我は天使であり詩人である   作:草加スマイル

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 我らヘスティア・ファミリア紅蓮隊はダンジョン6層を何とか突破してダンジョンから出た。変身できないし気を遣わなきゃいけない人がいるしで流石の僕も疲れた。こういう事は二度とやらない。

 バベルから出れば既に東の空が白くなり始めていた。クラネル君は怪我がひどいので僕が背負って運んだ。霞に覆われた街道を行き、スラムを進んでいけば我が家たる教会。外の階段にはヘスティア様が腰掛けていた。

 

「ベル君! マサシ君!」

 僕らを見るなり駆け寄ってくるヘスティア様。可愛い。

「へ、へ、へ、ヘスティ、ア、さ…………ヘッキショイ!」

 さ、寒い。

「マ、マサシ君、鼻水が……」

「風邪ひいたみたいでズビッ。な、中入っていいでズビッか?」

 ひぃ〜。節々が痛い。

「そ、そうだね。すぐにあったかいお茶でも用意するよ!」

 ヘスティア様の淹れたお茶! 飲みたい! 飲みたくて仕方がない! でも………。

「いや。先にズビッ、クラネル君の治療をズビッ」

「へ? っ!? ベ、ベル君!? 凄い怪我じゃないか!」

 僕の背中のクラネル君をよく見てヘスティア様の顔が真っ青になった。

 

「ダンジョンにいまズビッた」

「はあ!? 何で!?」

「本人のズビッから聞いたズビッがズビビビッ」

「何言っているかわかんないよ! 早く入って!」

 

 

 ◆

 

 ヘスティア様はただの風邪っぴきである僕をソファに放り込み、クラネル君は寝室に運んで行った。羨ましい。許せない。そして残像や分身でもできそうな勢いで寝室とリビングを往復し、僕とクラネル君を交互に看病した。

 愛すべきヘスティア様には飛んだ迷惑をかけてしまった。でも幸せだった。お茶もお粥も美味しかったし。お金が貯まったら何か買って献上しよう。僕が選んだアクセサリーとか、付けてくれたら嬉しいな。あるいは一緒にショッピング、可愛いドレスとか選んで差し上げたいな。

 

「へズビッア様、愛してまズビッ」

「と、突然なんだい。うーん、頭が混乱しているのかな? ミアハに診てもらわないと……」

 ひどい。僕の愛の告白を。でも好き。

「ク、クラネルズビッは、なんか、ズビッになりたいみたいでふ」

「話は後で聞くから! 今はゆっくり眠っていてくれよ! 今から医者を呼んでくるからね!」

 ヘスティア様はそう言い残して家から出て行った。

 

 彼女がいなくなった部屋はとても静かで、時計の音だけがチクタクチクタクと響いている。頭がぐわんぐわんしているから、その時計の音がだんだん大きくなったように感じて、部屋がなんだかとてつもなく広く感じる。まるで真っ暗なさいたまスーパーアリーナの真ん中でポツンとしているみたい。しかもどこまでも、どこまでも下へ落ちて行くような錯覚もある。さしもの僕も一番下に叩きつけられたら死んじゃうんじゃないかってくらいの落下感。

 次に襲ってくるのは心細さ。誰一人として僕に触れてくれない。誰も僕のことなんて見向きもしない。誰も僕のことなんて知らない。久しく忘れていた嫌な感覚に胸を満たされる。

「う、ああ、うわあ」

 目頭が熱くなって溢れてくる物がある。掛け布団から出した手を伸ばしても誰も掴んではくれない。僕の寿命は思ったより短いようで、でもその死に際には誰もいない。一人ぼっちで、人知れず灰になって、死体がないから誰にも悼まれない。それが僕だ。

「だ、誰か、誰かぁ」

 助けは来ない。だって僕は助けを必要としないくらい強いから誰とも深く親しくなったことはない。同じオルフェノクは凶暴なバカしかいないし、人間なんて僕の正体を知ったら離れていってしまう。選んで孤独になった。そのツケはたまに病気になった時にこうやって精算されていくんだ。

 

「独りは、ひとりは嫌だよお」

 もう目には天井すら映らない。何もかもがぐしゃぐしゃで、何も見えない。伸ばした腕も疲れてきた。もう落としてしまおうか。そう思った時だった。

 

「?」

 

 温かい。手が温もりに包まれた。ヘスティア様が帰ってきたのかと思ったら、ぐしゃぐしゃの視界には白いものしか映らなかった。

「……ベッドで寝てなよ」

「うん」

 気に食わない同居人。言ってみたけど彼はわりかし頑固なところがあるみたいだ。僕の言葉を無視して、自分も辛いだろうに僕の手を放さない。

「しんどい時って、心もつらくなるよね」

「なんでもないよ」

「泣いてるよ」

「言うなし」

「お爺ちゃんも、僕が熱を出した時に、こうして手を握っていてくれたんだ」

「……」

「僕なら、ちょっとは大丈夫だから。マサシ。君も、大丈夫だから」

「………ズビッ」

 

 気に食わない/嗚呼気に食わない/気に食わない(鎌堂マサシ、風邪っぴきの句)

 

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