほら、お兄ちゃんいこー」

「アクアールビー、気をつけろよー」

 

 車を駐車場に停めるとアクアとルビーが一目散に走っていった。

 まあ、仕方ないか。アクアもルビーも生まれて初めてのショッピングモールらしいからな。

 

「ほら、早くいこーよ立香!」

 

 アイも興奮気味に手を差し伸べてくる。

 

「そうだね」

 

 俺は差し伸ばされた手を握る。

 何たって俺もアイも家族でのショッピングなんて初めてなのだ。たまにはハメを外しても許されるだろう。

 

 

 

 

 

「そういえば立香、昨日帰ってくるの遅かったけど今日大丈夫?眠くない?」

 

 ショッピングモールを回っているとアイがそんな事を聞いてきた。

 事実昨日久しぶりに家に帰って来た時の時刻は深夜の2時過ぎだった。

 

「ああ、大丈夫大丈夫。こう言う時のために鍛えているんだから」

 

 俺はそう言い右腕を持ち上げて力瘤を見せた。

 

「ありがとうね、立香。昔から」

「何で急に?」

「さあ?何でだろう?」

 

 アイは笑いながら俺の右手に指を絡めて来た。

 その温かさを感じるだけで、自分の選択が間違っていなかったと実感できる。

 手を握りながらアクアとルビーを追うと、1人の女性と話している姿が見えた。俺達はすぐさま近づいていった。

 

「すみません。うちの子が何かしましたか?」

 

 俺の言葉に橙色のコートを着こなし、眼鏡を掛けた赤みがかった茶髪の女性が振り返った。

 

「私の不注意でついついぶつかってしまいまして。ごめんなさい。・・・なんだ藤丸くんじゃない」

 

 親しげな声に驚き、よく顔を見るとさらに驚いた。

 

「あ、青崎さん!」

 

 青崎橙子さんがそこにいた。

 

 

 

 

「コーヒー、ブラックと微糖どちらがいいですか?」

 

 自販機で買ったコーヒーを二つ差し出すと、青崎さんは微糖の方を受け取った。

 

「ありがとう。そういえば左腕の調子はどう?」

「その節はありがとうございます。もちろん何の問題もないです」

 

 俺は左腕を掲げながら青崎さんに見せる。

 今から1年半ほど前、俺が時計塔に通っていた時にとある事件で俺は左腕を失った。

 その事件の以前にたまたま知り合っており、エルメロイ先生とも面識があったので急遽左腕を作製してもらえた。それから、1年半の間一回も会うどころか連絡も取っていなかったのに、まさかここで会うとは。

 

「その左腕に関しては君たちの旅路に対する贈り物、お礼みたいな物だから気にしなくていいわよ。むしろ、経緯も含めて君には結構キツイ物なんじゃない?君は左腕をなくしたからその選択を迫られ、こちら側に来たわけだし」

 

 青崎さんは落ち着いた声でそう聞いてくる。

 そこには当然敵意も殺意もない。

 俺の視線の先にはアイ達が写っている。 

 アイとルビーが楽しそうに服を見て、その一歩後ろでアクアが黙って追従している。

 

「そうですね。たしかに左腕が無くならなかったら俺はここにはいないと思います。けれど、あの選択が出来たから今の生活がある。なら、そこに後悔はありませんよ」

 

 青崎さんはそうね、と呟くと壁に寄りかかるのをやめた。

 

「まあ、私も君には気をつけよう。流石の私も君とは分が悪い」

「流石に俺では青崎さんには勝てませんよ」

「いいや、そんな事はない」

 

 一歩、二歩と青崎さんは前に出ながら眼鏡を外す。

 

「だけどまあ、少なくとも君の家族くらいなら呪い殺せる。その時はその覚悟で来るがいいがな」

 

 その言葉には今まで含んでいなかったものが含まれており、ハッタリなどではないと伝わってくる。

 

「そうですね。そうならない様に祈ってます」

「私もそうならない様に祈ってるよ。なにぶん歳を取るにつれ知り合いが少なくなるのは少々悲しくなる。それじゃあね。コーヒーありがとう」

 

 青崎さんは飲み終えたコーヒー缶をゴミ箱に捨て去っていく。

 

