セーラームーン クロスオーバー(仮)   作:雪宮春夏

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 前回投稿時に書いていた新作を半ばもったいない精神で投稿します。
 雪宮春夏です。
 今回は一度に四話分まとめて投稿するのでどうぞご注意下さい。


episode zero prince little~覚醒~


 

 雷の直撃を受けたかのような。

 現代を生きる人間でいえばそれほどの衝撃を覚えて、急激に微睡みの中から引き上げられた彼が最初に映したのは乾いた血を何重にも塗り重ねたような鈍重さのある黒々とした空だった。

 次いで鼻についたのは湿った雨が降り出す直前の独特の匂い。

 しかし、何よりも彼……古代より月の王族に仕えてきたアルテミスの気を急かしたのは、かの王族の持つ聖石、「幻の銀水晶」に並ぶとも劣らぬ強いエナジー。

(まさか……プリンセスの身に何か……?!!)

 焦燥感に駆られるがままに駆けだしたアルテミスを誰が責められよう。

 無策だと分かりながらも、状況の把握を。事態の詳細と打開を求めて駆けだした彼が見たのは、大きな炎に包まれた建物と、そこに集う人の群れだった。

「ダメだよ! これ以上はあんたが……!!」

「落ち着いてくださいっ!!」

 前方から聞こえた声に-先導されるように人混みの下を潜り抜け、人の群れの最前列に躍り出ると、強い熱気を感じてアルテミスも瞳を眇める。

 天候は悪く、太陽も見えないにも関わらず、まるで晴天のような明るさがあった。

「離して……行かせてっ……!!」

 泣き叫ぶように声を上げる女性が握りしめていた、機械が、ピーと高い電子音を鳴らしたのと、それが起こったのは、同時の事だった。

「なんだ!?」

「み……皆さん、離れてっ!!?」

 赤々と燃えていた建物からカッと閃光が迸った。

 爆発の予兆かと、最前線にいた消防士達が、野次馬と化している人々に距離をとらせようと声をかけるか否かで、それは辺りを襲った。

 その場にいた人々が一様に立っていられなくなるほどの強い揺れと、一瞬にして視界を奪うほどの強い光。

 だがその光はすぐに収まり、揺れも時間にすれば数秒有るか否か。僅かな軽傷者がでる程度で済んでいた。

 だが、その光の奔流と共に、強いエナジーがこの場所から離れたことを察知したアルテミスは、直ぐさまその地点へ向けて踵を返したのだ。

 

 

「うっ……ぐぅっ……」

 霧雨のような雨が流れる血を洗い流す。だが同時にその雨は有るか無いかのこちらの体力を直ぐさま奪い去ろうともしていた。

(このままでは、俺も危ない……!)

 掌のなかにあるそれを確かめ、その存在、嘗てエーギルと呼ばれていた、とある人物の守護戦士は、ぐっと唇をかみしめる。

(せめて……この御方だけでも、安全な場所に)

 何もかも足りなかった。

 無力な己を恥じて泣くことすら、今の状況下では愚の骨頂と言える。

(……情報もない……既に、敵が入り込んでいるのに)

 萎える足を叱咤して、立ち上がる。

 こちらは敵の目の前で極上の餌となり得るこの御方を掠め取って逃げたのだ。

 奴等が追っ手を放つのはおそらく時間の問題だろう。

 今世の彼の身元は割れている。

 そうではなくても、「肉体を狙われた」この御方を直ぐさま元の肉体に戻すことは事実上不可能だった。

「……うっ」

 ほんの数十分前、自身が記憶を取り戻すよりも前にこの御方がその仲間達と繰り広げていた他愛のないやりとりを思い出し、唇をかみしめる。

 今より遠い将来。この御方の意識が戻ったとき、きっと自分は責められるだろう。恨まれるかもしれない。それでも、後悔はなかった。

「あなたが……生きてくれるなら」

 ひたりと、地に足音を着ける、何かの気配を感じた。

 重量のある生き物……人のたてる音にしては軽すぎる。

 武器も持たない状態ではあるが、いつでも反応できるよう身構えながら、その気配の居場所を探り。

「……お前は」

 嘗て知っていた姿に、驚きから目を見張った。

 

 

「アルテミス……!?」

 強いエナジーの残滓を追って、辿り着いた先で見つけた相手に名を言い当てられ、アルテミスもまた、身構えた。

 雨に濡れたその姿は、若い男性のようだった。

 灰に近い髪に、同色の瞳。

 だが、その姿にアルテミスは面識を持たない。

 第一、僅か数分前までコールドスリープ状態で眠っていたアルテミスには現代における知り合いは皆無である。

 考えられるとすれば前世の知り合いだが、同族でなく、己の役目に関わりのない存在との交友関係は、アルテミスには殆ど存在しなかった。

「何者だ」

 警戒心も露わに、威嚇の口調で問う。

 今のアルテミスには、武器と呼べる武器は所持していない。

 縦しんば、所持していても、猫の姿であるこの体では、使うことは不可能だろう。

 自分とその同僚である彼女に課せられている役目は、そもそも敵を倒すことではない。

 プリンセスを護る役目を背負う守護戦士達を目覚めさせる事。

 そしてプリンセスを見つけ出して護ることだ。

 勝てる相手ではないとしても、逃げる訳にはいかない。

 少なくても、情報を得るまでは。

 しかしそんなこちらの覚悟も、目の前の男からすれば取るに足らないものだった。

「俺はエーギル。……水星の守護を受けるものであり、地球国の王族の一人にお仕えしているものだ」

 そして相手が開示した情報も、とんでもないものだった。

 

 

「は……?」

 情報の処理にしくじったのか、固まる相手には悪いと思うものの、ひしひしと感じる嫌な気配に、敵が近づきつつある事を、つまりは時間が少ないことを悟る。

「詳しく説明している暇はない。この御方の身柄をお前に預けたい」

 呆けているアルテミスの首根っこを無理矢理ひっつかみ、首から提げるように風呂敷包みにしたハンカチを取り付ける。

 その中には、八角錐が二つ重なったような形の宝石……かの御方の命の結晶、スターシードが包まれている。

「気をつけろ。因縁を持つ相手、クイン・メタリア以外にも、この星には既に、複数、異物が紛れ込んでいる可能性が高い」

 言いたいことは言えた。そのことに、らしくもなく安堵を覚える。

 そのまま、意図的に己のエナジーの放出力を強めながら、地面を強く蹴って、地中に沈む。

 水脈を使えば、放出したエナジーは辺りに拡散され、僅かな残滓として残る自分の主のエナジーは殊更、敵には見つかりにくくなる。

 そこにただ一人残されるアルテミスのことは、既に見向きもしなかった。

 

 

 

 

 

 

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