BLUE×HIGHLIGHT   作:仮面ライダー四季鬼

8 / 10


「ケイワ様、そろそろお食事のご準備が…」

「ごめん、ワカモちゃん!急に用事出来ちゃってッ!ご飯ラップしてて貰える!?鍵ここに置いとくね!閉めたらポストに入れといてくれれば良いから!」ドタタタッガチャッバン!

「…あ…いってらっしゃいませ…」





「……合鍵、頂戴してしまいました♡」


懺悔III:渾身の一矢!ブーストアロー!

 

 

アビドス高等学校3年にして、アビドス対策委員会の委員長であるホシノは自分の見積もりが甘かったことを、実働部隊の後輩三人を自身の盾で守りながら呪っていた。

はぐれライダーを傭兵として雇っている可能性は考えるべきだった…

 

「こんなボロッちい学校潰すだけでたんまり稼げるとは、世の中まだまだ捨てたもんじゃねえなぁッ!!!!」

 

肩に担いだバズーカを乱射している、腹まで続く長い鼻が特徴的な象のライダーが高らかに豪語している様を見ながら、ホシノは心の中でそうごちる。

カタカタヘルメット団の連中に関してはやはりと言うべきか、先生の的確な指揮もあって対した損害もなく対応することができた。

 

だがしかし、少し先に行った場所…恐らくは別動隊が向かったヘルメット団の前哨基地から大きな砲煙が昇ったのを団員達が視認した途端、切り札を切るという旨の発言の後に撤退を開始。

 

引き返していく団員達を掻き分けながらこちらに向かってきた一人の男がドライバーを装着した瞬間、嫌な予感がしたホシノは急いでシロコ、ノノミ、セリカの三人を自らの元に呼び寄せて折り畳んでいた盾を展開することで全員の身を守る準備を整えた途端、盾とそれを構え支えている左腕に大きな衝撃が伝わった。

 

(バズーカレイズバックル…

殺傷力が有りすぎて使用禁止になった筈だけど…

ま、悪党にそんなの関係ないか…)

 

ホシノは盾の上から覗き見た象のライダーの装備やその破壊力から、使用されているのは違法指定されたバズーカレイズバックルだと検討付けた。

そんな危険なバックルを持ったライダーを相手に盾役である自分が迂闊に動くわけにもいかず、万が一のことを考えると後輩達に動いて貰うわけにもいかず、こうしてこの膠着状態が出来上がったわけである。

幸いにもホシノの持つ盾は特別製だ。如何にバズーカレイズバックルの強大な火力をあったとしても、その堅牢な防御力を破るのはそう容易いものではない。

 

しかし、校舎はそうはいかない。

ライダーが乱射しているバズーカの弾頭は、今は運良く校舎に当たらずに済んでいるが、あれがもし直撃してしまえば倒壊する危険性が大きく高まる。

そうなれば、オペレーターのアヤネや指揮をしてくれている先生の命を脅かしかねない。

そうとなればとるべき選択肢は一つだ。

 

「ノノミちゃん、次にあいつが弾切れを起こしたらこの盾を支える役を交代して貰いたいんだけど、頼めるかな…?」

 

「うぅ~ん、質問の返答次第でしょうか。

なにをなさるおつもりなんですか?」

 

「流石にずっとこのままってわけにもいかないからねぇ…

 

心配しなくても、ちょっとおじさんに釘付けになって貰うだけだよ。」

 

「なら駄目ですね。

そんな危険な役目をホシノ先輩一人に背負わせたりなんて出来ません☆」

 

それはつまり良く言えば陽動、悪く言えば囮ということだ。

盾から飛び出して攻撃の目を自分に向けさせることで、校舎や後輩達に危険が及ぶ可能性を出来る限り少なくさせる。

その危険性は段違いであり、下手をすれば取り返しのつかない事態に発展するかもしれないホシノの選択をノノミは容認しかねた。

 

「いやぁ、先輩想いの可愛い後輩に育ってくれておじさん嬉しいよぉ…

 

(でも誰かがやらなきゃいけないことだからね…)

 

…じゃあ、渡さなきゃいけない物があるからさ…手、出して?」

 

しかし、ホシノの腹は既に決まっていた。

現状、あの砲撃の嵐を越えていける確かな実力を備えているのは自分しかいないし、なによりあのような金で雇われただけの子悪党に、大切な学校を壊されるのは実に腹に据えかねる。

だからホシノは、その為にちょっとした悪戯に踏み切る。

 

「?はい…きゃっ!」

 

「ほいっとぉ…それじゃあ任せた~!」ダッ…!

 

「ホシノ先輩ッ…!!」

 

「駄目、今行ったら丸焦げにされる…」

 

ホシノは受け取ろうとしたノノミの腕を掴んで、無理矢理盾の持ち手を握らせた瞬間、盾の影から飛び出し、駆け出していく。

思わずセリカが後を追って飛び出していこうとするが、咄嗟にシロコが手を掴んで制止する。

ホシノが飛び出したタイミングは、バズーカの爆撃が収まってから装填を終えて再爆撃が始まるギリギリの瞬間だった。ホシノ以外のメンバーが飛び出せばシロコの懸念通り、爆撃をもろに喰らってアビドス生徒製ステーキの出来上がりだ。

 

『"シロコっ!ドローンを使って援護!

出来る限りホシノへの直撃を防ぐんだ!"』

 

「了解…ユニット起動。」

 

先生の指示に従い、シロコは鞄に仕舞っていた自身が所有するドローンを起動して上空へ飛ばす。

ドローンは勢い良く飛び上がると同時に取り付けられていたコンテナからミサイルを発射。

ホシノに当たる確率が高い弾頭一つ一つを撃ち落としていくが、しかしミサイルでは全てを撃ち落とすことは難しく、何発かは撃ち漏らす。

 

「ほいっ、ほぃっ、ほいっと!」

 

バンッ!バンッ!バンッ!

