「ただいま~…って誰もいないけどね…」
「おかえりなさいませ、ケイワ様♡」
「ウワァ!!ワカモちゃん!?
帰ったんじゃなかったの!?」
「どうしてもあなた様におかえりと言いたくて、お待ちしておりました♡」
「え、えぇ……あ、ありがとう?」
「はい♡」
あの傭兵ライダー襲撃事件から、実に数日の時間が経過し、その間にここアビドスでは様々な変化があった。
まず一つは先生がアビドスが抱えている目下の問題である約9億の借金の存在を知ったこと…
二つ目に、その解決に手を貸さんとするわ思を示した先生だったが、今まで捨て置かれてきた経験からセリカが先生を信用することができず、そのせいで一悶着があったこと…
そしてなんやかんやセリカのバイト先の柴関ラーメンに顔を出したり、ヘルメット団に誘拐されたセリカを皆で協力して助けたことで、最終的には先生はセリカと信頼関係を築くことに成功したのだった。
この一連の騒動以降、同じく警戒心を持っていたサエも先生を信頼に足る人物だと評価を改めており、アビドスの面々と順調に仲を深めつつあるように思えたが…
「"……え~と、カナト…それだけで足りる?
ほら、餃子とか炒飯も美味しそうだよ…?"」
「……………」タプタプ
「"私は餃子食べよっかな~…?
出来ればラー油取ってくれたら先生嬉しいかな~…なんて…"」
「……………」タプタプ
依然として、アビドス所属のもう一人の仮面ライダーであるダパーンこと墨田カナトとの交流は如何せん困難を極めていた。廃校対策の定例会議でへそを曲げてしまったアヤネのご機嫌取りも兼ねて、親睦を深めようと(エースはスターの仕事で一時離脱中)柴関ラーメンに来たは良いものの、先生が話し掛けてもガン無視を決め込んでいた。この状況への不服さを隠そうともせず、スパイダーフォンにのみ眼を向けている。
なしのつぶてとはまさにこの事だろう。
「はい、餃子お待ちどうさま。先生、これラー油。」
「"あ、ありがとうセリ…(パシッ)あ…"」
「ん…」コトッ
かと思えば突然、餃子を配膳してくれたセリカがラー油を先生に渡そうとした途端それを横から奪い取り、先生の近くにわざわざ置く等といった謎の行動をとることがあるので、先生はますますカナトのことがよく分からなかった。
「ちょっと、なにすんのよカナト!」
「バイト中なんだからおしゃべりしてないで注文でも取れば?
このままじゃ利息分だって返済が滞るんじゃない?」
「な!?アンタねぇ…!」
「"あぁ、セリカ!替え玉一つお願いできるかな!"」
「………かしこまりました。」
酷く不服そうな表情で大将がいる厨房へと注文を伝えに行くセリカ。その後ろ姿を見えなくなるまで見届けたカナトは、再び目線をスパイダーフォンに移して我関せずの姿勢を貫く。
「前途多難…ですね。」
「おじさんも二人には仲良くして欲しいけど、流石にこればっかりはね~…」
離れた席で様子を窺っていた委員会の他メンバーはこの状況に少しばかり諦観の意を示す。自分達でさえ打ち解けるのに時間がかかったのだ、会って数日の先生が心を開かせるのは簡単なものではないだろう。このままでは埒が明かないと感じた先生は今の一幕だけではなく今までの行動から薄々勘づいていたことをカナトに聞いてみることにした。
「"………カナトってさ…"」
「…………」タプタプ
「"セリカのことが好きなんだね。"」
「は?うざそれセクハラじゃん訴えられて慰謝料捕られたくなかったらそういう発言控えた方がいいんじゃないマジで気分害したんだけどそもそも教師が生徒に対してして良い発言じゃないよね大体なんで僕があんながさつ女に惚れなきゃいけないわけこっちから願い下げなんですけどまぁあいつがどうしてもっていうなら考えなくもないというか……………………」
「"お、おお……"」
(先生…それは流石に…)
(ん、デリカシーなさすぎ。)
