スター団ひこう組のボスやってるけど質問ある?   作:かわたり

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長いので二話に分けました。
掲示板要素、今回はあるとも言えるしそうでないとも言える。



10.Who is That Pokemon?

 

「と言っても、本格的に旅を始めるのは明日から!まずはキャンプセットや食材を買い揃えなくちゃ」

 

ひこう組のアジトを後にした俺は、チャンプルタウンをも通過してある場所に足を運んでいた。

その名もテーブルシティ。

パルデアの南部に位置する、最大の街。

グレープアカデミーの生徒や市民の活気あふれるこの場所では、チャンプルタウン以上に豊富な品揃えを誇る店が立ち並んでいる。

旅に挑む下準備としても、スタート地点とするにも丁度いい場所だと思ったのだ。

当初はセルクルタウンへ直行し、ジムに挑む最短ルートを選ぶ予定だった。

しかし、それは勿体無い。

 

「この旅に期限なんてものは定められていない。だったら、駆け足なんてせずに楽しめばいい」

 

ポケモンセンター、デリバードポーチ、アウトドア用品店、ブティックなど様々な店を巡り歩く。数を絞る必要なんてない。

購入物はリュックなどの鞄に詰め込むだけで、重量も気にせず持ち運べた。

 

これを可能としているのは、モンスターボールやボックスにポケモンを納める馴染み深い技術が活かされているのに由来する。

過去の人からすれば、四次元ポケットが如く鞄に物体を収納出来るなんて夢のような話だと思う。

改めて便利さを実感しつつ買い物を続けていると、残すは木の実やサンドウィッチに使う食材を買い集めるだけ。早速店に向かうと、人の良さそうな老人が微笑みを浮かべ迎えてくれた。彼が店主ということか。

 

「いらっしゃい学生さん、長旅になりそうだね〜安くしとくよ?」

 

「ありがとございます!

とりあえずサンドウィッチに使う食材を一通り見繕ってもらうとして、パン一個上下で切り分ければ土台を二つ用意出来るなあ…」

 

「むむっ、あんたも上のパン要らない派だったかい」

 

カウンター越しに店主とサンドウィッチ談義をしつつ、赤く熟れたトマトを手に取って見ていると。

 

「………わお」

 

それが突然消えた。

正確には黄色い何かが手元を横切ってから。

となると、ポケモンによるスリか。

近年じゃ減少の傾向にあるけど、あくタイプやひこうタイプのポケモンによる被害は今も尚発生している。それがテーブルシティを舞台に白昼堂々と行われると思ってもみなかった。

 

店主もそんな光景を見兼ねたのか「泥棒!!」と大声を上げるが、奪われたトマトが帰ってくる訳がなく。悲しげな面持ちで「お代は結構さ」と頭を下げられてしまった。

 

うーん何だか居た堪れない気持ちになるなあと、店主に事情を尋ねてみる。もちろん内容はさっきの黄色い何かについてだ。

 

 

 

「………お尋ね者のピカチュウ?」

 

「そうさ。一月程前に街の外から入ってきて、うちも同業者も被害に遭ってる。ポケモンだからと大目に見てやったが、もう我慢できん!」

 

憤りを覚える店主を前に、俺は怯むこともなく質問を続けた。それはもちろん俺が一番知りたいピカチュウそのものついてである。

 

「そのピカチュウ、手強いんですか?さっきの速さだと相当でしょう?」

 

その質問に店主は初め戸惑ったものの、これがお詫びになるならと快く教えてくれた。

 

「奴をとっ捕まえてやろうって試みは何度かあったんだが、結果は見ての通りさ。

何でも壁際まで追い込んだと思ったら、フッと消えちまうからだそうだ」

 

ピカチュウ程の身軽さと跳躍力があれば可能だけど…と思案を巡らせていると、次に店主は耳を疑うようなことを告げた。

 