「いいえ、さようなら。次もまたこう言うふうに会いたいですね」

 

 俺は青崎さんが人混みに混ざっていくのを身終えると、アイ達の方に向かった。

 

 

 

 

 

 

「立香の仕事?さあ何やっているんだろうね?」

 

 アイに聞いてみるとそんな言葉が返ってきた。

 何故俺、アクアがそんな事を聞いたのかというと、ルビーとたまたま見ていたテレビ番組が原因だった。

 その番組がやっていた内容は家族づれに街頭インタビューをしてお父さんがなんの仕事をしているのかを聞き、その家族ならではのドラマ性をとる番組だ。

 たまたま俺とルビーがその番組を見ていてルビーが疑問に思ったのだ。

 確かに、俺も疑問に思ったことはある。

 一緒にお風呂に入ったときに見えた身体は細身だが筋肉が確かに付いていた。でも、それ以上に身体中に付いていた傷には驚いた、

 父さんは仕事だと言い一か月の半分以上は家にいないし、なんなら一か月丸まる居ないなんてこともざらにある。しかもどうやら海外に行っているらしく毎回行ってるところはバラバラで、この前なんてお土産にマトリョーシカとマカダミアナッツを渡され、その前は自由の女神像のミニチュアを貰った。

 一度父さんが仕事から帰ってきた姿を見たことがある。深夜二時を過ぎた真夜中に黒いコートを身に纏い、家では吸っているところも嗅いだところも見たことがないたばこの匂いを漂わせて、暗い表情で帰ってきた。俺はその表情をよく知っている。

 俺の前世。雨宮吾郎だったころに通っていた医大で、良くそんな表情をしていた人を見たことがあり、俺自身もその表情をしたことがある。それは解剖実習の時に動物を使った時だ。実習後は当然みんな暗い表情をして全員一週間以上肉料理を食べれなかったくらいだ。                                   

 そんな動物の死を直視した以上の地獄を見たような表情を父さんは毎回していた。

 

「でもまあ、私は立香がちゃんと帰って来てくれるのならそれでいいかな」

 

 膝枕をされて横になるルビーの頭を撫でながら、アイは優しい声でそういった。

 それからしばらくして、父さんに一人の女性が尋ねてきた。

 

「お久しぶりです先輩。連れ戻しに来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 鍋がぐつぐつと煮える。

 

「おっ、美味しい・・・どう?アクア、ルビー」

「うん!美味しい!」

「いいんじゃない」

「でもねー、目指している味とはちょっと違うんだよねー」

 

 スープをもう一口味見してみるが昔にカルデアで作ってもらったスープの味と何処か違う。レシピは同じなんだけどな。

 とりあえずガスを弱火にしてコトコトと煮込む。

 まな板や包丁、お玉などの使ったものを洗っているとインターフォンがなった。

 

「はーい!今出まーす!」

 

 ガスを止め、エプロンを脱いで玄関まで向かう。何か頼んだかなー。

 重厚な扉を開けて顔を出すとそこには1人の女性が立っていた。 

 

「・・・マシュ」

「お久しぶりです先輩。連れ戻しに来ました」

 

 そこには後輩のマシュが立っていた。

 俺は一瞬でマシュに腕を取られて玄関から外に連れ出される。

 

「先輩!早くカルデアに帰りますよ!」

「ちょっ、待って待って!今部屋着だから今靴下だからせめて靴くらい履かせてお願いだから」

「もう待ちません!今すぐ帰りますよ!」

 

 マシュは俺の言葉に気づいていないのか、それとも無視しているのか、引っ張られるように廊下を歩かされる。

 

「一旦落ち着けキリエライト」

「カドック・・・」

 

 マシュに掴まれていた腕をカドックが放してくれた。

 

「カドックさん!何をするんですか!」

「落ち着けキリエライト!いくら何でも無理矢理すぎるぞ!」

「でも、ようやく先輩と会えたんですよ!早くカルデアに連れて帰るべきです!カドックさんだってそのつもりなのに!」

「言っておくが僕が来た理由は君の暴走を止めるためだ!」

「ちょっ、二人とも落ち着いて、ね。ほら・・・子供たちも見ているし、ね」

 

 俺は自分の家の玄関に視線を向けると、そこからアクアとルビーが顔を出している。

 

 

