BLUE×HIGHLIGHT   作:仮面ライダー四季鬼

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嚆矢II:キツネ堕つ

 

 

先生達一行がシャーレのビルに辿り着く数時間程前…

狐坂ワカモは多数の不良生徒達を従えながら、シャーレのビルを占拠に向けて動いていた。

 

「あらら、連邦生徒会は来ていないみたいですね。

フフッ、まあ構いません。

 

あの建物に何があるかは存じませんが、連邦生徒会が大事にしてる物と聞いてしまうと……

 

壊さないと気が済みませんね…」

 

狐坂ワカモはシャーレのビルに連邦生徒会が保管している「何か」があることをどこから聞いたか分からないが知っていた。

その「何か」が何なのかまでは分からなかったが、それを破壊してしまえばこのキヴォトスが大きな混乱に晒されてしまうであろうという、確信にも近い予感があった。

破壊と混沌を是とする彼女にとってそれは僥倖ではあったし、例えそうでなくとも以前からこのキヴォトスにおける安寧の象徴であり、疎ましく思ってきた連邦生徒会に屈辱を与える良い機会でもあるからこそ、矯正局を脱獄したばかりなのにも関わらずこの暴挙に打って出たのだ。

 

「ああ……久しぶりのお楽しみになりそうです、ウフフフ♡」

 

「ああ、楽しませてやるよ…存分にな。」

 

「!」

 

その声はワカモにとってはこの世で一番聴きたくない声だった。

その声を聴いただけでワカモの心は怒りで沸き立ち、逆に頭は一周回り心底冷えついて冷静になった。

 

「お前ですか…

二度とその下卑た面を私の前に晒すなと再三申し上げた筈ですが…?」

 

「おいおい、感動の再会だってのに連れないな…姉さん。」

 

そう言ってビルとビルの間の暗がりからゆっくりと姿を現したのはこのキヴォトスで大スターと知られている男、浮世エースだった。

いや、彼は今この場においては浮世エースとしてここに立っているのではないだろう。

今彼はたった一人の狐坂ワカモの弟、狐坂エースとしてここに立っているのだ。

 

「私に家族など居りません、お前は私にとって弟ではなく唾棄すべき抹殺対象でしかないのですから。」

 

しかし、ワカモはそれを否定し拒む。

狐の仮面の奥に隠されたその双眸からはエースに対する激しい憎しみが感じ取れた。

まるで親の仇にでも相対しているかのように…

 

「嫌われたもんだな、昔の俺は一体何をやらかしたんだか…」

 

「あのようなことを仕出かしておきながら白々しい…

この汚ならしい裏切者風情がっ…!!」

 

そう吐き捨てたが最後、ワカモは従えていた不良生徒達をけしかけて来る。

押し寄せてくる雑兵の大群に…

 

『SET』 「変身!」キリリリリ…バァン!

 

『~♪ MAGNUM

 

『READY FIGHT』

 

バン! バン!

 

エースは狼狽える事なく腰のデザイアドライバーにマグナムレイズバックルを装着して変身を完了させ迎え撃つ。

マグナムシューターを数度放ち、武器を落とさせる。

 

「ハッ!」ドカッ!タッタッタッ

 

ダダダダーン!

 

そして一人を蹴飛ばして勢いをつけ、近くの壁を駆け上がって手摺に捕まることで上を取る事に成功。

近付こうと群がってきた者に掃射する。

 

「ち、ちくしょーっ!」ブン!ブン!

 

「ほっ、ほっ、よっと!」

 

武器を落とされた数名がそれならばと殴りかかって来るが、銃ばかり使っていた弊害かその拳はギーツから見れば非常に緩慢だ。

 

後ろに下がりながら避け続けるとやがて壁にぶつかり、チャンスかと思って調子づいて近付いた瞬間、ギーツは足元の先程落としたアサルトライフルを蹴り上げて手に取り至近距離で放つことで、もろに食らった者は気絶する。

 

更に近付いた者を銃のストックで殴り付けた後、不要になったアサルトライフルを投げ捨てると、下手に近付くのは危険だと感じたらしく今度は距離を取って銃撃をしてくるもギーツの走力で走り回ることで上手く撹乱する。

 

「ハアッ!」バン!バン!バン!

