終末怪獣世界(短編)   作:断空我

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試しにあと、数話程展開して反応を見て書いていきます。


続発する脅威

時間は遡る。

MINDの比企谷八幡と坂本剛一の二人は海上保安庁と保険会社の合同調査に同行していた。

 

「移動する環礁ね」

 

坂本の言葉に八幡は資料へ視線を落とす。

数週間前、太平洋上でプルトニウム輸送船海竜丸が座礁するという事件があった。

海上保安庁巡視船のじまはそこで驚きの光景に遭遇する。

座礁した先の環礁が離れていったのだ。

幸いにもプルトニウム流出という最悪の事態は起こらなかったものの、移動する環礁は瞬く間に話題となった。

 

「比企谷君」

「はい」

 

呼ばれて振り返る八幡。

話しかけた相手は海上保安庁巡視船一等航海士の米森良成。

彼は移動する環礁を目撃した一人であり、今回の調査に参加できなかった事から伝手を頼って休暇をとってまで参加してきた。

 

「今日はよろしく頼むよ」

「まさか、俺を頼ってくるなんて思いませんでしたよ」

 

米森の伝手、それこそMINDの記者である比企谷八幡だ。

二人の接点は去年発生した海獣災害事件。

海の異変を調べる為にやってきた比企谷八幡は同じく単独で調査をしていた米森と出会った。

後に海の異変は魔怪獣ダガーラの仕業だったのだが、それを世間が知ることはない。

その縁で米森と八幡はこうして再会することになる。

 

「助かったよ。キミのおかげでアレを追いかけられる」

「相変わらず気になったら突き進む性格は変わりませんね」

「これが俺だからな」

 

胸を張る米森の姿に苦笑する八幡。

坂本も彼の姿を見て人となりを理解したらしい。

 

「米森さんは移動する環礁を目撃したんですよね?実際の所、あれを何だと思います?」

「わからない。だが、移動する環礁なんてありえない。だからあれの正体を突き止めたい」

「変わらないですね。あの時と同じこと言っていますよ」

 

八幡の言葉に米森は「そうかもな」と笑う。

そんな話をしている間に調査船「けんざき」は移動する環礁を発見した。

 

「米森さんの予想通りでしたね」

「あぁ、ようやく奴の正体がわかる」

 

一定の距離からボートで環礁へ接近する八幡達。

乗り込む為の機材の準備に時間が掛かり、彼らがたどり着いた時、夜だった。

照明器具を準備しながら環礁の上に立つ八幡達。

ふと、足元で何かを蹴った事に気付いて下をみる。

 

「勾玉?」

 

八幡が拾い上げたのは勾玉。

 

――ドクン。

 

勾玉を握った瞬間、何かが胎動するような感覚が過る。

八幡は咄嗟に自分の胸元を触った。

しかし、その感覚は一瞬のもの。

 

「気のせい、か」

「八幡君も拾ったのか」

 

米森も勾玉を持っていた。

 

「そこら中に落ちているらしい」

「拾わせることが目的なんですかね?」

 

首を傾げながらも米森と八幡は自然と勾玉をポケットの中にしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

環礁の調査がひと段落付いた事で迎えのヘリがくる事となる。

 

「ひとまず、こことお別れか」

 

八幡は環礁の一部を掘っていき、露わになった銀色のプレートをみる。

環礁の中で見つかったプレート。

数十メートル程、掘り起こして露わになったもので碑文が刻まれていた。

皆はそれが何なのかわからず首を傾げている。

八幡は周りに人がいないことを確認してプレートに触れた。

 

――ドクン、ドクン、ドクン!