突如、バケツを引っくり返したかのような言葉の行列が先生の耳に流れ込んでいき、先生は思わず面喰らってしまう。図星を突かれて自棄になったカナトの口撃は止まる気配を見せなかったが…
「はい先生、替え玉一つお待ちどうさま。」
「…………」スンッ タプタプ
「あはは…ありがとう。」
セリカが注文した替え玉を運んできた際にその口撃は鳴りを潜め、再び目線をスパイダーフォンに移してしまう。まるでなにもありませんでしたよと言わんばかりの態度に先生は苦笑いを浮かべながらセリカに礼を伝えた。
「セリカちゃ~ん、こっちも注文いいですか~?」
「あ、は~い!」
ノノミの咄嗟の機転によりセリカがその場を離れたことで二人は再び落ち着いて話が出来る状態となる。
先生はこのチャンスをものにするべく、再度カナトに話し掛ける。
今度は変に刺激しないように言葉を選ばなければ…
「"ごめんごめん、聞き方が悪かったね。すごくセリカのことを気に掛けているみたいだからそうなのかなって思っただけなんだ。"」
「……別に。
アイツは騙されやすいし、そのせいでただでさえ馬鹿みたいな額の借金が増えるかもだから見張ってなきゃ安心できないってだけ。
それ以上でもそれ以下でもない。」
一度口火を切ったことでもうしょうがないと感じたのか、カナトは先生の言葉に返答を返し始める。少々教育者としての尊厳に傷がついた気がするがそれでも話をしてくれるようになっただけ、一歩前進だ。
しかし…
「色々理屈捏ねていたって、結局アンタみたいなのに誑かされてるんだからさ。
眼も当てられないよね。」
「…………」
話してくれるようになっただけとも言える。
依然として先生に対する警戒心、いやあるいはここまでいくと敵愾心とすら呼べる心情はなにも変わっていない。これにはさしもの先生もどうすればいいか分からなかったが、ずっと沈黙しているわけにはいかない。
「"警戒してしまう気持ちは大いに分かる。
でもどうか信じて欲しい。私は君達の助けになりたいだけなんだ。"」
「『貴方の助けになりたい』、『大切な人の為に出来ることがある』、『今なら自分がなんとか出来るかもしれない』、『信じる者は救われる』…
なんの言葉か分かる?」
「"…?ごめん、分からないな。"」
「全部セリカを騙そうとした詐欺師達が口にした甘言だよ。」
「"………"」
「こんなのまだ序の口…
法外な値段で安物のブレスレットやら壺やらを買わせる位ならまだいいよ。
でも酷いときは…『そういう』仕事に引き込もうとされることもあった。セリカは気付いてなかったみたいだけど…」
「………」
「警戒する気持ちが分かる?笑わせないでよ。
今まで僕達がどんな苦労してきたのかも知らないで偉そうに…」ガタッ
そこまで言うとカナトは一人立ち上がり、店の出口の方へと足を進める。そして店の引き戸を開ききった後に振り返らずに先生に対して否定の言葉を投げ掛ける。
「補給物資のことは礼を言うよ。
でもアンタに期待してた役割はそこまでだ。
僕はアンタのこと、絶対に認めないからな。」
「"カナト、待っ…!"」ピシャンッ
先生の制止も虚しく、カナトはそのまま店を後にして帰ってしまった。その場に取り残されたのは気を落としてしまった先生と対策委員会の面々だけ、耳が痛くなる程の沈黙が続いてしまう。
すると横から先生が席についているテーブルに何かが置かれる音が響く。音の方へ視線をやるとそこにはチャーシューが二枚ほど乗った小皿が置いてあった。
「はいよ、これはサービスな!」
「"…大将?"」
「あまり気にするなよ先生。
あの年頃の男ってのはどうしても敏感になっちまうもんなのさ。
惚れた女に近付く悪い虫って奴にな。先生は経験ないかい?」
「…あります。
中坊の頃、優しかった近所のお姉さんに…
とっくにその人にはもう彼氏が居たんですけどね…」
「ハハハ!随分と苦い経験だねぇ!
