やさしい世界への転生   作:作蓋

9 / 9
 今回はアンケ投票率が驚異の0%だったので後書きも作者です。


見え隠れする“やさしさ”を信じて(妄信して)
八話


 ――ギイィ、と木製のドアを軋ませ、開いた。

 

 入って早々に周囲を見渡す、目に見える範囲に異常はなかった。いつも通り仕事の準備をしようとカウンターの奥にあるバックルームに向けて歩を進める。

 

「そういえば、最後にあれが来たのはいつだったか?」

 

 実は最近一定の周期でとあるものが湧くことがあるのだ。そして、そろそろその周期が来る頃だと思っているのだが……

 

「死n――

「あぁ……今日か」

 

 カウンターに潜み、襲い掛かってきたクズ*1を適当に殴り倒して、俺は今日も傭兵紹介所に出勤した。

 

 自己紹介をしよう、俺は周りからマスターと呼ばれている者だ。

 ちなみに嫌いなものは俺からなにかを奪っていく奴で、好ましい物は俺に懐いてる奴だ。

 

 ……自己紹介はもう終わったことだしバックルームで仕事着に着替え、カウンター(受付台)に陣取り傭兵達を待つ。仕事の準備のルーティーンだ。

 

 待っている間にいつも通り情報を仕入れようと新聞に手を伸ばす。この新聞も王っていうこの“国”の統治者様が与えた物らしい。

 

 新聞にはまた王が“国”の問題を解決したとかなんとか、そんなあまり代わり映えのしない内容だった。嬢ちゃんの活躍についても書いてあったが、隅に押し込めるかのように書かれているのみだった。

 

「フッ、随分と優れた奴がいるもんだな」

 

 つい零してしまったその一言は外で聞かれれば不敬罪やらで殺されてしまうようなものだろう。が、ここは俺の場所だ。それに嬢ちゃんにこんな扱いをする奴に払う敬意なんてものは無い。

 

 それから数十分程度待つと次々と扉が開かれ傭兵達が入ってきた。こいつらがこの傭兵紹介所の客であり商品だ。丁重に扱わないとな。(丁寧に扱うなんて冗談じゃないが)

 

「やあ、マスター仕事入ってるかい」

「あるぞ」

 

 そんな大切な商品の中でも一人、特別な奴がいる。目玉商品とも言えるな。腕も立つし見た目もいいから口説こうとする野郎どもが後が絶たない。

 そして野郎共をたまに物理的にも玉砕していくお嬢様。

 

「城の警備依頼が数件だな」

「うん、ありがとう……そうだ、スロータークイーンはどうしてる? 最近見ないからすこし心配なんだ……」

 

 スロータークイーン? あぁ、嬢ちゃんのことか。たしか世間で嬢ちゃんは主に英雄様かスロータークイーンのどちらかで呼ばれていたりしたな。俺は嬢ちゃんで固定しているから話が止まってしまうな。

 

 それにしても目の前の青年は新聞を読んでいないのだろうか? ……いや、隅にあるものだから流し見だと見逃してしまうこともあるだろう。多分目の前の青年はその口だ。

 

「なんだお前、新聞読んでないのか。嬢ちゃんなら四番生産街で大立ち回りしてまた英雄さま〜英雄さま〜て騒がれてるじゃねえかよ。…………ほら、見てみろ」

 

 教えてやろうというやさしさと、嬢ちゃんの不当な扱いに共感してくれるかもしれないと思い、青年に新聞を手渡す。そこには小さく【英雄様! 四番生産街を救う!!】と書かれていた。

 

 新聞はこちらをメインにしたかったのか少ないながらも王に対する記述よりも熱がこもっている。

 

「………………本当だ。ありがとうマスター」

 

 その時唐突に――

 

 バンッ! と扉が開かれ件のスロータークイーン…………嬢ちゃんが帰ってきた。

 

「あれが……」

「英雄様だ……」

「美しいな……」

「王に求婚されたって噂……」

「求婚ってなんだ?」

 

 やっぱり嬢ちゃんが来ると野郎共がざわつくな。

 

「…………」

「ん? ああ、ごめんね。今どくよ」

 

 嬢ちゃんに睨まれて、気をつかったのか好青年は避けた。(避けるな)

 

「マスター……情報入ってる?」

「入ってるよ」

 

 いつもの問答、俺からしたら嬢ちゃんは、見た目は良いが中身があまりにも、って感じなんだよな。

 

 だがこのあたりでまともに話をするのは俺だけだし、すこし気があるんじゃねえか? 