「そのお尋ね者のピカチュウを見たことある奴ら…街の子供達の噂を耳にして驚いたよ。

"空を飛ぶピカチュウ"。

彼らはそう呼んでいたんだから。まぁ、それが事実なのか、誇張された表現なのかもわしにはわからんがな」

 

飛行と浮遊。

どちらにせよ、その能力はポケモン毎の種族やタイプ、生態などによって持つか否かが左右される。

後天的にその能力を獲得する場合は、進化したり技を覚えたりなどの手段が必要になる。

他にもテラスタルや道具を使えばそれを擬似的に再現できるものの、先ほどの黄色い影はテラスタル特有の発光も、何か道具を身につけている様子もなかった。

だからこそ、ピカチュウが空を飛ぶというのが事実であれば、それは異常な進化の仕方をしたか、あるいは独自に身につけた技でそれを可能としていることになる。

それは正しく異常だ。イレギュラーだ。

 

「………へえ。凄いねそれは」

 

だからこそ、次の瞬間には俺の興味は移り変わっていた。奪われたトマトでも悲しげな店主でもなく、そのピカチュウへと。

 

会ってみたい。

そしてあわよくば…。

 

そう思った時には、断られていた料金をカウンターに置く俺がいた。

困惑する店主の返事も待たずに問うた。もちろん、こういう交渉にピッタリなスマイルも添えて。

 

「このお金と引き換えに、噂話をしてた子供達は誰なのか、どの辺りに住んでいるのか教えていただけます?お釣りは結構ですよ」

 

「…ッ!」

 

店主は今になって俺の正体に気付いたのか、額を手で覆う。

衣服の一部に刻まれた星のシンボル。

近頃その数を増やし、一部は面倒毎を引き起こしている厄介な連中。その一員だと。

そして俺がこれから何をしようとしているのかを察したのか、彼は怯えた目つきを向けてくる。「さしずめ、従わなかったら自分とこの店がどうなるかでも考えているのだろう」

脅してたつもりじゃないのに心外だなぁと眺めていると、店主は決心したのか大雑把な住所が描かれたメモ用紙を無愛想に手渡してきた。

 

「ありがとうございます。それではまた〜」

 

木の実とサンドウィッチの具材が詰まった紙袋を片手に礼を告げる。

早速その場を後にしようと身を翻すと。

 

「お、アオイくんじゃん。元気してた?」

 

「………」

 

前方にはこちらをじーっと見つめてくるアオイくんの姿が!

何で女の子相手にくん付けなのか?いいじゃんそういう気分なんだよ。

それはさておき、まさかばったり出くわすとは…授業終わりなのかな。

そんなことを考えていると、彼女は徐にスマホロトムを起動させる。

 

「もしもしネモ?前話したシンニって人が目の前で怪しいことを__」

 

「待て待て待て待て?!」

 

あっこれまた誤解される流れだ!間違いなく!

誤解を解くべく縋りついてまで抗議しようとするも、付き添っていたデリバードが間に割り込み、腹に頭突きをかましてきた。

悶絶しながら今日は厄日なのかもと悟るが、思い返せば、デリバードの行動は賞賛されるべきだ。

絵面的に俺が本当の不審者になってしまうのを防げたとも言えるわけだし。

 

 

⬜︎

 

 

「いや〜助かったよアオイくん!君のおかげで聴き込みもすぐに終わったし!」

 

「いえいえ。私も誤解してたしそのお詫びになるかなって」

 

何とかアオイの誤解も解け、俺と彼女の二人は街のの一角にあるベンチで腰掛けていた。

彼女はお詫びとして子供達への聴き込みを手伝ってくれたのだが、彼女が居るだけで凄くスムーズに済んだと思う。

壁を作らないタイプで人柄も良いからだろうか。コミュニケーション能力の高さはトレーナーとしては持っておいて損はない能力だと感心する。

 

「シンニ、この子なんて名前のポケモン?」

 

「デリバードだよ。こう見えてエサを運びながら飛ぶから意外と力持ちなんだ。そして何といっても羽毛がモッフモフさ。触っていいよ」

 

「わあい」

 