まぁ、カナト君の場合は単純な惚れた腫れたって問題だけじゃないだろうからね…
今はそっとしておいてやった方がいいな。」
「…そうします。
ありがとうございます大将。」
「どういたしましてっと!
あ、それからもう一つ…」
「はい?」
「お残しはしないでくれると助かるなぁ。」
「え?……あ……」
大将が目線を向ける先は自分が座っているテーブルの上であることを感じ取った先生が眼を向ければ、そこには一切手がつけられておらず未だ野菜やらチャーシューがガッツリ乗っかったラーメンが一杯と、餃子と炒飯も残っていた。
先程注文した替え玉を含めれば実にラーメン三杯分…
明日からダイエットしよう…と心に決める先生だった。
因みに大量の食事を消費するのに夢中になっていたせいで、アビドスの子達が四人組の他校の生徒と親しげに話していたことに全く気付かなかったのは完全な余談である。
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空を気儘に流れている雲も、その眼下に拡がる街並みも、茜色に染まった空に当てられ、正に夕暮れ時を示す彩りに覆われた街の中で、偶然入ったラーメン屋のご厚意によって空きっ腹のまま過ごす可能性もあったゲヘナの生徒四人組は、満腹によって与えられる多幸感に身を委ねていた。
「まさかあの子達がアビドスだったなんて……はぁ……」
いや、その状態にあると言えるのは四人組の内の三人だけだろう。
ただ一人溜め息をつき、俯きながら帰路に着いている一人の生徒…
彼女の名は陸八魔アル。
この四人組…なんちゃって企業である便利屋68のリーダー、もとい社長その人である。先程まで気持ちを切り替えてアビドスの打倒という依頼をこなそうと意気込んでいたが、やはり持ち合わせが心許ない自分達の為にラーメンを特盛にしてくれたり、とても気が合い話しも弾んで仲良くなったアビドスを攻撃しなければならない現状に、アルは完全に意気消沈してしまっていた。
「社長、また言ってる…」
「確かにちょっと珍しいかも?
アルちゃん、いつもは一度ノせちゃえば一直線なのにね~。」
「あ、アル様…」
アルのその様子に便利屋68の構成員である課長の鬼方カヨコ、室長の浅黄ムツキは呆れ半分、心配半分、ムツキに限り呆れを更に半分にして残りの分にほんの少しの悪戯心を感じている。平社員の伊草ハルカは尊敬するアルはハードボイルドなアウトローを目指してはいるが、その性質はどちらかと言えばハーフボイルドな善人寄りだ。そのことを重々承知しているからこそなのだろうが、アルの懸念はアビドスの生徒達のことだけではなかったことは窺えなかったようだった。
(あの人がアビドスの仮面ライダーだとしたら…
私達と雇ったバイトだけで本当に太刀打ちできるのかしら…)
とても規模の小さい学園であると聞いていたアビドスに仮面ライダーが所属していたことはアルにとって可能性がないと断じていた訳ではないが、それでもできればあって欲しくない事態だった。
アビドスの面々の傍らで腕を組んで黙っていたヘイローのない女性…しかもあの特徴的なジャケットはドライバーと共に仮面ライダーに支給される謂わばライダーの制服のようなものだ。ならば疑いようもなく、あの女性はアビドスに所属している仮面ライダーなのだろう。どんなバックルを持っているかは知らないが、数を揃えたとはいえバイトと自分達だけでなんとかできるのか…
それがアルにとってのもう一つの懸念だった。
なんとか一人でもいい…彼女と同じ仮面ライダーの味方が一人でも居てくれれば、安心できるのだが...
バァン!ガキッ!
「!…なんの音?」
その時だった。
ビル街の奥底から小さく、だが確かに、銃声とはまた違った何かを破壊するような音が響いてきたのは。
月並みな意見を言わせて貰うなら、普通ビル街の路地裏の先から破砕音のようなものが響いてきた場合は危ないので本気で近付くべきではないと忠告しておく。
しかし、ここはキヴォトスだ。
危険なんて玄関先から出た先で常に傍らに付き纏っている、そんな当たり前のことに一々意識を割かずとも対応できる人種の集まりだ。
つまり、この時アルが執った行動もキヴォトスにおいては至極当然のことだった。
(な、なんなの今の…?
