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……破壊神との戦いから、二ヶ月経った。
破壊神の脅威は去り、アビスシティにいた爆弾型魔獣も消失して街も無事に救われた。平和になった魔界で僕は今──
「トルテ! 掃除が終わったら武器庫の整理を頼む」
魔王城の廊下掃除をしているとビスケさんから仕事を頼まれる。
「次に入っている仕事もないし、分かったよ。でも、破壊神の脅威はないのにビスケさんの門番の仕事、それに魔王軍もまだあるんだね」
「確かにそうかもしれないさ。だがマカロさんの言うには、魔界の外の世界からも脅威が何度かやって来たって言う話もある。だからこれまで通り、何が起こっても対処出来るように鍛錬は欠かせない」
「そっか、お疲れ様。けど掃除が終わるまでまだかかりそうだから……少し待っていて」
「了解だ。じゃあ、よろしく頼むぜ」
そう言って彼は僕に手を振って去って行った。改めて、掃除の仕事へと戻る。
僕は以前と変わらず、魔王城で下働きとして働いている。実際、城で働きだしてからまだ数年しか経っていない。そう簡単に仕事が変わるわけではない。けれど──。
「トルテ、向こうの掃除は終わったよ」
「お疲れ、ムース。城での仕事をもう慣れるなんて、さすがだよ」
「ふふっ、それほどでも。こう言うのは得意だから!」
僕と一緒に魔王城で暮らして、働いているムース。彼女は僕に朗らかな笑みを投げかけてくれた。
「トルテはまだ掃除が残っているんだよね。私が手伝ってあげる」
「ん、ありがと!」
二人で一緒に掃除。モップをかけながら、こんな会話を。
「生活の方も、慣れた?」
ムースは頷く。
「うん。ココア村やみんなと離れ離れになるのは寂しいけど、でもトルテと一緒だから。だから全然大丈夫!」
「それなら良かった。僕もムースと一緒に居られて、嬉しいから」
こうして二人でいられる……それだけで幸せな思いだ。そんな所に。
「ヤッホー! お二人さん」
魔王様の一人娘で僕の友達、シフォンがやって来た。
「やぁシフォン。調子はどう?」
「相変わらずよ。最近は魔力向上と剣技の修行と研鑽で大変って感じ。力ではまだずっと差はあるけれど、トルテに負けていられないもの。もちろんお父様にもね」
「僕だって同じさ。マカロさんに勉強を教えて貰って、正直難しいけど頑張りたいんだ」
そう話すと彼女はくすりと笑う。
「頑張っているのはお互いさまね。けど、たまには休んで息抜きするのも大事よ。
だから今度休みを取って、プディングに乗って遠くに出かけようかなって思っているの。ねぇ? その時にはトルテとムースもどう?」
「プディングって、あのワイバーンの子だね。私また空を飛んでみたいなー」
「うん、良いと思う。僕も最近ずっと忙しかったし羽根を伸ばしたかったんだ」
「喜んでくれているようで私も嬉しい! ……っと! でも今はそれじゃなかったんだった。
トルテ、私のお父様……魔王シュトレさまが話をしたいって貴方を呼んでいるの。仕事は後でも構わないから来てくれないかしら?」
魔王さまが、呼んでいると言うこと。用事は何となく予想がついた。
「分かった。──今から向かうよ」
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魔王城、玉座の間にて。
「……調子はどうかな」
玉座に座るのは魔界全土を統治する王、魔王シュトレ。僕は彼を前にして……。
「はい。僕は全然平気です。
城での下働きも……それに、次期魔王としての教育も。マカロさんの授業はちょっと厳しいけれど」
「そうか。魔界を統べる王として知識も大切だ、分かっていると思うがしっかりと励め。
──何、私はまだ現役だ。代替わりまで数千年間の時間がある。着実に学べば良い」
そう、僕は魔界城での下働きではあるけれど、同時に次期魔王候補の一人として教育を受けていた。もう一人の候補は当然娘のシフォン。彼女とは友人なのは変わらないけれど、今は同時にライバルとも呼べる関係にはなっている。
破壊神の力を受け継ぎ、魔力と言った力の面で言えば魔王さまを凌駕するもの……らしい。それで魔王さまは僕に対して、力の正しい使い方を含めた教育を与えると決めて更には、その資質によって将来の魔王候補として改めて育てられる事になった。
……まぁ単に放置するわけにはいかないと言うか、監視も含めてだとは思う。けれど魔王の地位は世襲ではなくて力、教養、そして人格などによって決まる完全実力での継承。例え幾らかの危険視はされているにしても、僕を魔王候補として育てると言う話は本気らしくて、期待されているのならそれに応えたい。