 

「チッ、ちょこまかと鬱陶しい!」

 

ホシノは縦横無尽に駆け回りながら、持ち出しておいた盾に格納していた拳銃を使って撃ち漏らされたバズーカの弾頭を次々に処理していく。

その様子に象のライダーは業を煮やしたのか、ホシノの思惑通り走り回る彼女に大まかな狙いを定める。

すると学園全体に向けられていた弾幕が薄まり、ある程度は動けるようになった。

 

「これならホシノ先輩の援護に…!」

 

『"いや、駄目だ。"』

 

「はぁっ!?なんでよ!」

 

しかし、先生は動けるようになったにも関わらずセリカ達に待機命令を出す。それはホシノの実力に裏打ちされたある事実を見通してのことだった。

 

『"ホシノはあの弾幕を潜り抜けるのに全神経を集中させてる。

それは、守るべき対象の君達に意識を割く必要がないからこそ出来ることなんだ。"』

 

「…ッ!」

 

『"今出て行ったら、ホシノの動きは一気に鈍くなる。

 

いざとなったら、本気で自分の身を砲火に晒してでも君達を守り兼ねない。"』

 

先生はアビドスの皆と過ごしたこの数日の間だけでも、全員の大体の性格は理解できていた。

ホシノは普段はいい加減な風を装ってはいつつも、仲間達を想う気持ちはそれこそ自分のことなど二の次にしてしまえる位に強い。

そんな彼女が危険すぎる状況に飛び込んだ後輩に意識を向けない訳がない。

そしてその集中力が途切れれば…敵の業火によってホシノの身体は一瞬で灰になってしまうことだろう。

 

『"アヤネに別働隊へ連絡を取って貰ったから、もうすぐエース達が戻ってきてくれる。

それまで持ち堪えるんだ。"」

 

「了解。」「了解です☆」

 

「えっ、ちょ…あぁもう!」

 

.

 

.

 

.

 

.

 

「……あぁもう!おい、スーパースター!

アンタが呼んだ助っ人はまだ来ないのか!?

このままじゃアビドスがっ…!」

 

「そう焦るな。

かの有名な薩摩藩士、西郷隆盛は言った。

『急速は事を破り、寧耐は事を成す』ってな。

焦って行動するとろくなことにならないぞ?」

 

腕を組みながら右往左往して、苛つきを隠さず顕にしているカナトとは対照的にエースはコインを弄りながら、笑みを浮かべたままだった。

偉人の言葉を引用してアドバイスをする余裕まである。

 

「蘊蓄を聞いてやる時間はないんだよっ!

くそっ…!」

 

しかしカナトはそんなエースの様子に益々苛立ちを募らせてしまう。エースがケイワに電話を掛けてから十数分程度の時間が経っている。

普通に友人を待っているだけだとすればそこまで時間が掛かっている訳ではないが、今回はカナトの所属するアビドスに危険が迫っている状況だ。焦りと怒りで感情の抑制が利きづらくなっても仕方はないのかもしれない。

 

「…なんだか意外だな。」

 

「あぁ…?」

 

「そこまで長く関わっちゃいないが、それでもお前がどんな性格か、どんな事柄に重きを置いているか位は知ったつもりだ。

だから思ったのさ、お前みたいな奴がそこまでアビドスに肩入れしてるのが意外だってな。」

 

「…………」

 

「何がお前をそんなに駆り立てるんだ?

黒見セリカの名を溢していたことと何か関係でもあるのか…?」

 

「……アンタに話す義理はない。」

 

少しでも気が紛れるようにちょっとした雑談を振ってみたつもりのエースだったが、どうやら話題のチョイスを間違えてしまったらしい。

先程までの苛ついた様子もついに鳴りを潜めてしまい、二人の間に気まずい静寂が訪れる。

 

すると、その静寂を切り裂くように遠方からバイクの走行音が響いてくる。

どうやら待ち人がやって来たらしい。ブーストライカーに股がった優男が此方に向かっているのが確認できた。

仮面ライダータイクーンこと桜井ケイワ、今回呼んだ助っ人だ。

ケイワは二人の目の前で、ブーストライカーを停止させて声を掛ける。

 

「ごめん!お待たせ!

急ぐなら早く乗って!」

 

「…チッ……おい!

何をモタモタしてんだよ!」

 

「…ふ~む…お、あそこでいいか…」

 

カナトは返事を返すことはせず、ブーストライカーの後ろに乗り込もうとしたが、エースは周りを見渡すようにしていて、一向に乗り込む気配を見せなかった。

そんな様子のエースにカナトは声を荒げ、ケイワは困惑の声をあげる。

 

「エースくん!?

早く行かなきゃなんじゃないの!?」

 

「…タイクーン、ハンドル借りるぞ。」

 

「え、あ、ちょっと!?」

 

「二人とも、しっかり捕まってろ。」

 

エースはケイワからブーストライカーのハンドルを奪って股がり、ケイワを後ろに追いやりながらそう言うと、エースは思いっきりエンジンを吹かして猛スピードで発進させる。

いきなりの発進によってケイワとカナトの二人は驚きを顕にするが、それ以上にカナトにとって看過できない行動をエースは執っていた。

 

「ちょっと待てよッ…!

アビドスの方向はそっちじゃない!

まさかお前逃げっ…!「舌を噛むぞ。」なっ…!!」

 

その言葉を皮切りにエースはただでさえ速いスピードを更に上昇させる。

その走りの矛先はアビドスへの道行きではなく、すぐ近くの高層ビルに向かっていた。

バイクのマフラー部分に相当するボンバーエグゾーストから超高密度のエネルギーを瞬間的に噴射することで、ブーストライカーの車体は高く舞い上がる。急拵えのサイドカーを装着したまま、三人の男性を乗せた状態でそれができるブーストライカーの性能足るや、驚愕に値するだろうがエースはそれ以上に驚きの行動を起こす。

 

ガシャァァァァァンッ!!