こういう時はなるべく関わらない方がいいわよね…
早く帰って作戦をたてなきゃいけないわけだし…)
「あれれ~?どうしたのアルちゃん?
見に行かないの?」
「えええ!?
な、ななななななんでよ!?」
失礼、訂正しよう。
アルはこのキヴォトスにおいては珍しく小心者というか、慎重派という部類の人種であったようだ。下手に面倒ごとに首を突っ込むべきではないと、まぁつまりはビビってしまい、物音のことは関わるべきではないと自身の中で結論付けたようだった。
しかし、そんなアルの心中を知ってか知らずか…恐らくは察しておいてわざとであろう。
悪戯好きのムツキは異音の出所に向かわないのかとアルに問いかけ、当然そんなことを想定していなかったアルは驚愕してしまう。
「だって見るからに面白そうじゃん♪
この先で一体どんな刺激的な光景が待ってるのかって考えるとすっごくワクワクしちゃう♡
アルちゃんはそうじゃないの~?」
「そ、そんなの…!」
「ふ~ん、まさか未来の超カッコいいアウトローともあろうアルちゃんが、ただの路地裏の物音なんかに"ビビってる"なんてことないよねぇ?」
「な、なんですって…!!?」
そんなのはお前だけだとアルが言い返そうとした時、ムツキはアルが必ずノせられてしまうであろう文言を吐き出す。それは幼い頃からずっと一緒だったからこそ分かる現在のアルのアイデンティティーに触れる言葉だった。
この会話を遠巻きに見つめていたカヨコはこの後の展開が今までの経験から容易に予想できてしまい、呆れから頭を抱えてしまい、ハルカはどうすればいいか分からずタジタジになってしまう。
あぁ言われてしまえば社長が黙っている筈がない、またおかしなことに首を突っ込み始めると。
「そこまで言うなら上等じゃない!
たかが物音を調べるくらい、なんてことないんだから!行くわよっ!!」
「おー!流石アルちゃん~♪
これはもうどこまでも着いていくしかないよね~♪」
「カッコいいです、アル様…!」
「はぁ…結局いつものパターンだね……」
ムツキにノせられるまま、ビル街の路地裏に向かって歩を進めるアル。便利屋68のメンバーはそれに随伴して、どんどん奥へと進んでいった。入ってみればなんてことはない、別世界に繋がる不思議なドアだとか裏社会に通じていそうな不気味な飲食店だといったような漫画に出てくるような珍妙な存在があるわけでもなく、ただの道が続いていただけだった。それでもアル達が歩を進め続けたのは、ここに踏み込む原因となった異音が未だ鳴り響き続けているからだった。
ガァン!! ダァーーン!!
「…………」ビクッ!!(表情は変わらないが思いっきり肩が震えた)
「…どんどん大きくなってる。近付いてるみたいだね。
社長、戻るなら今からでも遅くないと思うよ。」
「……な、何言ってるのカヨコ課長?
この私が一度やると言ったのよ、それなのに途中で放り出すなんてみっともない真似、するわけないじゃない…」
明らかにビクついている様子のアルにカヨコは年長者らしく一応の逃げ道を提示するが、ノせられてしまったアルにはもう既に戻るという選択肢を排除している為に取り合ってはくれない。結局カヨコはそれ以上何を言うでもなくただ小さく溜め息をつきながらアルの後に続いた。
やがて狭かった道が少しだけ拓けてきたなと感じてきたその時、一角だけ建物が切り取られたかのように存在せず、そのおかげか少しだけ夕陽の光が届いている場所をアル達は発見する。
耳を傾けてみれば異音の発生源はどうやらそこのようだった。
「いよいよご対面かな?
