我は天使であり詩人である   作:草加スマイル

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「ブモオオオオオオ!」

「なんだぁ……? 牛?」

 薄暗いダンジョンの中。ツレとはぐれてしまった僕の目の前に化け物が現れた。いや、ダンジョン内なんて化け物だらけなんだが目の前にいるそいつは、何というか桁違いの迫力があった。

 人型で筋骨隆々としたボディビルダー体型なんだが頭が牛だ。しかも鋭い角のある闘牛だ。普段ハンティングの対象にしている中で一番大きいトカゲよりも強そうだ。

 

「ブモオオオオオオ!」

「うひぃ」

 牛のパンチが地面を抉る。何という威力。直撃したらその箇所が赤くなるかもしれない。

「ブモオオオオオオ!」

「うわぁ」

 すかさず第二、第三の攻撃が飛んでくる。パンチ、角でのカチ上げ。どれも痛そうだ。

「うーん……」

 攻撃をなんとか避けながら右手の中にある短剣に視線を落とす。ギルドから貰った試供品で質は悪くないのだがこいつにかすり傷も与えられるか怪しい。かといって逃げるのも無しだ。こんなの地上に出したら僕の責任が問われそうなんで。

 

「ブモオオオオオオ! ブガッ!?」

 パンチを左手で受け止めて短剣を鞘に納める。仕方がない。あんまりやりたくないけどこれくらいしか手段がなさそうだし。

「へーん、しんっ」

 僕は自分の内側にある力を引き出す。全身が一度溶け、肉を乱暴に混ぜるような音を響かせながら変身した。

 

「シャラァッ!」

「ブギゴォッ!?」

 牛頭を蹴りでぶっ飛ばして追撃……の必要はなさそうだ。一撃で倒せた。思ったより柔いね。

 

「どりゃああああ!」

「っ! シャァッ!」

 頭の触覚で空気の流れを感じたのでブリッジ回避。直後に頭があった場所を足が通り過ぎた。そのままバク転を三回して距離をとって攻撃してきた人を見る。黒髪ショートヘアで褐色肌のお嬢ちゃんだ。凄い露出度の服でかわいいおへそが丸出しだ。ワオ、ファックしたい。

「うおおおおお!」

 お嬢ちゃんはさっきの牛とは比べ物にならない勢いで突進してきてパンチとキックを連続して繰り出してくる。

 

(あ、まず)

 この攻撃はやばい。食らったら赤くなるどころじゃない。骨折で済んだら安い方だ。直撃は死ぬ。前に戦った顔が黄色く光る奴より凄そうなパンチだ。

「ティオナ!」

 また別の声が聞こえた。どうやら増援が来たらしい。攻撃を掻い潜りながら見たのはお嬢ちゃんに似た顔をした褐色のねーちゃんだ。こっちは髪が長い。そして同じように露出度の高い服だ。そして胸がでかい。ワオ、こっちもファックしたい。

「ティオネ! ちょっと手貸して! このモンスターなんか強い!」

 失礼な、誰がモンスターだ。こちとら天使で詩人だぞ。多分聖なるアレだぞ。光に満ち溢れてるんだぞ。

 

「キシャーッ!」

「うぎゃああああ! きめえええええ!」

 でも応戦すんのも抗議すんのも面倒なんで手から分身をたくさん出して逃げる。バイなら褐色ちゃんズ。次会った時はパイオツ揉ませてね。

 

 ◆

 

 遠征からの帰路についていたロキ・ファミリアの面々であったが道中ミノタウロスの群に遭遇。これに応戦するも何体かが逃走し、上層へと逃げていった。

 

「どりゃああああ! あとは!?」

 ロキ・ファミリア所属のアマゾネス、【大切断(アマゾン)】ティオナ・ヒュリテはミノタウロスを次々に倒していった。そして残った個体の足跡を追うと、そこで未知との遭遇を果たす。

 

「キシャーッ!」

 一瞬鎧を纏った冒険者に見えたがティオナは野生的な直感で人間ではないと看破した。まるで燃え尽きた灰のように全身がグレー一色のそれは虫を思わせる姿をしていた。頭からは背筋を凍らせる動きをする触覚が生えている上、背中から細い手か足が生えている。

 今まで見たことがないが新種のモンスターだろうか?

 

「どりゃああああ!」

 何かわからないが先手必勝! ティオナは飛びかかった! だが灰色のモンスターは上体を後ろへ大きく曲げることでティオナの攻撃を回避した。さらにバク転で距離をとり、自分を観察するように複眼を向けてくる。

「ひっ ぐっ うおおおおおおお!」

 湧き上がる生理的嫌悪感を押し殺しながらティオナは飛びかかった。パンチ、キック、彼女が得意とする体術を存分に駆使した。だがどれもモンスターには届かない。相手は人間には不可能な姿勢を織り交ぜながらどれもこれも避けるのだ。

 

「ティオナ!」

 そうこうしている内に姉のティオネが合流してきた。

「ティオネ!ちょっと手貸して! このモンスターなんか強い!」

 姉に助力を求めたティオナだったがモンスターが隙をついて大きく後退し、両手を二人に向けた。

 

 次の瞬間、二人の記憶に永遠とも言えるトラウマが刻み込まれる。

 

「キシャーッ!」

 モンスターが叫んだ瞬間、その両手から大量の虫が飛び出てきた!

「ぎゃああああああ!」

「うぎゃああああ! きめえええええ!」

 その虫はコオロギに似ているが胴体が丸々太っており、更に足が長かった。モンスターと同じく灰色だが表面がぬらりとてかっていた。

「「ひいいいい!」」

 二人は全身にまとわりつく虫を必死になって振り払う。薄着が災いして色々なところに虫が入り込んで大変苦労した。

 そうして二人が鳥肌を立たせている間のモンスターは二人の前から姿を消した。ティオナはしばらく震えが止まらなくなり、ティオネは頭の中で「必ず殺す」とあの灰色を強く記憶するのだった。

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