 

鼓動の様にプレートを通して心臓の音のようなものが伝わってくる。

そして、頭の中にプレートに刻まれている文字が言葉となって羅列していく。

 

「どうして」

「八幡君?」

 

後ろからポンと肩を叩かれた八幡は振り返る。

同じようにプレートの傍まで降りてきた米森がいた。

 

「どうしたんだ?ぼーっとして」

 

動かない八幡を心配してやってきたのだろう。

 

「あぁ、いや、何か音がするなぁって」

「音?」

「心拍みたいな」

「え?」

 

米森はプレートに耳を当てる。

 

「確かに」

 

驚きながら自然と彼はプレートに触れる。

その瞬間、プレートに亀裂が入った。

驚く二人の前でプレートがガラガラと崩れ落ちていく。

同時に環礁が大きく揺れだす。

 

「地震か!?」

「違います。環礁、環礁、そのものが動いている」

 

この時、調査船か様子を伺っていた坂本の話によると、環礁から光が迸り、バキバキと亀裂や揺れが起こっていたという。

その揺れに巻き込まれて八幡や米森、調査員達が海へ放り出されてしまった。

海に落ちた米森達は転がるようにしながら水面を出ようと足掻く。

米森は今、自分の目でみたものが信じられなかった。

もう一度、もう一度!

確認しようと息を止め、目に痛みを感じながら必死に目を開く。

環礁の一部から顔を出して現れる怪獣の顔。

その目はちらりと米森を一瞥してどこかへすいすいと泳いでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在。

新宿で二体の怪獣が対峙している。

一体が環礁から現れた亀型怪獣、ガメラ。

巨大な翼竜型怪獣は口からボタボタと涎を垂らし長い舌を伸ばしながら地面を蹴る。

高速に匹敵する速度でガメラに接近。

翼を揺らしながらガメラに食らいつこうとする。

両手を伸ばして翼を掴んで動きを止めようと試みる。

ギャオスの口が輝く。

口から発射される超音波メスがガメラの甲羅を抉ろうとした。

超音波メスがガメラの皮膚を切り裂く。

斬られた箇所から青い血が噴き出して悲鳴を漏らすガメラ。

 

「っ!?」

 

離れながら戦いの光景を見ていたボコは首筋に痛みを感じて手で触れる。

しかし、傷の類はない。

痛みに揺れ動くガメラに噛みつこうとしていた所で空からミサイルが降り注ぐ。

 

「ジェットビートルです!」

 

メガネをかけた知的な印象を与えるジュンイチの言葉通り、空を銀と赤、流星マークを持つVTOL、ジェットビートルが現れる。

ジェットビートルの攻撃が両方の怪獣に降り注ぐ。

防衛軍の攻撃を受けても平然としていた翼竜怪獣だが、科特隊の特殊ミサイルを受けて怯む。

その隙をついてガメラがギャオスの首元を掴んで地面に叩きつけた。

何度も、何度も何度も地面に叩きつけてギャオスの首を掴んだ。

痙攣しているギャオスが舌を伸ばそうとする。

その口の中へガメラが手を突っ込む。

悲鳴を上げながら口から舌事、臓器ごと引きずり出す。

ゴボゴボと赤い泡を吐きながら翼竜怪獣はこと切れる。

ガメラを手助けする形になったジェットビートル。

飛行音にガメラが意識を向けた瞬間、幼体のギャオスが隙をついて成体ギャオスの体の一部に食らいついた。

ガメラが視線を戻した際に幼体ギャオスが体の一部を加えてどこかへ飛翔していく。

敵が逃げた事に怒りの声をあげながらガメラの脚が収納されプラズマジェット噴射が起こる。

前足が飛行機の翼のようなものに変わりながら逃げた幼体ギャオスを追いかけていく。

防衛軍の応援が慌ててやって追いかけるも二体とも行方を見失ってしまう。

こうして、新宿で起こった怪獣騒動は一幕を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガメラとギャオスという識別名を与えられた怪獣同士の戦いから数時間後。

ボコや桐野牧郎は防衛軍に保護された。

何故、あの場所にいたのか。

何をしていたのか等、事情聴取を数時間掛けて行われた。

ギャオスとの逃走劇から防衛軍の事情聴取を受けてへとへとになった桐野はそのまま借りているアパートへ帰るつもりだった。

 

「あの、桐野牧郎さんですよね?」

 

帰ろうとした桐野へ声をかけてきた一人の女性。

 

「誰だ、アンタ?」

「はじめまして、私はエミコ・メルキオリ。ユースタス財団所属のサポートサイエンティストです」

「……あぁ、あの」

 

――ユースタス財団。

世界的に活動しているエネルギー資源の財団。

噂では月面で開発が進められている基地のエネルギー提供も担っているとかそういう話をニュースでみたような気がする。

 

