魔王城の下働き   作:双子烏丸

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地下図書館の司書

 

「……図書館での仕事だって?」

 

「そうだネ。ちょっと人出がホしいと、向こうかラ申しデがあったものだカら。トルテくんも今、暇してイるだろう?」

 

「それは……そうだけど」

 

 居住寮の自室の前、僕は上司のクリーシュさんに新しい仕事を頼みに来た。話では図書館の手伝い仕事みたいだけど。

 

「魔王城に図書館って、あるんだ。でも分かった。その仕事、頑張るよ」

 

 図書館かー。本くらいは村にいた頃にも幾らか読んだことはあるけれど、図書館なんて話では聞いたことはあるけれど、行くのは初めてだから。

 

(でも、ちょっとワクワクかも。魔王城の図書館……どんな所だろう)

 

 

 

 ────

 

 魔王城の下層よりも下、その広大な地下空間に城の図書館があった。

 降りた先に広がる視界いっぱいの本棚。どの本棚もぎっしりと本が並んで置いてあって、今まで見たことがないくらいに無数の本があると分かる。

 

(さすが図書館。こんなに本があるなんて……すごいな)

 

 本棚が並ぶ中を一人歩きながら、僕はこの図書館の責任者……つまり司書の人を探す。

 

(クリーシュさんに言われたから。まずは図書館の司書と会う必要があるって。でも……どこにいるんだろう?)

 

 今この図書館には、見たところ僕一人だけで、他に人がいる感じじゃない。もしかして留守にしているのかな?

 ちょうど、そんな風に思っていた時だった。

 

「もし? 君は、図書館に来たお客さんかな?」

 

 いきなりの声。見ると背の高い人魔族の男の人がそばに立っていた。僕より年上の若い青年と言った感じの人だった

 

「んー。初めて見る顔だ。君は一体誰かな?」

 

 少しよれよれの黒いコート姿で僕を見つめるその人は、顔の左半分が隠れるくらいの長い青髪で眼鏡もつけている。雰囲気はどこか知的そうだけど、とろんとした目で眠たそうにもしていて、寝癖なのか髪も所々はねている。この人がもしかして……。

 

「僕はトルテ。この図書館で手伝いを頼まれてここに来ました! もしかして、貴方がここの司書さん……ですか?」

 

 僕はそう尋ねてみた。すると、男の人は水色の瞳でこっちを見つめて、にんまりと笑う。

 

「へぇ……君が例の。本当に、見た目は普通の……なるほど」

 

「??」

 

 正直な所かなり不審に思う僕の様子に気づいたのか、彼は改まる様子で続けた。

 

「ああ、すまない。少しその……色々、興味深かったもので。

 ──とにかく会えて良かったよ、トルテくん。僕の名前はマカロ、察しの通り一応は魔王城、地下図書館の最高責任者……司書をしているよ」

 

 やっぱり、この人が司書さんだったんだ。

 図書館司書のマカロさんは自己紹介した後、大きく人あくび。

 

「ふぁ……っ、眠い。もう少し昼寝とか、しておけば良かったかも」

 

 でも大丈夫かな、この人。ちょっと心配になるけれど、それはそれ。

 今度は図書館での仕事をする事になった僕。見渡して見ると、本当に広くて本だらけの所。

 やっぱり凄い場所だなって思うけど……大変な仕事になりそうかも

 

 

 

 ────

 

 図書館の中を半透明な翼で飛び回る、淡く輝く小さな人影。彼らは魔界の住民である妖精族たち。……ううん。『彼ら』とは言ったけれど妖精族はみんな性別の概念はなくて、外見も中性的なんだ。

 司書のマカロさんの話では、みんな図書館で働くお手伝いさん達。そして今は数年に一度の図書館の本の大整理の時期。図書館の広大さと仕事の多さもあって数日の間、魔界虫の脚でも借りたいくらい忙しいこの時期だからこそ、下働きの僕も駆り出されたわけだ。

 

 

 一人の妖精族の人が、棚から本を取り出して運ぼうとしていた。小さい身体でも両手で掴んで、空を飛んで運ぼうとするけれど、手が滑ったのか本を落としてしまう。……そこを。