デリバードと戯れ合う彼女を傍に、収集した情報を整理する。

しかしその中で気になる情報が1つ。

 

「なーんで幼子には気を許すのか」

 

空飛ぶピカチュウと呼ばれる存在は、自身を排除しようとする存在を前にすると逃げの一択を選ぶ。その反面、幼き子供達の前であれば警戒心も和らぎ、差し出されたポケモンフーズだって食べてくれるらしい。

 

「…私、話を聞いてわかっちゃった。そのピカチュウが逃げてばかりの理由って」

 

店から食べ物を盗んでは逃げ回る。

ピカチュウがそんなことをしているのは何故か。あまりにも簡単な理由に彼女が気付いたその矢先

 

「おっ!見つかったか!」

 

ルチャブルが遠方の上空をぐるぐると旋回しているのに気付く。テーブルシティを見下ろすように偵察させていたのだが、それは標的を見つけたと言う合図である。

なら、ここに長居する理由もない。

そんな意図を即座に汲み取ったかのように、背後から現れた大きな影が俺たちを覆う。

 

「よし。じゃあ行くか」

 

「へ?」

 

俺たちの視界がもの凄い速さで上昇し、あっという間にテーブルシティを見下ろせる高さまで到達していた。

風を感じながらアオイの方を見やる。というか見ずとも感じる。彼女の発するもの凄い絶叫が隣から流れ込んでくるし。

巨大なウォーグルの足に捕まれて飛ぶなんて早々ない体験だからな。気分は正にフライングダイナソー!

そんな風に空のドライブを味わっていると、あっという間にピカチュウがいる場所。その付近に到着する。

場所は人通りが少ない路地裏。

着陸の際、ウォーグルに優しく体を降ろされる。俺は慣れっ子なのでピンピンしてる一方、アオイは足をガクガクさせて地面に手をついている。生まれたばかりのメェークルみたいだなと思ったのはさておき。

放心状態の彼女を前に「悪いことしたなー」と反省していると、彼女のモンスターボールから一匹のポケモンがボフンと音を立てて現れた。

 

「アギャッス」

 

「お、おう…任せるね」

 

俺も見たことのない、完全なる未知のポケモ…ポケモン!?

とにかく機械チックな身体の竜がそこに居た。

名前はアギャッスというらしい。多分。

それがアオイを運ぶことを請け負うような素振りをしたので、早速彼女を担ぎ上げアギャッスに乗せる。

 

「…っ!」

 

「お、起きたか」

 

その衝撃でアオイの意識が回復したようで。

一声目は何だろうと呑気に考えていると、急に胸ぐらを掴まれ___え?

 

 

「死んだらどうする」

 

 

アオイの静かな怒り…というかちょっと殺意も篭ってたような。そんな怒声を受けて、血の気が引く。怒り慣れていない感じが余計にドスを効かせており、要するにめちゃくちゃ怖かった。即座に「すみませんでした」と謝るのも当然の帰結だったと言えよう。

 

「で、本当にピカチュウはいるのか…」

 

「あっ!シンニ、あそこ!室外機の上!」

 

促され、指差された前方を注目する。

そこには確かに、室外機の上で毛繕いをしているピカチュウが。

可愛いの代名詞である存在を前に、隣のアオイも思わず「カワヒイィ~ン」と汚い声を漏らしている。

しかしそんなのどうだって良い。

 

「なんか…尻尾デカくない?」

 

「そうだね…でも私知ってるよ!あれは雄!尻尾の形で見分けがつく!」

 

「へえ、それは初耳」

 

ピカチュウに詳しくない俺でも流石にわかる。

あの尻尾は明らかに可笑しい。

その長さも大きさも、一般的なピカチュウの1.5倍かそれ以上はあると思う。

そんな風に観察する最中、コッソリ近づいて見たいと言わんばかりに一歩踏み出すと

 

「あっ」

 

パキッという物音が静寂を破る。

見下ろすと、俺の靴の裏側で見事に割れたガラスの破片が。ああ、何て都合のいい場所にあるんだ…とため息を吐くしかない。うん、100%バレたわ。

後ろでアオイが凄い顔で呆れているが知らん知らん。そんな風に諦めムードになっていたのだが、ピカチュウもその異常に気付いたらしい。その場から跳躍して尻尾を振り回し…んんん?

