浮世エース。
彼はこのキヴォトスでは知らぬ者はいないとさえ断言できる程の大スター。
いや、スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズだ。
彼の日常は数多の人物から称賛され、もてなされ、求められ続けることで構成されている。
そして今日もまたその例に漏れず、彼は誰かの人生に自分と言う名の花を添えるのである。
「ヒュー!良いねエース君!おっ!今の表情頂き!
あっ、レフ板もうちょいこっち寄れる!?」
「はっ、はい!」
今は主に雑誌の撮影という形で。
仮面ライダーが本業であるエースだが、つい先日所属を連邦生徒会からシャーレに切り替えたことにより、入ってくる仕事の量が大幅に変化したことで今まで以上にスター業に精を出すことが出来るようになった。
とはいえこれは一時的なこと…
貢献度評価は前所属から引き継げるので現在もランカー1位を維持することは出来ているが、いずれはシャーレ所属の仮面ライダーとして動き回る日々になるだろう。
そうなる前に我先にと各所の出版社やらテレビ局やらがコンタクトをとってきたのだ。
そして現在、栄えある最初の仕事として選ばれた出版社のグラビアの撮影が行なわれている最中である。
「いやぁ、めちゃくちゃ良い画が撮れたよ~!
流石はスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズだ!」
「ふっ…ありがとうございます。あ、そうだ…」
そう言ってエースがマネージャーに目配せをすると、マネージャーは大きな紙袋をいくつか持ってきた。
物珍しく敬語で応対しているエースには少々不気味さを感じないでもないが、彼はスターの仕事場では大抵こうなのだ。
エースはマネージャーから紙袋を受け取ると、カメラマンに中身を見せる。
そこには…
「俺から差し入れです、皆さんで食べてください。」
ここら辺では有名な高級料亭の弁当と、人気洋菓子店のプディングが入っていた。
その数はここに集められたスタッフ全員に行き渡らせられる程用意されており、見る人が見れば卒倒してしまうだろうことが容易に想像できる。
「い、良いのかいこんなに…?!」
「ええ、とても美味しかったので是非皆さんにも味わって貰いたくて…遠慮せずどうぞ。」
「気前が良いねぇ、それじゃ遠慮なく!
お~い皆!エース君から差し入れだ!感謝を忘れるなよ!」
その呼び声に一斉にスタッフ達が差し入れに群がってきて、その中身を知るや否やすご~いやマジかよと言うような反応が飛び交う。
そして一人一人、自分の分を手に取るとエースに向かって一礼していく。
エースはそれに手を振って応え、舌鼓を打つ姿に笑みを浮かべる。
だが、この中でただ一人差し入れをチラチラとしつつも受け取りに向かおうとしないスタッフが一人いた。
先程レフ板の担当をしていた人当たりの良さそうな男だ。
エースは紙袋から一人分を取り出すとそのスタッフに近づき、手渡しながら声をかける。
「ほら、あんたの分だ。もう昼時だ、腹減ってるだろ?」
「え、あ、でも…俺、バイトだし…」
「この場の全員に振る舞えるように余分に買ってきたんだ。
余りは少なくしてくれるとありがたいな。」
「そ、そう?
それじゃ、ありがとう…」
そう言うとスタッフの男はエースから弁当とプディングを受け取り、弁当の蓋を開ける。
「わぁ…すごい…」
そこには艶々と輝いていて、一級品の食材であることを思わせる色とりどりのお鮨が並べられていた。
マグロやサーモン、海老といったネタとして定番のものから肉寿司や穴子、ウニといった普段お高く感じるものまで選り取り見取りだ。
男は割り箸を割ると、先ずはマグロを口にする。
「お、美味しいぃ…」
「だろ?俺も初めて食った時は面食らったもんさ。」
エースは弁当を口にしている男の隣に腰掛けて、自分の分の弁当をつつきながら雑談を持ち掛ける。
「あんた、バイトに入ったのは今日からだろ。
今までこの現場では見なかった顔だからな。」
「うん、そうだけど…もしかしてここのスタッフ皆の顔を覚えてるの?」
「良い働きをする者のことは自然と頭に残るものだ。
少なくともここには不必要な人材は存在してないってことだな。」
「はえ~…」
「そういえば名前を聞いてなかったな。
聞かせて貰って良いか?」
「あっそうだ!うっかりしてた!ん、ん"ん"!」
スタッフの男は咳払いして喉の調子を整えると自己紹介を始めた。
「仮面ライダータイクーンの桜井ケイワです!宜しく、エース君!」
「ほう、あんたライダーだったのか。」
驚くことにスタッフの男、ケイワは仮面ライダーだった。
お人好しそうな顔をしていただけに少し意外に感じる。こんなナリをしておいてキヴォトスの血生臭い面に精通しているということだろうか。
「うん、まぁ万年無所属のダメライダーなんだけどね…」
「無所属のライダーか…そりゃまさに絶滅危惧種だな。」
「うっ、そんなこと言わないでよ~…」
「それじゃバックル用意するのも一苦労だろ?
