621少女概念ガチ小説   作:シベリアの騎士

4 / 5
今回は番外編ぽい感じです。壁越えに向けて・・・みたいな


熾火

 夢を見ていた。鳥になる夢。空を羽ばたき、何にも縛られず、だけど無力な自分。

 夢を見ていた。犬になる夢。獲物を食いちぎり、主の膝元で眠り、満たされつつも囚われの身。

 

 私は──何なのだろう。そのどれでも無いことは分かる。では、この私は何と呼べるのか。夢・・・・・・私は、人間であるという夢を見ているのだろうか。

 

 夢を見ている。人になる夢。違う、私は人間だ。本当に? 唐突に視界が炎に包まれた。飛び交う銃弾、機体を叩く鋼鉄の音。飛び散る火花、爆煙。

 

 これが私。戦場こそが私の生きる場所。好きでも嫌いでもない、当たり前の、私の魂の場所。でも、結局ここに意味など無い。今の私の意味は、ただ一つ。

 

「ウォルター、あなたは・・・・・・」

 

 あなたは、私に何を望むの──?

 

 

 621のバイタルサインに異常が出た事を知り、ハンドラー・ウォルターは杖を突きつつも急いで彼女の部屋へ向かった。彼女に負荷をかけすぎただろうか。出来るだけ安定を保てるよう管理しているつもりだったが、甘かったかとウォルターは知らずうちに唇を噛む。

 

「621・・・・・・!」

 

 部屋の扉を開けると、チューブが幾本も繋がれたままベッドに横たわる621が目に入った。その身体がびくん、びくんと断続的に痙攣している。目に見えぬ悪魔に責め抜かれているような有様に、ウォルターは焦りを隠せなかった。

 

「しっかりしろ、621。いま何とかする」

 

 脳波に異常が出ている。第四世代特有の不安定さは、特に幼い彼女には重くのしかかっている。諸刃の剣だがコーラル製剤を投与するしかない。生命維持装置を操作し、コーラルを注ぎ込んだ時だった。

 

 赤く輝く血液のようなソレが少女を癒し、そして穢していく。痙攣が収まり、硬直が解けた四肢がずるずるとシーツを擦った。

 

「うぉ、るたー・・・・・・」

 

 うわごとのように少女の唇から己の名がこぼれ落ちた。

 

「うぉるたー、うぉるたー・・・・・・!」

 

 何度も、何度も。喘ぎながら、息も絶え絶えの中で621は己を呼び続けている。何が彼女をそんなに苦しめているのか。分かってやれなかった。だが、自分を必要としていることだけは、嫌というほど伝わってくる。

 

「大丈夫だ。俺はここに居る」

 

 ウォルターが621の手を握ると、感じないはずの621がぎゅっと手を握り返してくる。まるで心臓を掴まれたようにウォルターは驚き、強ばった。

 

「いる、の? うぉるたー。そこに」

 

 固く閉じられていた621のまぶたから、ふっと力が抜けたかと思うと、その端から雫が一粒流れ落ちた。

 

「ああ、ずっと居る」

 

 反応は無い。やはり五感は機能していない。不安定な発音からもそれが分かった。聴覚や触覚が失われている人間は、何気ない発声すら覚束無いのだ。

 

「うぉる、たー。そばに・・・・・・いた・・・・・・い」

 

 弾けるようにウォルターは621の手を振りほどいた。ぱたっ、と軽い音を立てて少女の手がベッドに落ちる。異常信号は収まっていたが、平常では無いのはむしろウォルターの方だった。すっかり色素を失った己の髪をぐしゃりと押さえつけ、俯く。

 

「俺には、いや、俺は・・・・・・」

 

 許されるはずがない。お前たちは憎んでいるはずだ。憎むべきなのだ。ルビコンへ渡る手段を得るためのあの戦いが脳裏によぎった。ハウンズ達の声が蘇る。

 

『敵固定砲台、残り一。気を緩めるな』

『619、前・・・・・・!』

『見えている。弾幕が厚い。俺が気を引く、散開するぞ』

『分かった。気を付けて』

『あんたが頼みだ、617。露払いは任せろ』

─619生体反応ロスト─

『619! くそっ、まだだ。行くぞ620』

『・・・・・・はい。無駄にはしません』

─突入ルート再計算─

『特務機体を視認。620、頼めるか』

『了解、挟み込みます』

─AP残り30パーセント─

『あとは、頼み、ます・・・・・・』

─620生体反応ロスト─

『墜ちろ、墜ちやがれってんだ!!』

─ターゲット情報更新、パターンE─

『すまないな。あとは任せた・・・・・・ハンドラー・ウォルター』

─617、ロスト。ハンドラー・ウォルターに報告。ミッション完了─

 

 誰も、彼を責めなかった。満足気にすら思わせる態度で先立って行った。自分がハンドラーとなる前にも、自分は誰かの犠牲によって生き長らえた。誰かの命の上に立っているからこそ、やらねばならない事がある。

 

 コーラルの永久封印。あれをこの世から燃やし尽くさねばならない。例えこの少女を熾火に捧げてでも。

 

「全てが終わった時、もしお前達が生きていれば・・・・・・」

 

 都合の良い考えだ。だが本心だ。その最後の希望が621だ。生贄であり、そして聖母そのものだ。

 

 すやすやと安らかな寝息を立て始めた少女を見て、ウォルターは決心した。

 

「壁越えが終わったら、お前の身体を少しでも治してやる。だから、生き延びろ。621」

 

 これはエゴだ。もうエゴである事を受け入れると決めた。俺の為に生き延び、生まれ変われと。

 

 ウォルターはオフィスへ戻り、コンソールを操作する。

 

「まずは、お前から生まれ変われ。そして、あいつを守ってやれ・・・・・・」

 

 ウォルターは傭兵支援機構オールマインドに登録されたデータを読み込み、新しい機体と武装を手配し始めた。稀代のアーキテクトの手によるそれは、今の621が稼いだ報酬を遥かに超える物だった。

 

 かつてのハウンズの遺産と、621が得たルビコンでの身分が可能にした、新たな力。エンブレムは白い火の鳥。機体名『EMBER SOAR』。

 

 不死鳥は蘇る時、炎へ飛び込み、その中から再び生まれるという。アイビスの火の燃え残りから、火種は再び舞い上がる。

 

 白き翼を纏って──

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。