 

「し、シンニ!?あ、あれを見て!!!」

 

声を上げても無理はない。

そこには、尾をグルグル振り回しプロペラの要領で空を飛ぶピカチュウの姿が…。

 

「えぇぇぇぇ!!?

ちょ、お、追うぞアオイくんん!!」

 

こんな騒々しいリアクションの時点でこれまでの隠密行動は無駄になってしまった。

しかし無理も無いだろう。あんなん誰が見てもおったまげものだし。

だが成程、あの巨大な尻尾を飛行に利用するとは。あの飛行が生まれ持った性質なのか努力の末に手にした技術なのかは知らないが、どちらにせよ衝撃と共に生命の神秘を感じる。

けれど、感心してる場合じゃない。

あのピカチュウ、かなり警戒心が強いと見た。

捕まえるだけなら気付かれずに近づけばいいだけの話だが、そんなことよりあのピカチュウがこれまでどんなポケモン生を歩んでああなったのかを知りたくなってきた。

だからこそ、穏便に接触したい。

さっきの方法で近づいてもパニックが大きくなるだけだ。

 

「シンニ、何する気?」

 

「まぁまぁ、見てなって」

 

ピカチュウがそれ程遠くまで離れていないのは救いだった。

覗き見したりコッソリ近づくなんて逆効果。目にすれば警戒心をより強めるだろうと、腰にぶら下げていたモンスターボールを全てアオイに預けた後に、堂々と歩み寄ることにする。

平常心で街中を歩くいつもの感覚通りに。

アオイが戸惑う声がしたが気のせい気のせい。

 

「ビガァ…?」

 

急に現れた存在に当然警戒心を露わにするピカチュウ。しかし、まだ逃げようとしていないのは俺という存在を品定めしているのだろう。

俺はピカチュウの距離がある程度まで縮んだ頃合いで、あえて足を止め、目線を合わせずに尋ねる。

 

「隣、大丈夫か?」

 

「…ビカ」

 

どうやら許してくれたようだ。

俺は視線をそのままに地面へ座り込む。

確かに隣であるが、物理的にも精神的にもまだ距離を感じる。

そんな雰囲気の、遠くから見れば奇怪でしかない光景が展開されていた。

そこから俺は何をしたのか。

何も。

ただただ待つ。それだけ。

だからって考え無しにしてるわけじゃない。

ピカチュウがこちらに興味を示す頃合いを見計らっているのだ。

 

「ビゥ、ビガ?」

 

「む」

 

俺がモンスターボールも持たず、かといって馴れ馴れしく絡んでこないことから敵意が無いことを感じ取ったのだろう。

ピカチュウにとって俺は今まで会ったことのない存在だったようで興味を持ったらしい。

気づけば目と鼻の先と言わんばかりに、向こうから距離を縮めていた。

更に目を合わせても睨み返したりしない程までに、その態度は穏やかになっていた。

途中で飽きられて去っていくのも覚悟したが結果オーライだろう。

俺は頃合いを見てピカチュウに語りかける。言葉が通じないなんてことはこの際どうでもよかったのだ。

 

⬜︎

 

私、アオイは奇妙な光景を目の当たりにしている。視線の先にはシンニとピカチュウ。

彼らは人間が会話するように言葉を交わし合っている。互いに言語を理解しているのかは不明だけど。初めは人とポケモンで会話が成立するわけがないと思っていたのに、観察しているうちにその考えは間違っていたんじゃと思わせられそうになる。

 

「俺はシンニ。さっきの覚えてる?トマト奪ったでしょ」

 

「ビッ!?」

 