ガガガガガガガガガガガッ!!

 

「な、なにッ!!?」

 

「ビ、ビルを…登ってるぅぅ!!?」

 

飛び上がった先のビルの壁に着地(着壁?)したかと思えば、そのまま加速を維持することで壁面を走行し始めたのだ。ケイワは自分がただの交通手段として用いていたバイクがとんでもない使われ方をされているのに面食らってしまう。

 

「ちょっとした絶叫マシンだな。二人は得意か?」

 

「そそそそんなこと言ってる場合じゃないでしょ~!?

お、落ちるぅぅぅ~!!!」

 

エースはこんな状況でさえ軽口を飛ばすが、二人はそれに応える余裕もなくケイワは恐怖から絶叫を上げて、カナトは自分の乗る急拵えのサイドカーが無茶な運転に耐えかねて破損しないように、黙ってじっとしていることしかできなかった。

そうしている間に三人を乗せたブーストライカーはどんどんビルの最上部へと近付いていき…

 

ブオオォォォォオンッ!!!!

 

キキィィィィイッ!

 

ブーストライカーは大きく飛び出し、三人が一瞬の浮遊感に包まれたかと思えば次の瞬間には屋上に勢い良く着地していた。

ブーストライカーの車体はあんな無茶な運転をしたにも関わらず傷一つなかったが、サイドカーの方はカナトが降りた瞬間バラバラになってしまった。

エースはブーストライカーから降りると改めて先程と同じように周りを見渡す。

 

「…よし、やっぱりここが最適だな。」

 

「はぁ…はぁ…え、エースくん…

こんなところに来てどうす「いい加減にしろッ!!」…ひぃ!!」

 

「訳の分かんない事ばかりしやがって!!

僕は早くアビドスに戻んなきゃなんだよッ!!」

 

焦って行動したサエからは置き去りにされ、ただでさえまだ信用できない存在であるエースの伝手を借りなければいけない状況に立たされ、当のエースはこんな非常時に飄々としながら、真意の読み取れない行動を起こす。

フラストレーションが溜まり続ける状況の中でとうとう堪忍袋の緒が切れたカナトはエースの胸倉を掴んで威圧した。

 

「ちょ、ちょっと待って!

喧嘩なんてしてる場合じゃないんでしょ!?

一旦落ち着こうよ!ね?」

 

「うるさいッ!!

アンタに何が分かるんだよっ!!」

 

今にも殴り掛からんという様子のカナトだったが、ケイワが二人の間に入って仲裁する。

しかし、この場において一番の部外者である所のケイワからそんなことを言われても火に油だった。しかしそれでもケイワは怯みつつも説得をやめなかった。

 

「え、エースくんには何か考えがあるんじゃないかな!?

なんの理由もなくあんなことするわけないんだし…

そうだよねエースくん!」

 

言外にそうだと言ってくれと目で語っているケイワの様子に少々悪戯心が刺激されそうになるエースだったが、流石にこれ以上怒らせれば、今からやろうとしている作戦に支障が出かねない。

エースは正直に行動の理由を話すことにした。

 

「あぁ、アビドスに戻るのは…

此処でやれることをやってからでも遅くはないだろ?」

 

「?…此処からアビドスを助けられるって言いたいわけ?」

 

「あぁ、俺達全員の力を合わせればな。

 

ところでお前ら…

かの剛勇無双と謳われた武将、『鎮西八郎』を知ってるか?」

 

.

 

.

 

.

 

.

 

さて、どうしたものかと、ホシノは自身を狙って放たれ続ける砲弾を巧みに躱しながら、思考を巡らせる。ライダーの装甲は使用するバックルに大きく依存しており、アームドバックルによるその恩恵は非常に微々たるものではあるのだが、それでも決して紙装甲な訳ではない。

むしろ、生徒達が身体的にも政治的にも強い力を得ているこのキヴォトスにおいて、それと比肩する立場を得ていることからも分かる通り、並大抵の攻撃では歯が立たないと言っても良いだろう。

 

ホシノの愛銃であるショットガン、『eye of Horus』は普段から欠かさなかった整備の賜物か、常に高水準の火力を誇っている至高の逸品…

それを超至近距離で撃ち放つことでベルトを弾き飛ばして無力化する、決定打になるとすればそれだ。

そうと決まれば善は急げ、ホシノは弾切れになったサブ武器の拳銃を投げ捨て、愛銃を構えながら吶喊する。

ホシノはやや小柄な自身の体躯を活かして、バズーカの弾頭の雨をすり抜けながら足早に駆けていく。

 

自分に向かって突き進んでくるホシノに危機感を抱いたのか、象のライダーは懐からもう一つのバックルを取り出し、ドライバーに填めようとするも、その為にバズーカの砲撃を一瞬中断した隙を、ホシノは見逃さなかった。

 

「ほい、隙あり…っと!」

 

「な…!?」

 

ドパンッ!!

 

ホシノはその一瞬のうちにライダーの懐に入り、填めようとしたバックルごとドライバーに愛銃を突き付け、撃ち放つ。至近距離でショットガンの直撃を喰らったバックルは弾き飛ばされると同時に使用不能になったことが一目で分かる程粉々に破壊された。

だがしかし…

 

「ありゃ?」

 

「このガキっ…!」ブンッ!!

 

「おっとと…!」

(おっかしいな~…

前はこれでなんとかなってたのに…)

 

バックルと共にショットガンの直撃を喰らった筈のドライバーは弾き飛ばされるでもなく、破壊されるでもなくまだライダーの腰に装着されたまま。

見た感じほんの少し傷が付いた程度。

どうやら、ここ1、2年の間にドライバーの耐久性が上がったようだ。

ホシノは今までの方法が通用しなくなったことを憂鬱に感じながら、横凪に振るわれたバズーカを膝滑りで回避する。

 

「ほいっ!」ドパンッ!!

