BLUE×HIGHLIGHT   作:仮面ライダー四季鬼

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懺悔V:それぞれの思惑

 

 

なぁ、ト■ル…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?どうしたミチナガ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達、いつまでこんな生活続けなきゃいけないんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…前も言ったろ?

俺達が大人になってちゃんと働けるようになるまでだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それまでに死んじまわなきゃいいけどな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらずドライだねぇ…

もっとポジティブになれよ!

じゃないとこんな地獄じゃ生きていけないぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな暇なんかない。

明日食うもんにも困るような環境でポジティブになんてなれるもんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…生きるために食うのは人間の宿命ってか?

俺はもっと夢持ってたいけどなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな地獄を変えてやんのさ!

誰かの苦しみや悲しみばかりが溢れるような掃き溜めから、楽しいや嬉しいでそこらじゅうが満たされて、そこで生まれたことが羨まれるような…

 

そんな…楽園にな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこと、出来ると思うか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出来るさ!

俺とお前が力を合わせれば絶対出来る!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ハハッ、なんだよそれ…

お前の夢に俺まで巻き込むのかよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え…だ、ダメか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ト■ルだけじゃどうせどっかでしくるだろ?

しわ寄せが来るのは勘弁だからな。しょうがないから手伝ってやるよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほんとか!?

サンキューな、ミチナガ!

やっぱり持つべきものは親友だぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぁ、ト■ル…

 

親友だと…

そう思っていてくれたのなら…

なんで俺の前から姿を消したんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バッ!「ッ!!……夢か。」

 

ボロボロのベッドの上で眠っていたミチナガは、やはりあまり褒められた寝心地ではなかったようで、悪夢によって飛び起きるという最悪な目覚めを迎えていた。

朝から気分が悪いと少々苛つきが湧かないでもなかったが、ただの夢に腹を立てていてもしょうがないと考えたようで、最終的なミチナガの反応は少し眉間に皺を寄せる程度だった。

数十年に渡る砂嵐の被害によって、その大半が砂に覆われたアビドスの廃ビル街における廃れたホテルの一室…それがここ最近のミチナガの根城だった。

 

先日、便利屋の勧誘を条件付きで引き受けたミチナガはあの後、他メンバーとの顔合わせも兼ねてアル達の構える事務所へと迎えられた。

そこでムツキ、カヨコ、ハルカとも軽い自己紹介をした後はすぐにその場を後にしようとしたミチナガを、社長はもう少しゆっくりしてもと引き留めたが、大勢でつるむのはミチナガの性根には合わなかったし、なによりハルカの剥き出しの警戒心に曝されていてはゆっくりしようにも気が休まらないので遠慮させて頂いた。

その点で言えばムツキとカヨコの二人は、警戒心を巧妙に隠せていたと言ってもいいだろう。

一見ただ面白がってアルに同調しているように見せていたムツキは、恐らくは手元に置いておくことで監視をしやすくする目的があったと考えられ、カヨコは常にミチナガの動向を視界に入れて隙を見せなかった。

あれでは並のライダーが何か事を起こそうものなら、変身する余裕もなくあっという間に拘束されていただろう。

もっともミチナガは並のライダーなどという矮小な器では計りきれないのだから、もしドンパチを起こすことになっても上手く切り抜けるだろうが…

 

ピピピッ…ピピピッ…

 

あらかじめ溜めておいたバケツの水で顔を洗い、簡単なレーションと缶コーヒーで朝食を済ませていると懐の携帯から電話がかかってくる。

表示されている名前は『便利屋68』…最近登録したばかりの連絡先だ。

 

ピッ

 

「俺だ。」

 

『もしもし?

おはよう、ミチナガ。

昨晩は良く眠れたかしら?』

 

予想通りというか当たり前というか、電話口から聞こえてきたのは便利屋68の陸八魔アルの声だった。

その声はとても弾んでおり、上機嫌であることが用意に伺えた。

大方、弾む気持ちのままに事務所にあった黒電話で足を組みながら電話しているのだろうが、知らず知らずのうちにちょうど悪かった夢見に触れられたミチナガは、アルにちょっとした意趣返しを敢行することにした。

 

「はぁ…?お前誰だ?