 

                  

 

 

 

「コーヒーになります。お会計の際はこちらをレジの方にお持ちください」

「ありがとうございます」

 

 店員が注文したコーヒーを三杯持ってきた。

 

「二人は砂糖とミルクいる?」

「いや、僕はいらない」

「マシュは?いる」

 

 喫茶店に来てから一言も発さなかったマシュが重く口を動かした。

 

「先輩、どうしてカルデアに帰ってこなかったんですか?」

 

 カップを口から離しマシュを見る。

 一年ぶりに見るマシュの顔は赤みがかっていて目尻には涙がうっすらと見える。

 

「全てカドックさんから聞きました。どうして封印指定執行者になったりしたんですか」

 

 カドックを見るとため息を吐きながらこちらを見る。

 

「仕方ないだろ。この事はカルデア内では誰でも知っていることだ。それをマシュだけに知らせないって言うのは無理な話過ぎる。むしろ一年ほどは持たせたんだぞ」

「うん、そうだね。ありがとうカドック」

「答えてください先輩。どうして封印指定執行者になったんですか。どういうものか時計塔に通っていたのならわかりますよね」

「ああ、そうだね。わかるよ」

 

 封印指定執行者、一代限りであると時計塔に認められた才ある魔術師を保護管理するために武力行使を持ちる戦闘屋集団。要は時計塔の便利屋である。

 

「ならどうして?」

「カドックから全部聞いているのならわかるでしょ?」

「言っておくが、僕が説明したのはお前が封印指定執行者になったという事だけだ。何でなったのかも全て僕から説明すべきではないと思ったから伝えてない」

 

 カドックは真剣な眼差しでこちらを見る。

 

「そっか・・・なら俺の左腕が切断されて義手なのは覚えているでしょ」

「当たり前です。ロンドンで魔術師に狙われた時に左腕を切断されて・・・」

 

 俺は左腕を軽く触る。青崎さんのお陰て本物のような腕を作ってもらったがそれでもこの腕は人形の腕だ。

 

「どうやって助かったのかは知らないでしょ」

「エルメロイ教室の皆さんが助けてくれたはずでは・・・」

 

 俺はマシュの言葉に頭を左右に振る。

 

「違うんだよエルメロイ教室のみんなが駆けつける前に助けてくれたんだよ」

 

 右手に魔力を込めて二人にみせる。

 手の甲には赤い三角の文様が、令呪が写りこんでいる。

 

「なっ!・・・何故ですか!皆さんはもう帰られたのに、どうして!」

「エルメロイ先生はマスターになりすぎたって言っていたよ。何年もマスターになり続けたことによって、本来は繋がるはずのない座と直接つながってしまって。だから聖杯(もん)がなくても召喚の陣も聖遺物(かぎ)がなくても召喚出来るって。まあ召喚できるのはシャドウサーヴァントなんだけどね。それでも、本来なら召喚できない境界記録帯(ゴーストライナー)を、召喚できるだけで時計塔は秘儀裁示局カリオンは十分だと判断したようでね封印指定されたんだ。それで、なんとか交渉して特例として封印指定執行者となる代わりに封印指定を止めてもらったというわけだよ」

 

 言い終わり、コーヒーを口に着けるとアツアツだったコーヒーがぬるくなっていた。コーヒーが冷めてしまうくらいにはもう時間が経っていた。

 

「そんな・・・なら先輩は・・・」

「先に一つ言っておくけど何も後悔はしていないよ。異聞帯を踏破した時も特異点を攻略した時もマシュをあの時助けた時も、カルデアに来たことそのもの何も後悔していないよ。全て自分の意志で、俺が好きでやったことだから。誰もせいでもないよ」

 

 マシュの目尻には涙が溢れ、顔が赤みがかっている。

 そんなマシュが机を勢いよく叩き、か細い声で何かをしゃべろうとしている。

「―――そんな―――そんなの・・・あんまりじゃないですか!」

 

 言葉と同時にマシュは立ち上がり店から出ていった。

 

「ごめん、カドック・・・」

「お前はっ、全く。後で覚えてろよ!」

 