 

そしてそんな重たいものを振り回せば、体勢は余程の体感がない限りは崩れる。体勢をノロノロと立て直そうとするライダーのそのお粗末な背中に、素早く射撃体勢を整えたホシノはショットガンを放つ。

ダメージはない。

最初に述べた通り、たとえアームドバックルの軽鎧だろうと、ライダーの装甲は堅牢だ。

しかし、衝撃自体を打ち消せるわけではない。

どんなに強固な防御力を持っていても、殴られた感触自体は感じ取れるようにダメージと衝撃はイコールではないのだ。

そして衝撃さえ伝えられるのなら、ダメージを与えられずとも無力化する方法などいくらでもある。

ショットガンの衝撃によって大きく仰け反ったライダーに向けてホシノは…

 

「ふっ…!」ガンッ!!

 

「がふっ…!」

 

逆に持ち替えたショットガンのストック部分を思いっきり振り抜いた。

それも頭部に。

頭部は衝撃を加えれば、簡単に脳震盪を起こすことができる。

悪くすれば脳に損傷を受ける可能性もあるが、そこはライダーの生命維持機構が働くので心配はない。

 

「ぁ…ぁぁ…」ヨロッ…

 

「お~しまいっと…!」

 

ドパンッ!! ドパンッ!! ドパンッ!!

 

軽い脳震盪を起こしたことで前後不覚になった象のライダーに即座に蹴り倒し、足で押さえ付けながらその無防備な頭にショットガンの銃口を向けて容赦なく連射する。

少々刺激的すぎる光景だろうが、生徒がライダーを無力化する為にはやりすぎるくらいが丁度良い。

 

繰り返し与えられ続ける衝撃によって象のライダーは、完全に気を失ったらしくピクリとも動かなくなった。ホシノはうつ伏せのライダーを蹴って仰向けにした後、バックルとIDコアを引き抜いて変身を解除させる。

これにて一件落着、ホシノはライダーの無力化に成功した。

後は待機している後輩達に拘束用の縄かなにかを持ってきて貰おう。

ここに来てようやくドッと疲れを自覚する。

時間にしてみればとても短い時間であったが、ライダーと相対するのはそれ程までに気を張るものだ。

 

「ホシノ先輩!無事~?!」

 

「あ~だいじょぶだいじょぶ~。

あ、なんか縛れるものな~い?

パパッと拘束しちゃうからさ~。」

 

後輩達が待機状態を解いて此方に駆け寄ってくる。盾を無理矢理任せたのが功を奏したのか、誰一人怪我をしている様子もなくホシノはひっそりと心の中で安堵した。

しかし、バズーカバックルの広範囲爆撃には手を焼いたものの、象のライダー本人の実力はお世辞にも高いものではなかった。それなのにヘルメット団の連中からは切り札などと呼ばれて温存されていたというのには、些か引っ掛かるものをホシノは感じていた。

もっと強力なバックルを持っているのかと思えば、さっき取り出していたバックルはシールドバックルという、どちらかと言えば防御寄りのバックルだったことも拍車をかける。

 

(ただヘルメット団の見る目がなかっただけ…?

一応警戒はまだしておいた方が…)

 

『ホシノ先輩ッ…!!後ろッ!!』

 

「えっ…?」

 

思案に耽っていたホシノの意識を、耳につけた通信機から聞こえた先程とは違う悲痛な心情を孕んだ呼び掛けが引き戻す。

後輩達の目線は全員、自分の後ろ方向に注がれているのに気付いたホシノが振り返ると…

 

KNUCKLE STRIKE

 

そこには、ガゼルの意匠が施されたライダーが紫色の巨大な拳を振るおうとしている瞬間だった。

避けられないと瞬時に察知したホシノは少しでもダメージを軽減する為に後ろに少し飛びながら腕を交差させて防御姿勢をとる。

しかしこんなものは気休めだ。

パンチを受けるであろう両腕は少なくないダメージを負うことになるだろう。

 

(どっちにしろ、しばらくは前線には立てないね…

あ~あ、ドジっちゃったな~…)

 

危機的状況の中にいるせいか、思考が加速したことでホシノは目の前から迫ってくる拳がスローモーションに見えていた。

ゆっくりゆっくり迫ってくる拳を見つめながら、ホシノはどうせだったら身体も同じくらい速くなってくれれば避けられたのにな…などと考えていたその時、ふとスローになっていた視界の端に見知った誰かが見えた気がした。

 

ドォォォォォンッ!!

 

「そんな……ホシノ先輩が……」

 

ガゼルのライダーの拳撃によって起きた大きな衝撃で、その場には高い土煙が上がる。

響き渡る轟音はその威力を如実に物語っており、それを受けた人物がいるとすればダメージは絶大であったことだろう。

それが分かる後輩達は土煙の向こうの惨状を幻視して茫然としてしまうが、ただ一人…シロコだけは別の方向を見ながらうっすらと余裕の笑みを浮かべていた。

 

次の瞬間、土煙がほんの少し形を変え、その場所から一つの影が飛び出してくる。

その影は真っ直ぐシロコ達のもとへと向かっていき、そしてそのままシロコの隣に立つ。

そこに立っていたのは、ホシノを小脇に抱えた仮面ライダーロポ…我那覇サエだった。

 

「ん…ちょっと来るの遅い。」

 

「そう?