なんでこの番号を知ってる?」

 

少し声にドスを利かせて電話口の向こうに凄んでみせる。

できるだけ不機嫌でタイミングが悪い瞬間に違う番号に電話をかけてしまったかのように偽装するためだ。

それが功を奏したのか、先程までの弾むような声色は消え失せてしまった。

 

『ひぃ…ご、ごめんなさい…

間違えました…』

 

プツッ…プー…プー…

 

そのままアルは電話を早々に切り上げてしまい、ネタばらしは出来ずじまいだった。

アウトローを目指しているという割にはなんとも小心…いや、慎重だというべきか。

恐らくは強い相手には余程のことがない限り喧嘩は売らないタイプと見た。

そんなどうでも良い発見をしていると、再び携帯に電話がかかってくる。今度は『社長』と表示されているのを見るに、今度は事務所の黒電話ではなく自分の携帯からかけているようだった。

 

「俺だ。」

 

『コンドハマチガエテナイワヨネ…おっほん!

おはようミチナガ。調子はどう?』

 

「問題ない…態々そんなことを聞く為に連絡してきたのか?」

 

『あら、お気に召さなかった?

折角私自らモーニングコールしてあげたのに。』

 

ガラの悪い声にマジビビりして即切りしていたことなど尾首にも出さずに、ここまで気取った声色を出せるのは最早一種の才能だなとミチナガは感心していた。

もしかしたらポーカーフェイスが得意なのではないだろうか?

 

『今回の依頼が上手く片付けば、報酬は期待してくれて良いわよ。

ライダーは恐らく背の高い女性一人だから、私達が事を進めている間の足止め

「 いや…」…な、なによ?』

 

「アビドスのライダーは二人だ…

お前が言ってる奴の他に、毎朝誰より早く来て屋上で見張りをやってる男子生徒がいる。

ソイツもライダーとみて間違いない。」

 

『あ、あらそう…ならそのライダーも任せることになるけど構わない?』

 

「造作もない。

 

あんた…まさかこの程度の下調べもしてないんじゃないだろうな?」

 

『そ、そんな訳ないじゃない!

今のは貴方を試しただけよ!』

 

そんなことをしてどんなメリットがあるのか根掘り葉掘り聞いてみるのも悪くないと彼女の幼なじみなら考えそうなものだが、これ以上のからかいは時間の無駄なのでそういうことにしておこうとミチナガはそれ以上の言及はしなかった。

ただし、最後にネタばらし位はしても良いだろう…

 

『と、とにかく!!

 

…貴方の実力なら二人のライダーを抑える位、わけないのは分かってるわ。

期待してるわよ、仮面ライダーバッファ。』

 

「………あぁ。

それとな社長、もう一つ言っておくことがある。」

 

『?…まだあるの?』

 

「さっきの電話、間違えてないぞ。」

 

『は、はぁ!!?

ちょっとミチn………』ピッ

 

「…ふっ…」

 

ネタばらしを聞いたアルの困惑が入り交じった怒声が響き渡る前に通話を切って有耶無耶にするが、その狼狽え様には流石のミチナガもクスッとした笑いを思わずこぼす。

まだ出会って1日程の時間も経っていないが、あれの近くにいる限り退屈はしないのだろうとミチナガは当たりを付けた。

 

~♪~♪

 

「……アイツか…」

 

しかしこんな悪戯を仕掛けた後では出勤したらどうどやされることだろうかと耽っていれば、外へ寝ずの番をさせていた自分のスパイダーフォンが音色を響かせながら手元へと戻ってきた。

どうやら『本業』の方の定時連絡の時間になっていたようだ、すっかり失念していた。

一気に気分が億劫になってしまう…

恐らくというかほぼ確実に、連絡をいれてきている人物が誰なのかは分かりきっているが、ソイツと話す際には細心の注意をする必要があるため、神経を磨り減らしてしまうのでどうしても疲れを感じてしまう。