 そう吐き捨ててカドックはマシュを追いかけていった。

 カドックが店から出ていくのを見終えると、どっと肩の力が抜けて重いため息が出た。

 カチッと俺は音を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 煙はゆらゆらと天井へと上がっていく。

 後ろからは居酒屋ならではの喧騒が微かに聞こえてくる。

 

「藤丸、お前煙草吸い始めたのか」

 

 個室の入り口を見るとカドックが立っている。

 すぐに咥えている煙草を消した。

 

「ああ、まあね。別に煙草が好きなわけではないけど匂いを誤魔化すのにちょうどいいんだ。先に始めてる。とりまビールで良かったでしょ」

「・・・別に何でもいいよ。へー、これが日本の居酒屋っていうやつか」

 

 カドックは俺の目の前に座り、メニューを見ている。

 

「いいでしょ、ここ。アイの、奥さんの事務所の社長に聞いてみたらここがおすすめだって。よく芸能人とかも来るらしい」

 

 カドックはそうか、と興味がなさそうに呟いた。

 そうしていると店員が来て料理を持ってきてくれた。

 

「とりあえず、乾杯」

「ああ、乾杯」

 

 グラスを鳴らし、お互いビールを飲む。

 

「あの後、マシュはどうだった」

「ホテルの部屋に帰っていったよ。それよりも、ちゃんと説明しろよ」

 

 カドックはドンっとグラスを置く。

 

「説明って、喫茶店で話たことだけだよ」

「嘘をつくな。あれは経緯だろ。僕が聞いているのは理由だ。ゴルドルフ所長から聞いているからな。カルデアに来れば問題ないように取り計らってもらったのに断ったって」

「ハハハ、さすがに知っていたか。にしても凄いよね新所長いや、所長がロードになるなんて」

 

 全てが終わり、オルガマリー所長も亡くなったことで空いた天文科のロードにカルデアを買い上げた所長がついた。本人は死ぬほど嫌がっていたのが思いだせる。

 グラスに残っているビールを全て飲み切る。

 

「最初はさ、俺もカルデアに帰ろうと考えていた。まあそれでも、五年ぶりに現代の日本に帰りたいと思ってさ、帰ったんだよ」

 

 スマホを取り出し、何枚かの写真をカドックに見せる。

 

「こっちの男の子が息子のアクアで女の子が娘のルビーね。この双子をさ、アイをさ、見てやっと実感できたんだよね。ああ、俺は誰かを救うことが出来たって。特異点でも異見帯でも善か悪かは関係なくいろいろな人の思いを見捨てて継いで来た。正しいと、これしかないと術がないから、と自分の中で納得をしていた。それはすべてが終わってからも変わりなくて本当にこの世界は他の世界よりも、南米よりも妖精郷よりもギリシャよりもインドよりも中国よりも北欧よりもロシアよりも、続くべきだと理解できたけど心のどこかで納得はしきれなかったんだよ。それがさ、アクアとルビーを見て、アイと話せて一瞬でスっと納得できたんだ。ああ、この世界は間違いじゃなかって。だからカルデアに帰るではなく一日でも一分でも長く三人のもとにいられるためにカルデアに帰らなかった。そのことはごめん」

 

 カドックは静かにそうかと呟いた。

 

「それにしてもカドックと飲むのも久しぶりだね」

「当たり前だろ。ロンドンの時なんて毎週のようにお前が誘ってきたんだから」

「それはカドックもだろー」

 

 俺とカドックはカチンと再度乾杯をした。

 

 

 

 

 

 

 それから数時間ほど飲み時刻は夜の10時を過ぎていた。

 どうやら明日にはカルデアに帰るらしくカドックと解散することになった。

 カドックをホテルまで送ろうと二人で真夜中を歩いていると、カドックが急に立ち止まった。

 

「藤丸、ありがとうな。ここまででいい」

「ん?なんで、ホテルまで送るよ。すぐそこなんだろ」

 

 俺の言葉にカドックは静かに首を振る。

 

「すぐそこだからいいんだよ。俺の番はここまでだ」

 

 カドックはずっと前を向いたままで、それが気になりカドックの視線を追う。

 そこには、マシュが立っていた。

 

「ありがとうございます、カドックさん」

 

 マシュは一歩二歩と近づいてくる。

 

「じゃあな、藤丸」

「・・・ああじゃあね、カドック」

 

 カドックは一歩二歩と離れていく。

 

