時計塔にたどり着いた僕とムース。その上にある展望台に昇って、街の景色を見渡している所だった。
「……さっきの観覧車よりも、ずっと高い。街の一番外側の壁まで見えるよ」
ここから見える眺め、辺り一面に並ぶ無数の建物。傍のムースも景色を見て驚いているみたいで。
「すごいねトルテ! こんなに高い建物に来るの、初めて」
「さすが街で一番の時計塔だ。魔王城ほどではないかもだけど、でも凄い所だ。……ほら」
僕は後ろを、すぐ間近に巨大にそびえる時計塔の巨大時計を指し示してみる。アビスシティのほぼどこからでも見えるくらいの大きさだから、時計なのに凄く迫力がある。
「時計も立派だね。カチコチと動く音も、聞こえてきちゃうくらいに」
「ムースの言う通り。……最後にここに来れて、良かったって感じだよ」
二人、並んで展望台から景色を眺める。ゆったりとした時間で、それにこれがムースと一緒に過ごせる最後の一時。
(この瞬間が終われば、僕はまた……魔王城の下働きか)
またしばらくムースと会えなくなる。おそらく……ちゃんと一人前になれるまで。でも、これは『約束』だから。
この魔界で一番偉い魔王さまの下で働いて、一人前だと認められる事。そうしたら──。
「ムース──僕は」
つい魅入っていた彼女の横顔。そして思わず何か言葉が出そうになる……瞬間だった。
「──! おい! 一体あれは何だ!」
突然向こうから誰かの驚きの声がした。それにつられて周りも騒ぎはじめて、僕達もそっちに注目する。
「ねえっ!? どうしたのかな?」
「分からない! みんな向こうに集まって、何か騒いでいる気がするけど」
「行ってみよう、トルテ!」
僕達も集まっている場所に向かって、みんなが見ている方を眺める。
そこは展望台の一画、さっき僕達が見ていた場所と同じように街の景色と、一番奥の外壁まで見える。……けれどそれとは違う、異物がそこにはいた。
巨大な翼を広げて飛ぶ、一体の影。
「何……あれ?」
見たことない姿に固まるムース。僕も驚きはしたけれど、あれが一体何なのか頭を巡らせる。
(あれは前に見たシフォンのワイバーン、プディングに近い……けど)
遠くからではっきりと分からないけど、形状はプディングよりも鋭角的で凶悪そうで。しかも──。
「おい!? あの化け物、こっちに向かって来ているぞ!」
騒ぎの声の通り、ワイバーンに似た化け物は壁を超えて時計塔に迫って来ていた。そして一体が口を開いて──火球を飛ばす!
「!!」
火球は時計塔の一部を吹き飛ばし、瓦礫が落下。周囲はパニックを起こし一目散に展望台から逃げ出そうとする。
(大変な事に……とにかく!)
「僕達も早くっ!」
僕もムースの手を引きこの場を離れようと急ぐ。……けど次の瞬間に再び火球が時計塔に。しかも、僕達の足場のすぐ下に。
攻撃の衝撃で足場が崩落。僕の方は大丈夫だけれど、ムースは崩落に巻き込まれて足場を失って落そうに──。
「ムースっ!」
落下しそうになる彼女を、腕を掴んで食い止める。
「……トル……テ」
恐怖が浮かぶムースの瞳と表情。
「だい……じょうぶ。すぐにでも……引き上げて──」
力を込めて上に引っ張り上げようとする。だけどその最中に……化け物が僕達に迫り来る。
「駄目だよ……トルテだけでも、早く逃げて!」
彼女の恐怖を抑えた言葉に首を横に降って拒絶する。
「ムースを見捨てるくらいなら……僕はっ」
必死で引き上げようとする僕に、もうすぐそこにまで化け物が来ていた。後少し──。
「させないわ!!」
その時に、高速で一閃する光の一撃が化け物を貫く。
止めを刺されてその体は霧のように霧散、代わりにそこにいたのは光の翼を広げた、輝く鎧を纏い剣を持つ緑髪の凛々しい乙女だった。
「君は……シフォン」
「──早くその子を助けてあげなさい。大切な人なんでしょう?」
彼女の言う通り、僕はムースをそのまま引っ張り上げる。
「……良かった。何とか引き上げられた」
「うっ、ひぐっ……」
これには余程怖かったのか、ムースはその場に座り込んで泣きじゃくっていた。
「もっと僕が気をつけていれば……。ごめん、もう大丈夫だから」
「トルテは最善を尽くしたわ。無事に助ける事だって、こうして出来たもの。
……貴方も、泣いてばかりいないの。女の子だってしっかりしないといけないわ」
シフォンも僕達の傍に着地して、励ましの言葉をかける。
「……ごめんね。格好悪い所を、見せちゃって。
助けてくれてありがとう、トルテ。そして……」
「私の名前はシフォン、魔王城で働いているトルテのお友達よ」
「シフォンさんもありがとうございます。私はムース、トルテの……幼なじみです」
「なるほど、貴方がトルテの」
僅かにシフォンは思う所があった表情を浮かべて。それから様子を真剣に戻してこう伝える。
「でも今はそれどころじゃないわ。この街には大量の魔獣が迫っているの。避難勧告も出ているはずだけど──」
よく耳を済ませると時計塔の下、地上から何か緊急の放送のような内容を繰り返している。危険が迫って、街のシェルターに退避するように、みたいな。
「……もしかして高い時計塔にいたせいで、上手く放送が届き切っていなかったのかしら?
とにかく二人も早く避難させないと。えっと、地上に降りるには時間がかかるし、ここはプディングを呼んで下に降下させた方が良さそうかもね」
そう呟いていたシフォン……だったけれど。