「何ですか?自分は疲れていまして」

「話しはすぐに終わります」

「じゃあ、手短に」

「まずはこれを」

 

エミコと名乗った白衣に亜麻色のショートヘアーの女性は桐野へ見た事のない端末を差し出してくる。

 

「これは?」

「“コミュニケータ”、ユースタス財団が開発した端末です。子供達にも渡していて、出来れば、桐野さんにも」

「怪獣絡みで何かあれば、連絡するって?悪いけれど、厄介ごとはごめんだね」

「え、あの」

 

コミュニケータという機械を触った際に力が発動して彼女の考えを瞬時に読み取った。

戸惑うエミコを置いて桐野はひらひらと防衛軍の基地を出る。

 

「厄介ごとに誰が飛び込むかよ。しかも、あんな恐ろしい考え」

 

一瞬だったが、コミュニケータを通して読み取った内容に桐野は体を震わせる。

 

 

――ギャオス以外に怪獣がいることをユースタス財団は隠している。そんなヤバイ事実、知りたくなかったよ。

 

この時、疲れていた桐野は気づかなかった。

彼の持っている鞄の中にエミコが咄嗟にコミュニケータを仕込んでいた事。

仕込まれていたコミュニケータによって桐野達はまた新たな怪獣騒動へ巻き込まれていく。

新たなる怪獣“ジャイガー”の出現によって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、米森さん!」

「やぁ、和田君……いや、ボコ君だったか」

 

環礁調査を終えてマンションへ帰ってきた米森はドアを開けようとした所で隣の部屋のボコと出会う。

 

「買い物帰りかい?」

「うん。米森さんは……任務帰りだっけ?」

「あぁ、大変な目にあったよ」

 

環礁の中に眠っていた怪獣、あれが新宿に現れた同一の存在であることがわかり、近々、防衛軍の会議に米森は呼ばれる事になっていた。

その前に帰って一休みしたいと自宅へ戻ってきていた。

 

「ここは大丈夫みたいだったけど」

「怪獣の事でしょ?一応、大丈夫だったよ」

 

嘘である。

ボコはギャオスとガメラの戦いを目撃した。

もし、米森にあの時の出来事を伝えた所で信じてもらえるだろうか?

そんな疑問と不安からボコは伝えることが出来ない。

 

「あ、そうだ」

 

米森は思い出してポケットからあるものを取り出す。

環礁で見つけた勾玉。

 

「これ、ボコ君にお土産!」

「え、本当!?」

 

ボコは米森が差し出した勾玉を受け取る。

 

「何、これ?」

「ニュースで話題になった亀の怪獣の背中にあったやつ」

「本当!?」

 

ボコはキラキラと目を輝かせる。

彼にとってガメラと関りのあるものに食いつくのは当然の事と言えるだろう。

嬉しそうに掌の上の勾玉を眺める。

その時、勾玉がうっすらと赤い輝きを放つ。

米森が持っても反応しなかった勾玉。それが輝きを放っていることに驚きを隠せない。

 

「温かい」

 

ぽつりとボコは呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユースタス財団が防衛軍の基地の一角を借りている研究施設。

そこで二人の職員が荒い呼吸を必死に整えようとしながら壁に隠れていた。

 

「なぁ、本部に連絡をした方が、防衛軍の応援を呼んだ方が」

「規定の処置を出来ていない。もし、このまま放置してあれが暴れだしたらどうする?」

 

所持している拳銃の弾をチェックしながら主任が部下へ告げる。

彼らは財団が保有していたある物を防衛軍に内緒で持ち込み、研究をしていた。

少し前にサポートサイエンティストのエミコが会議に出席の為、不在となった後に事件は起きた。

 

「くそっ、安定していた筈なのに」

「いきなり数値に変動が出た途端、あんなことになるなんて」

 

警報装置を作動させる暇もなくいきなりの異変。

逃げることに精一杯だった二人は冷静になった所で引き返したのだ。

引き返した理由は仲間を見捨て事の罪悪感、これ以上の犠牲者を出したくないという義務感。

 

「行くぞ」

 

研究室の中へ突入する主任。

続く部下。

中は悲惨な光景になっていた。

最低限の機材はすべてが破壊され、見捨てた仲間達の死体は一つもない。

しかし、床や壁に飛び散った返り血が彼らの末路を語っている。

 

「ここから逃げたのか」

 

主任の視線は床。

鋼鉄で作られていた床にぼっかりと出来た小さな穴。

子犬くらいのサイズが通れるほどの穴。

 

「まずいぞ、この下は地下水路に繋がって」

 

バスバスバス!

