ジャンプ転生記 in呪術   作:美野

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「千里~、次の休みいつ?」

 

 6月中旬。悟は入室するなり慣れた様子で椅子に座り、目の前の机に突っ伏した。

 彼の長い手が式盤にまで届きそうだった。

 

 三人はすっかり占いの館に入り浸るようになった。誰がやっているのか律儀に予約をしてくれる。待つのが嫌なだけかもしれない。

 毎回任務について占うたびに、「出発地点の木造の建物?高専のことかな」とか、「妖怪じゃなくて呪霊な」とか、「黒い膜?って何、帳?」などと言うおかげで、彼らの言葉にもずいぶん馴染んでしまった。

 普段は一般人に呪いの話をすることはないらしいが、任務内容がこれだけ占えるのなら隠したところで意味がないと思われているようだ。

 きわどい話になるときは、店長には席を外してもらっている。

 

 それにしても、呪い。呪霊。それらは生きている人間の呪力から生まれるそうで、(あやかし)(ホロウ)とは異なるようだ。

 つまり生霊か?と聞いたが、それも違うという。

 閑話休題。今は目のまえの客に集中しよう。

 

「休み?どういう…、ここの定休日は火曜だけど」

「ちげーよ、俺たちの」

 

 俺たちと言っても、今日は悟一人で来店している。

 詳しく聞くと、どうやら最近は他の二人とバラバラで任務が入っていて、三人一緒の休みがないらしい。

 

「一年だからって半端な強さのヤツを倒すのにいちいち駆り出されんの。一人で楽勝なやつばっか。他のやつでよくない?ってなる」

「そうか…、他の二人にスケジュールは聞けないか?休みくらい合わせられるんじゃ、」

「だーめだめ。いざ休みだと思っても、誰か突然出かけさせられたりしてさ。やる気出して早めに片付けると追加で任務増えるし。もう千里に聞こうと思って」

 

 はあ~、と悟の長い溜息が落ちた。こんなに"友達と遊べなくてつまらない"を表に出す男子高校生が現代にいるとは。

 やけに素直だと思っていたが、もしかしたら、任務ばかりであまり人付き合いをしてこなかったのかもしれない。

 高校一年生の彼らが、社会性を育てることができないほどに忙しいのか?それはよくない。

 

「先生は7月に入れば減るって言ってるけど、俺は今減らしてほしいわけ。分かる?」

「そうだな。ちょっと働きすぎてる」

「だろ?俺たちが強いからって、頼りすぎなんだよな」

 

 悟は伸ばしていた両手を引っ込めて枕にした。その姿勢のまま長期戦の構えだ。

 疲れているのだろうか。それなら、慣れた常連だしそのままでもいいだろう。何も言わず容認することにした。

 

「じゃあ占うけど、あんまり信じすぎるなよ」

「わかってるって。いつもの“当たらぬも八卦”だろ」

 

 軽い口調だ。本当にわかっているのか疑わしい。これで伝えた日が休みじゃなかったら、相当怒りそうだ。

 

 それにしても現代日本なのに、学校に通いながら戦闘もしていて、遠方にも駆り出される。放課後は任務をしている日のほうが多い。

 戦闘は彼らにとっては危険度が低いが、何か間違えれば命を失ってもおかしくないもの。

 似たような生活をしていた死神代行もいたな。しかし彼は基本的に町内だけの出動だったし、戦闘がない日のほうが多かった。初めのうちは死闘も多かったが別の話だ。

 とにかく、悟たちの労働状況は劣悪なのでは。

 

 眉をひそめつつ占おうとした矢先、コンコンコン、とノックの音が響く。

 次の予約の客が早めに来ることは珍しくないので、特段の注意は払わなかった。ドア近くに座っていた店長が立ち上がり対応に向かう。

 彼女がドアに触れる直前、バッと勢いよく開かれた。

 

「やあ千里。次の休みを教えてくれないか」

 

 傑だった。外開きのドアでよかった。でなければ店長がぶつかるところだ。

 開けっ放しのドアを店長が閉める。傑はそれを一瞥もしない。

 先ほどのノックとにこやかな笑顔に対し、ドアの開け方はひどく雑だった。どうやら傑も休みのなさにイライラしているらしい。

 

 傑は見た目こそ穏やかそうだが短気だ。ムッとするのが悟より早いことは、マクドナルドでの一件で分かっている。悟と違って多少腹に収めておくことができるだけだ。

 傑は入室し大股で数歩進むと、悟の隣の椅子にどっかり座る。

 