 

「おっと」

 

 僕は空いていた左手で、落ちて来た本を受け取る。

 

「ちょうど運が良かった。──はい、どうぞ」

 

 そう言ってキャッチした本を妖精族のお手伝いさんに手渡した。妖精族は喋れないけれど、代わりにニコッと微笑んで応えてくれた。

 僕も笑顔を返してから、また自分の仕事に戻る。右手には傷んだり不良がある本を抱えている。この本を持って行って修繕して貰って、また元の場所に戻すのが今の仕事なんだ。

 

(本棚を行ったり来たり、割りかし大変だな。

 でも……細かい修繕作業よりは、まだマシかも)

 

 

 

 これだけが図書館の仕事というわけじゃない。手が空いていたら本の修繕作業に、マカロさんの目録作成の手伝い。それに本の整理、図書館の清掃とかも。後は──。

 

 

 

 ────

 

「こんにちは。借りていた本を返しにきました……って」

 

「──いらっしゃいませ! ……あっ、シフォン」

 

 図書館に本を数冊手にやって来たシフォン。彼女は僕に気づいて近づくと、声をかけてくれた。

 

「あれっ? トルテが図書館にいるなんて、驚きね!」

 

「まあね。マカロさんが忙しいから、少しの間代わりに接客対応をして欲しいって。だから受付の仕事をしているんだ」

 

 僕が今いるのは図書館のカウンター。受付もまた仕事の内だったりする。

 ちなみにその関係で知ったことだけれど、この魔王城の地下図書館は魔界でも有数の大図書館と言うことで、城にいる人はもちろん、城の外からも利用するお客さんが来たりするみたいなんだって。

 

「トルテって、こう言う仕事まで頑張っているのね。ふふっ、お疲れ様!」

 

 シフォンは僕に軽く微笑むと、持って来た本をカウンターへと置いた。

 

「本の返却、お願い出来るかしら」

 

「もちろん。返却ありがとう、シフォン」

 

 返却された本を受け取る。彼女は意外と読書家みたいで色々と本を借りていた。その中の一冊の本、僕は表紙に視線が行く。本の内容は……。

 

「魔界の……歴史書? こんな本まで借りていたんだ」

 

 するとシフォンは、一瞬思慮深げな表情を浮かべた後、はにかんでみせると。

 

「ちょっと、ね。最近少し気になりだした事が、あったから」

 

 様子が変な、秘密ごとがあるかのような彼女。気にはなったけれど聞くのは野暮だし、それ以上は言わないでおいた。

 

「なるほど、そうなんだね。

 それと──本の方も無事返却が終わったよ」

 

「ありがとうね、トルテ!」

 

 シフォンもシフォンで元の様子に戻って、明るい様子で応えてくれる。

 

「それじゃあ、私は本を返しに来ただけだからこれで失礼するわね。

 お仕事──頑張ってね」

 

 そう伝えると手を降って、彼女は図書館から去って行った。

 

「……うーん」

 

 シフォンが返した本を、僕は改めて見てみる。

 さっき見たように本は魔界の歴史書。そう言えば、僕はこの手の事はよく知らない。

 

(だけど、この後休憩時間だし、時間があれば読んで──)

 

「調子はどうだい、トルテくん」

 

 すると入れ替えざまに別の誰かが、僕に声をかけて来た。

 

「あっ……マカロさん」

 

 やって来たのは図書館司書のマカロさん。相変わらず眠そうにしているのは変わらない、けれど司書の仕事はこれでもちゃんとしているみたいなんだ

 

「図書館の仕事は順調かい。確かそろそろ休憩じゃないかな?」

 

「はい。そうです……けれど」

 

 どうしてそんな事を聞くんだろう? そう思っていると彼はこう話してくる。

 

「休憩後で構わないのだが、もし良ければ僕と一緒に手伝って欲しい事がある。……何、別に大した要件ではないし、すぐに済むと思う」

 

 どう言う事だろうか? けれど、ちょっとした事みたいだし、ここは──

 

「いいよ。僕でよければ」

 

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