 

距離を取る選択はマグナムフォームを扱うギーツに対しては悪手でしかない。走りながらでも正確無比なギーツの射撃は銃撃をしてくる相手を的確に射抜いていく。

 

「こ、こうなったら動けねぇように囲んじまえ!」

 

「「「了解!」」」

 

今度は近付くでも距離を取るでもなくギーツの周りを囲んで避けられないように立ち回る。

 

「へぇ、そう来たか。でも…」

 

「撃てぇ!」

 

「甘い。」ガチャン!

 

『REVOLVE ON』

 

銃撃が行われる寸前、ギーツは仰向けに倒れるようにしながらデザイアドライバーを半回転させることで上半身の装備を下半身に移動させる機構、通称リボルブオンを起動、リボルブリングを発生させることで銃撃を防ぐ。

 

キリリリリ…バァン!

 

MAGNUM STRIKE

 

続けて左側になったマグナムレイズバックルを操作して必殺技を発動。

マグナムの装甲に搭載されている小銃『アーマードガン』を展開、ウインドミルの要領で足を開いて回りながら囲んでいた一人一人に必殺の銃弾を叩き込む。食らった数人は派手に吹き飛ばされたがこのキヴォトスに生きる頑丈なヘイロー持ちの生徒なのだから大きな怪我はしていないだろう。

流石に気は失っているだろうが…

 

ドォォォンッッ!!

 

「!…ハハッ、マジか!」

 

『REVOLVE ON』

 

突如鳴り響いた轟音に猛烈に嫌な予感がしたギーツはもう一度リボルブオンを行い、リボルブリングを発生させて左に回転して移動すると先程までギーツが立っていた場所を砲弾が通過していく。

振り向いて確認してみるとそこには巨大な砲台にキャタピラがついた装甲付の車、端的に換言すれば戦車が鎮座していた。

 

RIFLE』ダァン!  カンッ!

 

「…流石は戦車だな、生半可な攻撃じゃ埒が明かないか。」

 

次弾装填に時間がかかっている間にマグナムシューターをライフルモードに変形させて狙撃してみるが、やはり堅牢な装甲を持つ戦車には通常の射撃では歯が立たないようだ。

 

「面白い、コイツを使ってみるか♪」

 

そう言って懐から取り出したのは緑色の槍の装飾が施されたアイテム、『スピアレイズバックル』

大きさはマグナムと比べれば半分程度の小型で、明らかにどちらが強いかと問われれば十中八九マグナムを選ぶであろう、所謂ハズレのバックルだ。

しかし、それだけで有用性がないと判断するのは些か早計だろう。

どんなにハズレの武器であろうと使い手次第では頼り無さげな細い槍も全てを貫く無双の矛と化す。

 

ガチャン!『SPEAR

 

ギーツはマグナムシューターにスピアレイズバックルを装填して、スピアの部分を回すように操作して必殺技待機状態に移行。

スコープを覗いて狙いをつけ、狙撃体勢に入る。

マグナムシューターがスピアレイズバックルから引き出し、反映させる性質は貫通力の超強化。

これによって貫通力が底上げされた必殺の一撃は…

 

SPEAR TACTICAL BLAST

 

ドォォォンッッ!!

 

戦車の堅牢な装甲をも貫くだろう…

マグナムシューターの狙撃によって大きく風穴を開けた戦車はその機能を停止して物言わぬただの鉄の塊になり、乗組員達は脱走して逃げ出していく。

これでもう表立った脅威は頭目であるワカモを除けばなくなった筈だ。

 

「さて、後はアンタだk…!!」

 

ガァンッ!

 

振り返った瞬間に眼に写ったのは、気配もなく近付き短刀を振りかぶっているワカモの姿だった。咄嗟にマグナムシューターで受け止めたが、あの短刀の一撃は装甲の隙間を的確に狙っていた。

慢心し、装甲で受け止めようとしてまともに喰らっていれば深い傷を負っていたところだろう。

 

「腕を切り落としてやろうと思いましたのに…

相変わらず悪運の強い男ですね…」

 

「確かにな。

運に限らず、あらゆる分野において俺の右に出る者はそういないさ。」

 

軽口もそこそこに二人は距離を取り、互いに銃を構える。

マグナムシューターの破壊力は言わずもがなだが、ワカモの愛銃『真紅の災厄』から放たれる銃撃はライダーの装甲さえ傷付ける程の威力を持っており、そのせいもあってか互いに下手に動けず膠着状態になる。

 

「…なぁ姉さん、一つ提案良いかな?」

 