「傑!任務終わったのか?」

「ついさっきね。硝子は?」

「あいつは少し前に呼ばれたよ。怪我人が出たんだってさ」

 

 悟と傑は数秒顔を見合わせてから、ハァ、とほぼ声に出してため息をついた。

 それから二人して千里のほうを見る。

 

「それで、俺たちの休み、いつ?」

「はいはい」

 

 今度こそ式盤に触れた。悟を基準にして占い始める。彼が休みであり、他の二人も一緒に遊んでいるビジョンは、一か月後だった。

 これは遠すぎるか、と眉を顰める。

 俺の占いは、基本的には単なる先見(さきみ)だ。現状の先にある未来を視るもの。

 頑張って()い気を神通力で手繰り寄せれば、ようやく少しマシな未来がひとつ視える。その程度だ。なんでも分かるわけでもなければ、結果を幸運にする魔法でもない。

 

 ……ひと通り視て、神通力を使っても、揃っての休みは遠い。

 20日後の任務で悟が呪霊の発生源を早めに叩けば数日早くなる、これがせいぜいだ。

 

 一度式盤から手を放す。何度も試行することはできない。ひとつの事柄につき一日一回が占いの原則だ。

 目の前の二人が不思議そうにこっちを見る。占いの結果を出さずに手を離したのは、おそらくこれが初めてだった。

 

「もう少し我慢な。3人分占わないと分からないんだ」

「なるほどね」

「待ってるから早くしろよ!」

「悟、占ってもらうのに偉そうじゃないか?」

「俺のついでに占ってもらってる傑のほうが偉そうなんだけど」

「は?私がいつ偉そうにしたのかな」

 

 なぜか険悪になった悟と傑をスルーして、今度は傑を基準にして占う。ベースにする人物を変えて、一日一回の原則に見ないふりをした。

 当然このままいけば、三人とも揃って休めるのは一か月後だ。

 これから入る任務を先に教えてやってもいいが、前倒しで働かせるのも気が引ける。

 

(少し、手を貸してやりたいな)

 

 視線を上げると、二人は真剣にデコピン合戦をしていた。右手は攻撃、左手は防御しており何かルールもありそうだ。

 硝子がいれば、彼らの脇腹に一撃入れて勝ち誇っていただろう。

 

 揃っての休みが来週と聞いて、二人は上機嫌で肩を組み帰っていった。

 

 

-------------------------

 

 

 ―――その夜。

 

 目当ての空き家に到着した。人が住まなくなってしばらく経つのか、雑草が生い茂っている。

 小さな平屋だ。一人で住むにはちょうどいいかもしれない。

 それは今日の占いで視た場所だ。鍵が開いているからと子どもの秘密基地候補になり、子どもが呪霊に取り殺されてしまう。本来なら数日後に高専の関係者が見つけて、来週悟が任務に来る予定になるはずだった。

 

『こんなん俺が来る必要なかっただろ!その辺の術師でよかったじゃん!』

 

 先見のビジョンで、悟は補助監督相手にそう喚いていた。

 

 彼らの休みを占ったとき、俺は三つの条件をクリアする任務がないか探した。

 近場であること。初心者の俺でも対応できそうな呪いであること。もともと休みで、その一件をこなせば予定通り休みになること。

 そしてここにくると決めてから傑を占い、追加の任務が入らないのを確認したのだ。

 3人占わないとわからないと彼らに言ったが、2人分占ったところで分かったので嘘になってしまった。いや、追加の任務が入るなら硝子をベースにもう一度占うつもりはあったけど。

 

 念のため敷地の内周をぐるりと歩き、内と外を霊的に断絶する簡易な結界を成す。陰陽師のやり方だ。

 戦うための手段はいくつか持っているが、呪いというなら陰陽術で対応しようと思った。通用しなければ臨機応変にいこう。

 一応、呪符も用意した。傑を占ったときに彼らが休みを得ていたので祓えないということはないだろうが、用意は多いほうがいい。

 これでダメなら鬼道でも試そう。

 

 ふー、と細く息を吐いて集中。こういうのは久しぶりだ。

 自分の状態を確認する。この身体は気に充ちている。不調もない。十全に戦える。

 

