感想でいただいた展開おもしろ…と思ったりしますが、はじめに決めた通りに書く予定。感想やその返信が先の展開に触れそうなものは、もう少し書き進めてから返信させてください。
今回は三人称(夏油傑視点寄り)です。
それではどうぞ。
呪術高専の三人が占いの館に通うようになってひと月が過ぎた。
あの占い師は、どこまで占いでわかるのか知らないが、聞いたことに答えが返らないことはなかった。
任務の話に全く臆さないし、疑問を呈すこともない。人物像はよくわからないものの、話しやすいのは確かだった。
その日は任務終わりに三人でマックに寄りつつ、傑が携帯電話を使って予約を取っていた。
「じゃあ次の水曜日かな。みんなで行く?」
「俺は行く!硝子は?」
「私も行こうかな。知らないことポンポン言われるのってなんか面白いよね」
傑は硝子に頷きつつ、20分の枠で予約を取った。20分と30分の枠があり、最初は30分で予約していたものの、あの打てば響くような占いには20分あれば満足できたからだ。
何度も通うには安くない料金だが、金銭面は悟がなんとかしている。
本人は楽しいからと支払いを惜しむ様子はない。そういうところは良家のお坊ちゃんだった。
ちなみに例の占い師がいるのは水・金・土日がメイン。今日は別の占い師がやっているようだ。
「そういや例の露天風呂で鍵盗んだおっさん、昨日強盗で捕まったらしいよ」
「ウッソだろ。見逃してやったのに懲りねえな」
占い師関連で、傑は鍵を盗もうとした男を思い出した。先日は結局宿を変えられず、露天風呂に入ろうとして危うく鍵を盗られかけたのだ。
見逃してやったといってもいくらか痛い目を見てもらっているが。
なお発見が早かったので未遂である。
「あの時は現行犯で見つけられてよかったよなー」
「その現場見たかった」
「男湯の脱衣所だったから硝子は見られなかったね。普通のおっさんだったけどね」
鍵を盗もうとした男性はあまりに十人並みの背格好をしていたので、もしも鍵を盗まれていたら探すのに手間取ったかもしれない。
しかも、盗む動作にためらいがなかった。手慣れていた。
もしかしたら占い師の言う通り3時間部屋に戻れなかった可能性もある。
いや、あの占い師のことだ。3時間かかったに違いない。
「それにしてもさあ」
悟がポテトをつまみながら切り出した。
「あの占い師って俺らとタメくらいじゃない?」
そういわれてみると、そうかもしれない、くらいに傑は思った。
だが、そもそもあの部屋は薄暗いのだ。たぶん雰囲気づくりのためだろうが、人の年齢が詳細にわかるかと言ったら厳しい。
占い師の見た目を思い出す。ぱさぱさの金髪に、少し黒目がちな瞳。体格は、どちらかというと細身だった。
口元は黒いマスクで見えなかったが、落ち着かせるようなやわらかい声をしている。初めて見たときはなかなか胡散臭いなと思ったものだ。
しわなどの年齢が見えるような特徴はなかったのでかなりの年上ということはなさそうだった。それでも、大学生と言われても納得する。
「んー、私はなんとも言えないなー。若いなとは思ったけどさ。マスクだし分かんないよ」
「私たちとタメだと高校一年ということになる。さすがにあんなところで占いなんてしないんじゃないか?」
言い終わったところで、傑も手元のてりやきバーガーを食べた。おいしい。
もう一口かぶりつく。もう一つくらい買ったほうがよかったかもしれない。
「そうかあ?案外身近かもよ。そのへんにいたりして」
「身近ねえ」
そうはいっても、占い館から3駅離れたここでどうのこうの言っても関係はないだろう。
高校や大学は反対方面の駅のほうが多い。この辺には工業高校くらいしかない。あの丁寧な口調の占い師と、イメージがまるでつながらない。
それにここで見つけたとして、それは身近なのかどうなのかという微妙な疑問も脳内で浮上した。
高専は東京郊外で、わりと山なのだ。ここにいるのは任務後に寄っただけで。
とりとめもなく思考が広がったあたりで、レジ付近がにわかに騒がしくなった。
男子高校生らしき団体客だ。
「うわ、人数多っ」
「この辺の高校の生徒かな。出る?」
「まだ食べてる途中ー」
トレイの上にポテトがある限り、店舗を出るという選択肢は消えた。
硝子は悪くない。彼女にはにこりと笑っておいて、傑はちらとその団体を一瞥した。
10名ほどのそいつらがガヤガヤと賑やかにレジ前を占領する。
先頭の男子生徒が注文する後ろで、好き勝手に喋る制服の集団。あれがうるさいのだ。
何を隠そう、傑は短気だった。そして沸点が低かった。
小さい苛立ちを自覚するころ、
――――おい、もう少し静かにできるだろ。
「「「ん?」」」
それは、聞き覚えのある声だった。ざわつく店内で、不思議と耳に入った。
ざわめきがそっと小さくなる。
――――今日の抜き打ちは酷かったけど、席に行ってからな。
続いたその声に、傑たちは思わずその集団をまじまじと見た。
黒い詰襟の制服。いわゆる学ランの彼らの中に、あの明るい金髪は一人としていない。
いないが、今の声は明らかに、あの占い師の声だった。
三人で顔を見合わせる。
「おいおいおい。いる?いるよな?」
「面白くなってきた。でも全員黒髪だ」
「今レジにいるやつは違う。もう一回喋るのを待つしかないんじゃないか」
耳を澄ませる。しかし少し静かになったその集団から、例の声はなかなか聞き取れない。
さっきは集団を落ち着かせるために大きめに声を出しただけなのか。
もしかしたらレジの注文も、初めのほうに終えてしまったのかもしれない。
先ほどまでとは一転して「もう少し喋れ」と思い始めた。
運が味方したのか、彼らが座ったのは傑たちにほど近いテーブル席だった。
顔をざっと見たが分からない。傑たちが知っているのは薄暗い部屋での目元くらいだ。見た目の情報は少ない。
席に備え付けられた紙ナプキンと、その隣に立てられたボールペンを取る。反対側から悟ももう一本取った。別に店のアンケートに用はない。
紙ナプキンに、適当にテーブルの四角と椅子の丸を書いて、声が聞き取れるたびにこいつは違う、とバツを付ける。
悟も身を乗り出して反対側からバツをつけていった。硝子はポテトを食べながら笑っている。
怪しくない程度にそいつらのテーブルを見つつ、あと二人まで絞った時、一人の男子が立ち上がった。
「悪い、俺そろそろ行かないと」
(こいつだ!)
