今、私の目の前には私が倒すべき魔獣の姿がある。
「プディング! 大変だけれど……頑張って頂戴!」
嵐とも思える激しい暴風と、一面を覆う黒い雲。そして空間を切り裂く──眩しく激しい雷。私とワイバーンのプディングは雷雲の中を飛んで、魔獣を追跡している最中なの。
(激しい風……! 気を抜くと吹き飛ばされちゃいそう!)
「……っ、魔装顕現!」
暴風だけじゃない。雷鳴一閃、激しい雷が私達めがけて襲う。瞬時に私の愛剣ラティエルショコラを抜いて雷を払いのけた。そして目前にいる巨大な魔獣、魔雷龍の後ろ姿を見据える。
分厚い雲から見え隠れする、鱗に覆われた遥かに長い身体。まるで、何て言うかしら、地面から生える太い植物のツタみたいね。
本体からの攻撃は今は無いけれど、でもこの雷雲を操って激しい雷撃を繰り出して来る。さっきの雷だって偶然じゃないんだから。
ラティエルショコラの力で私は魔装──魔力による鎧を纏っているけど、プディングはそのままだから雷撃には当たらないように気をつけないと。そう思っている間に更に二撃、連続して雷撃が襲いかかる。だけど今度はプディング自身が飛びのけて回避してくれた。
「ありがとう! さすが私のプディング!」
けど私の相棒─プディングだってそう簡単にやられなんてしないんだから!
私を乗せて、猛スピードで魔雷龍に近づく。……今の距離ならこの剣でっ!
「受けなさい! 私の必殺技……三日月飛斬!」
剣先に魔力を溜めて、そして弧状の形のエネルギーにして雲から見える魔獣の身体めがけて斬りはなった。攻撃は見事に直撃! 深く傷を受けた魔雷龍は唸り声を上げて雲の中に沈んで行った。
「グルッ?」
プディングは、やったのか? と言うかのように私に顔を向けて来た。けれど私は首を横に振る。
「だったら楽なんだけどね。でも……まだよ!」
攻撃を受けてダメージはあったかもだけど、でも倒せていないのは分かるから。今が雲の中に身を潜めているだけ……どこにいるのかしら。私は気配を探ると──。
「避けて!!」
「ガウッ!」
とっさに私は手綱を操り大きく右に避けさせる。それと同じ瞬間に、私達のすぐ真下の雲から魔雷龍の頭部が大きく口を開いて飛び出して来た。
ギリギリで避けられたけど巨大な頭がすぐ傍を横切る風圧、吹き飛ばされそうになる。私達ごと飲み込もうとした魔獣の口、そこにずらりと並ぶ牙も近くに見えた。……危ない所だったわね。
(いよいよ本気になったわけ! 全く!)
攻撃を避けられた魔獣、今度はUターンして二度目の突撃攻撃を仕掛けて来る。牙をむき出しにして、さらに雷雲のエネルギーをその身に集中させて高圧電流を帯電させての、強力な突撃攻撃。再度避けようとする……けれど。
「ギャウッ」
「プディング!? ──きゃっ!」
帯電していた電流の一部がプディングの左翼に当たって、痛みの鳴き声をあげた。そして思いっきり態勢が崩れて、乗っていた私は振り下ろされて落下してしまう。
下へ、下へと、雲を突き抜けて落下する私。
プディングから振り落とされて飛ぶことが出来なくなって……だから。
(やっぱり強いわね……あの魔獣。この私がこんな目に遭うなんて。……けどっ)
けどまだ終わったわけじゃないわ。魔力の消費は激しいけれど、こうなったら……
「魔装変形! ──翔翼顕現!」
私は魔装に魔力を更に注いで、鎧背部を翼のような形に変形させる。そして生やした翼から魔力をエネルギーとして放出して、一気に上昇して飛び立った!
再び上に、今度はプディングに乗るよりも高速度で魔獣へと迫る。
厚い雲を突き抜け、魔雷龍のすぐ真下に出た。
「さっきはよくもやってくれたわねっ! お礼はたっぷりしてあげる。雷には……雷でっ!」
剣を介して、私は雷撃魔法を放って攻撃を仕掛けた。対して魔雷龍も周囲の雷雲を利用して同じく雷撃で迎撃を仕掛ける。
雷と雷、ぶつかり合って暗い雷雲が眩い光に包まれる。さすが魔獣……私とほぼ互角に近い相当なエネルギーだけれど、正面からぶつけ合うだけが脳じゃないわよ!
「電撃のエネルギーを一点に収束して、そして!」
剣身の先に電流を集め、魔獣が放つ電流の嵐を突っ切る。狙うはこのまま──。
「これで止めよっ! 魔雷龍!!」
私は魔獣の腹部に剣をつき立てると、一気に電撃を解き放った。
激烈なエネルギーで全身を貫かれる魔雷龍、そして膨れ上がり──派手に爆発して吹き飛ばしたの。
バラバラになった魔獣の残骸は粒子に代わり消滅、空を覆っていた雷雲も、雲がなくなって晴れ渡る。
「やっぱり、空は晴れているのが一番ね。今日は月が綺麗でもあるし」
空に昇る月を眺める私。それにプディングも戻って来てくれた。良かった、無事だったのね。
私はその背中に乗り直して魔装を解除、戦いを終えて一息つく。けど翼を見ると、さっき受けた雷撃で焦げていたの。
「怪我は大丈夫? ごめんね、私がもっとしっかりしていたら……」
彼に謝るけれど、プディングはそんな私を気遣うように優しい瞳を向けて一鳴きする。
「ありがとう、プディング。後で美味しいご飯を用意してあげるね」
それから、私達は上空から下へと降りて地上へと。怪我をしたプディングを一休みさせる。すると、そこに魔馬に乗った一人の若い兵士がやって来た。
「シフォンさま! ご無事でしたか?」
黒髪で、私より少し背が高くて年上の人魔族の青年──ネムラさん。若いけど魔王軍の隊長さんで、立派な立場にいるの。
この前トルテと一緒にお出かけした時も、先に町で待っていてくれたのも彼なのよね。
「あっ、ネムラさん! 迎えに来てくれたんですね」
「あはは……これでも魔王さまからお目付け役も仰せつかっていますから。それに、我々の方でも魔獣討伐を完了しましたので、一足先にお迎えに上がりました。部下は後方に待機させていますので」
そう朗らかな表情を向けるネムラさん、まさに好青年って感じなの。
「ネムラさん達もご苦労さま。──だけど、最近大変よね。魔獣の数が増えている気がするし」
「ええ。原因は不明ですが、最近やはり魔獣の出現件数は増えているみたいです。我々魔王軍も討伐に住民の避難で手一杯ですから」
「やっぱり、そうなのね」
ここ最近になってからの魔獣の増加、やっぱり気のせいじゃなかったのね。ネムラさんも考え悩んでいるみたいで、私にこう尋ねて来たの。
「この魔獣の増加……軍内でも噂なのですが、もしかして──」
私は小さく頷いた。
「私もお父様から思い出話で聞いたことがあるの。
この状況、あの頃と同じだわ。お父様が魔界の危機から救った時と……」
いくら私でも、一抹の不安を覚えずにはいられなかった。この先に何が待ち受けているのか──