「……くくっ」
「はぁ……はぁ……っ」
膝をついて、深手を追った破壊神。僕はその喉元に魔力の刃を突きつける。
「何が……おかしい!」
もう戦えそうにない状況。そのはずなのに……破壊神は愉快そうに笑っている。僕はさらに問い詰める。
「まだ何か力を、隠しているのか。だったら早く出してみろよっ!!」
激しく言った言葉。破壊神はなおも笑い続けながら、続けた。
「……いいや、僕は本当にここまでさ。これ以上戦っても勝ち目なんてないよ」
「ならっ! どうして笑う!?」
「トルテ、たしかに破壊神としての本来の意思は僕の方に宿っていた。……けれど、実は破壊神の力、その半分以上は君の方に引き継がれていた。
……本気を出されたら、初めから僕に勝ち目なんてなかったのさ」
──けれど。奴はさらに続ける。
「トルテ……僕の、破壊神の力は素晴らしいだろう?」
「何だって!?」
思いも寄らなかった、そんな言葉。
「魔王すら凌駕する、全て思いのままに出来る程の圧倒的力。けれどそれさえも、本当の力じゃない。
この魔界そのものが……本来は破壊神そのものの本体だった。その全てを取り込めば無限の力を欲しいままに出来る。トルテ──そんな力が欲しくはないか?」
「力……か」
破壊神の言う事は、よく分かる。
戦った時に振るった膨大な力。力があれば何だって思いのままに……唯一無二の存在になれる。その渇望と魅惑、欲望、僕自身抱かずにはいられなかった。
気持ちも分かる…………だけど。
「力はただの力、手段に過ぎない。大事なのはその力を、どう使うかなんだ。
僕が力を振るったのはもっと大切なものを守るため。大切な世界とみんなの事……そしてこんな僕でも愛してくれると言った、人のために。
魔王さまも同じ思いで魔界を治めていたと思う。だからこの世界を犠牲にしてまでの力なら────僕は欲しくない。どれだけ強い力があっても、力だけだなんて……そんなの、虚しいだけだと思うから」
これが僕の答えだ。破壊神は僕と瓜二つの顔で僕を見つめ……今度は力なく笑った。
「本当に……力はあっても、君はただのヒト……みたいだね」
「それで十分だよ。ただ破壊するだけの力なんて、欲しくなんてない」
「ははは…………羨ましいよ、君が」
そう呟いてまた笑う破壊神。……寂しげな様子を見せて、奴は僕に言った。
「全然、構わないよ。なら、君がやる事はただ一つ。僕を──倒すことだ。
歴代の魔王に倒され続けて、その度に僕は復活を続けて来た。……けれど同じ破壊神の力で倒されれば僕の魂と力は完全に霧散して魔界と同化する。もう復活することもない」
淡々と話す破壊神。けれどその様子から、僕は察した。
「初めから……それが僕と戦った、理由なのか?」
僕の言葉に僅かに頷いて応える。
「……本当はね、うんざりしていたんだよ。ただ力ばかりを渇望する破壊神としての衝動と、魔界を取り込み本来の姿に回帰しようとする本能に突き動かされて、長い年月の間同じ事を繰り返し続けているのを。
もう……終わりにしたい」
破壊神の思い。彼は自分自身を終わらせたかった。破壊神としての存在に遥かな年月の間縛られ続けた、自分そのものを。
同じ破壊神、魂を分けた存在だとしても、ヒトとして生を受けた僕には……分からない苦悩だと思う。
そんな中、ボロボロになったシフォンが……剣を杖代わりについてやって来た。かなりダメージを受けてはいるけれど、無事で本当に良かった。
「トルテ……戦いは、終わったの?」
彼女からの言葉にこう答える。
「……うん。まだ倒してはいないけど、何とかね」
シフォンはそう、と呟いて破壊神に視線を移す。僕は彼女に続けて話す。
「破壊神は自分自身が倒される事を望んでいた。アビスシティを人質にして僕を呼んだのも、同じ破壊神の力なら復活する事なく倒せるから。……シフォンはどう思う?」
「もう破壊神が復活する事がないなら、魔界は平和になるわ。けれど──」
僕の顔を眺めながらシフォンは、言った。
「トルテはそれじゃ納得、出来ないんでしょ?」
やっぱり彼女はお見通しだった。
「まあ、ね。けれど……僕がしたい事は、正直上手く行く保証はない」
「構わないわ。だって私はトルテの友達よ、責任は私が代わりに持ってあげる。だから──やりたいようにやってみて」
「ありがとう、シフォン」
シフォンに礼を言った後、僕は改めて破壊神の方へと向き合う。
「望みどおり、破壊神である君を終わらせる。
今までお疲れ様、そして…………さよなら」