魔王城の下働き   作:双子烏丸

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魔界大都市アビスシティ

 

 

 ────

 ──

 

 漆黒の闇の中、そこがボクの居場所だ。

 そして……呼びかける声が聞こえる。

 

「──主さま」

 

 浮かび上がるのは、全身黒い身体を持つ1つ目のヒト型の『眷属』、クランチ。長年をかけてようやく自我を復活させたボクが自ら作り上げた、所謂唯一の腹心だ。

 

「クランチ……いたんだ」

 

「貴方様の復活も間もなくです。かつての力も大半は戻り、このままいけば……」

 

 クランチにはある程度の知能を与えてはいる。けれど、分かっていないみたいだね。

 

「ボクの復活には、まだ大事なものがかけているよ。──けれどそれもじきに取り戻す。

 今度こそこの世界を破壊して取り込み……本当の意味で完全に復活するんだ。

 ──クランチ」

 

「はっ!」

 

「不完全でも……ようやく実体くらいは持てるようになった。だから、そろそろボク自らあの世界に出向こう。

 

 

 全ての物は一つに。──このボクのものだ」

 

 

 

 

 ────

 ──

 

 魔界の月が空に昇りきらないくらいに朝早く。

 

「トルテ! 用意は出来たか?」

 

「あっ、うん! ちょっと待って、クラッカさん!」

 

 自分の身体とほぼ同じくらいのリュックを背負って、僕は先に魔王城の外に出ていたブラウニーのクラッカさん、そしてバンダナを巻いたムキムキの人魔族、チップさん達二人の所に向かう。

 僕の仕事はこの二人の仕事の手伝い。その内容は……

 

「ったく、おせーぜ。早く馬車に乗ってくれよな」

 

 外には大きい馬車と、それに繋がれた大きくがっしりした身体と、額の立派な一本角が特徴的な魔界馬がいた。

 

「しかし楽しみだ! なにせ、街に行くのは久しぶりだからな。……トルテ! 俺たちが行く街には色んな物がたくさんあるんだぜ!」

 

 そう陽気に話すチップさん。二人は先に馬車に乗り込んでいて、僕も急いで乗り込む。

 

「さて、三人とも乗り込んだことだし、そろそろ出発を──おっと」

 

 クラッカさんは何かに気付いたように空を見上げる。つられてチップさん、それに僕も見上げると……誰かを載せたワイバーンが翼を広げて城から飛び立つのが見えた。

 

(あれはシフォンが飼っているワイバーンの、プディング。……と言うことは)

 

 乗っているのはシフォン本人。何か用事があるのかな。

 

「シフォンの嬢ちゃんもお出かけか! ……待てよ。嬢ちゃんのワイバーンが向かう先は、俺たちの向かう方と同じじゃないか?」

 

「ふむ、チップの言う通りだ。彼女は一体何しに行くのか、気になるな」

 

「まぁまぁ、気にしたって仕方ねーぜ! それより早く出発しようぜ! クラッカ!」

 

 チップさんに促されて、御者席に座るクラッカさんは馬車を走らせる。

 目的地まで少し時間がかかる。それまではまぁ、ゆっくりしておこうかな。

 

 

 

 ────

 

 僕達を載せた馬車は半日近く走り続けた。

 いつの間にか月も空の真上に昇り、辺りを明るく照らしていて。荒れ地に森、砂漠を走りながら。そしてようやく目的地に辿りつく。

 小高い丘の上から見える光景に、思わず声が出てしまう。

 

「……すごい。ここが魔界でも大きな街って言われている……アビスシティ」

 

 丸く囲む外壁に囲まれた、数十階建ての建物が数え切れないくらい並んで密集する、迫力のある大規模な街の景色。

 

「ははは! やはり驚くか。トルテはアビスシティに来るのは初めてかい?」

 

「……ううん」

 

 クラッカさんの言葉に、僕は懐かしく思いながら話す。

 

「ここにはずっと昔、小さい頃に親代わりのガレットさんに連れられて遊びに行ったことがあるんだ。

 あそこには色々なお店や、それに遊園地とかもあって。……幼なじみのムースと一緒に、楽しかったな」

 

「ガレットって、かつて魔王さまの戦友だった人か。まさかトルテの育ての親だなんてな!」

 

 チップさんも意外だったそうに話す。

 

「それに……へへっ、幼なじみもいるのか。女の子か?」

 

「うん。僕と同じくらいの年の……その」

 

「ほーう! トルテも意外にすみにおけないな、このっ!」

 

「うわわっ!!」

 

 そう言ってチップさんは僕の頭をわしわしして撫でる。

 

「トルテ、チップ。二人共そこまでにしておけ。

 馬車は今から丘を下るから……しっかり座っておくことだ」

 

 ……おっと。そう言えば馬車がもう斜面を降りる感覚がする。ここはクラッカさんの言う通り、ちゃんと座っておかないと。

 

 

 

 そのまま丘を降りて、アビスシティに入る門を通過する。

 どうやら街に入るためには通行証が必要みたいだったけど、それはクラッカさんが用意していたみたいで。僕達は問題なく街へと入る。

 

