ギスギスフロンティア   作:イナロー

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コタタマさんが幕末を始めるお話。


金魚鉢のプレーリードッグ

1.クランハウス-居間

 

 

 たまには別のゲームをしよう。

 

 

 その日、特に他にやることも無かった俺はいつものようにウチの丸太小屋で藁人形をせっせと編んでレベル上げに勤しんでいた。そんな折に唐突にこんな思いが頭を過ったのだ。なんかこれ、気分じゃないな……と

 

 これはライトなゲーマーであれば多くが共感してくれるものだと思うのだが、どんなにハマっているゲームでも毎日のように続けてプレイしているとふとした瞬間に不思議と遊ぶ気が起きなくなることがある。

 

 それは単調な周回に飽きた時や、他にもっと心惹かれるゲームに出会ってしまった時。或いは今の俺の様に特になんの理由もない時だったりと様々だ。

 

 まあとは言っても別に俺はこのゲームが嫌いになったという訳ではない。あくまでちょっとした小休止よ。なんだかんだ言っても俺はこのゲームが好きだし、寂しがりやな俺の事だから結局日に一度くらいはこっちにも顔を出すかもしれない。肉ばっかり食ってると胸焼けするから間にサラダを食うとやっぱり肉が食いたくなるようなもんだな。

 

 うん。だから俺を殺すのは今日じゃなくってもいいんじゃねえかな。

 

 背後に何やら気配を感じて振り返る。すると丁度二階から階段を下りてきている途中の赤カブトと目が合った。どうやら俺の独り言はばっちり聞かれていたようで、何やら切なげな表情を浮かべて抜き身の剣を構えている。

 

 俺は命乞いをした。

 

 まっ、待て! こんな真っ昼間から誰が来るかも分からない今でおっぱじめるつもりか? ママはお前をそんなはしたない子に育てた覚えはありませんよ!

 

 夜だろうが二人きりだろうが殺されるのは御免被るというのが正直なところであるが、俺はひとまずこの場をくぐり抜けるために必死だった。

 

 

「……でもペタさんはこれから別のところに行っちゃうんでしょ?」

 

 

 それは……。

 

 俺は言葉に詰まった。

 

 ……ジャムジェムにはリアルが無い。これが普通のプレイヤーであったなら「お前も一緒に別のゲームしようぜ!」と誘えば済む話でも、こいつにそれは不可能だ。俺と彼女を結ぶものは未だこのゲームの中にしか存在しない。

 

 やれやれ、俺はどうにも赤カブトのおねだりには弱い。

 

 仕方ねえな、せめて俺かお前の部屋に行くぞ。それともお前は誰かに見つかるスリルをお求めかい?

 

 

「そ、そういうのはまだ早いかなって。うん、それじゃあ私の部屋で…」

 

 

 顔を赤らめてもじもじする赤カブトはそこはかとない色気を醸し出している。おいおい、そんなこといって本当は興味深々か? 俺は赤カブトの腰に手を回し耳元でセクハラじみた台詞を囁きながらプライベートルームに向かう。

 

 

 この日、俺はいつもより念入りに全身の骨を折られて死んだ。

 

 

 

2.???

 

 

 そうと決まればまずは下調べだ。

 

今までに遊んだことのあるゲームもいいが、今回手を出してみようと思っているのは数々のネトゲーを渡り歩いてきた俺をして未だほとんど知らない世界…VRMMOだ。

 

 あのゲームはアバターとリアルの体を別々に動かせるので従来のコンシューマーゲーム程度であれば同時プレイも不可能では無いのだが、流石に完全没入型のVRを同時にプレイするのは無理がある。暫定エイリアンならばいざ知らず生憎と地球人類に脳みそは一つしか搭載されてはいないのだ。

 

 レビューサイトを見ながら良さげなゲームが無いか探していく。ユグドラシル、Arcana Online、シャングリラ・フロンティア、ナローファンタジー・オンライン……この辺はパスだな。面白そうではあるんだがどれも本格的過ぎて息抜き程度で新しく始めるには不向きっぽい。今回は育成要素や壮大な世界観は求めていないのでもっと気軽に遊べそうなものを……ふむ、こいつにするか。

 

 辻斬・狂想曲:オンライン。ざっくり言うと二つの陣営に分かれての対戦がメインのゲームのようだ。公式サイトやwikiを見る限りでは随分と和気藹々とした雰囲気だ。一見すると切った張ったを是としたゲームとはとても思えない。心優しい俺のような男にはぴったりじゃないか。毎日のように有象無象のゴミどもに絡まれて荒んでしまった俺のハートを癒すには持ってこいだろう。

 