部下に話しかけようとした時、すぐ傍で何かが連続して固いものを貫いたような音が響く。

 

「な、なぁああああああああああああ!?」

 

隣を見た主任が絶叫する。

部下の顔に複数の細長いものが突き刺さり、物言わぬ死体へ変えていた。

異変に気付いて逃げ出すも、再び室内に同じ音が響いた。

主任もものいわぬ死体に変わる。

ギャオスに続く新たな脅威【ジャイガー】の目覚めである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新宿を襲った翼竜型怪獣【ギャオス】の対策会議が開かれていた。

対策会議は陸海空の防衛軍の将校、御殿山の科学センターに勤める岩本博士、ユースタス財団サポートサイエンティストのエミコ・メルキオリ、そして鳥類学者の長峰真弓。

実は彼女の恩師である平田が五島列島姫神島にてギャオスを発見。

瞬く間に成長したギャオスによって食い殺されていたという事実が発覚。

新宿でギャオスの群れが暴れている際、姫神島から飛び立つギャオスを民間ヘリで追跡して被害を抑えようと試みていた経緯があった。

ギャオス撃退に貢献した科特隊の村松キャップ。

そして、ガメラ発見に関わった米森良成、坂本剛一、比企谷八幡。

 

「まずは再度、姫神島を調査した結果、ギャオスの巣らしき場所を発見しました」

 

最初、長峰によるギャオスについての報告が行われる。

死骸のギャオスを全て調べたところ、すべては雌であったという事。

今後、増える可能性はないだろうが、念の為、細胞分析を知り合いの専門家へ依頼している。

ギャオスについては新宿襲撃の件を鑑みて怪獣災害と同等の危険を孕んでいるという事から会議で満場一致の殲滅で決定した。

続いて、話題に上がるのがギャオスと敵対した亀型怪獣について。

 

「亀型怪獣についてですが、我々が調査していた環礁の中から出現した事実に間違いはありません。そして」

 

様々な言葉が飛び交い、会議場の中は騒がしくなる。

その中でエミコは俯いてコミュニケータをみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

「なんで俺までいかないといけないんだよ」

「アンタもコミュニケータを貰っていたんだろ?だったら仲間だ!」

 

笑顔でアメフトのプロテクターと金属バットを構えるブロディに桐野は辟易とする。

桐野はコミュニケータで緊急事態と騒ぐ目覚ましで起こされて地下水路の入口まで呼び出されていた。

どうやらブロディの言う緊急事態とやらに呼び出されたボコ、ジョー、ジュンイチの三人の姿もある。

どうやらジョー以外の二人はユースタス財団のエミコの言葉に刺激を受けて世界の平和を守るという気持ちになっているらしい。

 

「(バカらしい)」

 

やる気に満ち溢れている三人をみて、桐野はジョー寄りの考えだった。

話によれば子犬サイズの怪獣がユースタス財団研究施設から逃走したという。

その報告を受けた防衛陸軍の偉い人が部隊を呼んで調査を開始している。

ブロディの説明にボコとジュンイチはやる気に満ちていた。

対して、桐野とジョーは不安で表情が険しい。

 

「なんでアイツが仕切ってんだよ」

「同感だ」

 

桐野とジョーはそこで互いを見る。

 

「アンタは率先して動かないんだな。大人の癖に」

「大人だからって何もかも率先するってわけじゃない。何より、僕は厄介ごとに関わることが嫌なんだよ」

 

ちらりと桐野は地下水道へ入っていく三人を横目でみる。

 

「けれど、放っておくわけにもいかないんだよな」

 

超能力を持っている桐野は自分以外の人間が嫌いだ。

皆が腹に一つ二つ、隠し事をしている。

力を使えば、彼らの心は読める。

実際、彼らの気持ちは力を通してすべて伝わっている。

 

――気になっているのだろうか?