「お疲れ様だ。買い物を済ませて戻って来るまでの間……ゆっくり休んでくれ」

 

 クラッカさんは街の入口近くにある馬車の駐留場へと留めて魔界馬とも別れを告げる。

 

「アビスシティに無事についたが、ここには遊びに来たわけではない。

 二人共、それぞれ買うべきものは買いにいってくれ。……チップ、そしてトルテ。これが買う物のリストだ」

 

 彼は僕とチップさんにびっしりと色々書かれた数枚のメモ容姿を手渡す。

 

「うげぇ、これ全部買うのかよ」

 

 チップさんの愚痴に、僕達同様のメモに目を通しているクラッカさんは言う。

 

「仕方あるまい。なにせ城の人間のほぼ全員の欲しい物を代わりに買いに行くのが仕事だ。

 大変な仕事だが、集合時間には結構余裕を持たせている。買い物が済んだら元の馬車に入れておいてくれ。その後に余った時間は観光するなり、遊ぶなり好きにしていい」

 

「──マジか! そう言う事ならパパっと買い物を済ませて、タップリ遊んでやるか!」

 

 それを聞いて態度が代わって、早速チップさんは街の中に向かって行った。

 

「全く調子がいいな。トルテも、大変だとは思うが頑張ってくれ」

 

「分かったよ。じゃあ僕も行って来るね」

 

「頑張ってくれよ。それに、時間の方も確認を忘れずにな」

 

 クラッカさんの言葉に、僕はアビスシティの中央にそびえる一番高い建物──荘厳さのある巨大な時計塔に視線を向ける。

 街のどこにいても見えるくらいで、いつだって時間が確認出来る。

 

 僕もさっそく買い物に行くために、街へと繰り出す。

 

 

 ────

 

 アビスシティはかなり大きい街で。買い物をするのも、歩き回るのも大変だ。

 高層の建物同士には行き来がしやすいように無数に橋が張り巡らされて、その橋の上を歩きながら僕はさっき買い物をした分を、メモにチェックを入れる。

 

「限定販売品、魔界アイドルのキャンディスちゃん1/12フィギュア、と。……こう言うのも欲しい人がいるんだ」

 

 今回の仕事は、魔王城にいる人達が欲しい物を代わりに買いに行く……言うなればおつかいだ。

 城は街や集落とはずっと離れた場所に位置し、外に行くのも時間がかかる上に、外出自体がなかなか出来ない事が多い。

 魔王城は大きい城で自給自足が出来るくらいの設備はあるけれど、それでも細かい嗜好品や娯楽品みたいな、そう言ったものは城の外に出て買いに行く必要がある。だから街に行って代わりにそれを調達しに……と言うわけ。

 

(……リュックが重くなって来たな。一回荷物を馬車に置いた方がいいかも。けどその前に後少し買い物出来るかな)

 

 この辺りの店は全部見て回ったし、それに……次は食べ物系の注文を買いに行かないと。

 リュックにはその分のスペースは開けているし、少しくらい買っていた方がいい。……まぁ、ここから地上に降りることにはなるけれど。

 

 

 僕は街の地上まで降りて来て、また店を探す。

 それに丁度近くにこの辺りでも有名なスイーツ店があった。

 店先から漂う甘い匂い。確か……誰かここのお店のパンケーキが食べたいって注文もあったし、買っておかないと。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 スイーツ店に入るとさっきよりずっと甘い香りと、色とりどりのケーキとお菓子。あまり慣れてないけれど内装もオシャレで綺麗だし、良いお店って感じがする。

 

(どれも美味しそう……僕も自分用に買っておこうかな。それに他にもケーキやお菓子が欲しいって人もいたし、いくつか買っておかないとかな)

 

 そう考えながら僕はケーキを見てまわる。他のお客さんは女性や女の子ばかりだから少しだけ緊張するし……。

 

「っと!」

 

「──あっ」

 

 ケーキばかり見ていたせいで、隣にいた誰かと方がぶつかった。

 

「ごめん! よそ見をしていてつい……えっ?」

 

 とっさに謝ろうと、相手を見るとそこには──僕がよく知る相手がいた。

 

「──トルテっ! こんな所で会えるなんて!」

 

 嬉しそうに瞳を輝かせて言ったのは、僕の幼馴染みのムース。意外な再会に僕は思わず話す。

 

「ムースこそ。……村からだとずっと遠いはずなのに、どうして?」

 

「ふふ! ちょっとだけ遠出って言うか、気分転換に遊びに来たんです。

 ここには村のみんなにお土産のお菓子を買うつもりで寄った所ですけど、トルテは?」

 

「僕も似た感じだよ。城のみんなに色々買うように頼まれて、それでここに来たと言うか」

 

「本当に奇遇だね、ふふっ」

 

「……まあね」

 

 僕は嬉しさを感じながら笑いをこぼす。

 ムースとここで出会えるなんて。やっぱりとても……嬉しかったから。

 

 

 

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