楽しみだね~アルちゃん♪」
「…………ええ。」
とても楽しみという言葉に同意しているとは思えない顔面蒼白な表情をしていたことはアルの名誉の為に黙っておくことにしよう。
アルは建物の影からその一角に目線を向けてみると、そこはどうやらただのありふれた空き地だったらしく何かを建てる予定で失敗したのか廃棄された資材が放置され、天然の遊具のようになっている。
こんなところから何故音がしていたのだろうとアルが建物の影から身を乗り出して空き地全体を見渡したその時、空き地の中央にいる『それ』を目の当たりにした。
「ご…、ん……な、ざぃ……ゅ、る……じ………」
「……………………フンッ!!」
ドガシャァッ!
「ぐぇっ…っ…!」
そこにあったのは純粋な『蹂躙』だった。恐らくチンピラであろう幾人ものロボット達がその身体をひしゃげさせて横たわっており、五体満足の者は一人として存在していなかった。破壊され、引き千切られた手足が其処らじゅうに散乱しており、内部の電子系統が誤作動を起こしているせいなのか独りでにカクカクと動いているのがなんだかグロテスクな有り様にアル達は戦慄し、絶句してしまう。
そしてその死屍累々の中心には、身体の至るところから火花を散らしながらも辛うじて意識を保っているロボットの首根っこを掴んで持ち上げているライダーの姿があった。仮面以外が真っ黒なスーツに覆われているのを見るにバックルを使っていないようで、右脚の膝まで届く腰マント、鋭く猛々しくそそり立つ2本の銀の角と赤みがかった襟足が特徴的な紫色の仮面をつけた、恐らく牛のライダーは掴んでいたロボットの懐を探った後、放り投げて言葉少なに一言。
「…………失せろ。」
「…ひ、ひぃぃいいい……!!」
放り投げられたロボットは悲鳴を上げながらその場から立ち去っていく。満身創痍である為にヨタヨタとした拙い動きだったが、そんなことさえも目の前の恐怖から逃れる為なら些末事のようだった。やがて数分もしない内にロボットはその場から姿を消した。
「…………」チラッ
牛のライダーはロボットが立ち去ったのを確認した後、近くで見ていたアル達を一瞥したがすぐに興味なさげに視線を逸らすと背を向けて別の方向に歩き出す。その歩みの先に何があるのかと眼を向けるとそこには…
「…ぁ……あぁ………あ………」
制服からして恐らくはトリニティの生徒であろう気弱そうな少女が、座り込んで怯えている姿があった。腰を抜かしてしまったのか、ライダーが近付いてきているのに動き出すことができないでいたのを感じ取り、咄嗟に自身の愛銃、『ワインレッド・アドマイヤー』を手に駆け出していく。
後ろから仲間達が制止する声が聞こえた気がしたが、このままではあの子がこの凄惨な光景の一部にされてしまうと考えたアルはそれに気付かないフリをして歩みを進めた。
カチャッ
「動かないで。」
「……………………」
「その子に指一本触れてみなさい。ただじゃおかないわよ?」
ライダーの背に向かって銃を突き付け、脅しをかけるアルだったが、既に肩は震え、膝が笑ってしまわないように堪えるので精一杯だ。眼に刻み付けられた光景が頭から離れない、先程のロボット達は壊れたパーツを付け替えれば問題もなく完治するだろう。
しかしこのキヴォトスにおいてロボット達はしっかりと感情を持った一般市民のようなもの、分かりやすく言えば人間の大量殺戮現場を目の当たりにしたようなものなのだ。
それでもアルは目の前の少女を助ける為にその銃を構えている、これぞ正しく勇気ある行動というやつだろう。
「……………………」スタスタ
「ちょっと…!