これでもバイクすっ飛ばして来たんだけど。」

 

「いやいや~、ナイスタイミングだよサエさ~ん。

おかげでおじさんのおてて、チョベリバにならずに済んだもんね~。」

 

中々帰還に時間が掛かったことに少し苦言を呈したシロコだったが、それを小脇に抱えられたままのホシノが手をぷらぷらさせながらフォローする。

実際、最悪の状況を未然に防ぐことができたことを思えば、到着が遅すぎたとはあまり言えないだろう。

 

『"二人で活動してる傭兵だったってことだね。

本来は一人が後衛で援護、前衛が遊撃をするコンビネーションを売りにしてたんだろうけど…"』

 

『私達の現状や規模を聞いて侮った。

だから一人で襲ってきた、ということでしょう…』

 

オペレーターの二人もホシノと同じ懸念を抱いていたらしく、傭兵ライダーに関しての考察を投げる。実に舐められた話だとサエは苛つきを隠せないでいた。大切な家族に手を出したこともそうだが、舐められたままではプライドが許さないのだ。

腕の中でだらけ始めたホシノをノノミに引き渡し、サエは腕を鳴らしながら戦闘態勢を整える。

 

「チッ、仕留め損ねたか…」

 

 

「アンタ達は下がってて…」

 

(ガゼル…

牛のライダーじゃなかったみたいね…)

 

遠目に見た時に角のようなものが見えた時は少し肝が冷えてしまったが、どうやら自身を襲った強者である牛のライダーではなかったことにサエはほんの少し安堵する。しかしだからと言って油断も容赦もするつもりはない。家族に手を掛けようとした時点でサエは相手をぶっちぎる気満々だった。

 

ピピッ

 

『ロポ、聴こえてるか?』

 

「エース?」

 

ガゼルのライダーの拳をいなしながら、突然のエースからの通信に耳を傾ける。何処から掛けているのかと考えてふと気付く。

そういえば二人を乗せるのをすっかり忘れていた。焦っていたとはいえ普段ならばあり得ない失敗をしてしまったことをサエは自覚する。

 

「あ~…ごめん。」

 

『ふっ…心配するな、こっちはこっちでなんとかなる。

それより、今から指定するポイントに敵を誘い込め。

それで大体の方が付く。』

 

「どういうこと…?」

 

『マジックはタネを知らないから楽しめる…そうだろ?』

 

どうやら詳しく語るつもりはないらしい。正直言って詳細も何も分からない作戦に乗っかるのはリスクしかないように思えて気が進まないが、このままではどうせ地道な殴り合いを制しなければならない。

それよりは多少、目処が立っているだろう策に乗るのも一つの選択だろう。

 

「まったく…

これでショボいの見せたら承知しないからね…ッ!」

 

.

 

.

 

.

 

.

 

「よし…ロポが誘導を開始した。ダパーン、タイクーン。準備は良いか?」

 

「俺は大丈夫。でも…本当に俺がやるの?

エース君の方が確実なんじゃ…」

 

「そうするとアンタの手持ちバックルを全部そいつに渡すことになる。

借りパクされる危険性を少しは考えろよ。」

 

「え、えぇ…?」

 

先程エースが通信を終了したのを皮切りに、高層ビルの屋上で三人は並んで立ちながらエースが立てた作戦の準備を整えていた。

この短い時間でコミュニケーションなどとれる筈もないので、この急造チームで作戦を成功させなければならない。

しかし、ケイワは先行きへの不安を感じていた。

 

「ふっ、心配するな…俺が立てた作戦なんだ。

きっと成功するさ。さ、いくぞ。」

 

『SET』

 

「ちっ…成功してくれなきゃ困るんだよ。」

 

『SET』

 

「…あ~もう!こうなったらヤケだ!」

 

『『SET』』

 

「「「変身!」」」

 

ARMED SPEAR

 

『~♪ MAGNUM

 

『DUAL ON

~♪ BOOST ARMED ARROW

 

『READY FIGHT』

 

エースは声をかけるとドライバーにスピアレイズバックルをセットし、いつもの狐の手を作ってフィンガースナップ、カナトもマグナムバックルをセットしてポーズをとる。

それに合わせてケイワも左側にブーストバックル、右側にアローバックルをセットし、左に交差して突き出した腕をゆっくりと右側に回して最後に右腕を左下に伸ばし、左腕を右肩辺りに沿わせるポーズをとる。

そして最後に全員がバックルを操作し、変身が完了した。

 

「まずは手順、その一。ダパーン!」

 

RIFLE

 

「弾道計算、着弾予測時間の捻出を開始…」スチャッ

 

マグナムフォームとなったダパーンことカナトはマグナムシューターのライフルモードで、ポイントの位置に狙いを定める。しかしそれはカナトが狙撃をするためではない。

 

「手順その二だ。タイクーン!」

 

「りょ、了解!」ガチャンッ!

 

『REVOLVE ON』

 

ブォンブォーン!!

 

BOOST TIME

 

その後ケイワはドライバーを回転させてリボルブオンを発動し、上下の装甲を入れ替えながらブーストバックルのアクセルを二度吹かす。

すると、ケイワの手に召喚されていたアローバックルの拡張武装であるレイズアローが腕部にある「ブーストパンチャー」の効果によって更に機能が拡張、強化された巨大な機械弓に変形する。

 

「手順その三!」カチャッ

 

SPEAR STRIKE

 

ギーツに変身したエースはバックルを操作して必殺技を発動。エースが握っていた槍にエネルギーが流れ込んでいき、やがて大きな光の槍へと姿を変えていった。

その閃槍をエースは突くでもなく、投げるでもなく…隣で機械弓を構えたケイワに手渡す。

 

ガァンッ! ギ,ギギギギー!!

 

「う、うわぁっ!!おっととと…!」

 

ケイワはその手渡された閃槍を機械弓に矢のようにつがえる。凄まじいエネルギーの奔流をその身に宿した機械弓は大きく軋みを上げ、その負荷によってケイワも振り回されそうになってしまう。

 

「気を付けろタイクーン。

一発しかない、外したらもう打つ手はないぞ。」

 

「プレッシャーになるようなこと言わないでよもう…ッ!!」

 

右往左往しているケイワにエースはニヤッとした笑みを浮かべながら、悪戯に声をかける。ケイワにとって気が気ではない状況に対して少し悪趣味だが、これがある意味では発破になったのか、ケイワはブーストフォームによって大幅に上昇したスペックをフル活用して暴れまわる機械弓を抑え込み、射撃体勢への移行に成功した。

 

「ごめん…!