 

先に進みだした彼らに渋々ついていく形になったジョーと桐野。

バランスを崩したジョーを支えた際に桐野の力が発動する。

彼の不安、動揺、恐怖が伝わってきた。

顔を顰める桐野に気付いてジョーが尋ねる。

 

「気を付けろよ」

「あぁ、悪い……アンタ、なんで強く反対しないんだよ」

「は?」

 

しばらく歩いていた所でジョーが振り返る。

 

「アンタは大人なんだから強く言えば、アイツらも」

「それで引き下がらないのはキミがわかっている筈だ」

「!?」

 

桐野の指摘にジョーが目を見開く。

続けて言葉を紡ごうとした時。

 

「うわぁあああああ、こ、これ!」

 

ボコの叫びに会話を中断して二人も向かう。

先を歩く三人がみていたのは壁に出来た穴。

 

「子犬というより子牛では?」

「情報確かなの?」

「も、勿論だ。ちゃんと確認した。ほら、行くぞ」

「おい!行くのかよ!?」

「コイツの言う通りだ。明らかに情報と食い違いが起きている。危険だ」

 

ジワジワと不安と恐怖が桐野とジョーを包み込む。

穴の中に入ってしまう三人の後を二人は追いかける。

だが、ジュンイチの持っているコミュニケータから聞こえてきた音声によって事態は変わる。

 

『――地点はクリア、本管の管が破壊されている。そう……だ。捜索個体に……科……隊員も』

「これって、防衛軍の通信!?」

「周波数を合わせてみます。これでこちらの状況を報告できるかと」

「防衛軍と合流するんだね。すごい!」

 

不安に揺れていたボコが防衛軍と合流することに喜色の表情を浮かべる。

 

「よぅし、彼らがくるまでここを確保するぞ!」

「だったらさ、もうちょっと奥まで調査を――」

 

我慢の限界だった。

ジョーは肩を震わせて前に踏み出す。

 

「もういいだろ!」

 

桐野は叫んだ彼の強い感情に飲まれて後ろに下がる。

 

「浮かれるのもいい加減にしろ!」

「べ、別に浮かれて何か」

「まぁまぁ、こいつだって少しは役に立とうって頑張ってんだからさぁ、なんつぅか、お前、説教くさいというか、ボコの親というかさ」

 

ぶつかる寸前というボコとジョーの間にブロディが割って入る。

それが一気にジョーの怒りの導火線に火をつけた。

ボコからブロディと向き合い、ぶつかりながら胸倉を掴む。

 

「ってぇな……」

「友達ぶってんじゃねぇぞ、クソが」

 

途端、剣呑な空気が場を冷やす。

ジョーとしてはブロディと呼ばれる少年に対して嫌悪感しかない。

最初からの出会いが最悪だった。

三人で集めた金を変な理由を付けて強奪した奴。

ギャオスの襲撃を受けて巻き込まれ、気付いたら行動するようになっていた。

だが、それだけじゃない。

ジョーは知ってしまった。

横暴な奴だったブロディの事をジョーは知りすぎていた。

 

「親父に良いところを魅せようってだけだろ」

「はっ!?」

「何が街を守るだよ。御託を並べてこいつらを囃し立てて、結局は、てめぇの点数稼ぎに利用しているんじゃねぇか。お前の親父は防衛軍の偉い人だからな」

 

コミュニケータを通してジョーは知ってしまう。

ブロディと父の関係を。

父は防衛軍の偉い立場にて、今回のギャオス騒動に巻き込まれたブロディを叱っていた。

そのやり取りが、歪んだ『父と子』の関係。

どこにでもあるような関係。

そして、どこか自分に似たような彼に対して気に入らなかった。

 

「ダッセェんだよ。普段は自分より弱い相手にイキっている癖して、父親の前だと良い子ぶる。違うなぁ。親父の言いなりになるしかない自分を誤魔化す為に、弱くて動けない奴に対してイキってんだよ!」

 

だから、目の前の似たような相手に対して言ってやらないと気が済まなかった。

 

「ち、違う、違う、俺は……」

 

頭を抱えるブロディ。

誰もが言葉を発しない中、暗闇の中で唸り声が聞こえる。

 

「え?」

「今の音、なに?」

 

