スター団ひこう組のボスやってるけど質問ある?   作:かわたり

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前回チーム・ポラリス仕様のスターモービルを飛行船型としましたがそれを無かったことにしてデロリアンみたいな感じのに変更します。
どうかご容赦を。



5.シンニvsネモ(改訂版)

 

「デリバード!」

 

「ケンタロス、『アイアンヘッド』!」

 

ネモのケンタロスはデリバードの攻撃を物ともしない。

『ビルドアップ』によって増強されたタフネスがそれを可能としているのだ。

光沢を帯びた頭突きがデリバードを容赦なく襲う。

巨体から放たれる衝撃に当然敵うはずがなく、声も上げずに吹っ飛ばされる。

デリバードに戦闘不能の判定が下された。

 

「やった!これで3匹目!」

 

「…ごめんデリバード。よくやった」

 

周囲の野生ポケモンが近付けない程の迫力。

高度な戦略と読み合い、そして人とポケモンの思惑が交差し熾烈な戦いを生み出していた。

シンニの残る手持ちは2体、一方のネモは3体と言う状況であり、戦況においてはネモが一歩リードしている。

レベル差があることを感じさせない彼女の実力に、恐ろしい人だとシンニは微笑んだ。

 

しかしこれはポケモン勝負。

巻き返し、形成逆転なんてものはいくらでも起こりうる。

それが意図したものであろうとなかあろうと、両者にとってどちらも好ましい。

 

「出番だルチャブル。逆境も翻せ」

 

「チャブルッ!!」

 

鳥人のようなポケモン、ルチャブルが身を翻しながら地に立つ。

マントの様な翼をはためかせるその姿に、ネモはヒロイックな印象を抱く。

 

「ルチャブル!」

 

「変わったポケモンだけど倒させてもらうね!ケンタロス、『しねんのずつき』!」

 

ルチャブルは素早さを活かしケンタロスを翻弄するように飛び回る。

ネモはその技を飛び回る動きから技を『アクロバット』と断定しかけるも、ふと感じた違和感をもとに警戒を続ける。

その動きのテンポは独特だ。まるで舞踏のような雰囲気が感じられる。

 

「___ッ!『つるぎのまい』!!」

 

剣を振るう戦士、角を振りかざす獣を模したという舞踏。

その技の名をつるぎのまい。

使用したポケモンの攻撃力を大幅に上昇させる技だ。

 

「踏ん張れルチャブル!」

 

しかし上昇させたところでそのまま戦闘不能になれば、その行動は無に帰すだろう。

ケンタロスよりも早く動けられるならつるぎのまいを使わず、素直に一撃加えていればもっとシンニに貢献出来たとも言える。

 

だからこそ、ネモは違和感を感じていた。

これはシンニらしくない無謀な選択だと。

ルチャブルが何の根拠も無く耐えることに賭けるなんて。

 

「…何の根拠もなく?」

 

引っ掛かる。

何か重要なことを見落としているような…。

拭えないそれの正体は、ケンタロスの攻撃が成功してから明かされる。

 

「な、なんで!?」

 

「いい子だルチャブル」

 

そこにはケンタロスの攻撃を受け止めるルチャブルが居た。

ネモは否が応でも混乱させられる。

ビルドアップの恩恵を持ち、効果抜群でもあるしねんのずつきをルチャブルが耐えられる筈がないと。

しかし、その不自然さ故にネモは先程までの違和感の正体を見破れた。

違和感があったのはルチャブルでは無く、自身のケンタロスの方だった。

明らかに攻撃のキレが無くなっているのだ。

消耗しているのではなく、何か別の理由

振り払いたくても叶わない、何かに付き纏われているようなケンタロスの挙動。

 

「まさか…『おきみやげ』?」

 

「正解っ!

よくやったってデリバードに言ったのもそれが理由さ。この技って強い分ショッキングじゃん?使わせたくないのが本音なんだよね」

 

今思えば、シンニはデリバードに攻撃される直前で何かを指示していた。

それがおきみやげだとすれば、デリバードが声も上げず呆気なく戦闘不能になったのも説明がつく。

しかし、ルチャブルの温存を許したのはネモにとって大きな誤算である。

ただでさえ素早いルチャブルが火力も手にしたのだ。鬼に金棒と形容できる状態だろう。

だからこそ、ネモはルチャブルを一刻も早く倒すことに意識を集中させる。

 

「戻ってケンタロス!」

 