初めは半信半疑だったが、ピカチュウだけでなくシンニも観察してみると、彼なりにどういう素振りであればポケモンに伝えられるか試行錯誤しているように感じられた。

 

「まあまあ責めてるわけじゃないさ。

むしろ良かったよあの素早い動き!一瞬何が起きたかわからなかった!」

 

「ビガァビガヂュ」

 

「へえ〜、尻尾をバネ代わりにして加速に利用するんだ」

 

「ビガー!ビッ!」

 

はっきり言うと、シンニの普段の表情は殆どが無表情だ。

表情筋が機能してないからか、笑う時も目だけ笑っていないのでそこが不気味に思うことがある。ところが、ポケモンと意思疎通する間は見違えたように様々な表情を披露するのだと、今の光景を前に実感する。

嬉しい時には笑い、驚いた時は過剰に目を見開く。「素早い動き」という言葉を伝えたい時にはわかりやすいジャエスチャーを使うなどだ。

現に、彼の称賛が伝わっているのかピカチュウは照れたような顔をしながら、自身の尻尾を見せつけていた。

 

「嘘…」

 

そう思わず声に出している私。

そんなことは露知らずに、彼は一呼吸置くと「説教臭いことを言うかもだけど」という前置きからピカチュウに語りかける。

 

「自身の弱さを知っているからこそ、狩りを捨て、盗みと逃亡という手段を頼りに生きる。

それ自体はポケモンの生き方としてよくある道だし、人間の価値観で良し悪しを推し量れるほど単純なものじゃない。

だけどねぇ、君にはその現状に不満があるように見えるんだな。これは勘だけど」

 

彼はピカチュウの尻尾を指差した。

 

「それ、今の使い方だけじゃ満足できてないんでしょ」

 

「!!」

 

図星を突かれたのか、ピカチュウはビクリと震える。自分の速さと空を飛ぶ力があれば、今の空腹とは無縁の生活も続けられるだろう。

それなら、同時に抱えているこの不満とは一体何なのだろう。

実際にそんなことを考えているのかはわからないけど、眉間に皺を寄せるピカチュウの姿がそこにある。

しかし、答えは見つからなかったようで。

教えてほしいと訴えかけるようにシンニへ上目遣いを向ける。

彼はそうなるのを見越していたのか、助言する。

 

「君は今退屈で仕方がなくて、それを解消出来る答えも既に知っている。

なのに、知らないフリをして遠ざけている。

ただそれだけのことさ。

…それは何かって?

君が無駄だと切り捨てたものだよ」

 

シンニはピカチュウの傍にいくつもの木の実を残し、背を向ける。

ピカチュウも影から眺める私も呆然としていると、彼は満足したように立ち上がり、じゃあ俺帰るわと告げる。

帰る…え、帰る?!と思わずずっこけそうになる私のことなんて知らずに、彼は呑気にズボンの埃を叩いていた。

 

「ま、決めるのは君だけど、約束しよう。

俺のところに来れば、その無駄を全力でやれると」

 

巧みな言葉と溢れ出るオーラに、私は思わず息を呑んだ。

 

勧誘を最後に、彼は路地裏を後にしようとする。つつがなく成功していれば、ピカチュウからすればさぞかっこよく見えたと思う。

けれど現実は常に想定外の自体が起こるものだと、私はこれから起こる光景を前に実感した。

 

「ビィ?」

 

「…シンニ、なんかドドドドって聞こえない?」

 

突如として発生した異変に私も思わず飛び出して、シンニに問いかける。

 

「あー、確かに。ピカチュウも反応してるしなんだろうなこれ…」

 

足元の小石が微かに揺れている。

初めは地震の予兆かと思ったけどそうじゃないらしい。小石どころか周囲の水溜りは波紋を生み、街灯も揺れている。

そんな動きが激しくなるほど、原因不明の騒音はこちらに迫っていたのだ。

 

「いたぞおおお、いたぞおおおおぉぉぉぉ!!!」

 

 

「「へ?」」

 