 ……しかし、こんなお花畑のような世界がこの現代に残っていたとはな。何しろ見ず知らずの少女の葬式を面白そうだからというだけの理由で凄惨な虐殺の会場に早変わりさせてしまうのがゲーマーという人種だ。信じる者は救われるというが、信じる者が足掬われるのがネットの世界。ここはひとつ俺が一肌脱いで純真無垢なチワワ共に世間の厳しさというものを教えてやるもの一興か。少々高い授業料になるかもしれないが、なあに何事も経験さ。

 俺は舌舐めずりをして、早速そのゲームをインストールした。

 

 さて、まずはアバター作成だな。流石にあのゲーム程のとち狂った自由度は無いもののそこはセミプロの腕の見せ所よ。限られた手段の中でできうる限りの技術を駆使してちまちまとビジュアルを整える。目立ちすぎる容姿は何かと不便が多い。あくまで中道を意識して派手過ぎず地味過ぎない無難の極みと呼べるような姿を目指していく

 

 うむ、来客を迎えた瞬間討ち入りの刀で切り伏せられる姿がよく似合う侍の出来上がりだ。これならば無駄に注目を集めたり下手に警戒心を抱かせるようなこともないだろう。

 

 

 

 クククッ、せいぜい楽しませて貰おうか。

 

 

 

 

 

3.辻斬・狂想曲:オンライン-ログイン地点

 

 

 

「チュートリアル天誅っ!」

 

 

 

 ログインした俺は首を切り落とされて死んだ。

 

 

 

 な、なにっ!? 予想外の事態に俺は目だけを動かして状況を確認する。

 

初期スポーン地点と思しきその広場では複数人のプレイヤーが刀をこちらに向けて輪をなしていた……リスポン狩りか。

 

 どんなに平和に見える世界にも悪いことを考えるやつは必ずいる。こいつらはきっと今までもこうして無邪気に遊ぶ善良なプレイヤーたちを食い物にしてきたのだろう。なんて卑劣な奴らなんだ。

 

 俺は消えゆく視界の中で下手人達の姿をしかと脳裏に刻みつけ、天に代わってこの悪党どもを成敗すると心に誓う。お前らその顔忘れねえからなぁー!

 

 

 キャラクターが死んだことによって再びその場にスポーンする。ゴミどもが俺に切りかかろうとしているが同じ手がそうなんども通用すると思うなよ。先手必勝とばかりに刀を構えてたった今俺を殺したゴミに向かって突撃する。

 

 死に晒せよやぁー!

 

 

「天ちゅ…うぉっ!?」

 

 

 ちィッ!仕留め損ねたか。

 

 だが相手の出鼻は挫いた。俺の刀を避けて体制を崩したゴミを一刀のもとに切り伏せようとして、屋根の上から火縄銃で脳天を撃ち抜かれて死んだ。

 

 

 リスポンする。

 

 

 最早獲物を選んでなどいられない。手近なところにいたゴミの頭をカチ割るべく大上段から刀を振り下ろす。

 オンドレぁ!しかしその斬撃は横にした刀で受け止められる。しぶといゴミは俺と全力で鍔迫り合いをしながらも困惑した様子で話しかけてくる。

 

 

「その装備……お前初心者だよな?状況に適応するのが早すぎないか?」

 

 

 リスポン狩りなんてネトゲじゃ日常茶飯事だろ。もっと平和なゲームだと思っていたから確かに少々面食らったが。

 

 話は終わりか?よし、それじゃあとっとと往生せいやぁー!

 

 

「肉盾式天誅ぅぅ!!」

 

 

 俺は目の前のゴミ諸共背後から串刺しにされて死んだ。

 

 

 

 

4.辻斬・狂想曲:オンライン-ログイン地点

 

 

 

 人を選ぶ環境故にプレイヤー層が固定されがちなこのゲームであるが、それでも時折新規ユーザーが訪れることもある。

 

 この日もまた、一人の何も知らない哀れな浪人が電子の江戸の地を踏みしめた。

 

 彼、或いは彼女はゲームを開始して早々武装した侍に囲まれている状況に目を白黒させている。無垢な相手をこの手にかけることへの心苦しさはあるが、これがこのゲームの作法なので仕方がない。だから俺は悪くない。

 

 

 

「ウェルカム天誅ァーッ!!」

 

 

 

 俺はお決まりの掛け声を叫びながら事態を飲み込めずに棒立ちになっている新入りの首を切り落とす。胴体と泣き別れた頭が驚愕に固まった表情でこちらを見つめている。俺は歯列をギラつかせて歓迎の意を全力でアピールした。

 

 

 幕末にようこそ!

 

 

 それから俺はガトリングに蜂の巣にされて死んだ。

 

 

 

 

 これは、とあるVRMMOの物語。

 

 やぁ侍のみんな!今日も元気に天誅してるかな?

 

 このゲームは初心者も大歓迎!優しい先輩プレイヤー達が君のログインを待ってるよ!

 

 

 

 辻斬・:オンライン

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