それ故に、ネモは賭けることにした。

ルチャブルに先制されケンタロスが何も出来ず倒されることを危惧し、ネモは交代を選択する。

これはケンタロスを再度繰り出せば発動させられる特性『いかく』に狙いがあった。

ルチャブル…あるいはシンニが残す最後の一体の攻撃を下げられるし、体力も温存出来る。

 

「お願いガブリアス!」

 

「ギシャアアア」

 

更に、今繰り出されたガブリアスの特性『さめはだ』も利用し、攻撃するルチャブルの体力を少しでも多く削る。

ガブリアスが一度でも耐えられれば、その有り余る攻撃力で反撃しルチャブルを打ち倒せる。

まさかガブリアスを戦略上、壁代わりに使うことになるとはネモは思いも寄らなかった。

だからこそ、興奮が抑えられない。

これ程までに戦いで考えを強いられることを、追い詰められることなど過去に一度も無かったのだから。

そんな感情を遮るように、ルチャブルが拳を振り上げる。

 

「ルチャブル、『きしかいせい』」

 

ここでそう来るかと、思わずネモは言いそうになる。

その技は使用するポケモンの残り体力が少ない程に威力が上昇する性質を持つ。

その為体力が残り僅かな今のルチャブルとすこぶる相性がよかった。

更に、先程のつるぎのまいの効果が超火力のきしかいせいをより強化する。

これがどんな結果を生むかは想像に容易い。

 

「ガブリアス!!」

 

その爆発的な威力を前に、ガブリアスは成す術もなく戦闘不能になる。

 

「ようやくこれでトントンってとこかな?」

 

今になってこの男が恐ろしく思えて来る。

ここまで計算通りなのかその場で思いついて実行したのかネモは判断出来ずにいた。

優れたポケモントレーナーというのは、相手の雰囲気や所作を見るだけでおおよその実力を感じ取れる。

その為ここへくる当初は、対戦相手が誰なのか出会いさえすれば言葉を交わさずとも判断出来るとネモは信じていた。

しかし、シンニからは何も感じ取れない。

楽しんだり焦る姿でさえ取り繕っているように見えてくる。

何故こんな実力者が名を馳せていないのかと甚だ疑問に思う。

 

そんな眠れる存在を、自分は呼び起こしてしまったのか。

 

普通ならそこで多少動揺するが、ネモからすればその逆だ。

そんな相手に初めて全力を出させたのが自分であること。

嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。

 

ネモはケンタロスではなく最後に残るポケモンを繰り出す。

それはシンニも初めて見る存在だ。

 

「初めて見る…速そうだね」

 

「ゲッコウガ、私の相棒だよ!」

 

「ゲコウッ」

 

忍び装束のような風貌をしたそのポケモンは、本来カロスというパルデアとは異なる地方に生息するポケモンであった。

過去にカロスを訪れた時に出会って以来、ネモの頼れる相棒となった。

 

「ルチャブル、続けてきしかいせ__」

 

シンニがそう指示するよりも早く、ゲッコウガは手で印を結ぶ。

ゲッコウガの影が伸びたかと思うと意思を持ったように這い回り、ルチャブルの背後を捉えた。

ケンタロスを出さなかったのはこの為かと理解したと同時に、ゲッコウガの姿が消失する。

瞬く間に、ルチャブルの背後からゲッコウガが現れる。

 

「『かげうち』!」

 

不意を突かれたような蹴りが、ルチャブルの僅かな体力を刈り取る。

 

「…ナイスファイト!ルチャブル」

 

労いの言葉をかけボールに戻す。

これでシンニの手持ちは残り1匹。

 

「まだ折れていないだろう、俺たちの翼は」

 

自身を鼓舞しながら、最後の1匹にそう呼びかける。

旋風が発生し、周囲の雪が風に舞う。

それを繰り出してくるなら最後だろうとネモは確信していたが、いまだに実感が湧かない。

レギュレーションでは認められない改造ポケモンを相手にするという事実の他に、一般的なポケモンとは桁違いなそのスケール。

思わず圧倒された。

 

「行くぞー!カッコいいぞー!

