魔王城の下働き   作:双子烏丸

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戦闘訓練

 ────

 ──

 

 

 玉座に座り、私は竜人族の執事、カータードの報告に耳を傾けていた。

 

「アビスシティの惨劇から既に二ヶ月。大きな被害を受けましたが、多方面からの援助もあり、街の再建も間もなく完了しそうです」

 

「……そうか」

 

 手元に置いてある、今度の事件に関する資料。被害を被ったアビスシティの詳細な復興状況の内容が記されており、改めて一通り目を通す。

 

「大時計塔を中心とした広範囲の建物の倒壊……。物理的な被害は大きなものではあるが、幸いにも付近で魔獣群の掃討を行っていた軍からの避難勧告を受けて住民は全てシェルターへと避難。奇跡的に死者が出ていなかった事は不幸中の幸いだ」

 

「その魔獣群も、突如としての消失。そして街で確認された破壊神の存在も。

 本当に……復活していたなんて」

 

 カータードの呟く声。私もまた、今後の事に頭を巡らせる。

 

「あれ以降、大規模な魔獣の襲撃はない。嵐の前の静けさと言うべきかもしれないが、今の内に軍備も含めた準備も進め、各地に警戒網を張っている。

 ……このままで済むとは到底思えないからな」

 

 打てる手は全て打っておくべきだ。破壊神が蘇った今、何が起こってもおかしくはないのだから。

 

 

 ────

 ──

 

 

 

『……もしもし、トルテ』

 

「うん、ムース」

 

 自分の部屋で、僕は遠識の手鏡を使ってムースと会話をしていた。

 

『元気にしてる? その……あんな事があった後だから、私、ちょっと不安で……』

 

 鏡に映る彼女の顔はかげりがあって、この前のアビスシティでの事を引きずっているように思えた。もちろん、それだけじゃなくて。

 

『前にも話したけど、村のすぐ近くでも軍隊が巡回していて……私達も何かあった時に備えて警戒しないとって。

 これから……どうなるんだろう』

 

「……」

 

 ムースにどう声をかければ良いのか、分からないでいた。……けれど。

 

「きっと、大丈夫だよ。魔王さまだって色々考えてくれているみたいだし、何とかしてくれるはずだよ」

 

 今言える励ましの言葉。彼女は少しだけ笑顔を取り戻すと、こう答えた。

 

「……うん、そうだよね。

 ありがと、トルテ。おかげで元気になれたよ」

 

 

 

 ────

 

 ムースと話をした後、僕はこの間から手伝いを任されている仕事に出かけていた。

 場所は魔王城の外れ、城に駐留する魔王軍の訓練場。仕事と言うよりは……そこで。

 

「──うわわっ!」

 

「トルテ! もっと腰に力を入れろ! この程度だとすぐに小型魔獣にやられてしまうぞ」

 

 鋭い槍の勢いで尻もちをつく僕。訓練相手の門番のコボルト、ビスケさんは槍を持ったまま呆れた表情で見下ろす。

 

「さぁ……もう一度だ。今度はちゃんと打ちかかってくれよな」

 

 槍を構えるビスケさん。僕も立ち上がって、訓練用に支給された木製の剣を持って構える。

 

「構え方は大分ましにはなったな。本当に戦うつもりで来い。剣先に魔力をしっかり込めろ、込めた分だけ一撃の威力は上がる。だが全部じゃない、俺が教えた身体強化の魔術も忘れずにしろ」

 

 頷いて答え、自分の魔力を剣に集中。そして魔法で自分の身体を一時的に強化する。

 僕だっていつも以上に真剣だ。

 

「……これで!」

 

「ああ。遠慮せずに──向かって来い」

 

 

 図体も大きくて毛もくじゃらの、魔王城の門番ビスケ。槍をまっすぐ構えて隙もない。けど……。

 

「たあっ!!」

 

 だけど僕に出来る限りはやってみせる! 手に持つ剣は後ろに回して彼に迫る。

 身体強化魔術のおかげで身体がずっと軽い。すぐにビスケさんに迫って、僕は剣を横に薙ぐ。

 

「相変わらず甘いぞ、トルテ」

 

 僕の攻撃はビスケさんが持つ槍の柄で受け止められる。

 

「いや! そうでもないさ!」

 

 柄で受け止められ、弾かれた状態で続けて一気に後ろに回転して連撃を繰り出す。

 これなら上手くいけるはず…………っ!?