あまり長くもたないと思う…!」

 

「ダパーン、首尾は?」

 

「良好、後はサエがポイントに誘い込むだけだ。」

 

ダパーンの弾道計算と着弾予測時間の捻出が完了したことにより、後はサエの誘導を待つばかりとなった。

しかしうかうかしてはいられない。いくらブーストフォームの底上げされたスペックでも本体のブースト技にまた別の必殺技の力を加えた強烈なエネルギーをいつまでも抑えておける筈もない。

このままでは行き場を失ったエネルギーが暴発し、ここら辺一帯が焦土となってしまう。

そうなればエース達もただではすまない、少なくとも黒焦げになる程度で済む筈はないだろう。しかし、そんな危機的状況の中でもエースは狐の仮面の下でにやりとした笑みを浮かべていた。

 

「さぁ、ここからが…ハイライトだ。」

 

.

 

.

 

.

 

.

 

サエは腕のブーストを噴射させ、一気に敵との距離を詰める。敵は此方の加速に合わせ、顔面を狙って拳を振るうが咄嗟に首を傾けて回避し、伸びきった腕を掴んで背負い投げを行なう。

しかし相手はしっかりと受け身をとり、その上で拘束されてない方の腕で拳を放つ。無理な体勢で放ったためにそこまでの威力はないがそれでもロポを少しよろけさせる。

その隙に敵は拘束を抜けて立ち上がり、拳を構える。

此方に対して身体を斜めに構え、左の腕と脚を前にするその独特の姿勢。

ボクシングのオーソドックススタイルだ。

 

「傭兵が格闘家気取り?

笑わせるわね。」

 

「気取りなのは否定しないぜ?

なにせボクサー崩れなもんでなっ!」

 

ガゼルのライダーは軽口を叩くと、軽快なフットワークにより一瞬で近付いてロポにワン、ツーとジャブを繰り出す。

サエはそのジャブを初撃は首を反って避け、弐撃目を前腕に当てて軌道を反らす。

そのままブーストによって加速させた拳を放つが、ガゼルのライダーには簡単に受け止められてしまった。

 

「アンタのことも知ってるぜ。

プロアスリートの我那覇サエだろ?

霊長類最速なんて言われてる…挫折した俺なんかとは比べようもない本物の勝ち組競技者。

そんなアンタがこんな弱小校でライダーやってるとはな…」

 

「…何が言いたいわけ?」

 

「別にぃ…?

ただ馬鹿だなぁと思っただけだよ。

折角築き上げた地位も名誉も捨てて、守る価値もねぇガキ共の掃き溜めの為に要らねぇ苦労を背負いこむなんざ、正気の沙汰じゃねぇってな。」

 

「………」

 

今ここでぶちギレるのは簡単だ。

自分が手にしているのは、相手よりも確実に格上の力なのだ。怒りのままに力を振るっても万が一にも負けはないだろう。

だがアスリートとしてもアビドスの一員としても許しがたい発言だったとしても、それはサエのプライドが許さなかった。

 

「アンタが挫折した理由…分かった気がする。」

 

「……は?」

 

「アスリートってのはね、社会で生きていくのに必要ない苦労を極限までやって、自分を表現する者のことを言うの。

地位とか名誉とか、要らない苦労だとか抜かしてるアンタは最初からアスリートになる資格なんてなかったってわけ。

 

お分かり?」

 

「……テメェっ!!」

 

ガゼルのライダーは返された挑発に腹を立てたのか、先程までの様子見のジャブなどとは鋭さが違うストレートを放ってくる。

怒りで行動しているように見えるがその技の冴えは全く衰えていない。サエはなんとか直撃しないようにいなし、防ぎ続けるので精一杯だ。

 

「ほらどうしたどうしたっ!!

さっきと同じ減らず口を叩いてみろよっ!!」

 

「くっ…!」

 

ブーストフォームでありながらアームドナックルに後れをとっているのは、サエがただ純粋に戦闘経験が少なく、不甲斐ないから…と言うわけではない。ガゼルのライダーとナックルバックルの相性が非常に高いことが関係している。

実はライダー一人一人には、本人の適正に沿ったバックルとの相性が存在しているのだ。

元ボクサーであるガゼルのライダーは拳を使って攻撃するバックルと相性が高く、そしてブーストバックルはその特性上相性は存在しないために、単体で使用すれば汎用的な性能にとどまってしまう。

しかも、サエが使用しているブーストバックルはエースからの借り物であるが故に大技を使用してしまう訳にもいかない。

サエが攻めあぐねてしまうのは自明の理であった。

 

(いつの間にか表示されてたタイムリミットはあと2分、それまでにポイントに誘い込まないと…!)

 

エース達がケイワの状態を見て大まかに算出したタイムリミットが、サエを焦らせる。

ポイント自体はそう遠くはない、何かきっかけさえあれば…

 

ダダダダダダダッ!!!

 

カンッ!

 

「…………あぁ?」

 

「あたし達を忘れて貰っちゃ困るわ!」

 

((あのバカッ……!))

 

瞬間、遠くからスコープ越しに状況を見ていたダパーンことカナトとサエの心の声が一致する。カナトに至っては届く筈もないのに手に持つマグナムシューターの引き金を危うく引くところであった。下がって様子を見ていた筈のセリカがいつの間にか前に出て、ライダーに発砲したのである。

弾丸はガゼルのライダーの頭を掠めたが、直撃ではない…たとえ直撃だったとしても蚊ほどもダメージはないだろう。そして、ただでさえ頭に血が昇っているライダーにそんなことをすればどうなるのかは想像に難くない。

 

「……ッ!!」ダッ!!