「──魔王さま」
「どうした? 改まって」
「こうして、破壊神の力を持っている僕を受け入れてくれた事と……それに、ムースと一緒に居られるようにした事も。本当に、感謝しているんです」
魔王さまはこっちを見据えて、小さく微笑む。
「気にするな。私はあくまでその力を正しく使えるよう、導くことを優先したにすぎない。魔王候補はそのついでだ。
ムースも、今は君の──恋人だろう? 共にいた方が君にとっても最適だろう」
この言葉に僕は頷いた。
「君の様子も問題がないようで安心した。……私からは以上だ、仕事に戻って構わない」
魔王さまに一礼して、彼のいる玉座の間から去ろうとする。
「トルテ」
後ろから呼び止める声。魔王さまの方に振り返ると。
「君を魔王候補にしたのはついでとは言ったが、やはり訂正する。
あの時アビスシティを守ると覚悟を決めた事。破壊神の力を受け継ぎながら、それに呑まれることもなくヒトとして生きる事を選んだのも……簡単に出来る事ではない。
我が娘、シフォンの事も応援しているが、君もきっと良い魔王となれる資質はある。
だから──頑張ってほしい」
その言葉に僕は……笑顔で応えた。
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その日の仕事も終わって、僕は高いテラスに登って外の景色を眺めていた。
デッキに両腕をかけてもたれて、ムースとシフォンも一緒だ。
「……」
「そんな顔して、トルテは何を考えているの?」
傍にいたムースは僕に訊いて来た。
「──こっちは、ココア村がある方角なんだ。……ザッハは元気にしているかなって」
この呟きに今度はシフォンが応える。
「あの子にはザッハって名前がついたのね。トルテが名付けたの?」
「ううん。ガレットさんが名付けてくれたんだ。
……破壊神だった、僕の半身。同じようにヒトとして幸せに過ごせたら……いいなって」
思いをはせながら僕は言った。
──破壊神と戦い、そして勝利した僕とシフォン。
破壊神は自らの運命に絶望し消滅を望んだ。けれど、僕は自分の力を使って破壊神が持っていた残りの力も取り込み……力を持たない普通のヒトして生まれ変わらせた。
かつて破壊神との戦いで魂を分けられ、そして僕が生み出された魔法。実は前もって習得していた。
僕がヒトとして生まれて幸せを手に入れられたのなら、破壊神だって同じように救えるはずだと……そう思って。
「かつて破壊神だった事も覚えていない。生まれたばかりの赤子の姿で、本当に一から始めて行くんだ。
ガレットさんが育ての親を引き受けてくれて、村のみんなだって優しいから。きっと幸せになれると思う」
「まるでトルテの時みたいだね。きっと、いい子に育つよ」
ムースは僕に微笑みかけて言う。僕はそうだね──と、呟いてはにかむ。
「逆に破壊神の残り半分を吸収した僕は、本当に破壊神そのものになってしまった。……少し離れていて」
僕はムース、シフォンにちょっとだけ離れてもらった。そして自分の破壊神の力を開放する。
姿が変貌し、鱗に覆われた竜のような四肢と、鋭く伸びた角と長い尾。そして……左右両側から生える幾つもの翼。
破壊神の力、半分しか宿していない時には右にしか生えていなかった翼が、今では左にも。
「この姿でいると、ずっと力が湧いて来る。……魔界全てを滅ぼしてしまいそうな力が。
けれど力があるのなら、それを破壊のためじゃなくて良いことのために使いたいって思う。今はただの下働き。でも新しい目標が出来た。
何があってもみんなを守れる、魔王さまに。なってみたいんだ──僕は」
新しい僕の夢。ムースは応援しているよって、そう言って微笑んで。シフォンは──。
「良い夢じゃない、私も応援しているわ。──でも魔王を目指しているのは私も同じ、叶えられなくても恨みっこなしよ!」
爽やかな表情を向けての、シフォンの言葉。
「それはお互いさまさ。負けないよ、シフォン。
──ムースも、僕は普通のヒトでなくなったけれど、これからも僕の一番傍にいてくれる?」
そう言って僕は異形の右手を彼女に差し出した。鱗で硬い手を、ムースは構わず握ってくれた。
「ふふっ、当たり前だよ。トルテのこと、大好きなのは昔からずっと……変わらないから」
僕はムースに嬉しげに微笑んだ。
この魔界と言う世界で、魔王城での下働きをしている僕。けれど──それはスタートライン。
何百年、何千年もかかるかもしれないけれど僕は、立派な魔王さまになってみせる!