「姉さんではありません。

命乞いならどうぞご自由に、それでなにが変わるわけでもありませんが。」

 

「強がりは止せよ。

俺達は互いの実力も動きも知り尽くしてる。

このままやりあっても決着はつかないって分かってる筈だ。」

 

「……何が言いたいのです?」

 

「勝負は一旦お預けといこう、アンタは一度引いて態勢を立て直せ。

もうじきここには何人かの実力ある生徒と、キヴォトスの外から来た先生がやってくる。

俺と一緒にそいつらの相手をするのは、流石の災厄の狐様でも堪えるだろ?」

 

「……………」

 

「変なプライドを出して抵抗するのは勝手だ。

けどアンタだって、矯正局に逆戻りはしたくないんじゃないのか。」

 

「………………………良いでしょう。」

 

ワカモは長考の末にその提案に乗ることにした。正直に言えば目の前の裏切者の言葉に従うなど腸が煮えたぎる思いだったが、それでも引き際は慎重に見据えなければならない。

FOX小隊を相手取った時も、たかが一小隊だと侮り引き際を見誤ったことで捕縛されてしまったのだから。

 

「ですが、覚えておきなさい。

私はお前を一生許すつもりはありません。次に相見えた時はその頸、頂戴致しますのでそのように…」

 

そう言うとワカモはその場から飛び退きギーツの足元へ向けて発砲し、巻き上げられた土煙に紛れて姿を消していった。

 

「ふぅ……」

 

ギーツはワカモを撤退させることに成功したことに安堵する。敗色が濃厚だったからという訳ではない、ギーツは最初からワカモを捕まえる気などなくむしろある目的の為にどうにかして逃がそうと考えていたのだ。

もしワカモがあそこで抵抗する意思を見せていたら更なる"切り札"を切らなければならなかった。

 

「さて、それじゃ先生達を出迎えるとするか!」

 

後数十分もすれば先生達がここまでやってくる、リンにワカモと不良生徒達は退けておいたと連絡を入れておけばきっと先生達にも伝わるだろう。

ギーツはスパイダーフォンを取り出してモモトークでリンに連絡を取る。

 

『リン、シャーレ近くで暴れてた連中は何とかしておいた。

先生にも伝えといてくれ。』

 

『分かりました。協力に感謝します。』

 

相変わらず簡素な返信だなとある意味感心してしまう。

これは仕事仲間相手だからなのか、単にコミュニケーションが苦手なだけなのか…

もしかして嫌われている訳ではあるまいなと邪推するがすぐにそんなことないなと思い直す。

 

「俺を嫌うような変人は、後にも先にも姉さんだけだろうからな♪」

 

…その途方もなく果てしない自信こそが、彼が最強たる由縁なのかもしれない。

ギーツは鼻唄を歌いながら先生達を出迎える為、横倒しになった戦車に駆け上がって腰掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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尾刀カンナは辟易していた。

突然上層部に呼び出され、何事かと思えば人事部の人員不足を理由にこうして面接官としての仕事を押し付けられたことも一つ、もう一つは目の前に座っている男だ。

緊張は程よくしているようで、気負いすぎている様子はないが気を抜きすぎてもいないのは好印象だがそれ以上に、如何にも人畜無害を絵に描いたような顔をしていて荒事には向いてなさそうに見える。

この面接は所属する仮面ライダーを決めるためのものであるため、男は確実に仮面ライダーなのだが、覇気が無さすぎて心配になってしまう。

 

「それでは桜井ケイワさん、貴方が我が校に所属しようと思った切っ掛けをお聞かせ頂けますか?」

 

「はい!

ヴァルキューレ警察学校はキヴォトスの皆の幸せを守るために様々な努力をしてくれているのを間近で見ていたので、自分もそんな風に誰かの幸せを守りたいと思って希望しました!」

 

ふむ、中々嬉しいことを言ってくれる。しかしなんだか盲目的に良い面だけを見ているような印象も同時に受ける。ここはもう少し全体を見た所感を語って欲しいところだ。

お世辞にも現在のヴァルキューレは警察学校の体裁を保ってるとは到底思えないのだから。

 

「なるほど…では質問です、もし凶悪犯が人質をとって立て籠り事件を起こした場合、貴方が取るべき行動はなんだと思いますか?」

 

「えっと…悪いことは止めるように説得を試みます!」

 

「………その次は?」

 

「分かって貰えるまで説得を続けます!」

 

どうやら案の定だったようだ。目の前のこの男は相当平和ボケした思考をしているらしい…

キヴォトスで過ごしておきながらその思考を貫けるのはハッキリ言って異常だ。もしかすればこの男はどこか決定的な部分が破綻しているのかもしれない。

 

「……はぁ、そういったことはネゴシエーターの領分です。

貴方は仮面ライダーなんです。

交渉人になる為にここに来たわけではないでしょう?」

 

「え…?