「改めて、お久しぶりです先輩。先ほどはすみませんでした」

「いや俺の方が悪かった。ごめん」

 

 マシュは頭を下げ終えると俺と視線を合わせてきた。

 未だに目は赤いが、顔立ちが前に見た時よりも大人びている。

 

「先輩、最後にもう一度聞きます。私と一緒にカルデアに帰りませんか?」

「ごめん、マシュ。俺は君とは帰れない」

「そうですかわかりました。今回は諦めます」

 

 マシュは一歩下がる。足が軽く震えているのが見てわかる。多分それは夜の肌寒さとは関係ないのだろう。

 

「ごめんな、マシュ。そのうち必ず―――」

「ダメです!」

 

 俺の言葉を遮ってきた。その言葉にはマシュの感情が今日一番に入っている。

 

「私諦めませんから、必ず先輩をカルデアに帰る様に説得します。ですから、それまでは先輩の帰る場所はカルデアではありません」

 

 多分俺はマシュのこの表情を一生忘れないだろう。

 

「ああわかった。それまではカルデアには帰らないよ」

 

 マシュはさらに一歩下がる。

 

「それではさようならです。先輩」

「さようならマシュ」

 

 さらに一歩マシュは下がる。

 

「―――」

 

 マシュは最後に頭を下げると走って去っていった。

 

「さようなら、マシュ。今までありがとうな」

 

 俺の言葉は闇夜に消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「りーつかっ!」

 

 夜道を歩いていると後ろから衝撃が乗っかってきた。

 

「あ、アイ!」

 

 流石に俺の背中に乗るのをやめたのかアイは俺の右腕に腕を組んできた。

 

「立香ー、帰ろ」

「いやてか何でここにいるの?」

「まあ宣戦布告を受けたからね。まあ立香には言ってもわからないよ。帰ろっ!」

 

 アイに腕を引っ張られお互い走り出す。

 何でここにアイがいるのかはわからないが別にいいだろう。

 俺たちはこうして帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから十年ほどが過ぎた。

 アイはアイドルを引退して女優の道に進み、アクアが俳優で、ルビーがアイドルの道へと進み始めた。

 そんな時にいつも通り仕事が飛んできた。場所は南米のようだ。

 もしかしたらいつか来るのではないかと思っていた。

 何か絶対的な確信があったわけではない。むしろただのかんでしかない。一体それが一年後なのか十年後なのか百年後なのかはわからない。なんなら来ないでくれと何度願ったことか。

 それでもそいつはきた。いやどちらかというとこちらが行く側なのだろう。

 密林を一歩進んでいくごとに身体が重く感じてくる。一歩進むごとに絶望感が増してくる。

 そうして一歩ずつ歩いていくととある音がきこえてきた。 

 

「―――!」

 

 世界が裂けるような音が聞こえてくる。その音が記憶を刺激してきてさらに絶望が増してくる。

 そうしてさらに一歩踏み込むと世界を裂く全貌がみえてきた。

 もうあれから10年以上過ぎている。攻撃パターンも何をしてくるかもあまり覚えていない。けれど恐怖は絶望は覚えている。

 

「―――!」

 

 世界を裂く音が聞こえてくる。

 この十年もしもに備えて出来る準備は合間合間にした。仕事に行くついでに色々なものを集めた。けれどこれで呼べるかはわからない。

 座には記憶の連続性はないというから俺の事を覚えているかはわからない。そもそも誰も来ないことだってあり得る。

 それでも俺がやるのだ。

 右手をその恐怖に向かって掲げる。

 右手の令呪が赤く輝き、魔術回路が駆動する。

 

「―――告げる

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

 聖杯の寄るべに従い、人理の轍より答えよ

 汝、星見の言霊を纏う七天

 降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ―――!」

 

 一体誰が来てくれるかも何人来てくれるかも分からない。なんなら誰も来てくれないこともあるし、来てくれても俺の事を覚えているかはわからない。

 それでも、帰るべき場所があって、人が待っている。

 なら、それだけで十分だ。

 

「―――こいっ!来てくれっ!」

 

 目の前が光り輝き、その光が目前を包み込んだ。

 

「ありがとう」

 

 




読んでいただきありがとうございました。
一応あと一話続きます。
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