動かないでと言った筈よ!」
しかし、そこまでだった。
牛のライダーの反応は一瞬その場に立ち止まっただけで終わり、再び少女の方に歩み始める。ただのハッタリ、虚仮威しだと思われたのだと悟ったアルは引き金に指を掛ける。
だが、まるで押し固められたかのように指が強ばり動かない。恐怖があるのもそうだが、もしも注意がこちらに向いてその結果背後にいる仲間達まで巻き込まれたらと考えるとどうしても撃つことを躊躇ってしまう。
今更なんで飛び出してしまったのかと自問自答が頭の中で広がる。
しかしそうして躊躇っている間に、ライダーは既に少女の目の前まで移動を終え、恐怖に歪む少女の顔をじっと見下ろしていた。
「ッ!…そこの貴女!逃げて!早く!」
ならせめてと一縷の望みをかけて少女に逃げるように促すが、やはり少女は立ち上がろうとしても小鹿のように震える足ではまともに機能せずただ地面を擦りあげることしかできない。
もうこうなったら怖いなどと言っていられない…最悪自分が引き付けて上手く撒くことができるよう祈るしかないと覚悟を決めたアルは鉛のように重い指先に無理矢理力を込めようとしたが、それは結果的に中断することになった。
牛のライダーが突然、自身のドライバーを外して変身を解除したからだ。
ガチャッ…ファーン…
「えっ!?あ、ちょっと!?」
「…………」
変身解除の光が収まった後に現れたのは後ろ姿だけでも分かる強大な威圧感を放った青年だった。
知っての通りライダーに変身できるのはヘイローを持たない普通の人間だけだ。牛のライダーも例に漏れず、突如として簡単に命を奪える存在となった彼に思わずアルは向けていたワインレッド・アドマイヤーの銃口を真上に向けるように上げながら、引きそうになっていた引き金から指を外す。
そうこうして戸惑っているアルを余所に青年は座り込んでいる少女に目線を合わせるように膝をつき、その手に握っていたものを少女に差し出した。
「これ、お前のもんだろ…?」
「…………あっ………………」
「……へ?」
青年の手に握られていたのは男性が持つには似つかわしくない、白色の上品なレディース財布だった。それを差し出されているトリニティの少女の様子のから察するにそれは少女のもので間違いなさそうだ。
そういえば先程、掴み上げていたロボットの懐を探って何かを取り出していたように見えたがもしかしたらあの財布を奪っていた…いや、取り返していたのだろうか?
だとすれば彼は彼女に危害を加えようとしていたのではなく、寧ろ助けようとしていたということであり…
(ということは私…か、勘違いしてた…って…こと……!?)
「あ…!あり、が……とう…………ございます………」
「……怖がらせて悪かったな。」スクッ スタスタ
「ま、待って!!
皆、その子をお願い!」
「アルちゃん!?」「アル様!?」
「………はぁ、しょうがないね。立てる?
どこか痛いところとかない?」
少女が震える手で財布を受け取るのを確認した青年はゆっくりと立ち上がりながら、詫びの言葉を伝える。特に自分が勘違いされていたことに関しては気にしていないらしく、そのまま振り返って空き地から立ち去ろうとする。しかし、彼に対して無礼を働いてしまったことをまだ謝罪していない、それはあまりに不義理だと考えたアルは少女を仲間達に任せて青年を追いかけていくのだった。
.
.
.
.
「ねぇっ!ちょっと待ってってば!!」
「……………………」ピタッ
「…あの、私…貴方のことを誤解してたみたい。
だから…その…ごめんなさい。」
「……………………」
路地裏を抜けた先の出口、大通りの中まで戻ったところでようやくアルは青年に追い付き、綺麗な姿勢で頭を下げる。
青年は頭を下げたアルに背を向けたまま、沈黙を貫いているが、今はその沈黙がただただ耳に痛かった。
しかし、青年はやっと口を開いたかと思えばその口から出てきたのは謝罪に対する返答ではなく質問だった。
「…なんでアイツを助けようとした?」
「…………え?」
「お前はゲヘナの生徒だろ?