 

「ぐはっ!」

 

 攻撃が届くよりも早く、槍の底部が僕の腹部に直撃する。いくら演習と言っても呼吸が止まりそうなくらいの激痛。けれどそれに耐えて、ビスケさんが続けて槍を振り下ろしてかかるのを剣で受け止める。

 物凄く重い一撃。かろうじて受け止めてはいるけれど、一瞬でも力を抜けば押し潰されてしまうほどに。

 

「ほほう……受け止めたか。さっきの一撃はかなり痛かっただろうに、よくやる」

 

「ま……まぁ……ね」

 

 まだ腹部がひどく痛む。それでもどうにか、踏ん張ってみせる。

 

「確かにそこは褒めてやるとも。──しかし!」

 

 言った瞬間にふっと、槍を受け止める力がなくなった。──かと思ったと同時に急に僕が持っていた剣は、上に弾かれる。

 ビスケさんは槍を一瞬で一回転させて、受け止めていた僕の剣を下から弾き飛ばしたんだ。そして彼は武器を失くした僕に槍先を向ける。……完全に僕の負けだ。

 

「俺も少し本気を出してしまったな……お疲れ様だ。少し休憩にしよう」

 

 そうしてビスケさんは軽く微笑んで、僕に言った。

 

 

 

 ────

 

 訓練が一段落して、木陰で一息休憩をついていた。

 半日近くハードに身体を動かしたせいで、汗で少しべたつく。向こうではさっきの僕と同じように、魔王軍の兵士を相手に武器を持って戦闘訓練をしている人たちがいる。

 僕と同じように城で働いていて、そしてこれまで戦った経験がない人たちだ。

 

「──そこの隣、構わないか?」

 

 声をかけて来たのは、さっき訓練に付き合ってくれたビスケさん。

 魔王城に来て初めて話した相手で、城の門番。そして彼も魔王軍の一人でもあった。

 

「うん。僕は全然だいじょうぶだよ」

 

「そうか」

 

 ビスケさんは僕の隣に座る。それから何気ないような感じで話す。

 

「訓練の時はその……すまなかった。以前に軍の教官をしていた事もあったせいで、その、大変だっただろう?」

 

「正直言えば、かなりキツかったよ。

 ……でも今魔界は大変な状況だし、少しでも戦える力があった方が良いと思うから」

 

 外の世界では未曾有の災害が発生する恐れがあるとして警戒を強めているけれど、破壊神の復活はごく一部、魔王軍、そして城の城の中では周知の事実になっていた。

 それを踏まえて城にいる軍と門番の訓練も強化、さらに万一に備えて非戦闘員も最低限は戦えるようにほぼ全員が訓練を受けている。

 

「本当に、物騒な状況になったな。トルテの故郷……確かココア村だったか? やはり気になるか」

 

「それは……当然だよ。故郷なんだし、心配と言うか」

 

 僕は頷いて答えると、ビスケさんは励ますように陽気に笑う。

 

「まぁ心配しなくても、あそこの村には魔王さまのかつての戦友であるガレットがいる。

 彼は村の長老をする前は凄腕の戦士で、俺が軍に入ったのもガレットに憧れてなんだぜ」

 

 そんな話をするビスケさん。……そう言えば、少し気になる事があった。

 

 

 

「あのさ、ビスケさん」

 

「どうかしたか?」

 

「ビスケさんは最後の破壊神との戦いの事、何か知っている? ……どんな感じだったのかとか」

 

 ふと気になったそんな事。思いつきの質問だったけど、ビスケさんは面白そうにして返して来た。

 

「良い質問だな。実は俺の親父も魔王さまと共に破壊神と戦った、軍の兵士の一人だったんだ。

 全部知っているわけじゃないが、良ければ話を聞かせてやろう」

 

 

 そうして彼は話を始めた。ずっと昔に起こった戦いの話を。

 

「──破壊神が現れた時、魔界の大半を巻き込んだ戦いが繰り広げられた。

 山のような巨体を誇り禍々しい姿を持った破壊神、強大な敵だったが魔王さまは軍勢を率いて魔界を守るために対抗した。彼の三人の忠臣とともにな」

 

「三人の……それって、ガレットさんも」

 

 ビスケさんは頷く。

 

「もちろん。そして後の二人にも、多分トルテも会っているんじゃないか?

 城の寮母をしているエクレと、図書館司書のマカロ。ガレットは戦士だったが、昔の二人は魔界で一番の召喚士と魔術師だったんだぜ」

 

 ……あの二人も、魔王さまの戦友だったんだ。少し驚きだな。

 

「ともかく、魔王さまと三人の忠臣は凄かった。四人で破壊神が生み出した無数の魔獣を次々に倒し、その活躍は──」

 

 自分でも高揚しているようにビスケさんは戦いの様子を熱く話す。

 ガレットさんの山を砕く程の大斧の技、エクレさんが呼び出した光り輝く幻獣の軍勢とか、マカロさんの放つ爆炎と氷結の嵐を思わせる魔法攻撃の威力も。……そして魔王さまも。

 

「中でもやはり、魔王さまの強さは別格だった。元々は彼の剣、今はシフォン嬢が使っている宝剣ラティエルショコラを手にして破壊神を相手にほぼ互角の戦いを繰り広げた」

 