機嫌が良い間は冷静に物事を判断してくれるが、一度機嫌を損ねればたちまちヒステリックを起こして正常な思考を維持できなくなる。

しかもこっちが気を付けていたとしても、勝手に思考の坩堝に陥って結局ヒスを起こす事もあるのだから関わりづらいことこの上ない…

今回の仕事もそういった類いの思考から生まれたものでもあることを考えると頭が痛くなるのも仕方ないことだった。

 

ピッ

 

「……俺だ。」

 

『あら、随分と電話をとるのが遅かったですね。

もうとっくに定時報告の時間は過ぎてる筈ですよ?』

 

「……………悪かった。

少しこっちで話が長引いた。」

 

ほんの数分でなにをゴタゴタと…と若干ミチナガは思いはすれどすぐにその考えを振り払う。

経緯はどうあれこれはれっきとした仕事であり、ミチナガにはそれを滞りなくこなす義務があるという自負があった。ならば、多少苦言を呈されたからといってヘソを曲げるなどという無責任なことをするのは、ミチナガの流儀に反することだった。

あと、単純に癇癪を起こされると面倒なのもある。

 

『…まぁ良いでしょう。

それで、そちらの首尾はどうですか?』

 

「アビドス、並びに便利屋68への潜入は成功。

これから対象へ接触する。

 

だが、その"先生"ってのはここまでする必要がある程の相手なのか?」

 

『それを知る為の確保…あら失礼、保護作戦でもあります。

エデン条約の締結はあのお方の悲願…

ならば私達にはあらゆる不確定要素を取り除き、無事に条約が結ばれる瞬間を見届ける義務がありますから。』

 

なにをぬけぬけと…

いけしゃあしゃあと保護などと銘打ってはいるが、その実態は事が済むまで幽閉することで不安要素を潰そうということだ。

勿論、捕虜的な扱いをする訳でも拷問して情報を引き出そうとするわけでもなくあくまでも賓客扱いなのだろうが、それでもそれは先生とやらの自由と尊厳を侵害する行為に他ならない。

もっとも、見返りを求めてそんな作戦に協力している自分はもっと救いようがない奴だということなのだろうが…とミチナガは心の中で独りごちた。

 

『潜入中はカヨコさんに気を付けて下さいね。

いくら顔が割れていないとはいえ、聡明な彼女なら少しの綻びから貴方の正体に気付き兼ねません。』

 

「………………あっ。」

 

『んん、え?

なんです、今の長い間を置いた「あっ。」は?』

 

「…なんでもない、気にするな。」

 

ファーストコンタクトがアレだったせいで絶賛警戒心MAXだと思われるが、それを報告する勇気は今のミチナガにはなかった。

便利屋68の一番の年長者にして、実質参謀役を担っている鬼方カヨコ…

只者ではないことは分かっていたが、まさかコイツにやたら念押しをされる程だったとは…

こちらの焦りを敏感に感じ取ったのか、アイツは忠告をこちらに送ってくる。

 

『あのですねぇ…良いですか?

貴方にはこの作戦の成否を担う立場にいるということをしっかり肝に銘じて行動して頂かないと困るんです。

 

そうでなければ…』

 

「分かってる…これ以上ヘマをするつもりはない。」

 

『…貴方を評価した私の信頼を裏切らないでくださいね。

では任務に戻ってください、私はまた面倒を起こしたあの連中の後始末がありますから。ハァ…』

 

プツッ…プー…プー…

 

そう言うとアイツはこちらの返事を待たずして通話を切ってしまった。

どうやらまた問題を起こした連中の対応に追われているらしい。

アイツらか…いや、もしかしたらアイツらかもしれない。

はたまた全員が一斉に…

十分有り得るというか、面倒事を起こすしか能のない連中のことだ…更に予測を越えた厄介事を起こしているかもしれない。

その場に居合わせなかった事に感謝すると同時にその対応にてんてこ舞いになる不憫に心底同情してしまった。

 