で…でも、話し合いで解決できるならその方が良いんじゃ…」

 

「我が校に限らず、学園に所属する仮面ライダーに求められるのは武力による鎮圧です。

自身に求められる役割を認識できないようでは、現場では足手まといでしかありません。

残念ですが、今回は御縁がなかったということで…」

 

「え、ちょ、ちょっと待って下さいよ!」

 

ギロッ!

 

「二度は言いませんよ…?」

 

「ヒエッ…す、すみませんでした…」

 

結局、面接試験は不合格。

彼は意気消沈した様子で面接室を後にしていった。

善良な青年であっただけに良心が痛むが例えお飾りであったとしても警察は警察。

彼のような優しい、しかしそれだけの人間に務まるような仕事ではない。せめて彼にこれから良い出会いが訪れるよう祈っておくことにしよう。

.

.

.

.

「面接また駄目だった…もう最悪だよ姉ちゃ~ん…」

 

『あはは…まぁ元気出しなって。見る眼がなかっただけだよきっと。』

 

リクルートスーツに身を包み、スパイダーフォンを片手に電話越しの姉に一人愚痴をこぼす男、桜井ケイワ。

彼はれっきとした仮面ライダーなのだが、未だに学園に所属することができず路頭に迷う所謂就職難民というやつなのである。

 

『だから言ったでしょ?

私がナギサ様に進言してあげるから、一緒にトリニティに所属しようって…』

 

「いやいや…

ただでさえ姉ちゃんには頼ってばっかなんだからさ、せめて所属する学園くらいは自分でどうにかしようって思ったんだよ…」

 

桜井ケイワの姉、桜井サラはこのキヴォトス随一のマンモス校であるトリニティに所属しており、仮面ライダーでありながら戦闘は苦手だが事務能力にとても長けているので、その方向性で一定以上の成果をあげている。そして更にどんな著名人であろうと物怖じせず会話ができる驚きのコミュニケーション能力がある。

ゆえにトリニティ内部ではそれなりに発言力があるのだ。

 

『ま、ケイワが決めたことだからもうとやかくは言わないけどさ!

もし気が変わったらすぐに言って!

絶対姉ちゃんが何とかしたる!』

 

「ハハ…ありがとう姉ちゃん。」

 

『どういたしまして!…あっ、は~い!

ごめんもう行かないと!

じゃあ頑張ってね、ケイワ!』

 

「うん……姉ちゃん。」

 

『ん?』

 

「…………ごめん、やっぱりなんでもないや。」

 

『?…変なケイワ。それじゃあね!』ピッ

 

「………………………はぁ…」

 

ケイワは物憂げに溜め息をつく。自分の駄目さ加減に嫌気が差しているのだ。今までずっと姉に頼りきっていながら、今度は所属する学園に関してもどっち付かずのままで結局心労をかけてしまっている。

これでは自立など夢のまた夢ではないか…

そんな暗い気持ちを飛ばしてしまおうとケイワは自身の頬をパシリと叩く。

 

「めげてばっかりじゃダメだよな、こんな時はうまいものでも食べて英気を養っちゃおう!」

 

ケイワは気持ちを切り替えて、他に仮面ライダーの募集をしている学園がないかをスパイダーフォンで調べながら行きつけのお蕎麦屋へ向けて走りだし…

 

ドン!

 

「うわぁ!」ドサッ カランカラン

 

突如としてケイワの身体に衝撃が走り、咄嗟のことで完全に意表を突かれたケイワはアスファルトで舗装された地面に尻餅をつく。

何事かと衝撃がした方向に眼を向けてみれば、黒い制服の少女が同じように座り込んでおり、ケイワはどうやらその少女にぶつかってしまったのだろうということを理解する。

近くに狐のお面らしきものが落ちていたが彼女の持ち物だろうか?