スターモービル・ブロロローム!!」

 

「ブロロロロォン!!!」

 

星を乗せた鉄の塊は見下すように地上を睥睨する。

 

「___ゲッコウガ!!!」

 

「ゲッコウ!!!」

 

しかし、臆している場合ではない。

シンニの切り札だと確信した時点で、ネモのテラスタルオーブにエネルギーが集まっていた。

 

「テラスタル!!」

 

テラスタルオーブが投げられる。

ゲッコウガの全身が宝石のように光り輝き、頭上に噴水を模した冠が乗る。

パルデア地方特有の現象『テラスタル』。

冠が表すテラスタイプに変化することで、技の強化と耐性の変化を得られることが恩恵にある。

 

一対一の真っ向勝負。使い渋る理由なんて無かった。

 

「行くよゲッコウガ!『ハイドロポンプ』!!」

 

水流が激しい勢いを伴い放たれる。

 

「くそっ!受け流せブロロローム!」

 

スター団の技術の結晶たる飛行能力を持ってしても躱すことが出来ず、直撃してしまう。

それはテラスタルによって普段の何倍もの衝撃力を発揮しており、無視できないダメージである。

 

「凄まじい威力…!

でもまだやれるだろ、ブロロローム!」

 

「ブロロオーーッ!!」

 

車体は一瞬フラつきを見せたものの直ぐに体勢を立て直し、ゲッコウガへと向き直る。

しかしあの火力、もう一度喰らえば戦闘不能は避けられない。

必ず反撃が来る。

 

そう読んでいたネモは目にした光景を疑う。

ブロロロームは接近するどころかその場に留まると、車体から奇妙な可動音をわざとらしく流し始める。

その奇怪な光景に、ネモはその技が何なのかを確信する。彼女はその技を知っていた。

 

 

 

「『ギアチェンジ』」

 

 

 

正気を疑った。

先程のダメージを受けて尚このターンにそれをする意味。

どうせなら殴ってきた方が可能性があった筈。

それをしても尚ゲッコウガの素早さを上回るという確信も彼にはない筈だ。

だって、彼は今日初めてゲッコウガというポケモンに会ったのだ。

 

「楽しまなくっちゃあ ポケモンバトルは!」

 

「ええっ!?」

 

そんな博打じみた行動に戸惑うネモだが、彼の更に続く言葉を聞いて彼女は絶句した。

 

 

「俺のブロロロームが…スターモービルが。

ゲッコウガの素早さを上回れるのか。

次の一撃でゲッコウガを倒せるのか。

上回れなかったとしても、ゲッコウガの攻撃を耐えられるのか。

全部の可能性に賭けた上で、ネモに勝つ」

 

 

ネモは知っていた。

スター団は必ず余所者の挑戦を受ける掟があると。そして負けた場合、必ずその組を解散しなければならない掟もあると。

その背景を知っているが故に、これがどれだけ馬鹿げた賭けであるかをネモは理解していた。

だからこそ、何故ここで安牌を取らないのかと彼女は理解に苦しんだ。

 

「(私…勝ってもいいのかな?)」

 

そう疑念を抱いてしまうのも無理はないだろう。ネモがこれに対し苦心したのは一度や二度のことではなかったから。

だからこそ、彼女は邪な考えが浮かんでしまう。

 

自身の有り余る強さの所為で誰かの人生を壊してしまうくらいなら。

手を抜いて負けることもありなのかもしれないと。

 

「ネモ、あのさぁ」

 

そう葛藤する彼女の様子をシンニは当然見抜いていた。その上で切り出す。

 

「もしかして、手抜こうとか馬鹿げたこと考えたりしてる?」

 

「え"え"っ?!」

 

心の中を見透かしたようなその指摘に、ネモは可愛げのない声を挙げてしまう。

しかし、彼はそのまま言葉を紡ぎ続ける。

 

「俺と君の境遇に、どんな差異があるのかなんて知らん。

だから、これから俺が語ることを君が聞いて、私の何がわかるって思うのも当然かもしれない。だけど、それでも聞いて欲しい」

 

何を考えているのかわからない少年が、悲しく辛い顔をしている。

その豹変ぶりにネモは驚愕した。

 

「俺は昔、ポケモン勝負で手を抜いて…わざと負けて………友達を失った」

 

「…え?」

 

どう「失った」のかはさておき、その出来事がどれだけ辛かったをその表情が物語っていた。

だからこそ、ネモはこの瞬間だけ対戦のことを忘れ彼の話を聞き入る決意をした。

これからその経緯を回想するのだろうと察して。

 

「失ったけど…。

うん、まぁただそれだけのことだよ」

 

「…あれっ?!話の続きは?!?!」

 