「一概に否定するべきじゃないのかもな…お前の癇癪も。」

 

先程まで苦言を呈し続けてきた彼女の欠点が、置かれてきた環境の中で培われた可能性があることに気付いたことから認識に少し改めることを決めながら、スパイダーフォンに表示されていた名前を呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………なぁ、天雨アコ(・・・・)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"はっ…はっ…はっ…はっ…"」タッタッタッ

 

アビドスに構えた仮住まいから学校までは、徒歩で約20分程の距離。

いつもならば大幅に余裕をもって出発し、早めに到着しているだろう生徒と一緒に準備を手伝うことにしている先生だったが、今日は少し遅めに出発した。特に朝寝坊をしたとか集合時間が後ろ倒しになったわけではなく、どうしても急いで動かなければならない状況を作りたかっただけだ。

昨日の柴関ラーメンでの一件で、とんでもない量の脂質と塩分を摂取してしまったことを考慮し、少しでも身体を動かしてカロリーを燃焼させたかった。

だが、もしいつも通りの時間に出発していれば面倒くさがってやらないかもしれない…

そうなったら待っている末路はただ一つ…プクプク太ったギトギト先生の出来上がりだ。

そんな有り様でスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズであるエースと並んで歩こうものなら、絵面はまるで美女と野獣ならぬ美男と野獣ということになりかねない。

そんなのは死んでも御免だった。

 

タッタッタッタッ

 

「やっほ、先生も早朝ランニング?」

 

「"ふぅふぅ…あ、サエさん奇遇だね。"」

 

すると突然背後から自分のとは違う規則正しいリズムを刻んだ足音と軽めの挨拶が聞こえた先生が振り返れば、そこにいたのはアビドスの仮面ライダーの一人である我那覇サエだった。

今先生はいつものスーツ姿ではなく、エースから借りた運動用のTシャツを着ているのだが、サエも同じく色違いのTシャツを着ており、図らずもお揃いのようになっていた。

 

「昨日食べ過ぎたのを気にしてるわけか…

先生も中々無理するじゃん。言ってくれれば手伝ったのに。」タッタッタッ

 

「"いやいや、アスリートさんにそんなことさせられないよ。"」タッタッタッ

 

「もう引退した身なんだから気にしなくて良いよ。

それに、アスリート時代は食べるのもトレーニングの内だったから多少の大食いなら屁でもないしね。」タッタッタッ

 

そう言いながらも、先生以上の距離を走っていた筈なのに息一つ切らしておらず、余裕綽々な様子のサエを見ていると、アスリートを引退してからしばらく経っているとはとてもではないが思えない。

やはりライダーとして戦うことも考えて日頃から鍛練を欠かしていないのだろう。

そしてそんなサエを見ていたらふと頭に浮かんできた疑問を、ランニングの疲労を誤魔化す目的で聞いてみることにした。

 

「"…サエさんはさ、デザイアゲームに参加して勝ち残ったらどんなことをお願いする?"」

 

「唐突だね…いいけど。

う~ん、現役時代なら少しでも長くアスリートを続けられるような願いを考えてただろうけど…

まぁ、今なら月並みだけど億万長者とかかな。

それで借金を返せれば皆少しは楽になるでしょ?」

 

「"…どんな時でも、アビドスのことを考えているんだね。"」

 

「…まぁね。

あの子達は私の家族だから。

その大切な居場所なら、尚更守ってあげたくなる…

 

多分、カナトも同じなんだと思う。」

 

「"…………"」

 

「大好きで大切な何かが、ある日突然壊され失くしてしまう…そんな恐怖があることをあの子は知っている。

だからこそもがいてるんじゃないかな。」

 

その言葉に、先生は少しの引っ掛かりを覚える。決して短くない時間を共に過ごしてきたからこそ、サエのカナトを語る言葉にはそれなりの含蓄を感じたのは確かだ。

しかし、本当にただそれだけなのだろうか…

カナトが自分達のことを信用できないからこそ遠ざける…それ自体は間違いでもなんでもないだろう。

しかしだとすれば何故、今の状況で自分を追い出そうとはしないのだろうか。エースが不在の今なら丸腰の私を脅してアビドスから退けさせることも恐らくは容易な筈だ。

それなのになんで未だ、アビドスでの活動を黙認しているのだろうか?