ライダーがバイトなんて珍しいと思ったが…」
「うん、今のところ弓のバックルしか…
あ、いや!
実はとっておきがあるんだ!見せてあげるよ!」
そう言うとケイワは身に付けていたウエストポーチから何かを取り出す。彼の手にあったのは、紅く煌めくブースターの装飾が施された大型のバックル、その名は…
「ブーストバックル…こんな上等なバックルどこで手に入れた?」
「へへへ、福引きの特賞になってたのをドドーンと一発!スゴくない?
まぁ、バイク出して交通手段にするぐらいにしか使ってないけど…」
仮面ライダー達にとって切り札とされる程の強力な力を有するブーストバックルには、他のバックルとは逸脱するもう一つの機能がある。
それがブーストバックル所有者専用の特殊装甲バイク、ブーストライカーを召喚する機能である。
その性能はブーストバックルの恩恵の例に漏れず、いずれの数値もバイクとして高水準なのだがそれをただの交通手段に利用するとはこのケイワと言う男、中々に肝が太い男である。
「それ、あまり大っぴらに見せびらかすのは辞めた方が良い。
質の悪い連中に盗まれても知らないぞ。」
「う"ぇ"!?い、いやいや…流石にそんなこと…」
「ないとは言えないだろ。
あんたお人好しそうだし、見え見えの嘘にあっさり騙されて渡しそうで心配だ。」
「え~…俺のこと馬鹿にしすぎじゃない?」
不貞腐れたような声を出すケイワだったが、エースの助言を聞くことにしたのかブーストバックルをウエストポーチに戻す。
「それじゃ、撮影再開しまーす!
バイト君、あっちのヘルプ頼める?」
「あ、はい!」
声を掛けられたケイワは直ぐに立ち上がり、任せられた仕事をこなすために駆けて去っていく。
エースはその背に向かって言葉を投げ掛けた。
「タイクーン、この仕事の後予定はあるか?」
「え?いや、後は帰るだけかな…」
「だったら、少し頼みたいことがある。
今日一日、俺のマネージャーの補佐を引き受けてくれないか?」
「え?……うえええ!?」
.
.
.
.
突如としてキヴォトス最大のスターとして知られるエースのマネージャー補佐に任命されてしまったケイワ。
なんでも今日はいつも以上に仕事が多いせいでマネージャー一人では回しきれなくなってしまったらしい。
そのくらいなんとかなるように調整しておけというのは最もな指摘ではあるが、これこそがキヴォトスクオリティ…
何事においても行き当たりばったりなことが多いのだ。
グラビア撮影の次はドラマの収録だ。
今全自治区で有名な学園ラブコメディ…
『アカシックレコードブルース』
通称アカブルでエースは主人公であるヒロインの好きな人の役で出演しているらしい。
物語の衣装である学生服に身を包むエースはなんだか年相応な感じがして新鮮だ。
「よ~い…アクション!」カチンッ!
監督の声とカチンコの音が鳴り響き、ドラマの収録が始まる。
今、録っているシーンはドラマの終盤辺り…
主人公が好きな人に話があると呼び出されて待ち合わせ場所に辿り着いて…というシーンだ。
「せ、先輩…どうしたんですか?
こんなところに呼び出して…」
「………」ドンッ!
「きゃっ!せ、先輩?」
エース演じる先輩は女優さんが演じる主人公の問いには答えず、ずんずんと近付き壁際まで追い詰める。
そして主人公が背をつけている壁に向かって掌を打ち付ける、所謂壁ドンを仕掛ける。
困惑する主人公をよそに先輩は一言。
「お前を、誰にも渡したくなくなった…」
「…え?」
「この先、何度生まれ変わろうと…俺はきっと君のことを探し出す。」
「あっ…///」
先輩は主人公の顎をクイッと持ち上げて目を合わせる。
その視線が交錯するのもつかの間、徐々に顔を近付けて口付けを…
「カァーットォッ!オッケーでーす!」
する直前でカットがかかり、収録が終わりを迎える。
エースは演技モードから素に直ぐ戻ると、目の前の女優さんに短く労いの言葉を掛ける。
「おつかれ♪」
「は、はいぃぃ~……///」ペタン
女優さんは熱が引いていないのか、顔が赤いままへたりこんでしまった。
収録内容を鑑みれば非常に高い演技力だと思われるかもしれないが、恐らくあれはエースの演技力とイケメン力によって引き出された生の感情なのだ。
エースは演技の中で演者仲間を操り、誘導したのである。
「エース君、お疲れ様!はいこれ!」
「悪いな。」フキフキ
ケイワは収録を終えたエースにおしぼりを渡し、エースはそれを使って汗を拭く。
これで今日行なわれるシーンの収録は終わったので、エース達は次の現場に向かう。
.