ボコ達は戸惑いながら懐中電灯で周囲を照らす。

だが、何も見えない。

否、近すぎて気付かなかった。

 

「あ、アレ!」

 

最初に気付いたジュンイチが声を上げる。

暗闇の中で輝く赤い瞳。

 

「僕達は、奴の近くで騒いでいたんだ!」

口を開けて雄叫びをあげる怪獣。

そう、ボコ達はジャイガーの傍で揉めていた。

 

「逃げろ!」

 

桐野の叫びにボコ達は慌てて走り出す。

だが、

 

「もう一体!?」

 

地面を蹴りながら目の前に牛くらいの大きさの小型ジャイガーが現れる。

瞳をランランと輝かせながら口を開ける小型ジャイガー。

 

「わ、わ!」

「前門の虎、後門の……えっと」

「どっちも怪獣だろうが!」

 

戸惑い変なコントをするジュンイチとジョーを後目に桐野は出口がないか探ろうとする。

その時。

 

「ま、ま、た地震!?」

 

ボコは体を襲う奇妙な感覚に気付く。

ザワザワと自分の体を探るような変な感覚。

頭を押さえて苦しんでいた時、ガラガラと土壁が崩れていく。

その中から現れるのは鋭い角を頭部に生やし、恐竜に近い姿をした怪獣。

凶暴怪獣アーストロン。

 

「別の怪獣!?仲間か!?」

「いいや、違う。コイツ、縄張りを荒らされて怒っているんだ!」

 

戸惑うブロディが叫ぶ中で桐野は何故、アーストロンが現れたのかわかった。

この地底はアーストロンの縄張り。

しかし、目の前にいるジャイガーがアーストロンの縄張りに侵入した。

邪魔者を排除するべく、アーストロンはジャイガーに飛び掛かる。

正面からぶつかりあうジャイガーとアーストロン。

二大怪獣の激突に彼らは落下してくる瓦礫から必死に逃げながら外に出る。

道中に防衛軍が現れたジャイガーとアーストロンに発砲していたが鋼鉄に匹敵する皮膚を持つアーストロンと体皮にシールドを展開しているジャイガーにとって痛くも痒くもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボコ君達、無事だろうか?」

 

車を運転する米森、助手席にいる八幡は避難する住民達と逆方向へ進んでいた。

怪獣が出現するという報告によって会議は中断。

科特隊の村松キャップが部下と共に調査で問題の地点へ出動。

米森達は待機するつもりだったのだが、ボコの母親から連絡が入った。

子どもがいないと。

そして、ユースタス財団のサポートサイエンティストのエミコ・メルキオリから子供たちに渡したコミュニケータの反応がないという話。

子ども達の危機!に居てもたってもいられず米森、八幡、エミコ、坂本、長峰の五人は防衛軍の車を一台、借りて彼らがいるであろう地下水路の場所を目指していた。

 

「住人の避難もはじまっている。ゆっくりしている時間はありませんよ」

「どうして、こんな沢山の人がいるところに怪獣がいるのかしら」

「そうだな。にしても、子供たちに危ないものをもたせるか、普通」

坂本がちらりと視線を向けるのはユースタス財団所属のエミコ。

彼女から告げられた情報に反応したのは八幡。

子ども達にコミュニケータなる物を渡して危険な事に巻き込ませるように誘導。

八幡の指摘に坂本と米森が憤慨。

しかし、子供の救出優先という事で一度、話を中断して救出に来たのである。

 

「ごめんなさい。あれを持っていれば、子供たちに危険が起こればすぐにわかるかと思って」

 

項垂れるエミコを助手席から眺めていた八幡。

その時、車内が揺れていることに気付く。

 

「地震?」

「大きいぞ!?」

「いや、違う!」

坂本が車の窓をみて叫ぶ。

激しい揺れと共に地割れが起こり、そこから怪獣が現れる。

 

「怪獣!?」

「しかも、二体いるぞ!」

「あれって」

「ぐへっ!」

 

怪獣の姿を見たエミコが八幡を押しのけるようにして車上の窓をあけた。

 

「いきなり何するんだ!」

「間違いないわ。あれはジャイガー!でも、どうしてこの国に?」

 