 

なにか自分達が察することができている以上の問題や葛藤をカナトは抱えているのかもしれない…

先生はそう心の中で危惧してしまうが…

 

「だから、カナトを嫌わないでやってくれる…?

アイツのことだから、これから先も酷いこと言うと思うけどさ。」

 

「"…うん、大丈夫。

嫌ったりなんかしないよ。"」 

 

「そう、ならいい。」

 

今はサエの不安を拭うことを取り敢えず優先することにした。勿論カナトのことを考えるのをやめたわけではない。先生は自身の理想と信念に則り、決して生徒を見棄てるような真似はしないのだ。

まだ推し量れていない何かを抱えているのなら、これからもっと触れ合いながら理解していけばいいのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

そんなサエと先生が仲良く仲良くランニングしながら登校する様子をカナトはアビドスの屋上から見下ろしていた。

何故屋上に居るのかと言えばこれは彼の日課の一つだからである。カナトはまだ誰も登校していない早朝から、屋上に登って周囲を警戒するのがアビドスに所属してから、もっと言えばアビドスの抱える問題を初めて知った日から続けてきたことだからだ。

始めた当初は警戒のいろはも分からずにただ周囲を見渡す位だったが、ホシノからの指導を受けたことでカナトは俯瞰の視点でもっと広く細かく全体を把握することが可能だ。

その精度はアヤネが構築している監視システムを僅かに凌駕している。

だからこそ、アビドスに近付いてくる二人の姿を早期に発見するのはカナトにとって簡単なことだった。

 

(相変わらずの間抜け面だな…)

 

「…カナト君?」

 

「ッ!!(バッ)

 

なんだアヤネか…驚かせないでよ。」

 

先生のことを心の中で揶揄していると、突然背後から声を掛けられて驚愕し振り返るカナト。そこには思った以上に過剰な反応をしたカナトに面食らった様子のアヤネが立っていた。

いつも持っているタブレット端末を胸に抱えている普段と変わらない出で立ちだが、その表情はどこか遠慮がちだ。

 

「ご、ごめんね?

もうすぐ朝の定例会議だから呼びに来たんだけどなんだか思い詰めてるみたいだったから…」

 

「あっそう…」

 

「………うん。」

 

「……………」

 

「……………」

 

二人の間に気まずい沈黙が広がっていく。

実は二人は先生が来る前にちょっとした口論で一悶着あったところであり、そのせいもあってか折り合いが悪く二人きりになるとついつい無言になってしまうらしい。その喧嘩の中心は言わずもがな先生のことについてである。

アヤネが独断で先生への救援要請を送ったことを当時行なわれた定例会議の中で報告したことでカナトの逆鱗に触れてしまったのだ。

今でも二人は目を閉じればその時の情景が嫌でも頭の中に浮かび上がってしまう。

 

『勝手なことするなよこのバカッッ!!

得体の知れない奴の力を借りようなんてなに考えてんだよッ!!』

 

『で、でもこのままじゃアビドスはヘルメット団に占拠されちゃうんだよ!

それなのになにもしないなんておかしいよ!!』

 

『それでまた新しい面倒事抱えてるようじゃ世話ないんだよ!!

いい加減助けを求めれば誰かが救ってくれるなんて甘い考えは捨てろ!

どうせそいつだってなにもしないに決まってる!!