思わず悟と視線を合わせてニッと笑った。確信だった。
ちょうど硝子のポテトも終わりだしと立ち上がる。彼女も口角を少し上げていた。OKということだろう。
多少急いでトレイを片づけ、彼を追いかける。
店を出て、駅に向かう道のり。あと数歩で彼にたどり着く。
なんて声をかけようか。しし、と笑う悟と、多分同じ気持ちだった。なんて言ったらあの占い師は驚くのか。
あと一歩近づいたら、声を―――、
目の前で、学ランの背中が振り返る。
「そんなに熱心に追いかけてくるとは、なにか、占ってほしいことが?」
いつもと違う黒髪。まだ明るい屋外で、それでもいつもと同じ、笑みを含む声。
隣で悟が「バレバレかよ!」と悔しがっている。
占い師は、「君、目立つの分かってるでしょう」と笑った。さらに、傑を見て続ける。
「うるさくしてすみません」
「バレバレかあ」
どうやら、彼のほうが何枚も上手のようだった。
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「どうぞ、何もないけど」
道端で尾行がばれてから、「用はないけど話そうぜ」と悟がごねた結果、占い師のアパートに案内された。
占い師は行き先の候補をいくつか挙げたが、お互いマックで飲食を済ませていたため却下となった。仕方なくという顔で最後に提案したのがここだ。
招くつもりはなかったが嫌と言うほどでもない、という態度だった。
「
「いくら本当でも失礼だよ、悟」
一応たしなめるが、確かに手狭だ。7畳のワンルーム。
2畳ほどは、システムベッドというのだろうか、ベッドと机が一体になった家具で埋まっている。
入学当初、悟は高専の寮も狭いと言っていた。それよりも狭いここは、彼にとって確かにとても狭いだろう。
「二人ともなかなか失礼ですね。このへんの学生としてはさほど狭くないですよ」
「でもなあ。台所も部屋の中にあるのに。狭いってマジで…」
「タバコ吸っていい?」
「ベランダか換気扇の下にしてください」
言いながら、占い師は荷物をベッド下の机に乗せた。
そのまま歩いて部屋の隅まで行くと、積まれていた四角いマットを三つ持ってきて床に置く。
今日マックにいた連中がよく来るのかなとぼんやり思った。
「適当に座ってくつろいでください。何か飲みますか?」
「いーから。それよりお前のこと聞かせろよ。何歳?」
悟はためらいなくマットに座ると、大した前置きもなく切り出す。
傑もその隣に座った。硝子はタバコを吸いたいらしくベランダと換気扇を交互に見ていたが、気になる質問が始まったので一度腰を下ろした。
占い師も床に座ってなんとなく円になる。4人座るとやはり狭い。
「15歳。高1です」
「ほら!やっぱタメじゃん!」
「マジか…なんであんな怪しいとこで働いてんの?」
「同級生がほぼ来ないと思ったので。工業高校なので男子ばっかりですし、もともと事務員のつもりでバイトを始めたので…」
「それがどうして占い師になったんですか?」
「店長が抜けている人だったので、心配で占ってしまって…」
そこで悟がむずむずと居心地悪そうに足を組みなおし、立てた膝を使って頬杖をついた。
傑と占い師をじろじろ見て「あのさあ」と雑に口を開く。
「お前ら、敬語やめろよ。タメだってわかったんだしさ」
「一応お客さんなんで」
「俺らがいいならいいだろ。な?」
勢いで押してくる悟に、傑はあっさり「そうだな」と頷いた。
押し負けている占い師が見たかったのもある。この辺がクズなのかもしれないが自覚はない。
「確かに、同級生なら気にすることもないな」
「私は最初から気にしてないよ」
「ほら!俺が悟で、こっちが傑、硝子な。お前は?」
もともと占い師のことを気に入っていた悟は、傑たちの同意を得て笑顔で彼を振り返る。
はたして、彼は気の抜けたような顔で笑った。
「
―――それから、千里が持っていたニンテンドー64で大乱闘したり、金髪がウイッグと判明して悟と傑がかぶったりして遊んでいたら、あっさり日が暮れてしまった。
今後、地の文も含めて彼ら3人のことは名前で呼びます。
苗字の距離感も捨てがたかったのでかなり迷いました。