魔王城の下働き   作:双子烏丸

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プレゼント大作戦(後編)

────

 

 エクレさんと僕は、居住寮を離れて魔王城のある場所に移動することになった。

 

「──ここの管理人も私ですのよ。木精族ですから、植物のお世話は誰よりも適任だと自負がありますし」

 

 位置は城の少し上層辺り。空が見えるガラス張りの天井と、一面の広い屋内の庭園……いや、正しくは植物園かな。多種多様な植物が沢山ある景色、城の中なのにまるで森や林の中にいるかのような気分になる。

 

「城の植物園、ここもエクレさんが管理していたなんて」

 

「ええ。ここのお世話も私一人でしているのですよ。……あんな風に」

 

 見ると何本もの植物のツタが、自在に動いて植物の世話をしているのが見える。草木の手入れやジョウロで水を与えていたり、あれは木精族のエクレさんの能力なのかな。

 

「お城のみなさんの憩いの場で、魔王さまもたまに訪れてくれるのです……ふふ」

 

 石畳の通路の傍、新緑色の葉を生やした大きな木の幹を優しく撫でるエクレさん。

 彼女の言うようにここの植物園は開放されていて、外からゲストが来たりとか特別な用事がなければ、城にいる誰でも出入りする事が出来るんだ。実際……僕もたまに気分転換に来たりすることもあるから。

 

(いつ来ても素敵な場所だと思っていたけれど、エクレさんが管理していたなんて。ちょっと勉強になったかも)

 

 改めてあちこち、魔王城の──エクレさんの植物園を見回しながら歩く僕。彼女は微笑ましげに眺める。

 

「ふふふ、興味津々ね」

 

 その言葉に、僕は若干照れながら頷く。

 

「それはちょっとね。エクレさんがお世話をしていたって聞くと、改めて」

 

「トルテちゃんの言葉、照れちゃうけど、嬉しいわ。……せっかくですもの、少しだけここの植物の解説をしてあげるわね。

 あっちの赤い花は魔界花って言って、名前の通り魔界で一番多く咲いている花なの。五枚の花びらが綺麗で、発芽から百年で開花するのよ。育て方も簡単で──」

 

 エクレさんはそんな感じで色々と教えてくれた。花もそうだけれど、草木についても。少しだけと言ってはいたけれど、結局植物園をぐるりと回る感じでじっくり、細かく教えてくれる感じで。

 ここまで物知りなんて、さすがエクレさん。

 

「──そしてこの植物。マンドラゴラと言うのですけれど、パッと見ただけだとただの大きい草に見えますが、抜いてしまうと人の形をした根っこがひどい鳴き声を発しますから……気をつけてくださいね」

 

「へー! そうなんだ! こんなに教えて貰えたら、僕でも植物博士になれそうかも」

 

「うふふっ、もしそうしたいのならもっとお勉強しないといけませんね」

 

 エクレさんとの話しながら、こうして植物園を歩く中。やがて彼女は立ち止まって、こう言って来た。

 

「……トルテちゃん、ここよ。あそこを見てみてください」

 

「ここって、一体──」

 

 僕は立ち止まった先、エクレさんが示す先に目を向けた。

 草木の生い茂る中にある黄色く輝く花がいくつも、小さい花畑をつくっていた。綺麗と言うか暖かい雰囲気な、そんな花で。

 

「何だか見ていて暖かくて、不思議な花だね。こんなの見たことないけれど、でも、好きな花だ」

 

「太陽花──私も大好きな花なんですよ。トルテちゃん、もっと近づいて見ても構いませんよ」

 

 彼女に言われるまま、僕は太陽花と呼ばれる、あの黄色い花に近づいて眺めてみた。

 花は小さい花びらが円形になって、真ん中がオレンジ色に輝いて淡く温かみのある光を放っているみたいで。近くで見るとやっぱり不思議な花だと思った。

 

「わぁ……ッ」

 

「不思議な花でしょう? 実はね、この花は魔界の物ではないの」

 

「??」

 

 唐突な言葉にきょとんとしてしまう僕。エクレさんは続ける。

 