 

見放されてんだよ僕達はッ!!!!』

 

いくら頭に血が登っていたとはいえ、自分のあんまりの言い草にカナトはたまらず頭を抱える。

ヘルメット団の問題が片付き、ある程度思考の余裕が出てきた今は当時の自分が如何に荒んでいたのかがありありと理解できてしまう。

そのせいでアヤネとは上手く話すことができなくなってしまうし、自分の面倒な性分のせいで素直に謝ることもできない、カナトは過去の自分に恨み言でも吐きたい気分だった。

 

「……えっと、カナト君は……」

 

「ん?」

 

「先生のこと、まだ信用できそうにない…?」

 

「それは……」

 

アヤネとしてはなんでもいいから話題をと思い、純粋に疑問に思っていたことを聞いただけのつもりだっただろうが、カナトは内心を見透かされたような気がして答えに詰まってしまう。

実のところカナトは大人に対するこれまでの不信感は変わらないまでも、先生本人に対してはもうそこまで悪感情を抱いているわけでもなかった。誘拐されたセリカを助ける為に多少の無茶をしてくれたことも、仲間達の下がる一方だったモチベーションを持ち直させてくれたことにも感謝していた。

少なくとも、先日の助けになりたいという旨の発言は恐らく本心なのだろうということも分かっていた。

しかしたとえ50%の信頼があっても、50%の不信感がどうしても尾を引いてしまう。

全員が信頼しきっているこの大人が突然牙を剥いたとしたら、きっとアビドスの皆は今度こそどん底から這い上がる気力すらも失ってしまう…そう思うとどうしても予防線を張って安心しようとしてしまうのだ。

 

それに…

 

(アイツに皆を救うことができるなら…

僕は今までなんの為に…)

 

「えっと、答えにくかったら…」

 

「まだ…?

ハッ、まるでいつかは信用するみたいな言い草じゃん。

言っとくけど、勝手にアイツを呼び込んだこと…

まだ許したつもりないから。」

 

ああ、こんなこと言うつもりじゃないのに…

そんな気持ちとは裏腹に、この天邪鬼な口は憎まれ口を叩くのを辞めない。

 

「会議にはすぐ行くから、哨戒の邪魔しないでくれる?

そこにいられると気が散るからさ。」

 

「…うん…(ギィィ…)

 

カナト君。」

 

アヤネは少し俯き気味に返事を返すと、足早に出入口の方へと向かっていった。ドアを開けた時の少し軋むような音が響いたことから、もう既に立ち去ったのだろうと当たりをつけたのだが、声を掛けられて振り返って見てみればアヤネはドアの向こうから顔だけを出していた。

 

「私、先生のこと…

初めて会った時から何故か、悪い人じゃないだろうなって思えて…

どうしてなんだろうってずっと考えてたんだ。

 

それは多分…カナト君に似てるって思ったからだと思う。」

 

「………」

 

「顔とか背格好は全然違うけど、必死に誰かを助けようとしてる時の…

自分が助ける、助けなくちゃって思いに駆られてる人の眼を…二人はしてるから。

 

だから、少なくとも私に先生を信じさせてくれたのは…カナト君だよ。」

 

それだけ伝えておきたかったの、と最後に言い残した後今度こそアヤネはドアの向こうに歩いて去っていった。

カナトの頭の中でアヤネの言葉が幾度となく反芻される。

アヤネは恐らく、私達の為に先生を無理に疑い続けなくていいのだと伝える意図で言葉を送ったのかもしれない。

 

(アイツが僕に似てるから…か。)

 

しかしそれはカナトに違う意味合いを感じ取らせてしまっていた。

先生と自分が似ているのなら…

既に皆の中心に立ち、少しずつでも今の状況を好転させることができている先生と、

なりふり構わず行動して、時には非道に徹したとしてもなにも変えられていない自分…

それらを比較した時、余人に必要とされるのはどちらかは火を見るより明らかだとカナトは思い至る。

 

(だったら…余計に惨めじゃんか…)

 

カナトは蹲り、俯く。

このままでは自分の居場所がなくなってしまう。

でもアイツがいた方が、皆の助けになるのだから追い出すなんて以ての外…

そんな二律背反から眼を背けたくて、自分の身体で作った暗闇の中に逃げ込んでしまうのだった…。

 

 






遅くなって申し訳ありません!!
転職活動でてんやわんやしておりました!!
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