 

「ご、ごめん!大丈夫!?」

 

ケイワはすぐさま彼女を助け起こし、そして落とさせてしまった狐のお面を拾い上げて汚れをはたき、傷がついていないかを確認する。

 

「ホントにごめんね、でも傷はついてないみたいだから安心して?」

 

幸いにも目立った傷はついていないようなので、ケイワは腰を屈めて少女の目線に合わせるようにしながらそのまま彼女にお面を差し出す。

その時、初めてケイワは少女の容貌を目にする。

その少女は言葉で言い表せない程美しい顔立ちをしており、そしてその表情は真ん丸な黄金の瞳を見開きながら熟れた果実のように頬を染めていて…

まるで普通の恋する乙女のようだった。

.

.

.

.

狐坂ワカモは苛立ちを覚えていた。

結局自分の目的だった連邦生徒会の大事な「何か」の破壊には失敗してしまったし、何よりあの忌まわしい裏切者に出し抜かれてしまったことがワカモにとって筆舌にし難い屈辱だった。

そして何よりも許しがたいのはあの裏切者は恐らく、自分が抵抗した場合の手段も用意していたであろうということだ。万策尽きた上での提案等ではない、あれはきっと自分を逃がすためにあんな提案をしたのだろう。

結局最初から最後まで、自分はあれの掌の上で踊っていたにすぎないのだと自覚する度にワカモの腸は煮え繰り返りそうになる。

 

(この憤り、どのようにして晴らしてしまいましょう…?

いっそこの辺りを焼け野原にでもしてしまいましょうか…?)

 

そんな物騒な思考に耽りながら歩いていたせいか、ワカモは目の前から走ってくる男に気付かなかった。

そしてワカモは男と衝突し、尻餅をつく。

その弾みで着けていた仮面が外れてしまい、素顔が晒されてしまう。

 

ドン!カランカラン

 

普段であればそのような些事は起こらないのだが、今日はとことん厄日であるらしい。

見たくもない顔を見る羽目になり、やりたかったことも出来ずじまいな挙げ句、隠していた素顔を見られてしまうとは…

 

「ご、ごめん!大丈夫!?」

 

男が何かを言っているようだが、今ワカモの頭の中は目の前の煩わしい虫をどう排除するかで一杯になっているせいで聞こえていなかった。

男は落とした仮面を拾い上げて、汚れをはたき落としている。

お気に入りの仮面を勝手にベタベタと触れられて、ワカモのフラストレーションはもう決壊寸前だ。

 

「ホントにごめんね、でも傷はついてないみたいだから安心して?」

 

そう言って男は仮面を差し出してくる。仮面を取り戻して八つ裂きにする前に、その無礼者の顔を拝んでおこうとワカモは顔を上げて男と向き合うと…

 

「あっ……/////」

 

瞬間、ワカモの脳内にあった地獄のような光景は消え失せて代わりに満開の桜が咲いた並木道の中からこちらに微笑んでくれる男の姿が映し出された。

 

男はこちらへ手を差し伸べてくれてそして自分はその手をとってそのまま二人で笑い合う、桜吹雪によって淡い桃色に彩られた世界の中で二人はやがて瞳を交わして唇を…

 

「?…君、はいこれ。」

 

「あ、は…はい…///」

 

男に促されることでようやくワカモは現実へと帰還する。

かろうじて仮面を受け取ることには成功するもじっと顔を見られるのが恥ずかしくて思わず無礼を承知で顔を背けてしまう。

こんな光景を見た人の殆どはきっと気付いてしまうだろう。

今まさに彼女が恋をしているということに…

 

「し、し……」

 

「し?」

 

か細く響く言葉を聞き取ろうと男は耳を澄ませるが、その必要はなかったかもしれない。何故ならそのか細い声に続いて紡がれた言の葉は街のど真ん中で大きく響き渡る程の声量だったのだから。

 

「失礼いたしましたーー!!///」ダッ

 

「うわぁ!ちょ…えぇ?」

 

男はワカモの大声に驚いてたじろぎ、そしてワカモは受け取った仮面を胸に抱いたまま逃げるようにして走り去っていく。

 

「?…なんなんだよ一体…

 

まぁいっか…

たぬきそば、たぬきそば~♪」

 

男は最後まで困惑している様子だったが、そういえば自分が蕎麦屋に行こうとしていたことを思いだし、先程までの逢瀬のことなどすっかり忘れて改めて店に向かって歩を進めるのだった。

 

この出会いがこれから先の自分の運命を大きく変えたことも知らずに…








ギーツの戦闘は1話をイメージしました。
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