 

「!?…逃げなさいセリカ!!」

 

ガゼルのライダーは標的をセリカに定め、駆け出していく。セリカはそれを迎え撃つ気らしく、その場から逃げ出そうとせずに自身の愛銃を構える。

 

徐々に、徐々に近付いていく二人の距離。

何故か射程圏内に入っても発砲しないセリカ。

ライダーが向かってくる恐怖心で固まってしまったのだろうか。

やはりあまりにも無謀…このままではセリカの一般的に見ても整っている顔立ちは見るも無残な姿に変えられてしまうだろう。

そしてある程度までガゼルのライダーが近付いた瞬間…

 

『"大丈夫、私の生徒に手出しはさせないよ。"』

 

『投下します!』

 

ガッコン…!

 

その中心地点に向けて何か箱のようなものが落とされた。

その箱が落ちきる前にセリカは自らの愛銃の引き金を引き、その箱を撃ち抜く。

 

ダダダダダダダッ!!!

 

パシュッ!

 

カッ…!

 

ドォォォォォオン!!!!

 

「なっ!?…ぐ、ぐわァァ!!」

 

すると箱は光と爆音と衝撃を辺り一帯に放った。落とされた箱に詰められていたのは、大量の爆薬だったのだ。

その爆風を受けたライダーは、大きく吹き飛ばされるがその向かい側に殆ど同じ距離にいたセリカはというと…

 

「ふぅ~、間一髪ぅ~。」

 

シールドを構えたホシノがいつの間にかセリカの前に立ち、爆風からその身を守っていた為、セリカはダメージを受けていなかった。

爆風の影響を受けたのはガゼルのライダーだけだ。

 

「くっ…!!」

 

「駄目、逃がさない。」

 

「覚悟してくださ~い☆」

 

吹っ飛ばされたガゼルのライダーはすぐさま体勢を整えようとするが、そこをシロコの射撃、ドローンによるミサイルとノノミのマシンガンによる銃撃がそれを阻む。ガゼルのライダーは二人の弾幕によって完全に足止めを食らっていた。

 

そしてサエは気付いた…ガゼルのライダーが吹っ飛ばされた位置は、エースから指定されたポイントから約数歩分と言った場所だったことに。

対策委員会の面々は恐らく、先生経由でエースの作戦を聞いたことでその支援を行なってくれていたのだ。

そしてたった数歩分ならばやり用はいくらでもある!

 

BOOSTRIKER

 

サエはブーストライカーを呼び出し、跨がっておもいっきりアクセルをかける。そして足止めされているガゼルのライダーに向けて発進。

ボンバーエグゾーストを噴射させて飛び上がり…

 

「おおりゃぁぁぁ!!!」

 

「…がっ…!ぐぁ…ごはっ…っ…!」

 

女性としてはおよそ品のない雄叫びを上げながら車体を横にしたバイクアタックをガゼルのライダーに叩き込む。

サエはガゼルのライダーに直撃する瞬間にブーストライカーから飛び降りて脱出、計算どおりブーストライカーに巻き込まれたガゼルのライダーはポイントの中心へと吸い込まれていった。

ガゼルのライダーはブーストライカーの車体に押し潰され、ポイントの中心で抜け出すことができずに踠いている。

 

「全員退避!」

 

この状況は恐らく向こうにも伝わっている。ポイントに誘い込むことができたことを確認して次の手を打っている筈だ。あちらの言い分では余程派手な仕掛けをしていたようだし、もしかすれば周囲への影響も大きいものかもしれないと考えたサエは対策委員会の面々を後方へ退避させる。

そして自らも後を追って退避しながら、エース達がいるであろう方角に眼を向けると…

 

「あれは……流星?」

 

一際天高く舞い上がったかと思えば放物線を描いて、さながら流星のようにこちらに向かってくる一条の赤い光の奔流がサエの眼には映っていた。

その流星はやがてどんどん近付き、ポイントの中心から光が広がっていく。その広がりはその光に込められているエネルギーの大きさを物語っている。

 

「ヒィッ…!た、たすけ…!」

 

ブーストライカーのせいで身動きがとれないガゼルのライダーは異質な状況の中にいることでパニックを起こし、必死にブーストライカーを退かそうとするがビクともせず、やがて…

 

「う、うわァァァァァァっ…!!!」

 

ドォォォォォオン!!!!

 

流星はその身を以て空を裂き、景色を裂き、そしてついにはその間に挟まっていたライダーごと、地を裂いたのだった。

 

『RETIRE』

 

.

 

.

 

.

 

.

 

「……入った!今だ!」

 

「タイクーン!」

 

「了……解!!!

ハァァァァアアア!!!」

 

BOOST ARROWGRAND VICTORY

 

ダァァァァァァン!!!

 

「うぇ!?わああぁ~!!」

 

「おっとぉ…」

 

極限まで引き絞られていた機械弓の弦からケイワが手を離した瞬間、高出力のエネルギーが一筋の光となって空へ放たれたと同時に、その膨大な反動を受けたケイワは後ろに大きく吹き飛ばされるが待機していたエースが吹っ飛ばされたケイワの身体を受け止める。

タイムリミットを確認してみると…カウントは2分59秒82という経過時間を示しており、まさにギリギリと言えるタイミングだったようだ。放たれた光が放物線を描きながらずっと先のアビドスの方へと消えていくのを見届けた三人は現地からの知らせを待った。

 

ピピッ

 

『"エース、聞こえてるかな?"』

 

「先生か、どうだった?」

 

スコープで様子を窺っていたカナトが取り乱す様子もないことから、外した可能性はないと考えて良いだろう。しかしこれで命中はしたが無力化には至らず作戦失敗なんてことになっていれば眼も当てられない。

だが、そのほんのちょっとの危惧は杞憂に終わることとなった。

 

『"うん、対象の無力化に成功…君のおかげで皆無事だよ。"』

 

「そいつは良かった。」

 

『良かった、じゃありませんよ!』

 

先生から成功の報告を受け、万事解決だと祝砲を上げようとしたのも束の間、次の瞬間には怒気を孕んだアヤネの言葉が通信機越しに聞こえた。

 

『なんなんですか今の!?