 扉の前に立ち、気配を探った。占いで得られるのは視覚的なビジョンのみのため、呪霊の気配を探るのは初めてだ。

 だが、いる。近い。

 左手で人差し指と中指だけを立てる刀印(とういん)を結び、カラカラと扉を開ける。

 

 

 開いた扉のすぐそこに巨大な目玉、

 

 

「―――裂破(れっぱ)!!」

 

 刀印を鋭く振り下ろし神通力を飛ばす。ズバッ、とその目に裂傷が入った。

 呪霊はひび割れた声を上げて、ぐるりと回って居間と思われる部屋へ後退する。

 それは巨大な一つ目を持ち、四つ足の獣のかたちをしていた。この平屋の中では動きにくそうな大きさだ。攻撃はあてやすい。

 ただ、大きいだけに俺のところまで3歩程度だろう。真言を唱える間、攻撃されてきても困る。

 

縛縛縛(ばくばくばく)不動縛(ふどうばく)!」

 

 不動のまじないを唱える。ぱし、と手ごたえがあった。きちんと効くらしい。

 だが感触が軽い。内心首をかしげる。

 呪霊は確かにまじないを受け、動きを封じられている。それでもなにかおかしい。込めた力に比べて、手ごたえが少し軽すぎる。

 俺の力が弱まったわけではないはずだ。そういう約束をしている。(たが)えられたなら俺はここにいない。

 ならばなぜ、と目をすがめたが、目の前の光景からは答えが出そうになかった。呪霊がまじないに対抗しているというには、不動明王の縛りが解ける様子はまるでない。唸り声を上げるのがせいぜいだ。

 この疑問は帰ってから考えることにしよう。

 

「オン アビラウンキャン シャラクタン、」

 

 真言を唱えると、神仏から借りた白い神気(しんき)が立ちのぼった。これもいまいち感覚に合わない。

 出力不足で祓いきれないなんてごめんだ。使うつもりはなかった呪符を右手の指で挟み構え、重ねて唱える。

 

「謹請し(たてまつ)る。降臨諸神諸真人(こうりんしょしんしょしんじん)縛鬼(ばっき)伏邪(ふくじゃ)百鬼(ひゃっき)消除(しょうじょ)、急々如律令!」

 

 呪符を飛ばす。まっすぐに呪霊の頭部までたどり着くと、白い焔となってゴウと広がった。呪霊の姿が見えないほど(はげ)しく燃え盛る。

 呪霊の苦し気な咆哮。

 この程度の相手にやりすぎだったかもしれないが、祓えるなら問題ないだろう。

 すう、と息を吸って、仕上げだ。

 

 

万魔拱服(ばんまきょうふく)―――!」

 

 

 白い焔が勢いを増した。

 甲高い悲鳴が耳をつんざく。びりびりと空気が震え、

 

 ―――そして立ち消えた。

 

 

「……、」

 

 しん、と静寂が下りる。

 後にはただ、荒れて古びた平屋のみ。

 確かに苦戦のしようがない、言ってしまえば簡単な祓除(ばつじょ)だった。悟が文句を言っても仕方がなかったかもしれない。

 戦いの余韻もなにもない。さっさと帰って寝てしまおう。

 

 一応柏手(かしわで)をパン!と鳴らして邪気を払う。呪いが悪い気の集まりなら、しばらくはこれで大丈夫だろう。

 

 

 一度周囲を確認しつつ考える。

 真言を唱えたときの威力についてだ。思い当たる理由は少ないが、なくはない。

 今生ではきちんと参拝をしていないから、力を借してくれる神がすねたのかもしれない。近所の神社にしか行っていないから嫌がられたのかもしれない。

 いや、もっと他の理由の可能性もある。

 

(そのうち、京都の神社めぐりでもするか?)

 

 もうすぐ夏が来る。

 夏休み、バイトのない日程で京都旅行でも組もうか。なにが原因にせよ、京都に行けば手掛かりくらいは掴めるはずだ。

 そうそう戦うつもりはないが、このままでは不安だし。と思いながら、結界を解くとその場を後にした。

 

 

 





真言関係は『少年陰陽師』を参考にしています。
「アビラウンケン」・「万魔調伏」では?と思う方もいるかもしれませんが、ご容赦ください。
どの程度ルビを振るのが快適なのか、大変悩みます。

ところで呪術って相手の動きを封じる登場人物って少なくないですか?BLEACHなら大抵の死神が縛道使えるのに….
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