「太陽花は魔王さまが見つけた花で、魔界では本来存在しない、別の世界の花ですって。

 花の名前もその世界を照らす存在から取って、魔王さまが名付けたの」

 

「別世界から、持って来たんだ……」

 

 改めて聞くと驚きと言うか。まさか別の世界から来た植物なんて。と言うか、そもそも……。

 

「だけど、そんなの……おとぎ話とかじゃない? この世界以外の場所なんて、本当に?」

 

 思いっきりの僕の疑問、エクレさんはうーんと悩む感じを見せてから。

 

「えっとね。まぁ、もしかするとかも、かしら。私からはちょっと話しにくいの……ごめんなさいね」

 

「……?」

 

 気になる様子の答え。だけれど、答えるのが難しいことなら、まぁいいかな。

 

(どうせただの言葉の綾だろうし、気にする事はない。そんな事よりも……)

 

「──素敵な花だ。これならムースも喜びそうだ」

 

「そう思ったから、トルテちゃんを連れて来たの。この太陽花ならきっと、ね」

 

 そう言うと、さっきのエクレさんが操る植物のツタが二本、それぞれスコップと空の植木鉢を持ってやって来た。ツタは器用な動きで太陽花を一本、根本から掘り返して植え替えた。

 植木鉢に植えられた太陽花。彼女はツタから花を受け取って、僕の前に持ってきた。

 

「えっ!? まさか本当に、僕に?」

 

「せっかく会いに来てくれたんですもの。何か贈り物が出来たらって、思いましたから」

 

 それに──。エクレさんは続けた。

 

「大切な人を想うトルテちゃんの心……それに感激しちゃったのもあるから。

 ふふふ、やっぱり若いって羨ましいわね」

 

 彼女から差し出された、植木鉢に植えられた太陽花はきらきらと輝いていた。僕はそれを受け取ると、微笑んで……。

 

「花は後でお城で荷物の送り仕事をしているグレムリンさん達に頼めばすぐに届けてくれるわ。後、花の育て方はのちほど教えますから、私の代わりに伝えてほしいの。

 話を聞くと、貴方の大切な人もいい子みたいだから。きっと大切にしてくれると思って。それも、太陽花を送っても良いと思った理由なの」

 

「──分かったよ。きっと、ムースも喜んでくれるし、大切にしてくれるはずだから」

 

 きっとエクレさんにとっても大切な物なんだと分かる。だから僕は心から答えた。

 ムースならきっと大切に──喜んでくれるはずだから。とっても良いプレゼントだ。

 

 

 

 ────

 

 あれからエクレさんにお礼を伝えて、送って貰った太陽花をグレムリンさん達に送って貰った。……そして次の日、ムースから遠識の手鏡で連絡が届いた。

 

『トルテからの贈り物、私の所に届いたよ。太陽花って言うんだね。とっても素敵、ありがとう!』

 

 鏡に映る幼なじみ、ムースの喜んでくれる表情。それを見て僕も安心した。

 

「どういたしまして。僕の方こそ、ムースに色々助けられているから。それに……」

 

「それに?」

 

「……最近、少し元気がなさそうだったから。だから……これで君が元気になってくれたらって」

 

 気恥ずかしそうにしながら言う僕に、彼女は可笑しそうにしてくすりと笑うと。

 

『そう気にしていたんだ。でも、心配しなくても私は大丈夫。ちゃんと元気なんだから』

 

 ムースはニコッと、あの太陽花に負けないくらいの眩しい笑顔を見せてくれた。この調子、本当に元気になったみたいだ。

 

(どうしてあの時元気がなさそうだったのか、それは聞けそうにないかもだけど、でも元通りになったみたいで……良かった!)

 

『トルテ、そんなに顔でどうかした? 何か嬉しいことでもあった?』

 

 そんな僕の様子に気づいたみたいで、彼女はこう訊いて来た。

 

「ううん、大した事じゃないから。でも、やっぱり──」

 

 そして僕は大切な幼なじみに、伝えたんだ。

 

 

 

「ムースのその笑顔、僕にとって一番の宝物だ」

 

 僕のプレゼント作戦が上手く行ったか分からないけど、彼女の心からの笑顔を見られて僕は、すごく嬉しかったんだ。

 

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