校庭におっきなクレーターが出来ちゃったじゃないですか!!

これなら時間をかけてでも此方に戻ってきて頂いた方がはるかにマシでしたよ!!』

 

『"お、落ち着いてアヤネ…多分そんなことはないと思うよ?"』

 

「悪い悪い…ちゃんと修繕費は全て俺が負担するから許してくれよ。」

 

『当たり前です!!!!』

 

先生の説得も虚しく結局最後まで怒気を孕んだまま、アヤネとの通信は一方的に切られてしまった。やれやれとエースは肩を竦めるとドライバーからバックルを取り外して変身を解除すると、疲れきったのか変身も解かずにへたりこんでいるケイワに激励を贈る。

 

「お疲れ♪」

 

「あ、あはは…とりあえず一件落着?」

 

「ああ、やり方はお気に召さなかったみたいだがな。

この礼はまた後日に…下に迎えの車を待たせてある、送って貰えよ。」

 

「あ、いいよ…俺にはこれが…」

 

「…?

何言ってんだ…アンタのソイツはもう'使えない'だろ?」

 

「…………え?」

 

ブシュウウウウウ…

 

カナトの発言に首を傾げていると、ケイワは自分の腰辺りから異音が鳴っていることに気付く。見てみるとそこには赤熱しながら蒸気を噴出しているブーストバックルがガタガタと震えており、やがてその震えが最高潮に達した時…

 

バシュゥッ!!

 

「うわ、ぐペッ…!!」

 

ピュ~~…

 

「…か、ぁ~~…!!

 

ちょ、ちょっと待てよ!

帰ってきてよ俺のブーストバックル~!!」

 

セットされていたドライバーから勢いよく飛び出して自由な軌道を描き、その拍子にケイワの頭を直撃したのを最後にどこか遠くの方へ飛んでいってしまった。

もう豆粒程にも見えない距離まで飛んでいった後にぶつかった部分を押さえて悶えていたケイワが復活し、声を上げる。

 

「あれを使って大技を出せるのは一度きりだからな。

まさに奥の手って奴だ。」

 

「うぇ!!?

だったら先に言ってよ!!」

 

「ライダーにとってそれは周知の事実だからな。分かっててやってくれてると思ってたよ。

お前、お人好しだしな。」

 

「あ、あ、あ"ぁ"ぁ"…(泣)」

 

貴重なバックル兼交通手段を失くしてしまったケイワはブーストバックルに吹っ飛ばされたうつ伏せの状態のまま泣き崩れてしまった。

結局その後は意気消沈したケイワを二人で抱えながらビルを降り、下に待たせていた車に乗せて別れる形となった。

 

「ほら、タイクーン…自分ちの住所言えるか?

嫌なら最寄りの駅で降りる手もあるぞ。」

 

「……うん、大丈夫。

まぁ何はともあれ、エース君達の力になれて良かったよ。」

 

「あぁ~…タイクーン。今回の件は本当に…」

 

「いや、いいよいいよ!

エース君も悪気があった訳じゃないだろうし!

よく知らなかった俺が悪いからさ。」

 

「…だが……」

 

「じゃあさ!今度ご飯奢ってよ!それで後腐れなく全部チャラ!どう?」

 

「…分かった。良い店を予約しておくよ…またな。」

 

「じゃあね!」

 

言葉と握手を交わし、車のドアを閉めるとエースは運転手に車を出すように目配せをする。エースも常用している高級車なだけあり、中の設備はこの上なく整っている。ケイワもきっと快適に過ごせる筈だ。

因みにケイワは後にこの車に乗った経験について…

俺の部屋より広くない?

と語ったらしい。

 

「…さてと、それじゃ帰るか。」

 

BOOSTRIKER

 

「………はぁ?」

 

車が角を曲がり完全に見えなくなった頃、心底申し訳なさそうにしていた表情は鳴りを潜め、ケロッとした表情でエースは懐から'ブーストバックル'を取り出してブーストライカーを召喚した。

カナトはその様子を鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で見つめる。

 

「どうした、ダパーン。乗らないのか?」

 

「…そういうことか…良い性格してるねスーパースター。」

 

つまりはこういうことだ。

エースは最初からアビドスに戻る手段を持っていた。それにも関わらずケイワに連絡を取り、超長距離での狙撃を敢行したのか…

それは体の良い理由をつけてケイワの持つブーストバックルを無力化するのが目的だったからだ。

 

「なんでこんな手間をかけてまでアイツのブーストバックルを?

あんな明らかにひ弱な奴が強力なバックルを持ってたところで大した脅威じゃないじゃん。」

 

「…ああいう奴は戦う覚悟が決まるまでは長いが、一度決めたら予想だにしない成長を遂げる、要するに早めに芽を摘んでおかなきゃ後々面倒になるタイプだからな。

 

もっとも…」

 

エースはそこで一度言葉を区切り、カナトの方に向き直りにやりとした笑みを向ける。その表情はまるで新しい玩具を貰った子供のような無邪気さと、奥底に何かを秘めた不気味さを同時に孕んでいた。

 

「この経験をバネにしてのしあがるようなら…それはそれで面白い。

 

アイツの所属が決まった後のデザイアゲームは…きっと退屈しないだろうな。」

 

「……………」

 

カナトはそんなエースの狡猾さを目の当たりにしたことでさらにエース…ひいてはシャーレに対して、不信感を募らせるのだった。





えー長らくお待たせしました。
大学の卒論やら就活やら就職先の仕事を覚えるやらで大分筆をとる時間が少なくなってしまい、ここまで間が空いてしまいました。
待っててくださった読者の皆様、すみませんでした。
これからも亀投稿なぼくをどうかよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。