 

 ………………ははは、こんなことを考えるなんて俺も下の馬鹿どもと同じってことか。

 


 

「うわぁぁぁあああああああぁ!!」

 

 やっぱり私はツイてないと思う。

 

 森からの脱出を果たした翌日、すごい汗が気になるなーと思い始め、機体から降りて水を浴びに行ったのだが

 

 ………………なぜか今、私は、全裸の変態に追いかけられている。

 

 なんで???

 

「貴方なんなんですかー!?」

「女ぁ! 殺すぅっ、楽しいっ! 楽しいの、好きぃ! だから殺すぅ! 殺す殺す殺す殺す殺す殺すうぅぅぅぅぅぅう!!」

 

 ヤベーやつじゃん。寄るなよお前。

 

「このロリコンめが!」*2

 

 ばーか、ばーか、あっちいけー! お前お呼びじゃないんだよー!

 

 内心で超ド変態に罵声を投げかけつつ走る。その時、お約束どおりにというべきか小石を踏み…………転んだ。

 

 殺られたくないという強い気持ちが故か、普段は出来ない受け身を取れた。(前世での体育の成績Eだったけど)

 

 受け身のお陰で外傷は最小に抑えられたが、足を止めてしまったために変態が五歩後ろの所まで来ていた。

 

 残り四歩。

 

 

 三歩。

 

 

 

 二歩。

 

 

 

 

 一歩――

 

 

 

 

「んぅ……」

 

 …………衝撃は来なかった。いや、音はした、まさか私は自身の死を認識できないほどの速さで殺されたのか? 似たような経験ということで前世での最後の瞬間が頭をよぎる。

 

 …………死んだと思っていた中、風が肌を撫でる……どうやら私はまだ死んでなどはいないようだ。

 

「生きてるか?」

 

 すこしあどけなさの残る声が聞こえ目を開ける。

 

「なんだ……生きてるのか……」

 

 なんだこのクソ失礼な少年は。

 

「っ!?」

 

 そうだっ! あのおっさんはっ! 

 

 

 ………………倒れている。赤い紅い赫い、家族以外で見るのは初めてのものが飛び散っている。

 

 そしてそれをわずかに拳につけた少年がいる状況からみて彼が助けてくれたのだろうか。癪だが礼を言うしかあるまい。……が、別に助けてもいないのに感謝されても困惑するだけだろう。

 

 だから確認はとる。

 

「あなたが助けてくれたの?」

「そうだ」

「そう……ありがとう」

 

 男なんかに……ん? 私も元は男じゃないか、なのになんで……いや、これ以上考えても何一つとして答えは出ないだろう。だからあたまをブンブンと振って考えを追い出す。

 

 目の前にいるのは少年だ。性的にな理由で襲ってくることはまだ心配しなくてもよさそうだ。それに一人で行動するよりも二人で行動したほうがいいだろう。助けてもくれたし。

 

「じゃあ、おれは行くぞ」

 

 あっ……このままでは去ってしまう。引き止めないと――

 

「ねえ」

「なんだ」

 

 どうしようか、止めなくてはと思い咄嗟に出てしまった言葉のせいですぐに私から言わなくてはいけなくなってしまった。

 正直に言えばどうにかなるだろうか?

 

「……よかったら……私と一緒に旅をしてくれない?」

 

 何度言われたかもわからない言葉を吐いて返答を待つ。……私はこの言葉に対して変わることなく拒否し続けていたけていたのに、今度はこの言葉を私が使うことになるなんて皮肉なことだな。

 ……と、気持ちよく私は私に呆れていたのに水を差されてしまった。

 

「おれのうまみは?」

 

 水を差したのは少年。……すこし気分は悪くなったが、そんなことより少年が検討する程度には乗り気なことに少し驚愕して、考える。

 私から出せる利益……旨み…………移動手段くらいしか思い浮かばないな。そうだっ!

 

「っ……私は機体に乗れるっ! これならどう?」

 

 少年はすこし考え込んで、次に私を舐めますように観察して……決断した。

 

「いいぞ……お前の旅について行ってやる」

「……や…………」

「や?」

「や……ったーー!!」

 

 やった、やったぞ。と、この旅の同行者を一人確保できた。という事実よりも言葉だけでこの世界の人間の行動を変えられたという初めての事例を見ることができて喜ぶのだった。

*1
刺客

*2
違うと思います




 ついに性認識が……
 鈍感系主人公のタグが活きてきていますね。

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