「そんなもの ウチには無いよ…。

まぁ本当は最初から最後まで話そうと思ったんだけど…長くなりそうだし唐突な自分語りもアレかなって」

 

かと思いきや、シンニはサラッと梯子を外してきたのだからネモはズッコケそうになった。

悲壮感が消え去るどころか、場の雰囲気が陳腐になってしまった事態に彼女は頭がおかしくなりそうだった。

 

「ええぇ…なんで勿体ぶるのさ…気まぐれすぎない??」

 

「褒めてる?」

 

「褒めてない!」

 

というか、彼も悲痛そうな表情からのほほんとしたそれに変貌していた。

彼の精神状態を思わず心配してしまう。

 

「とにかくだよ。

そんな経験をした俺からのアドバイス…というか座右の銘的なヤツを1つ教えよう」

 

真剣な顔で彼は告げる。

 

「後悔について執着し続けるのは、とてもとても疲れるってことさ。

だから後悔は程々に続けて、自分を慰められるような物も並行して見つければいいんだ。

それは宝石だったり小石だったり…はたまた大昔に読んだコミックだったりするかもしれないけどね」

 

「……はは、急にそれっぽい格言を言うんだね」

 

「あーっ笑うんじゃないよ君い

こっちはめちゃくちゃ真面目だっての」

 

検索すればすぐに出てくるような、毒にも薬にもならない格言の登場に、ネモは思わず笑ってしまった。

それと同時に意外と悪くない言葉だとネモは感じてしまう。

壮絶な過去を経ても尚、元気そうな今の彼を見るとその言葉が本当に正しい気がしてくるし、馬鹿らしさのあまり「本当にそう?詭弁じゃないの?」と疑う事もできる。

そんなバランスを感じ取れたから。

 

「あぁ、笑った笑った」

 

「むむむ…酷いやつだな君は…そういえばだけどさあ」

 

「うん!もう大丈夫。

なんというか…さっきの格言を正直に信じるのも、後悔し続けることも。

両方バカらしくなってきちゃったから」

 

「…そっか」

 

気付けば、ネモから迷いは消えていた。

正直ふっきれただけとも言えるが、先程の辛そうな様子よりも遥かにマシな方向へと変化している。

 

「シンニ!勝負を再開しよう!」

 

「ああ!待ってたぜその言葉」

 

例えこの戦いで彼が負けて、何かを失ったとしても。その未来に幸あれと。

お節介染みた祈りをするしかない。

それが勝者に許された、傲慢でしかない特権だから。

 

しかし

 

「合図とともに突っ込めブロロローム。

ハイドロポンプ?それは一度見た技だろう。

()()()()()()()()

今の君の速さ、見せつけてやれ」

 

そこで揺さぶりをかけられるのがシンニという男だ。

言動に一貫性が無いからこそ、先程励ました相手にも容赦のない決断が出来たし、選択を迫ることも出来る。

 

「まさか」

 

その言葉を聞いたネモは彼の意図に気付く。

思わず息を呑んだ。

 

「ギアチェンジはこれを狙って…っ!?」

 

ギアチェンジによる能力向上で私を揺さ振った上で、ハイドロポンプを指示するか迷わせる。

それが狙いだった。

 

ハイドロポンプは強力な技であるが、軌道の制御と反動の抑制が難しく命中させるにはやや不安がある。

意図した発言かはわからないが、一度見れば躱せるとシンニが言ったのもそんな不安を煽るためのように感じてくる。

ハイドロポンプを外した経験が少なくないネモからすれば、それは決して無視できない。

故にあと一手で勝てると言う状態にも関わらず、ネモはハイドロポンプを指示することを躊躇した。

外れたら全ての終わり。

ブロロロームは倒れずゲッコウガは撃破される。

 

なら他の技はどうだろう。

威力が低めなかげうちは除外するとしてだ。

残る候補はハイドロポンプよりもダメージは劣るものの、命中させやすい『あくのはどう』と『れいとうビーム』の二つだ。おまけに追加効果も期待出来る。

選ぶならスターモービルの恩恵で飛行タイプと化したブロロロームに効果抜群な冷凍ビームか。しかし、レギュレーションの外側な仕様であるブロロロームの体力はゲッコウガより高いだろう。

氷タイプではないゲッコウガが使っても倒し切れるかが不安だった。

 

確実に仕留められるが命中不安なハイドロポンプ。

限りなく安牌であるものの仕留められるか定かではないれいとうビーム。

ネモは二者択一を迫られるが、迷いなく告げる。

互いにこの一手が最後だ。

迷ってなんかいられない。

 

「『ハイドロポンプ』!!」

 

彼女が選んだのは前者。

誰に似たのか、安牌を投げ捨てたのである。

その選択にシンニは喜びを発露させるしかなかった。

 

「いいねえ!!