 彼の話す内容にのめりこむ僕。そしてついに、最後の瞬間。

 

「何十日にも渡る戦い、魔界にも大きな被害と犠牲を出した。しかし魔界辺境にある大荒野にまで追い詰めた。

 魔王シュトレはラティエルショコラを手に、破壊神と正面から対峙して──その胸のど真ん中に剣を突き刺して、ついに奴を倒した」

 

「……わぁ」

 

 ビスケさんの話に僕は思わず聞き入っていた。これが、破壊神との決戦のお話だったんだ。

 

 

 

「ありがとう、ビスケさん。僕のお願いに付き合ってくれて」

 

「何、構わないさ。さて……じゃあ十分休んだことだし、また訓練に戻るか」

 

「……うげっ」

 

 またハードな訓練に戻ると考えると、複雑な気持ちになる。

 

「まぁまぁ。気持ちは分からないでもないが、頑張ろうぜ」

 

 ビスケさんは立ち上がって、訓練場に行こうと。……けれど途中で僕はある事を思い出して、呼び止める。

 

「待って! ビスケさん」

 

「どうかしたか?」

 

 そう言って僕に振り向いて一言。僕は続ける。

 

「聞き忘れていた事が一つあった。前にマカロさんから聞いたんだけどさ、破壊神を倒した時に魔王さまが何か特殊な力を使ったって……そう言っていたんだ。

 後でどんな物か聞きに行ったけど、はぐらかして教えてくれなかったし。もしかするとビスケさんは知ってるかもって……」

 

「……ふむ」

 

 ビスケさんは考えるような仕草をする。それからある事を話した。

 

「確か……親父が妙な物を見たって話していたな。

 ガレットら三人と何か話した後、魔王さまは崩れつつある破壊神の躯を前にして……小さな、紫色に光る火の玉を身体から抜き出したそうだ」

 

「紫の……火の玉?」

 

「ああ、そうだ。あれが一体何か分からないが、破壊神の身体も同じ紫色の塵のようなものになって霧散したと言っていた……だからあれは何かしらの破壊神の一部だろう」

 

「……」

 

 魔王さまは破壊神から何か一部を抜き取った? 何のために……。

 

「ただ、その火の玉は魔王さまではなく、ガレットが受け取った。──それから間もなくして城を離れて辺境の村で隠居したと言っていたが……関係があるかもな」

 

 故郷の村の長老で、ずっと小さい頃から世話も焼いてくれた……父親代わりのガレットさん。破壊神に関する重要な事を何か……隠しているのか?

 

「それより行こうぜ、トルテ。一人前の兵士に負けないくらい、強くしてやるからさ」

 

「──了解」

 

 そうだった。今は話よりも戦闘訓練だった。考えれば話だって少し長引いたし、訓練に戻らないと。

 広場に出て、僕は簡易な召喚魔法で訓練用の木剣を出現させて柄を握る。ビスケさんも槍を出して構えていた。

 

「分かっていると思うが、構えに力の扱い方、俺の教えた事を忘れるなよ?」

 

「もちろん忘れていないよ。……散々教え込まれたしさ」

 

「なら良し。それなら──俺から行かせてもらう!」

 

 瞬間に、ビスケさんの身体が急接近して迫る。そして振り下ろされる槍……僕は横に飛び退いて攻撃を避ける。

 

「ビスケさんっ!? いきなり攻撃するなんて!」

 

「悪いが、実際の戦いはこんな物だぜ。さぁ……頑張って見せてくれよな!」

 

 続けて来る槍の攻撃。僕はそれを剣で弾く。強力な一撃だったけれど、身体強化魔術とビスケさんから教わった戦いのコツのおかげで何とか凌げた。

 

「……やった!」

 

 あの攻撃を弾くことが出来て、思わず声が出た。

 

「ほう? やったなトルテ。さすがじゃないか」

 

 ビスケさんもにやりと笑って言った。僕も嬉しくなってつい表情が緩む。……けど瞬間に正面から槍の突きが迫る。

 

「!!」

 

 とっさに剣で防ぐけれど大きく後ろに弾き飛ばされる。でも、何とかすぐに態勢を戻して構え直せた。

 

「……ふふふ、割と様になっているな。こうして見ると、割と楽しくも思えてくるな」

 

「ぜぇ……ぜぇ、そんなに思う余裕なんて、ないよ」

 

 あの一瞬でかなり体力も使って息だって荒い。……けれど。

 

「……まぁ少しだけ、分からなくはないけど」

 

 ビスケさんはそれを聞いて、にっと笑った。

 

 

 この戦闘訓練、物騒で大変だけれど、でもちょっとだけ面白さもあった。……かも、しれない。

 

 

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