その正体はすぐに判明する。

年齢、性別、服装。

何の共通点も無い人々の集団が、遠くから砂埃を立てながら現れる。

先程から鳴っていた物音の正体、それは彼らの足音だったのだ。

 

「あの格好とデリバード、間違いない!!」

 

「おるやんけ!おるやんけ!イッチがおるやんけ!」

 

「ひこう組のボスをぶち倒せェッ」

 

「あれがイッチ…この俺が…次のボスとなる!」

 

「新しいご友人!さあ楽しましょう」

 

 

 

「嘘でしょ!?普通このタイミングで来ることある!!?」

 

「もう私ダメだ、頭痛くなってきた」

 

シンニはこの混沌とした事態が何かを即座に理解したようだけど、私からすれば意味不明でしかなく、何何何?!と戸惑うことしか出来ない。

彼のことをイッチ?ボス?などと呼ぶ謎の集団が出現し、こちらへ全力疾走している。

うん、怖い。それ以外何も感じない。正確には何も考えたくない。

 

「何でこのタイミングでリア凸なんてするんだよ君た…お前ら!!締まりが悪くなったでしょうが!てか何でバレてんの?!顔も居場所も!!」

 

シンニも狼狽えているのか、普段の口調が崩れている。しかし、そんなこと知ったこっちゃねーという態度で、彼らは好き勝手に話す。

とても統率されているようには見えない。

烏合の衆という表現が相応しいと思う。

 

「はあ?!お前のジム巡り待機スレが落ちたからに決まってるからだろうが!!」

 

「いつでもバトルしに来ていいって言ったのはイッチなんだよなあ…」

 

「リア凸してでもお前の動向を確かめないとワイらスレ民は気が気でないんやあっ」

 

「ジム巡りはセルクルタウンから始めると言ってただろ?ポケモン勝負意外あんぽんたんなあんたのことだ。テーブルシティで準備しに来てる可能性がデカいと見て集まったらビンゴってわけよ」

 

「おまけに、ネモとの対戦動画と同じ格好でデリバードも連れてたらどれがイッチかなんて簡単にわかるわなあ!ネットの有名人やのに危機感無さすぎとちゃう?」

 

「ぶっちゃけるとイッチを生け捕りにしたら多額の報酬出すってスレが立っててぇ…ちゃんと前金も貰っててぇ…」

 

「よし、同時に囲んで叩くでいいんだよな?」

 

 

 

「いやちょっと待て!今聞き捨てならないことが聞こえたよ!?てかインターネットの住人がこんなにもバイタリティに溢れてるなんて聞いてない!!僕のデータに無いぞ!!」

 

シンニが何をやらかして懸賞金を懸けられまでに至ったのかは私は知らないけれど、流石に彼らの行動は野蛮すぎないかと辟易してしまう。

私とピカチュウはそんな彼らに気圧されたのか、シンニの背後へ後ずさる。

そんな私たちを更に追い詰めるように、彼らは街中にも関わらずポケモンを次々と繰り出していく。シンニはそれに動じることもなく、スマホロトムのポケモン図鑑を起動した。

 

「エルレイド、ジャラランガ、ペルシアン、ニューラ、レアコイル、コータス、グレンアルマ…。

いつぞやのスレに出てた奴らもちらほらいるね。懐かしいけど複雑な気分だなあ」

 

今の私には到底勝てっこないポケモン達が、シンニに牙を剥く。

この戦いで私たちが巻き込まれる可能性は低いと思う。

だって見るからにあの人たちシンニ目当てだし。

それでも、この気迫を前にしては危機感を覚えずにはいられない。

「もうダメだ…私の旅は始まることもなくここで終わるんだ…」などと嫌な方向に妄想してしまっても可笑しくはなかった。

私がそう絶望する傍で、ピカチュウも同様に怯えたような表情を浮かべている。

これまでに遭遇したことのない圧倒的な脅威。それを目の当たりにして腰が抜けたのか、これまでのように逃げることすら叶わない様子だ。

 