ぶつぶつと小さく呟いたエミコの言葉が八幡の耳に届く。

言葉の意味を尋ねようとしたが米森の大きな声が思考を遮る。

 

「あそこだ!」

「おいおい、なんであんなところにいるんだよ!」

 

暴れる二体の怪獣、ジャイガーとアーストロン。

少し離れた所で悲鳴があがる。

怪獣が現れた場所はまだ住民の避難が完了していなかったらしい。

 

「ボコ君!」

「あ、ちょっと!」

 

飛び出す米森を坂本が止めようとする中、アーストロンがマグマ光線を放つ。

ジャイガーは巨大な身の上とは信じられぬほどの動きでひらりと躱すと鋭い口を開けてアーストロンへ噛みつく。

 

「う、わぁ!?」

 

衝撃と爆風によって乗っていた車が横転する。

 

「あ、これは」

「え、あ、きゃああああ!」

 

嫌な予感がした八幡だが、既に手遅れ。

エミコの尻が視界一杯に広がりながら横転する車の衝撃に巻き込まれてしまう。

 

「あいつら、無事だろうな?いや、それよりも」

 

坂本は後ろをちらりと見ながら前を走る米森をみた。

流石、海上保安庁に所属している海の男だけある。

走る速度は坂本より上。

あっという間に距離が出来てしまう。

弾丸の様に走っていく米森は必死に逃げていくボコ達の方へ駆けていく。

 

「ボコ君!!」

「あ、米森のおじさん、どうして、ここに」

「キミ達を助けに来たんだ!」

「あ、米森さん!」

「な、なんで、てか、助かった……」

「いやいや、まだ、まだだから!」

 

追い付いた坂本が必死に呼吸を整えながら米森に追いついた。

 

「すぐそこで大怪獣バトル起きてんだから、すぐに避難を」

「はぁ、はぁ、あ、あ、あぁあああ」

 

坂本の後ろを見てボコ達が顔を青ざめる。

 

「え、なに?」

 

怯えている子供たちの姿に戸惑う坂本。

 

「う、後ろ」

 

震えるジュンイチの言葉におそるおそる振り返る坂本。

ぐぱぁと口を開ける小型ジャイガーの姿がそこにあった。

 

「あ、あぁああああああああああああああああ!?」

「坂本さん!」

 

長峰が叫ぶ。

驚いて地面に座り込んでしまった坂本をみて、小型ジャイガーはボコへ視線を向ける。

 

「あ」

 

気付いた時にはボコの体に小型ジャイガーの舌が絡みついた。

 

「ボコォ!」

「ボコ!」

 

咄嗟にジョーとジュンイチの二人がボコの腕を掴む。

少し遅れてブロディと米森、桐野が体の方を掴んだ。

坂本や長峰は落ちていた石を拾って小型ジャイガーに投げる。

しかし、小型ジャイガーは石の痛みにひるむことなく目の前のボコという餌を食べようと意識を集中させていた。

 

「みんな、逃げて!」

「ふざけんな!お前を見捨てて逃げるかよ!」

「友達、ですから」

「あぁ、くそっ、お前ら、絶対、バカだ!」

 

みんなの言葉にボコは涙を零しながら叫ぶ。

 

「でも、このままじゃ」

 

小型であれど、ジャイガーは怪獣。

その力に人間であるジョー達が奮闘した所で結果は見えている。

 

――僕のせいで、みんなの命が。

 

――僕の責任だ。

 

――僕のせいで。

 

 

 

 

 

 

――違う。

 

 

 

 

「え?」

 

ボコがみたものは輝く光。

赤い光をみたと思うと衝撃がボコ達を襲う。

 

「うわぁあああ!」

「わ、あ!?」

 

土煙で周囲の視界が塞がれてしまう。

ごろごろと地面を転がる中、起き上がったボコ、そしてジョーはみた。

小型ジャイガーのいた所。

そこに突き刺さっている銀の拳。

拳を見て、ボコとジョーはその先を見る。

銀の腕、そして胸元に輝く赤いY字の結晶。

兜を思わせる頭部、乳白色の瞳は優しくボコ達をみている…………そう感じた。

 

「ウルトラマン……?」

 

ジョーはぽつりと呟いた。

 

 

 

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