.
.
.
次に行なわれるのはリフォーム番組の撮影を兼ねた改装された別荘の下見だ。
エース程にもなれば別荘の一つや二つは所持しているという事実に改めてケイワは面食らう。
「ジャグジーに、サウナに、シアタールームまで!?
すごい…これが超有名人の別荘…?」
「…そうだな、この部屋をプラネタリウムにでもするか。
すいません、お願いできますか?」
「へい、任せてくだせぇ!」
「こ、これ以上改装するの!?」
「どうせ住むなら楽しめる方が良い。だろ?」
そのエースの要望によってその場にいた職人達が早速作業に取り掛かる。
その様子を尻目に今度は番組のスタッフからのインタビューに答える。
「エースさんは別荘をいくつもご所有とのことですが、今回改装されているこの別荘は何軒目になるのでしょうか?」
「4軒目になります、5軒ある内の。
ここは一番友人を招く機会が多くなると思ったので、一番楽しめるようにと考えて改装を決めました。」
「なるほど。
ご友人というのは例えば?」
「仕事仲間がほとんどですかね。芸能関係もそうですし、ライダー関係の友人も。」
「ライダー関係のご友人と言えば最近、連邦生徒会防衛室長の不知火カヤさんとお食事をしたとのタレコミがあったのですが、不知火カヤさんとは一体どういったご関係なのでしょうか?」
「あの、あまり番組に関係のない質問は…」
「いいよ、隠すようなことでもないだろ?
とても仲の良い友人ですよ。
実は少し前に仕事で助けて貰ったので、お礼に食事に招待したんです。」
何を聞かれても臆することなく正直に答えていくエース。
その態度には自身には何も疚しいことはないという自信の現れが感じ取れた。
そのままインタビューは滞りなく進んでいき、やがて職人達に後は任せてエース達は次の現場に向かうのだった。
.
.
.
.
「ふぅ、疲れたぁ…」
「ご苦労様、長々と付き合わせて悪かったな。」
遂に全ての仕事を終えたケイワ。
あの後も様々な現場を転々とし、同じように撮影や収録などを体験していく内に補佐としての動き方をだんだんと理解して、終盤ではマネージャー顔負けの働きを見せてくれた。
エースはそんなケイワに労いの言葉と共に近くの自販機で買ったお茶を手渡す。
「あ、ううん!
凄く良い経験させて貰ったよ!
まぁ面接でスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズのマネージャー補佐を経験しましたなんて言っても信じて貰えないだろうけど…」
「ははっ、確かに…
まぁその時はこれでも証拠にすれば良いさ。」
そう言うとエースは自分のスパイダーフォンの画面をこちらに向けてきた。
そこに写し出されていたのはモモトークのQRコードだった。
まさか連絡先まで交換してくれるとは思っていなかったケイワは驚いてしまう。
「い、良いのエース君!?
芸能人は信用できる人以外と連絡先交換なんてしちゃいけないんじゃ…」
「ほう…もう俺はお前のことを信頼できる友人だと思ってるんだが、お前は違うのか?」
ケイワはエースのその言葉に更に驚く。なんだか彼には驚かされてばかりだったが、それだけ衝撃的なことに幾度と遭遇してきたということなのでご容赦願いたい。
しかし今回は驚きの他に嬉しい気持ちもあった。
「そんなことない!エース君は俺の友達だよ!
今、読み取るね!」
ケイワは自分のスパイダーフォンを取り出してQRコードを読み取る。
新たに登録された連絡先の名前を見てみればそこにはしっかりと『浮世エース』の名前が刻まれていた。
「うわぁ、すごいな…
姉ちゃんが知ったら羨ましがりそう…」
「へぇ、お前にも姉さんがいるのか。」
「エース君にもお姉さんがいるの?
