我は天使であり詩人である 作:草加スマイル
ダンジョンというのはとてつもなく深い穴、らしい。神様たちの力で人間たちがモンスターを押し込めた後、デカい蓋としてオラリオが出来た。
入り口はスカイツリーかってくらい高くそびえ立つ塔バベルの一階。そこから下に向かう程に末広がりに広くなり、環境は厳しく、モンスターは強くなるそうだ。デカい地震とか起きたらズボーン!って落っこちるんじゃないだろうか。
我々ヘスティア・ファミリアは発足したばかりの弱小。故に主な活動階層は1層から4層だ。昨日は調子に乗って5層まで降りたけど。
「えい」
「ブッ!?」
蹴っ飛ばした緑の小人モンスター、ゴブリンの首が千切れ飛んで行った。ダメだなぁ、浅い階層の雑魚モンスターだと人間より脆いのも多いから、いかにもちょっと強いだけの一般人ですって装うための加減が難しい。
「うおおおお!」
クラネルくんの方をチラリと見ると、いかにも素人が頑張ってます感出しながら戦っていた。でも逃げた奴に向かって咄嗟に荷物袋投げつけて足止めしていたりと、戦闘のセンスは感じる。鍛えりゃ強くなるね、彼。
「えい」
「「クピッ!?」」(首が折れる音)
両脇に抱えた犬頭の人型モンスター、コボルトの首をポキッとしてその辺に投げ捨てる。心が痛むなぁ、顔が犬なんだもの。
「はぁ……はぁ……片付いたね!」
息を切らせながらクラネル君が言う。辺りには十数体くらいモンスターの惨殺死体が転がっている。我々で作り上げたマサクール跡地。モンスター愛護団体とかいたら血管ブチ切れるくらい怒るかな。
「おっけ。じゃあパパッと解体しちゃおうか」
僕は袖を捲ってナイフを抜いて死体の側にしゃがみ込む。その死体に突き立てる。腹を掻っ捌いてこじ開け、内臓をかき分けて魔石を引っ張り出す。途端にモンスターの死体は色を失い、灰になって崩れた。うーむ、未来の自分を見せつけられているみたいで微妙な気分になるな。
「お、ドロップアイテムだ」
クラネル君は僥倖だったらしい。見ての通りモンスターは死ぬと灰になるが稀に灰化せずに残る部分があってこれが高く売れる。魔石と並んで換金対象だ。
「僕は…………ないな。結構殺したんだけどな」
運は昔っからないんだよなぁ。ビンゴとかくじ引きとか一回も当たったことないし、自転車は盗まれるし、そもそもオルフェノクになったきっかけになった事件にぶち当たったのもそうだし。
「はぁ……。そろそろカバンもいっぱいかな?」
クラネル君に尋ねる。
「ちょっと待って。………そうだね。一回地上に上がって換金してこようか」
カバンがいっぱいになるまで魔石やドロップアイテムを集めて、換金して、またダンジョンに潜っていっぱいになるまで狩る。探索階層が浅い所に限られている駆け出しはこれを繰り返す。
深い層に潜れば魔石の大きさと質が良くなるからこんな七面倒くさいことする必要はなくなるらしい。やっぱり一人で潜りたいなぁ。ぶっちゃけクラネル君は邪魔だ。どうにか一人になれる日とか作れないだろうか?
「そう言えばさ」
「なあに?」
歩いている途中でクラネル君が尋ねてきた。
「どうしてマサシはナイフを武器を使わないの? それに、僕なんかより滅茶苦茶強いし、もしかしてヘスティア様に会う前に別の神様の眷属だったりするのかなって」
うん、困るな。クラネル君は別に嘘を見破る能力とかないけど、完全な嘘だとボロが出るからなぁ。仕方ない。本当のことを混ぜよう。
「強く見えるのは………昔、空手を習っていたんだよ」
「カラテ?」
「うん。徒手格闘技」
小学校低学年の頃に体験入会しただけなんだけどね。あの頃は殴り合いが怖くて結局泣いて続行しなかったんだ。
強い理由は、単純に僕が強いオルフェノクとしての素質があったのと、日本だと同族同士での揉め事は殺し合いに発展することが多かったからね。経験は割とあるよ。
「格闘技なんて凄いじゃないか! 成る程、ちゃんと戦うための基礎ができていたってわけだ」
クラネル君は嬉しそうに腕を組んでうんうんと首を縦に振った。
「と言うことは、ナイフを使わないのも格闘技の方が得意だから?」
「服が血で汚れるのが嫌だから」
「え」
「汚れるのが嫌だから」
「え」
「血のシミって落としづらいんだよ」
「あ、はい」
水色地だから血のシミって目立つんだよ。しかもオラリオのクリーニング屋って高くつくし、洗濯機なんてないから洗濯板でゴシゴシ洗わないといけないのが怠いし。
「新しい服………ほしいな。いくら汚れても気にならないようなの」
「うう………服の心配ができる程だったなんて」
なんかクラネル君が一人で落ち込んでる。この子躁鬱なんかな。喜んでいるように見えてすーぐ落ち込むんだもの。
「グルルルルル」「バウッ! バウッ!」「ガオォーッ!」
帰ろうとしたところでまたモンスターの群れに遭遇。怠いなぁ。
「っ! モンスター!」
クラネル君がナイフを構えようとするのを待たずに突撃し、回るように蹴りを繰り出して一瞬で全てのモンスターの頭を180度回転させて殺した。
「え」
「はあ。このくらいポケットに入るかな」
立ち尽くしているクラネル君の方を見る。
「解体手伝ってくれない?」
「あ、うん」
クラネル君は釈然としない様子で解体作業を手伝ってくれる。
「その………今のもカラテってやつの技?」
「うん」
今後は何かあったら「空手のおかげ」って言っておこ。