我は天使であり詩人である   作:草加スマイル

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「あーあ。全然ダメ」

 ヘスティア様からステイタスを更新してもらい、クラネル君と入れ替わりでリビングのソファでくつろぎながら表を眺めていた僕だったが、なんとびっくりどのステータスも1たりとも上がっていなかった。トータル0。ヘスティア様も頭を抱えていた。

 あまりの惨状に切羽詰まった表情で「本当に、本当にちゃんと戦ってるんだよね!?」と両肩を掴まれ前後にガクガクと揺らされた。そのまま抱きしめておけばよかった。勿体ない。

 全力なんて出せるわけもないが、あんまりにも数字が成長しないでいるとクビになるかも………。絶対に嫌だ。せめてヘスティア様のパイオツ両手でじっくり揉むまではクビになれない。

 

「プリプリプリプリ!」

 寝室からヘスティア様が出てきたんだが、なんか分かりやすく不機嫌になっていた。怒った顔も可愛い。でもどうしたんだ?

「マサシくん! 今夜僕は友神と飲んでくるから晩御飯はベルくんと二人で済ませてね!」

「あっはい」

 ヘスティア様は申し訳程度の外套を乱暴に羽織って出ていった。何か尋ねる間もなかった。

「そぉ〜……」

 振り返ると寝室からクラネル君が恐る恐る出てきた。

 

「ヘスティア様、なんか怒っていたけど………クラネル君。君、なんかやった?」

 ジロリと見つめるとクラネル君は「ひっ!」と飛び上がった。

「な、何も! 僕何もしていないよ! 誓って!」

「ふぅ〜〜〜〜〜ん?」

 まあ、何かしらの誤解でもあったのかもしれない。ヘスティア様関連で僕のことをイラつかせる男ではあるが、あまり人を怒らせるタイプではないと思う。

 

「まあいいや。しかし、ヘスティア様、いないのかぁ〜〜〜〜〜………」

 一気にテンションが下がる。できるなら仕事もしないで一日中ヘスティア様を見ていたいのに。一緒の晩飯時が二番目に楽しみな時間なんだぞ。(一番はステイタスの更新時)もうどんなご馳走が出てきても白飯とパンだけ食わせられるようなものだ。

 約束、バックれちまおうかなぁ。でもあの道通勤に使うしなぁ。

 

「ほらマサシ! 僕たちも早く行こう! まごまごしていたら席が埋まるよ!」

「うわあ」

 クラネル君に両脇掴まれて無理やり立たされ、手を握られて連行される。ちくしょう、今夜はやけ食いだ。

 

 

 〜〜〜○○

 

 

 空も暗くなってきた頃、街灯が照らす街道をのしのしと歩きながら我々二人は約束の店に来た。看板には「豊穣の女主人亭」と書いてあるらしい。(クラネル君に教えてもらった)

 外にまで良い匂いと笑い声がこぼれ出ている。中を覗くと案の定賑わっていた。イカついおっさん達や綺麗で可愛い女の子たちがジョッキをぶつけ合って飲めや歌えやの大騒ぎ。楽しそうだね。

 

「いらっしゃいませ! あ! ベルさん! それにタケダシンゲンさん!」

「ぷっ!」

 灰色髪の女の子、フローヴァさんが駆け寄ってきた。朝に言った偽名を叫びながら。クラネル君は顔を抑えてプルプル震えている。

「きっ、来ましたっ……ぶくくっ……」

「鎌堂です……」

「お待ちしていましたよ! さあどうぞ! お客様二名入りまーす!」

 無視された。僕が虫だからってあんまりだ。泣いちゃいそうだね。

 案内されたのはカウンター席の端っこ。テーブル席に空きが沢山あるように見えるが、どうやら団体客の予約があるのであそこには座れないらしい。

 

「いらっしゃい! アンタらがシルのお客かい? 冒険者の割に可愛い顔してんね!」

 カウンターを支配するのは背が高くガタイの良い女の人。あ、美人。ファックされたい。この人がここのオーナーかな?

「何でもアタシ達に悲鳴を上げさせる大食いと大酒飲みだそうだね! じゃんじゃか食べて飲んで、じゃんじゃか金を出しておくれよ!」

 うーん、おかしいな。伝言ゲームがのっけから破綻しているように思えるんだけど。クラネル君を見なよ、ビックリして真っ赤な目が飛び出そうになってるよ。

 

「僕ら大食いも大酒飲みもしませんよ!? ただでさえウチは貧乏で……」

「お腹が空いて力が出ないよー。誰かさん達にお弁当をとられちゃって……」

「棒読み!?」

 詰め寄るクラネルくんに泣き真似をして見せるフローヴァさん。今からでも走って逃げようかな……。

「ハハッ! 出て行くならチャージ料置いていきなよ! 行っておくけど、あたしゃ足が速いからね! 逃げたらすぐに捕まえるよ!」

 うがあ。もうダメだぁ。

 

「酒だけは、酒だけは勘弁してください。本当に一滴も飲めないんで……」

 こればっかりは切実な問題なんで。

「ケツが青いこと言うねえ! ホレ!」

 女将さんがドカッとカウンターにジョッキを叩きつけてきた。ウェルカムドリンク。話聞いていた? と思って僕のジョッキを覗いたら中は甘酸っぱい匂いのする金色の液体。リンゴジュースだなこりゃ。

「うふふ。冗談ですよ。ちょっと奮発してくれればいいんです。それではベルさん、タケダシンゲンさん。ごゆっくり」

「鎌堂です……」

 もういっそ武田信玄で通そうかな。

 

「何、頼もうか」

「クラネル君に任せるよ。僕、字読めないし」

「うーん……」

 勉強中だが固有名詞なんて全然読めない。読めたとしてもどんなものなのかさっぱりだ。

 

「とりあえず、乾杯する?」

「え? あ、うん」

 ぎこちなく、我々二人はジョッキをぶつけ合った。

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