俺、どんな人なのか気になるな~。」
「…」
その言葉を聞いてエースの頭の中に浮かんできたのは、鬼の形相(狐面で見えない筈だが何故か分かる)で短刀を振りかざして襲い掛かってくる姉の姿だったが、それを正直に言うのは憚られたので、好意的に見える部分だけを伝えることにした。
「俺の姉さんは…たまに欲に駈られた行動して周りを困らせる癖はあるが、礼儀正しくて、瀟洒な奥ゆかしい人だ。」
「へぇ、良いな~…うちの姉ちゃんとは大違いだよ。
部屋にはノックせずに入ってくるし、得意料理はカップ麺だし、お腹がすいたら嫌いな食べ物にだってがっつく位意地汚いんだよ?」
「ふっ、お前らは仲が良いんだな。なんだか羨ましいよ。」
「?…お姉さんとうまくいってないの?」
「……」
ケイワの質問にエースは押し黙ってしまう。
何か不味いことを聞いてしまったのかとケイワは直ぐに謝って忘れて欲しいと言おうとしたが、それより先にエースは語りだす。
「なんてことはない、よくある話だ。
昔、喧嘩別れしたってだけだ…
あっちはもう、俺のことを弟なんて思っちゃいないだろうな。」
「そんな…家族なのに…」
「家族って言っても色んな形がある。どこもかしこも仲良し家族ってわけにもいかないさ。」
それを聴いたケイワは何を言ったら良いのか分からず、俯いてしまうが直ぐに顔を上げてエースに向き合う。
「ねぇねぇ!
エース君のお姉さんって学園の生徒だよね!?
どこの学園に通ってるの!?」
「お、おお…百鬼夜行連合だけど…」
「分かった!
じゃあ俺が百鬼夜行の自治区に行ってお姉さんを探してくるよ!」
「なに…?」
「それで二人ともちゃんと会って話せば仲直りできるよきっと!」
ケイワは突然持ち直したかと思えばとんでもないことを言い始めた。
就活(厳密に言えば違うが似てるのでそう呼ばれる)で忙しい身にも関わらず、エース達姉弟の仲を取り持つ為に百鬼夜行に行くというのだ。
「ちょうど百鬼夜行でもライダーの募集をやってるみたいだから、それに応募すれば自治区に入る許可は貰えると思うし…」
「おい、タイクーン…」
完全に乗り気になっているケイワにエースは難色を示す。
それもそうだろう、普通の生徒であればそれでなんとかなるかもしれないがエースの姉である狐坂ワカモに関しては状況が違う。
そもそもワカモは百鬼夜行に席を置いてはいるものの、停学中の上にれっきとした犯罪者だ。
捕まらないように各地を転々としているワカモが百鬼夜行で見つかる筈はないのだから、ケイワのやろうとしていることは全くの無駄骨になるだろう。
しかしそれをケイワに言うことはエースには出来なかった。
もし浮世エースの姉がキヴォトス屈指のテロリストだということがバレれば、大きなスキャンダルになるだろう。
そうなったら…
(そうなったら俺の元所属の連邦生徒会や現所属のシャーレにも、何かしらの累が及びかねない…
それは俺の望むところじゃない…)
今まで私兵としてエースの力を振るっていた連邦生徒会やできたばかりで手探り状態のシャーレにこれ以上不信感が募るようなことは避けたい。
ケイワのことを信用しているとは言ったがそれは働きに関してであって、人としてはまだ交流が浅いためになんとも言えない。
絶対に口外しないという確信が持てない以上は、このことは話せないのだ。
「よ~し!
そうと決まったら帰って履歴書用意しなきゃ!
エース君!
絶対お姉さんと仲直りさせてあげるから!
それじゃあね!」
『BOOSTRIKER』
ケイワはブーストバックルを操作してブーストライカーを呼び出し、跨がってエンジンを始動させる。
そしてそのまま走りだし、ケイワはあっという間に夜の街の闇の中に消えていってしまった。
「…まったく、化かす筈が逆に振り回されるとは…
今日の俺の運勢は大凶だな…」
エースは独り言ちる。
ケイワの善良さの丈を見誤ってしまったことで元々の目的を達成することが出来なかったことを。
エースがケイワにマネージャー補佐の仕事を依頼したのには実はちゃんとした理由がある。
マネージャー補佐として長い時間を共にすることでケイワの信用を得て、こちらの要求を呑んで貰いやすくするためだ。その要求とは…
「順調に行けばアイツのブーストバックルを頂けると思ったんだが…」
エースの目的は最初から、ケイワの所有するブーストバックルだった。
エースは言葉巧みにケイワを懐柔することで、ブーストバックルを奪ってしまおうと考えていたのである。
エースは今、ある事情でブーストバックルを多く所持しておきたい立場にある。その為にケイワが持て余していたブーストバックルを手に入れることでその頭数を増やそうとしたのだ。
しかし、結果的にその目論みは失敗してしまったというわけである。
「仕方ないな、今回は諦めるか。」
エースはそう言うと手に持っていた缶コーヒーを一気に煽った後、帰り支度を始める。
今はまだ焦る必要はない、ゆっくりと気長に集めることにしよう。
自身の求めている力は、常に手が届く場所にあるのだからと心で言い聞かせながら、エースはそう思うことにしたのだった。
─────────────────────────
『それで次に受ける試験を百鬼夜行に決めたってこと?』
「うん、やっぱり家族は仲良しでなきゃでしょ!」
『まったく我が弟ながらとんだお人好しだねぇ、ケイワは…
分かってる?