だったら敵対してるトリニティを助ける道理なんかない筈だ。
それなのになんで助けた?」
それはアルにとっては思ってもみない質問だった。今まで自分はゲヘナだからトリニティはどうこうなんてことは考えもしなかったし、それ程重要視もしてこなかった。
何故ならそれはアルにとっては心底どうでもいいことだったからだ。両校間の軋轢のことなんかよりも、今ここにいる自分がどれだけ昨日よりも理想に近付けているのか…それが便利屋としての生活の中でいつも考えていることだったからだ。
だから、質問への解答は正直に言えば『そんなこと、考えたこともなかった』というものになるだろう。
しかし、ただそう答えるだけというのはアルは格好がつかないと考え、少し凝った言い方をすることにした。
「フフッ、そんなの決まってるじゃない?」
「…………」
「そんな縛られた生き方しかできないなんて、真っ平ごめんだからよ!」
「……ッ!!」
「ずっと争ってきた過去や今があるからって、それに囚われて生きていくなんてくっだらない!
そんなものより私は自分自身の理想を叶える為に、どんなに蹴躓こうが足掻き続ける…そんな誰よりも自由な生き方がしたい!」
「…………」
「だから私は助けたいと思えばたとえトリニティだとしても助けるし、立ち塞がるのならどんな相手にだって容赦しないわ!
…私達便利屋68はそんな連中ばかり…
どう…?
貴方も興味があるのなら一緒に来ない…?」
『決まったぁ…!』とアルは心の中で舞い上がる。こんな風に言ったら格好いいんじゃね的な台詞の羅列を一息に、噛まずに最後まで紡ぐことに成功したことでアルは今の自分が最高にイケていると確信する。
しかもそれだけではなく、先程まで懸念していたアビドスのライダー事情も計算にいれて勧誘までこなすとは流石は敏腕社長だと自画自賛のオンパレードだ。
「…断る。
他人に顎で使われる気は更々ない。」
「…………ええ!?」
(な、ななななななんですって~~!!??)
普通に断られた。
まぁ妥当な判断だと言えるのではないだろうか。はっきり言って、ゲヘナの生徒4人だけで運営されているなんて状態の零細企業になんの魅力も感じないなんてのは至極当然のことだ。
給料の支払いが滞り、その割に仕事は便利屋の性質上ハードさはピンキリ…これに着いていくのは相当な物好きだろう。
(ど、どうすれば…!?
このままじゃアビドスのライダーに対抗する手段が...!)
「…だから、俺は俺の判断で動かせて貰う。
この条件が呑めるなら、用心棒として少しの間は手を貸してやる。」
「ほ、本当!?」
頭を悩ませるアルに、青年は自ら交換条件を出して協力を申し出てくれた。この僥倖にアルは歓喜の涙を流しそうになるが、青年が最後に提示した『少しの間は』という条件に引っ掛かりを覚える。
「正式に入社する、ってわけじゃないのね…」
「当たり前だろ。
不満ならこの話は無しだ。」
「ちょちょちょ、ちょっと待って!!
分かった、分かったわよ!
その条件を呑むわ!
…ふぅ、取り敢えず短い間だろうけどよろしくお願いするわ。
えっと…貴方名前は?」
「俺は…俺は吾妻ミチナガ…
仮面ライダーバッファだ…」
途端に踵を返して立ち去ろうとする青年をなんとか引き留めて、アルは青年の条件に対して承諾の意を示す。かくして青年は、不思議な縁に導かれて便利屋68のメンバー(仮)となったのだった。
しかし、この時アルは気付いていなかった。
自分が握り締めることになった手綱に繋げられていたのは…とんでもない暴れ牛だったということを。
続く…
というわけでお待たせいたしました。
遂に仮面ライダーバッファこと、吾妻ミチナガの登場です!
最後は若干駆け足になりましたが、便利屋68と行動を共にすることになったミチナガ!
ブッ飛んだことやってると思ったら思考は割と常識人なところはアルとミチナガは似た者同士ですよね!
トリニティの少女はこれから先登場しますが、ネームドというわけではありませんし、かといってモブではありません。
所謂オリキャラというやつですね!
名前とかもしいい案がございましたら是非是非コメント待ってます!
初期構想なら失禁するくらい恐がってもらう予定でしたがそこまでいっちゃうと恐らくミチナガ君はクールに立ち去れずに「わ、悪い…」ってオロオロしてしまうと思うのでそこら辺はマイルドになりました。