ブロロローム!直接『ウインドアクセル』をぶつけてやれ!」

 

「ブロロロロォ!!」

 

シンニのブロロローム。

実を言うと彼の手持ちポケモンの中では新参者であり、尚且つ育成レベルも相対的に見て低いと言える。

それ故にギアチェンジを使っても尚、ゲッコウガに先制を取られてしまったし、本当はハイドロポンプの猛攻を掻い潜れなんて言うのも無茶振りでしかなかったのだ。

 

それでも。

ここまで繋いでくれた仲間達の思いと、主人の期待が確かにある。

だからこそ、怖くて逃れたいと言う思いを抑え込んで、ブロロロームはハイドロポンプに向かって突き進めたのである。

それを可能にしたのは、勝利を追い求める意志と、皆に応えたいという思いだ。

トレーナーがポケモンを信じるように、ポケモンもトレーナーを信じて突き進む。

ただそれだけだ。

 

両者の攻撃が交差する。

 

「ゲッコウガ!!」

 

「ブロロローム!」

 

直後、大きな爆発が衝撃を伴い発生する。

広がる煙幕によってポケモンの姿は見えない。ネモとシンニはただどんな結果が訪れるかを見守るしかなかった。

 

「…ありがとうゲッコウガ!」

 

煙が晴れると、そこにはハイドロポンプを躱わしたであろう、ピンピンしているブロロローム。横たわるゲッコウガの姿があった。

しかし、ゲッコウガの顔に苦悶の表情や後悔などは見当たらない。むしろ清々しく見える。最後に繰り出され、そのまま戦闘不能にされたケンタロスもだ。

 

ネモだけでなくそのポケモンたちも、満足のいく戦いを求めていたのかもしれない。

 

《ケンタロス戦闘不能

よって勝者 スター団のシンニ》

 

「お疲れ様ブロロローム」

 

「負け、た…」

 

ネモの胸の奥で、不思議な感覚がズズズと蠢いている。

満たされるような感覚とはまるで違った感覚。

胸に風穴がポッカリ空いて、風が通ってくような、透明になった感じだ。

負けるなんていつぶりだろう。

 

「勝ったよみんな〜」

 

「まぁ勝つとは思ってたけどさぁ…」

「なんっっっっでそう毎回毎回ハラハラさせてくるかねえ!??!?あんたが負けて解散しちゃうかもって俺めちゃくちゃ不安だったっつうの!!」

「ネモさんも超強かったからねえ…ボスが勝つと信じる僕たちの心が気圧されていたよ」

 

この感じ、忘れてしまっていた。

そう独白するネモに、シンニは語りかける。

 

「俺も君も最高の()(ざま)だった!

またやろう、ポケモン勝負!」

 

その言葉が長く付けられていた枷を外してくれた気がして。

「あぁ、私は負けたんだ」とその時初めて実感出来た。けれど、どこか悪くない感じがした。

 

ネモは自然とこれまでの自分について振り返っていた。

天才とばかり称され誰も努力している自分のことを見てくれない。

畏怖畏敬の歪んだ感情を向けられて、気付けば孤高の存在と化した自分がいた。

空っぽで重いだけの王冠を被らされる様なもので、そこには虚しさだけが残った。

いつからか、こんな運命を辿るくらいならと後悔ばかりが積み重なって。

そんな後悔と向き合おうとせず忘れようとした。無かったものとして扱いたかった。

けれど、それは間違っていた。

今新たにわかったことがある。

 

「シンニ…」

 

「ん?」

 

「私、悔しい!」

 

「…そっか。

嬉しそうだねその割には」

 

「へへ、そうかな?」

 

迷いの果てに出会いがあるのなら、この苦悩も後悔も無駄じゃ無かった。

今ならそう感じる。

 

 

 

 

 

「お疲れ様でスター!

ってことで、とりあえず飯にしますか」

 

「わぁ〜美味しそう!」

 

「うまうま」

「ムギィ!何ボスより先に食べてんだお前!!