あぁ…そういえば私、何でこの人に絡んじゃったんだろう。絶対面倒臭いことになるのに。

 

一斉にこちらへと迫るポケモン達を前に、思わずギュッと目を閉じる。

 

「悪いな君たち。巻き込んだ上に迷惑かけて」

 

そんな私たちを慰めるように、シンニはこちらへ振り向く。

その顔からは先程までの狼狽も、私たちの抱える絶望も一切感じられない。

彼は今日一番の笑顔を見せながら、その胸をドンと叩いた。

 

 

「後のことは、お兄さんたちに任せなさい!」

 

 

あぁ、彼はこの状況さえ楽しんでるんだ。

というか、心なしか嬉しそう?

あの人たちと出会えたのがそんなに嬉しいとでも言うのなら、この状況は茶番でしかない。

そう思った途端に、恐れている自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。

私とピカチュウの不安はすっかりと吹き飛んでいて、私は半ば諦めたような気持ちで預かっていたモンスターボールを渡した。

彼は受け取る際に、今日初めてピカチュウを撫でてから一言告げる。

 

「君の求める答えってやつを見せてあげる」

 

シンニは上空に待機させていたデリバードとウォーグルを呼び出しながら、新たにモンスターボールを3つ放り投げる。

 

「さぁて、出番だよみんな」

 

ボフンボフンボフン!

襲いかかる者たちを阻むように、軽快な物音を立てて様々なシルエットが姿を見せる。

場に出揃った5匹のポケモン。

この時、私は初めて彼のパーティを目の当たりにする。

 

 

「ウォーグル、デリバード、ルチャブル、グライオン、ボーマンダ。

周囲への被害は最小限に。丁寧に潰していこうか」

 

 

暴君の行進が始まる。

 




シンニ
スレ民の襲撃を受けて「クッソー!↑ しょうがねえなあ!!!」な満更でも無い気分。正気じゃ無い。

ピカチュウ
シンニに「僕と来い!!」され無事トゥクン…したポケモン。
元ネタは有名な『そらをとぶピカチュウ』であり、通常のピカチュウより尻尾が大きく長いが故に例外でそらをとぶを使用出来る。

アオイ
巻き込まれ不憫少女。
シンニへの好感度は今も尚上昇と下降を繰り返している。
シンニに対して敬語を使わなくなった。本人が「年も変わらないし敬われるのはムズムズするからやめてくれ」と許可してくれたそうな。

○別に覚えなくてもいい登場スレ民の紹介

ジャラランガ使いのスレ民
2話に登場。
なんか面白そうだからという理由で参戦。
愛しのミミロップはモンスターボールに待機させている。

エルレイド使いのスレ民
1話に登場。
スター団の下っ端からめざめ石をかつあげされたコガネ弁の少年。
シンニが取り返してくれためざめ石によって相棒のキルリアはエルレイドに進化したらしい。
参戦の動機は上に同じである。
ちなみに「おるやんけ!」と連呼してたのはこいつ。

ペルシアン使いのスレ民
実は4話に登場。
ひこう組のアジトを激写しようとプルピケ山道に訪れたところ、野生のペルシアンに追いかけられ、その末に何とか捕まえたらしい。
参戦の動機はシンニの素顔を知りたかったから。

ニューラ、レアコイル、コータス使いのスレ民たち
上に同じく報酬目当てで参戦。コータス使いは4話に登場していたことを除けば特に設定も無い奴ら。
「ポケモン勝負で負かした相手から金銭をいただくことは法律上問題ない」と罪悪感なんてサラサラ無い。

グレンアルマ使いのスレ民
初登場。
某虚言癖乳歯野郎の語録を喋っていたのはこいつ。

________________________

次回、
イッチ(シンニ) vs スレ民、始まるジム巡りの旅の二本立て。
ピカチュウの鳴き声ってこんなのでいいのか…?
ひこう組のメンバーやスレ民こと名無しのオリキャラ達がいるので今更ながらオリキャラタグを追加すべきか検討中。
誰かアドバイスください。
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