アンタは人助けのついでで、今後の自分の立場を左右する所属学園を決めようとしてるんだよ?』
ケイワは現在住んでいるアパートに戻った後、姉には事の経緯を一部暈して伝えていた。
そして思った通りの反応をされて少し苦笑する。
「分かってる。
それでも友達が後悔して苦しんでるのを見過ごすわけにはいかないよ。
それにさ、なんでかは良く分かんないけど!
俺、百鬼夜行でなら上手くやっていけると思うんだよね!」
『その根拠のない自信はどっから湧いてくるのやら…
まぁ良いと思うよ、それがケイワの本当にやりたいことなら姉ちゃん応援してあげる!
頑張りなよ!』
「…うん、ありがとう姉ちゃん!」ピッ
「さてと、百鬼夜行の試験会場は…」
姉への報告を終えてすぐにケイワは机の上に資料を広げて百鬼夜行の試験について調べ始める。
エースはできたばかりではあるが大切な友人の一人であり、その為に尽力したいと考えるのはケイワにとっては当然のことだ。
絶対に彼の姉を探しだして姉弟の間に生まれた軋轢を失くしてみせる…そう意気込んで応募用紙に名前を書き込んでいると突然ドアチャイムの音が鳴り響いた。
ピーンポーン
「誰だろこんな時間に…はーい!」
タッタッタッ ガチャッ
ケイワは立ち上がって玄関へと進み、なんの警戒もなくドアを開ける。
こんな治安が終わってる都市でそんなことをすれば、即無力化されて部屋に侵入されて金品を奪われかねないが、幸運にも今回はそんな事態は起こらなかった。
何故ならドアの前にいたのは強盗などではなく一人の少女だったからだ。
「あれ、君ってあの時の…」
「こんばんはでございます♪」
その少女をケイワは見覚えがあった。
忘れもしない、とても特徴的な狐の仮面を持っていたから良く覚えている。
ヴァルキューレの面接試験に落ちたあの日にぶつかってしまった黒い制服の少女だった。
今は黒い制服ではなく綺麗な桜色の着物姿という出で立ちで、まるで大和撫子のようだ。
「先日はお世話になったにも関わらず、ろくに御礼もせず立ち去ってしまい申し訳ありません…
本日は改めて御礼をさせて頂きたく思いまして…」
「そんな…気にしなくて良いのに。」
因みにこのケイワという男、何故自分の住むアパートをただぶつかっただけの少女が知っているのかという真っ当な疑問は頭からすっぽ抜けているようである。
まぁ下手に気にしたらなにをするか分からないので、これがある種の正解なのだろう。
「いえ、それでは私の気が済みませんわ。
なにかお力になれることはございませんか?」
「ええ…?
急にそんなこと言われても…」
突然現れた美少女からの申し出に、ケイワは頭が回らずタジタジになってしまう。
そこでケイワはまだお互いに名前も知らないということを思いだし、話を逸らす意味も込めて提案をする。
「え、えっと…俺、桜井ケイワっていうんだ。
君の名前は?」
「まぁ、これは御丁寧に。素敵な御名前ですわね…」
少女は一度言葉を区切り、深呼吸をすると今度はこちらの番とばかりにケイワに自身の名を明かす。
自分の素性について気付いてほしくなくて、ほんの細やかな抵抗のつもりで苗字は名乗らずに。
「私はワカモと申します。以後お見知り置きを…」
これが、後にこのキヴォトスで繰り広げられる大少様々な事件に巻き込まれることになる二人の初めての本格的な邂逅となった。
この二人を待ち受けるのは試練か、それとも後悔か。
その行く末はまだ誰にも分からない…
次回
懺悔I:アビドス対策委員会