いただきますくらい言えや!」

「う〜ん…お酒が欲しくなるね」

 

ネギや里芋、コンニャクといった食材がグツグツと煮込まれている鍋。

食欲を刺激する外観と香りにネモは喜びの声を上げる。

こんな食材いつ調達したのだろうと尋ねると、デリバードが袋状の尻尾を掲げた後で、チャンプルタウンの方を指す。

言いたいことが理解出来た。

チャンプルタウンで調達した帰りにこの山道を歩いてたのかと納得するが、歩かなくてもライドポケモンを使えばいいんじゃという疑問が浮かぶ。

それをぶつけてみると、「良いトレーニングになるからね。体力もつく」と平然と言い出したのでネモは聞かなかったことにした。

彼女からすれば考えられないことだったので仕方がない。

 

「デリーッ!」

 

「「あっ」」

 

ボフンという音がしたと思うと、シンニの相棒デリバードが姿を見せる。

モンスターボールから勝手に出てきたのだろうか。

 

「飯って言葉に釣られたなあ?

時間はまだ先なのに」

 

「へぇ、可愛いところもあるんだね」

 

そう微笑んだた直後、デリバードがシンニの頭をドスドスと突き始める。

 

「えっ?!?!!」

 

「あぁ〜っよせよせ ははは」

 

「えぇ…」

 

一瞬襲われたのかとボールを構えたが違うらしい。

デリバードなりの愛情表現だったようだ。

驚かさないでよーとネモは笑った。

 

 

 

ムギ達スター団員とポケモンたちが芋煮を味わう光景を眺めていると、ネモがふと話しかける。

 

「シンニは何でアカデミーに来ないの?

スター団の人たちって不真面目っていうか、不良みたいなイメージあったからさ。君みたいな例外がいてビックリしてるんだ」

 

「いやぁ俺だってネモの言う不良と大差ないよ。

…でもまぁ、訳わからないよねえ…事情も知らないんだし」

 

「友達を失った………っていうのは?」

 

「うん?

あ〜実はそれ、グレープアカデミーとは無関係なんだ。それより前のスクールで起きた出来事。

進学しても尚引きずって…今に至るってだけさ。

それはさておき、何故アカデミーに行かないのかって言うとだ」

 

シンニは器の残り汁を一気に飲み干して、一息吐く。

 

「帰りを待ってるんだ」

 

それまで楽しげだった様子とは打って変わり、どこか寂しさを感じた。

 

「それって…」

 

「うん…大切な人。

顔もわからないなんておかしい話だけどさ…その人とスター団の存在が俺を変えてくれたのは確かだよ」

 

どことなく、そう語る彼の姿は勝利した時以上に嬉しそうに見える。

ネモはその様子を少し羨ましがった。

気づけば彼と自分の違いを考えていて、結びついたのが宝探しの存在だった。

 

「つまり…スター団がシンニの宝物なの?」

 

ネモの問いかけに、シンニは一瞬呆気に取られた顔をして肯定する。

 

「…宝物か!

いい響きだね、嫌いじゃない」

 

既に宝物を手にした彼が、どこか眩しい。

手を伸ばせば焼かれてしまうような。

だから何も可笑しくない筈だ。

 

「宝物、私にも見つかるのかな」

 

そんな君に憧れを抱いて、羨んでも。

 

そんなネモの様子をシンニは察したのか、一瞬居心地が悪そうな顔をして。少し考える。

 

「あ!いいこと思いついた!」

 

「なになに?聞かせて!」

 

頭上に電球が浮かんだような態度を機に、彼は浮かんだアイデアを告げる。その言葉は、ネモの人生を大きく一変させた。

 

 

「じゃあさ……

宝物となる原石を見つけ出して…磨いてみるっていうのはどう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッくしゅん!

何だろう…誰か私のこと噂してるのかな?」

 

場所はガラル地方に移り変わる。

喧騒溢れる都市に佇むアパートで、引越し業者と手伝いのポケモンが出入りしていた。

そこに、目を輝かせまだ見ぬ地に想いを馳せる1人の少女がいた。

そんな様子の彼に、母親らしき女性が声をかける。

 

「アオイ!ちょっとこっち手伝って!」

 

「はーい!今行くよママ!」

 

ネモにとっての宝物。

いずれそれに至る原石がパルデア地方に現れるまであと少し。

 





ウインドアクセル
スター団専用技。
威力80。急所に当たりやすい。
尚スターモービル(チーム・ポラリス仕様)の特性は『てんのめぐみ』な模様。

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